内藤明美&平島誠也/メゾソプラノリサイタル(2009年11月6日 東京オペラシティ リサイタルホール)
内藤明美 メゾソプラノリサイタル
二人のフェリックス
~メンデルスゾーン生誕200年に因んで~
メンデルスゾーンとドレーゼケの歌曲
2009年11月6日(金) 19:00 東京オペラシティー リサイタルホール(自由席)
内藤明美(Akemi Naito)(MS)
平島誠也(Seiya Hirashima)(P)
メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn Bartholdy: 1809-1847)作曲
月op.86-5
ふたつの心が離れる時op.99-5
問いop.9-1
最初の喪失op.99-1
恋する女の手紙op.86-3
ズライカop.34-3
ズライカop.57-3
花束op.47-5
あいさつop.19-5
思い出(Erinnerung)(1841)(詩:Heine)
君のもとに飛んで行けたら(O könnt' ich zu dir fliegen)(1840)(詩:Schenkendorf)
民謡(Volkslied)(1845?)(詩:Burns)
葦の歌op.71-4
夜の歌op.71-6
~休憩~
ドレーゼケ(Felix Draeseke: 1835-1913)作曲
捨てられた娘op.2-11
夕暮れの輪舞op.17-1
アグネスop.81-2
君は翳らぬ日の光op.67-2
「風景画集」op.20(中声のための六つの歌曲)
小舟
おまえの息吹の香を
私はただ人生について考えた
夜の慰め
ローマの夜
ヴェネツィア
~アンコール~
1.メンデルスゾーン/歌の翼にop.34-2
2、リスト(Franz Liszt)/それは素晴らしいことにちがいない(Es muss ein Wunderbares sein)S.314
3.島原の子守唄
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内藤明美&平島誠也によるリサイタルは毎年地道に続けられ、その意欲的なプログラミングと聴き手を魅了する演奏は毎回貴重な体験をさせてくれる。
今回のリサイタルでは生誕200年ながらなかなかまとまった歌曲のレパートリーとして聴くことの出来なかったメンデルスゾーンと、彼の名前にあやかって同じくフェリックスという名前の付けられたドレーゼケという作曲家の歌曲が披露された。
私はメンデルスゾーン歌曲が大好きなのだが、実演で聴ける機会が殆どないので、今回のリサイタルはおおいに期待して出かけてきた。
内藤さんは前半は金色のシックなドレス、後半は鮮やかなブルーのドレスで、それぞれ髪型も変えて魅せてくれた。
メンデルスゾーンの歌曲というと「歌の翼に」「新しい恋」「あいさつ」あたりが定番で、そのほかに数種類ある「春の歌」や「月」「ヴェネツィアのゴンドラの歌」などが歌われることが多いが、今回の内藤さんのレパートリーはそれらの有名曲はあまりとりあげず、作品番号のついていない非常に珍しい3曲(そのうちの1曲「思い出」はシューマンの「寂しさの涙は何を望むのか」Op.25-21と同じハイネの詩による)も含めて、意欲的な選曲をしているのが目を引く。
次々披露されるメンデルスゾーンの歌曲を聴きながら、これほど魅力的な作品を彼女のような優れた歌唱で聴ける幸せを感じる一方で、なかなか彼の歌曲が普及しないのは案外聴衆を惹きつけるような演奏をするのは歌手たちにとって難しいのかもしれないと感じた。
はじめて聴くドレーゼケの歌曲の中では、最初に演奏された「捨てられた娘」がかなりドラマを感じさせる作品で印象に残った。
同じ詩によるヴォルフの歌曲以上に革新的といってもいいぐらいである。
一方で同じくヴォルフの曲がある「アグネス」では、詩の悲壮感よりも民謡の味わいを前面に出して、ヴォルフとは対照的な解釈をしていたのが興味深かった。
「風景画集」という歌曲集はウーラントら様々な詩人のテキストによる、諸国を旅しているかのような情景描写が歌われている。
