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レーゼル/ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲演奏会第3回(2009年10月2日 紀尾井ホール)

紀尾井の室内楽 vol.18
Roesel_pamphlet_200910ペーター・レーゼル ベートーヴェンの真影
ピアノ・ソナタ全曲演奏会【第2期2009年/2公演】全4期

第3回
2009年10月2日(金)19時 紀尾井ホール(2階C2列4番)
ペーター・レーゼル(Peter Rösel)(P)

ベートーヴェン(Beethoven)作曲

ピアノ・ソナタ 第5番 ハ短調 Op.10-1
 1. Molto allegro e con brio(鋭い付点のリズムが印象的な、ドラマティックな楽章)
 2. Adagio molto(静かに歌う美しいモノローグ)
 3. Finale: Prestissimo(不安げに問いかけるような断片的なユニゾンのパッセージではじまる切迫した楽章。さりげなく通り過ぎていくような終わり方が新鮮)

ピアノ・ソナタ 第16番 ト長調 Op.31-1
 1. Allegro vivace(左右のずれたリズムが印象に残る華麗な楽章)
 2. Adagio grazioso(ゆれるようなリズムの上で長いトリルを交えたゆったりした歌謡的メロディが流れる)
 3. Rondo: Allegretto(モーツァルトの「トルコ行進曲」の冒頭を思わせるテーマが慎ましやかに穏やかに展開され、対照的な動きのあるパッセージと交代しながら繰り返される)

~休憩~

ピアノ・ソナタ 第10番 ト長調 Op.14-2
 1. Allegro(愛らしいジグザグなテーマではじまる可憐な楽章)
 2. Andante(行進曲風のリズムでスタッカートの和音が刻まれて始まる可愛らしい楽章)
 3. Scherzo: Allegro assai(左右で駆け抜けるような急速なパッセージがユーモラスな楽章。最終楽章がスケルツォなのは珍しい)

ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調 Op.53 「ワルトシュタイン」
 1. Allegro con brio(和音のがっしりした連打で始まるのが特徴的。モティーフが入念に展開されている)
 2. Introduzione. Molto Adagio(次に続くロンドの序奏的役割をもった、音数の少ない静かな音楽)
 3. Rondo: Allegretto moderato(左手の幻想的な雰囲気の中、右手が鐘のような高音を響かせる)

~アンコール~
ベートーヴェン/バガテル Op.33-2

(上記の各楽章後のコメントは私の覚書で、プログラムに記載されていたものではありません)

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昨年スタートしたペーター・レーゼル(1945年Dresden生まれ)によるベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲演奏会は、1シーズンに2回ずつ催され、4年間で全32曲のソナタを演奏するというプロジェクトである。
今年は第2シーズンの第3回&第4回にあたり、先日その第3回を聴いてきた。

前半は、古典的な均整を保ちながらも暗い情熱が印象的な第5番と、華麗な明るさをもった第16番という対照的な2つのソナタを組み合わせている。
そして後半は、どこまでも愛嬌のあるベートーヴェンの意外な一面を見せた第10番と、いかにもベートーヴェンらしいかっちりした構成の第1楽章を含む有名な「ワルトシュタイン」という、ここでも対照的な組み合わせが秀逸なプログラミング。

レーゼルは拍手に丁寧にこたえた後、ピアノの前に座ると、少し瞑想するような仕草をして演奏に向かう。
前半最初のソナタ第5番は私の座った席の都合なのか若干音がもやもやして明瞭さに欠けて聞こえたが、徐々に耳が慣れてきたのか細かい音もはっきりしてきた。

レーゼルはいつものように誇張もはったりも一切なく、これ以上ないほどきっちりとした楷書風の演奏を聴かせてくれた。
しかし、それは冷たさとは無縁で、完璧なテクニックに裏付けられたダイナミクスとタッチの絶妙さによる人間味に満ちた包容力があった。
第16番の第1楽章なども、リズムのずれをことさらに強調せずに自然な流れを重視した趣が新鮮に感じられた。
そして、各ソナタの緩徐楽章ではだれることのない比較的さっぱりとしたテンポで、美しいカンタービレを聞かせてくれた。

この日もっとも私が感銘を受けたのは第10番のソナタだった。
この愛らしい作品からレーゼルは可能な限りの魅力を引き出した。
優しくちょっと悪戯好きなベートーヴェンが聞こえてきたようだった。

「ワルトシュタイン」も全く破綻のない完成度の高い名演で、特に第3楽章でオクターヴのグリッサンド(手をオクターヴに保ったまま、鍵盤を急速にずらしていく)を見れたのは貴重な体験だった。
余談だが、この第3楽章の右手に2回繰り返される鐘のような高音、シューベルトが歌曲「若い尼僧」を作曲した時にもしかしたら脳裏に浮かんでいたのではないかと想像してしまう。

盛大な拍手で何度も呼び戻されたレーゼルがアンコールに弾いたのはバガテルからの1曲。
付点のついたリズムが愛らしく素敵な演奏だった。

NHKのテレビカメラがステージ上に2台(無人)、2階にも2台設置されていた(1階席は確認しなかったが、あったのかもしれない)。
11月下旬にBSで放送されるそうだが、BS契約していない私は地上波でも放送されることを願っている。

Roesel_autograph_20091002なお、普段は横目で通り過ぎてしまうサイン会に今回は私も並んで、サインをいただいた。
長蛇の列が出来ていて、私の番の時にはかなりお疲れのようだったが、すっかり白髪になったレーゼルは次々に差し出される自分のCDを見ては、「このレーベルは…」「この時の指揮者は…」と確認していて、愛嬌のある一面が垣間見られた。

Roesel_chirashi_200910

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