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ロット&プレヴィン/N響第1655回定期公演(2009年10月17日 NHKホール)

NHK交響楽団第1655回定期公演 Aプログラム1日目 
2009年10月17日(土)18:00 NHKホール (3階自由席)

フェリシティー・ロット(Felicity Lott)(S)*
NHK交響楽団(NHK Symphony Orchestra, Tokyo)
アンドレ・プレヴィン(André Previn)(C)

ウォルフガング・リーム/厳粛な歌(1996)
R. シュトラウス/歌劇「カプリッチョ」作品85から「最後の場」*

~休憩~

R. シュトラウス/家庭交響曲 作品53

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ソプラノのフェリシティー・ロットは歌曲ファンにとっては馴染み深い名前である。
イギリス歌曲はもとよりドイツ、フランス歌曲までこなす万能歌手である。
一般にはオペラの分野で高く評価されており、日本ではおそらくリサイタルは開かれていないと思う。
今回、クライバー指揮の「ばらの騎士」以来15年ぶりの来日と知って驚いた。
これまでCDやDVDでは馴染んでいた歌唱を生で聴いてみたいと思い、本当に久しぶりにNHKホールに出かけてきた。

土曜日夕方の渋谷は相変わらずの混雑ぶり。
タワーレコードまではたまに出かけるが、公園通りを歩くのはいつ以来だろうか。
ちょっと感傷的な感慨に浸りながらNHKホールまでの長い上り坂を歩いていった。

N響は自由席が1500円という安価で用意されているのが有難い。
会場に着いて軽食などをとっているうちに良い席は埋まってしまい、3階の後ろから2番目の列の真ん中あたりに空いていた席に座った。

登場した指揮者プレヴィンはもう80歳とのこと、ステージ中央にたどり着くまでゆったりとした足取りで時間がかかった。
今年前半に新日本フィルを振ったブリュッヘンは指揮台の椅子から立ち上がっていた場面も多かったが、プレヴィンは座りっぱなしだった。

最初の曲目はリーム(1952-)というドイツの作曲家による「厳粛な歌」。
ヴァイオリンなどの高音楽器を除いた編成の渋い曲。
淡く重い静かな響きの中に時折入るアクセント、あたかも水墨画のような趣の曲だった。
武田モトキ氏のプログラムノートによると、この作品、ブラームスの「4つの厳粛な歌」からインスパイアされたもののようだ。

続いていよいよロットの登場。
オレンジのドレスに深紅のガウンのような衣装を纏って現れた彼女は優雅そのもの。
物腰の一つ一つが絵に描いたような英国淑女のイメージそのものだった。
歌劇「カプリッチョ」から「最後の場」が歌われたが、その前に「月光の音楽」という美しい間奏曲が導入として演奏される。
R. シュトラウスに苦手意識の強かった私は、彼の作品、歌曲以外はあまり知らない。
「カプリッチョ」初体験の私にとってこの「月光の音楽」は初めて聴くはずなのだが、聴きながらどこかで聴いた音楽のような気がする。
しばらくして、シュトラウスが出版社や敵対する音楽家を辛らつにあてこすった歌曲集「商人の鑑」の中の曲とほぼ同じだと気付いた。
12曲からなるこの歌曲集、出版社名や人物名をもじって皮肉ったテキストに、様々な自作他作から音楽が引用され、「運命」の動機が聞こえたり、「冬の旅」のテキストをもじったりしたユニークな作品である。
その終曲に長く美しい後奏があるのだが、その音楽がこの「月光の音楽」とほとんど同じなのである。
だが作曲年代を調べると、歌曲集「商人の鑑」が1918年で、「カプリッチョ」が晩年の1940~41年。
つまり、歌曲集の中の音楽をオペラの中で再利用したということなのだろうか。

ロットの生の声はやはり素晴らしかった!
ステージから最も遠い私の席まで、決して圧力があるわけではないのにしっかりよく通るクリーミーな美声は年齢を感じさせない。
ドイツ語の発音もデリカシーに満ち、表情豊かな声の色がステージを一瞬にしてオペラの舞台に変えていた。
詩人と音楽家から求愛されたマドレーヌの心の迷いを繊細な表情で歌っていた。
詩と音楽のどちらを優位に立たせるかというのは音楽家にとって永遠のテーマのようなもの。
そのテーマを織り込んだこのオペラ、一度全曲を通して聴いてみたいものだと思った。
ロットの歌唱はオペラでありながら歌曲の世界をも感じさせるもので、彼女の歌った20分弱は私にとって至福の時であった。
プレヴィン指揮によるN響の演奏も繊細さの極みだった。

後半はR. シュトラウスの私小説的な「家庭交響曲」。
部分的には聴いたこともあったが、全体を通して聴いたのは初めてのこと。
この曲を味わうためにはもう少し聞き込まなければならないようだ。
プレヴィン&N響の熱演にもかかわらず、私のシュトラウスに対する苦手意識は覆らなかった。

ロットの歌唱を生で聴ける機会が今後あるかどうかは分からないが、出来ることならいつか歌曲のリサイタルで彼女の熟した表現を聴いてみたいものである。

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コメント

フランツさん、フェリシティ・ロットとは、懐かしいこと!
一回だけですが、20年以上も前、在英中に聴いたことがあります。
ソロコンサートではなかったと思いますし、曲目も忘れてしまいましたが、スラッとやせ形の、きれいな人で、アンコールに歌った「夏の終わりの薔薇」だけ、覚えています。
むかしから「庭の千草」と言うタイトルで、日本の歌のように思われている歌が、こんなに美しく、素晴らしい曲だったかと、目を開かせられた思いでした。
今は、結構な年齢になっていると思いますが、日本で、コンサートに出演していたのですね。
知っていたら、是非聴きたかったのに、残念です。

投稿: Clara | 2009年10月18日 (日曜日) 21時25分

Claraさん、こんばんは。
Claraさんはイギリスでロットをお聴きになっていたのですね。
昨日遠目に見た感じでも、すらっとした長身で魅力的な方だと思いました。
「庭の千草」は確かイギリスかアイルランドの民謡でしたね。日本にも浸透しているためか日本の歌だと思っている人もいるようですが、イギリス系の民謡はなぜか懐かしさを感じることが多いのが不思議です。
今回のロットはN響定期なので、11月13日にはBSで放映される予定だそうです(私はBS契約していないので、N響アワーでの放映を気長に待ちます)。ぜひご覧になってみてください。

投稿: フランツ | 2009年10月18日 (日曜日) 22時25分

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