そのテキストの性格上、いくらでも手の込んだ描写的な音楽にもなりそうなものだが、ドレーゼケはそのようには作曲しなかったように感じた。
カラーの美麗なパンフレットで充実した解説を執筆されている山崎裕視氏の言葉を借りれば「古典的とも言える様式性と落ち着き」ということになるだろう。
内藤さんは最初のうちこそ若干固く感じられたが、徐々に本来の響きを聞かせてくれたと思う。
内藤さんの深さと官能性を併せ持った声はどちらかというとメンデルスゾーンの清潔で軽快な歌曲とは対照的な印象を持っていたが、実際に聴いていくうちにいつのまにか彼女の世界に引き込まれていくのを感じた。
「最初の喪失」や2曲の「ズライカ」など、シューベルトの歌曲との比較も楽しい。
「ズライカ」についてはシューベルトの曲に劣らず魅力的な作品だと思うがいかがだろうか。
詩人レーナウの憂愁をそのまま音に移し変えたかのような「葦の歌」では、彼女の深みのある声が最大限に生きて、平島さんのピアノともども素晴らしい演奏だった。
アイヒェンドルフの詩による「夜の歌」ではボリューム感のある声でクライマックスを築き、ストレートに胸に迫ってくる名唱だった。
ドレーゼケのはじめて聴く歌曲の数々も決して近寄りがたいものとならず、接しやすい雰囲気で歌ってくれたのは彼女ならではといえるかもしれない。
平島さんのピアノはいつものことながら周到に細部まで目配りの行き届いた演奏。
ピアノの蓋は一番短いスティックでわずかに開けられているに過ぎないが、どの音もつぶすことなく美しく響かせる。
そして各曲の終わりの音をたっぷり伸ばして最後まで曲の雰囲気を大切にしていた。
その作品に対するデリカシーに溢れた感性は、外来のピアニストたちにも見習ってもらいたいほどである。
アンコールの最初で有名な「歌の翼に」が流麗に演奏され、温かい雰囲気に包まれたが、2曲目の作曲家のリストはドレーゼケと深い交流があったようだ。
最後は演奏者お2人の故郷、長崎の歌、辛い境遇に巻き込まれた女性たちを歌った悲しい子守歌だが、内藤さんは独特の節回しを情感豊かに表現し、平島さんは楽譜なしで深い共感をもって演奏していた。
次回はどんなプログラムを聴かせてくれるのか、今から楽しみである。
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コメント
はじめまして、Sacra Fioraです。11月6日のコンサートへ行って来ました。私は長年オペラの世界のみの生活でしたが、何か足りないと思い歌曲の勉強も始めました。はっきり言ってドイツリートは未知の世界ですが、音楽することに違いはありません。率直に申し上げて、オペラシティのリサイタルホールのような箱の中に入り込んで出ていけない窮屈さを感じました。立派なリサイタルでしたが、演奏する喜びや期待が感じられず、とても残念でした。日々の生活に追われ忘れがちな、演奏者自身が音楽を楽しむという大切さをあらためて感じました。音に全てあらわれるんです。私も歌手としてとても考えさせられたコンサートでした。
投稿: Sacra Fiora | 2009年11月10日 (火曜日) 23時05分
Sacra Fioraさん、はじめまして。
コメントを有難うございました。
Sacra Fioraさんは歌い手さんとのことですね。
私のような単なる歌曲ファンとは聴き方が違うのは当然だと思いますし、感想は人それぞれだと思います。
ただ、私のような一素人は彼女の歌から「演奏する喜び」を充分に感じましたし、「音楽を楽し」んでおられたからこそあれほど素晴らしい歌唱になったと思っております。さらにただ楽しませるだけでなく、あまり知られていないレパートリーをしっかりとご自分の中で消化して歌っておられるのは誰にでも出来ることではありません。
もしよろしければ、さらに歌曲を聴き続けてみてはいかがでしょうか。だんだんと面白さが感じられるようになるかもしれませんから。
投稿: フランツ | 2009年11月11日 (水曜日) 02時31分