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白井光子&ヘル/ブラームス&R.シュトラウス(2009年11月4日 トッパンホール)

シリーズ<R.シュトラウス 2>
白井光子&ハルトムート・ヘル
2009年11月4日(水) 19:00 トッパンホール(G列1番)

白井光子(Mitsuko Shirai)(MS)
ハルトムート・ヘル(Hartmut Höll)(P)

ブラームス(Brahms)作曲
1.エオリアン・ハープに寄す Op.19-5
2.ひばりの歌 Op.70-2
3.ナイチンゲール Op.97-1
4.夕暮れの雨 Op.70-4
5.テレーゼ Op.86-1
6.たそがれる夕べ Op.49-5
7.わたしの想いはあなたに Op.95-2
8.わたしは夢を見た Op.57-3
9.やなぎの花 Op.107-4

~休憩~

R.シュトラウス(R.Strauss)作曲
10.ダリア Op.10-4
11.かわらぬもの Op.69-3
12.たそがれの夢 Op.29-1
13.おお、きみがぼくのものなら Op.26-2
14.解脱 Op.39-4
15.旅人の心の安らぎ Op.67-6
16.帰郷 Op.15-5
17.万霊節 Op.10-8
18.セレナーデ Op.17-2

~アンコール~
1.ブラームス(Brahms)/あなたの青い瞳Op.59-8
2.ヴェーベルン(Webern)/似たもの同士(ヴォルフも同じゲーテの詩に作曲している)
3.ブラームス/私の傷ついた心Op.59-7
4.アイヴス(Ives)/イルメナウ(Ilmenau: テキストは、ゲーテの有名な詩「すべての頂に憩いあり(Über allen Gipfeln ist Ruh)」による)
5.シューマン(Schumann)/出会いと別れOp.90-3
6.ベルク(Berg)/山のかなたの(上田敏の訳で有名なブッセの詩による)

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昨年のラ・フォル・ジュルネで聴いた白井光子が風邪で不調だったこともあり、正直なところ今回聴こうかどうか迷ったのだが、今後彼女を聴ける機会がどれだけあるかを思い、チケットを購入した。
会場はほぼ満席で(完売とのこと)根強い人気をうかがわせた。

プログラムは当初予告されていた曲から2曲カットされたが、「リハーサルを重ね熟考した結果」とのことで、演奏者の厳しい自己批評のすえ決められたことなのだろう。

今回はトッパンホールのR.シュトラウス・シリーズの第2回目という位置づけで彼女たちのリサイタルが催された。
しかし私個人としては前半のブラームスの素晴らしい選曲に期待して出かけてきた。

白井は今回声が温まるまで時間がかかった。
ブラームス最初の数曲では音程も安定せず、ヴィブラートは太く、声量も充分ではなかった。
年齢的に全盛期のような声の充実は求められないだろうが、それでも最初のうちはまだ実力を発揮できていなかったように感じた。
しかし歌い進めるうちに彼女の真摯で温かい歌の世界に自然に引き込まれていった。
声の質は以前とは若干変わったように感じられた。
なんでもなく難所をクリアーしていた過去とは異なることを彼女自身がしっかり受け止め、いかに歌の形を保つか彼女の新たな挑戦が感じられて、その人間味が新たな魅力となっていた。

ブラームスのブロックでは、最初に歌われたメーリケの詩による「エオリアン・ハープに寄す」がとても美しい作品で、彼女の歌で聴けたことは感動的だった。
そしてもう1曲「ひばりの歌」、これはブラームスの知られざる傑作だと思う。
歌とピアノが繊細に対話しているような小品で、清らかな陶酔感がなんともいえない感動を与えてくれる。
「わたしは夢を見た」では白井本来の豊かなフレージングが素晴らしかったし、ブラームス最後の「やなぎの花」では愛らしく表情豊かな彼女の歌に可愛らしさを感じた。

後半のR.シュトラウスのブロックでは、彼女の本来の良さが聴かれ、ボリュームのある声で多彩な作品それぞれを描き分けていた。
とはいえ、「解脱」の最後のかなり長大に持続するフレーズでは、ヘルが速めのテンポで弾くことによって彼女の声を助けているのが感じられた。
一風変わった「旅人の心の安らぎ」という珍しい作品は、詩人ゲーテの皮肉な人生訓が歌われ、白井ならではの選曲と感じた。

ハルトムート・ヘルは以前に比べると、随分騒々しさは陰をひそめ、これみよがしなスタンドプレーは減ったように感じた。
これから円熟期に入ろうという白井を支えようとするかのように包容力のある優しい響きを聞かせるようになった。
それでも「リートデュオ」という形を意識しているせいなのか、かなり大胆にテンポを揺らす点は変わらない。
二人のソリスト同士のアンサンブルという感覚で演奏しているからだろう。
それはそれで、ほかのピアニストからは聞けない面白みがあるので、場合によっては新鮮な響きを聞かせてくれたことは確かである。
とはいえシュトラウス作曲「セレナーデ」の後奏のあまりにも素っ気無く、さっさと終わらせようという演奏は共感できなかった。
シュトラウスの歌曲におけるピアノパートはオペラアリアの伴奏に近いところがあるように思うので、四角四面に楽譜通りに弾かなくてもいいのかもしれないが(シュトラウス自身もそれほどピアニストに厳密さを求めていなかったようだ)、そうはいっても曲の締めくくりがおざなりなのは興ざめである。
常に安定した演奏を約束するピアニストではないが、何が起こるかわからないスリルはほかのピアニストからは味わえない彼独自のものであろう(それが好きかというとまた別問題なのだが)。

白井さんは6曲もアンコールを歌ってくれたが、最後ベルクの曲を歌う前に聴衆に語り始めた。
大病をして体も動かなかった状態からリハビリを経てこうやってステージに立てるようになって感無量と涙を浮かべながら語り、聴衆も温かい拍手を贈っていた。
つらい病気からよくここまで回復してくれたと本当に感激もひとしおである。
同じ病気と闘っている人たちにもきっと大きな支えになるのではないか。
白井さんのさらなる歌の世界を今後も見守っていきたい。

Shirai_hoell_20091104_chirashi

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コメント

フランツさん、こんにちは。
この演奏会のこと、知っていたのですが、外せない用件と重なって行かれず、大変残念です。
2年前のコンサートが直前にキャンセル、昨年のラ・フォルも、思うような演奏でなかったということで、今回は、聴きたかったと思います。
歌手の思い入れのこもったプログラム作りといい、全体としていいコンサートだったようですね。
満席で、6回のアンコールとは、ファンも白井さんの復帰を待ち望んでいたのでしょう。
そこにいなければ味わえない、人間的な通い合いがあって、そこが生の演奏会ならではのことですね。次回は、私も、聴きたいと思います。

投稿: Clara | 2009年11月 8日 (日曜日) 10時26分

Claraさん、こんにちは。
白井さんのコンサート、聴いておいて本当に良かったと思いました。
まず、彼女の歌が本来の姿に回復したのを確認できたこと、
それから、彼女のようなパーフェクトだと思っていた歌手でも年齢とともにレパートリーを選ばなければならないことに、かえって人間的な側面を見ることが出来たことに感銘を受けました。
会場の聴衆がみな彼女の復活を心から喜んでいたように感じました。
Claraさんも次回ご都合がつきましたら、ぜひお聴きになってみてください。

投稿: フランツ | 2009年11月 8日 (日曜日) 13時11分

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