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バドゥラ=スコダ/ピアノ・リサイタル(2009年10月9日 東京オペラシティ コンサートホール)

<来日50周年記念>
Baduraskoda_20091009_pamphletパウル・バドゥラ=スコダ ピアノ・リサイタル

2009年10月9日(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(3階L2列16番)
パウル・バドゥラ=スコダ(Paul Badura-Skoda)(P)

ハイドン/「皇帝讃歌」による変奏曲(弦楽四重奏曲「皇帝」Hob. Ⅲ-77Ⅱの主題による)
Haydn / Variations on the theme Gott erhalte Franz, den Kaiser in G Major (after the string quartet Hob. Ⅲ-77Ⅱ)

ハイドン/ソナタ ハ短調 Hob. XVI-20
Haydn / Sonata in c minor, Hob. XVI-20

ベートーヴェン/ソナタ 第32番 ハ短調 作品111
Beethoven / Sonata No.32 in c minor, op. 111

~休憩~

フランク・マルタン/フラメンコのリズムによる幻想曲(バドゥラ=スコダに献呈、1973年)
Frank Martin / Fantaisie sur des Rythmes Flamenco (dedicated to Paul Badura-Skoda, 1973)

シューベルト/4つの即興曲 D899
Schubert / 4 Impromptus D899

~アンコール~
1.シューベルト/楽興の時第3番
2.シューベルト/レントラー?
3.シューベルト?/ワルツ?

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パウル・バドゥラ=スコダのリサイタルを初台で聴いてきた。
1927年ヴィーン生まれというから今年ですでに82歳。
高名なピアニストで録音も多いので名前はよく知っていたし、楽譜の校訂者、研究者としても知られており学者肌のイメージを抱いていた。
バス歌手Thierry Félixとのシューベルト歌曲の録音などは聴いていたので、全く馴染みのないピアニストというわけではないのだが、遅まきながら初めて実演に接することが出来た。

この日の私の座席はステージ左横の3階2列目。
つまり、一番高い席から見下ろす形になるのだが、席の前の方にお尻をずらし、前かがみになってようやくピアノの鍵盤が見えるという位置で、バドゥラ=スコダの出入りの様子やペダリングなどは全く見ることが出来なかったのが残念だった。
だが、聴く姿勢は少々しんどかったものの、バドゥラ=スコダの両手の動きが真上から見られたのはなかなか楽しい経験だった。

ハイドンの「“皇帝讃歌”による変奏曲」は、自作の有名な旋律による変奏曲だが、弦楽四重奏版に若干の変更を加えてピアノ版がつくられたそうだ。
モーツァルトやベートーヴェンの変奏曲とは異なり、メロディーは調やリズムも含めてほぼ同じままで、伴奏音型を変えていく手法をとっていた。
従って、節ごとに伴奏が変わりつつも、皇帝讃歌をそのままの形で有節形式で歌うことが出来るのではないだろうか。

続くハイドンの「ソナタ ハ短調」は、第1楽章の冒頭がブラームスの「わがまどろみはますます浅く」の歌いだしを思わせるゆったりとした哀感のある響きだが、その後に細かい音型があらわれて変化に富んだ展開になる。
ハイドンの曲はややもするとモーツァルトの影に隠れてしまいがちだが、実はモーツァルトよりもこちらの方が好きという人もいるのではないか。
私もちょっと聴いた感じではハイドンの方が地上の音楽という感じで自分の好みに近いかもしれないと思った。

ベートーヴェンの最後のピアノソナタである第32番は、ごつごつした岩場で葛藤しているかのような第1楽章と、天上世界へと導かれるような包容力のある美しい第2楽章からなり、ベートーヴェンのピアノソナタ創作活動の総決算のような印象を受ける作品である。
これはどのピアニストにとってもチャレンジしたい誘惑にかられる高峰だろう。

前半だけで1時間ほどの重量級のプログラミングだった。

後半はスイスの作曲家フランク・マルタンの作品ではじまった。
これまで全く聴いたことのない作品であるうえに、何故か聴いている最中に鼻水が出てきてしまい、あまり集中して聴けなかったのだが、4つの部分からなり、フラメンコ特有のリズムと情念は、聴き込むとはまるかもしれないと感じた。

そしてプログラム最後はシューベルトの有名な「4つの即興曲」(第1集)。

バドゥラ=スコダは80代という高齢でもあり、指の動きは危なっかしいところも散見されたが、それは聴きに来ている人にはあらかじめ予期されたこと。
それよりも、長年にわたって聴衆を惹き付けてきた彼の魅力がどういうところにあるのか、それを1回きりの実演で完全には把握しきれたとは言えないものの、それなりに感じることが出来たのが良かった。
この人はやはり古き良き時代の趣を残している貴重な存在なのだと感じた。
現代のピアニストが手に入れた進化したテクニックや洗練されたスマートさと引き換えに失ってしまった独特の風情、それが彼の演奏から感じ取れるのではないか。
透徹した美しいタッチというわけではなく、テクニックが精巧というわけでもないのに、何処か味があって惹きつけられる、そういうタイプのピアニストなのだと感じた。
おそらくこういうタイプのピアニストは、今後ますます減って、いずれ絶滅してしまうのかもしれない。
だからこそ、ちょっとはらはらさせられるところがありながらもツボを押さえたベートーヴェンのソナタに感銘を受けたり、シューベルトの即興曲の血肉となった表現の尊さに心を揺さぶられたりするのだろう。
バドゥラ=スコダというピアニストを聴く機会が得られて良かったと数年後に感じられるであろう、そんな貴重な時間を過ごすことが出来た。

空席も少なくなかった会場だったが、聴き手は皆満足そうな表情で熱烈な拍手をおくっていた。

ちなみに、プログラム冊子が無料で配布されるのが普通になりつつある昨今、この招聘元の時はいつも安くない値段で売られていて、ちょっと購入しようかどうか躊躇したのだが、中身はバドゥラ=スコダのこれまでの日本での活動についてのエピソードやディスコグラフィーなど充実していて、今回は値段(1000円)に見合った内容だと思った。

なお、最初の曲の時、携帯の着信音が聞こえたのは残念だった。

Baduraskoda_20091009_chirashi

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