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ラローチャ、中山悌一を偲んで

スペインの名ピアニスト、アリシア・デ・ラローチャ(Alicia de Larrocha: 1923年5月23日バルセロナ - 2009年9月25日バルセロナ)が心肺機能不全のため86歳で亡くなった。

私は一度だけ彼女の実演を聴いたことがある。
確かサントリーホールだったと記憶するが、プログラム冊子が出てこないので曲目ははっきりしない。
ただ、その演奏は実に美しく、しかも歌心に満ち溢れていて、すぐに好きになったことはよく覚えている。
数年前に日本での引退コンサートが開かれたが、その時は残念ながら聴けなかった。

ラローチャといえば忘れられないことがある。
インタビューで彼女が憤慨して言うには、あるコンチェルトを録音したのだが、そのCDジャケットを見ると私一人しか写っていない。
コンチェルトはピアノとオーケストラがどちらも大切なので、指揮者も一緒に写っている写真を使うべきなのに、というような趣旨だったと思う。
その記事を読んで、彼女のスター然としていない、思いやりのある感覚を知って感銘を受けたものだった。

ごく最近、国内盤でソプラノのビクトリア・デ・ロサンヘレスのスペイン歌曲集の1971年ライヴ録音がEMIからCD復活したが、その共演者はほかならぬラローチャだった。
録音当時、ラローチャはDECCAレーベルの専属だったため、レコード化は難しいと言われていたそうだが、困難をクリアーして無事リリースされた。
スペインの情熱的な濃密さを備えていながら、同時に独特の人間味あふれる温もりも兼ね備えていたという点でこの二人は共通していたように感じられる。

ラローチャの訃報を読んだ数日後、今度は日本の名バリトンの訃報に接することとなった。
中山悌一(なかやまていいち: 1920年2月6日大分 - 2009年9月29日)が老衰のため89歳で亡くなったという。
二期会の創設者として知られているが、彼の本領は歌曲にあったのではないか。

私は彼の歌を実演では一度も聴くことが出来なかったが、ジェラルド・ムーアが1965年に来日した際に「冬の旅」を共演したということを知って、当時リート歌手として日本の代表的な存在だったのだろうなというイメージを抱いていた。
この時の批評を図書館で調べたことがあったのだが、オペラを歌わない彼は声が単色の傾向があるが、ムーアに引っ張られて色合いが変化したというようなことを読んだ記憶がある。
また、ある音楽雑誌でムーアとの対談が掲載されていたが、ムーアは中山氏と共演した感想を問われ、特に日本人的と感じたことはなかった、一流の演奏家だったので、というようなことを言っていた。

その後、「ショパン」という雑誌で伴奏者の特集が組まれたことがあり(1984年6月号)、中山氏が伴奏者についてインタビューを受けていたが、ヘルマン・ロイターやサヴァリッシュを讃えていた。
以下はその記事での中山氏の言葉から。
「歌と切り離せるピアノ曲ってないんじゃないだろうか。
バルトークあたり・・・になるとまた別な効果を狙うこともあるだろうが、たとえばモーツァルトでも、ピアノ曲といってもほとんどオペラに原点がある。
・・・オペラを研究すると彼のピアノ曲は全て理解できる。
あ、ここはため息ついてる、とかこの部分は宴会の場面だな、と・・・。
だからきわめて人間的な音楽のはずなのに、譜面だけ見てエチュード的にモーツァルトを弾く人が多い。
・・・オペラやカンタータを聴いてピアノに生かして欲しいですね。」

辛口だが、音楽に真剣に向き合ってきた人だからこそ言える言葉なのだろう。

馴染みのある方達が伝説と化していくのは寂しいが、その功績が録音という形で残されているのは有難いことである。
この機会にあらためてその演奏に耳を傾けてみたいと思う。

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コメント

ラローチャさんが亡くなられたとはうかつにも知りませんでした。よくは知らないのです。グラナドスの「ゴイェスカス」のCDを聴いていたことがあるくらいでしたので。でもあらためて聞き直すと、温かな響きだと感じました。
さて、中山氏のモーツァルトの原点はオペラとの言。勝手に「その通り」と膝を打ちました。
モーツァルトのオペラのわくわく感を大事にして交響曲などを聴いていたものですから。そうか、ピアノ曲もそう聴けばいいのか、と膝をもう一度打ちました。

投稿: Zu-Simolin | 2009年10月 4日 (日曜日) 22時12分

Zu-Simolinさん、こんばんは。
ラローチャの「ゴイェスカス」良さそうですね。
私は彼女のソロのCDは1枚も持っていないのですが、最近は動画サイトという便利なものがあるので、そちらで彼女のドキュメンタリーなどを見れるのが有難いなと思います。
モーツァルトの音楽は一見器楽的に聞こえるのですが、中山氏のようにオペラを知り尽くしている人の言葉だとそうなのかと納得させられます。私もモーツァルトの器楽曲から歌を感じ取りたいと思います。

投稿: フランツ | 2009年10月 4日 (日曜日) 23時04分

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