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甲斐さん訳の「冬の旅」リリース

弊ブログと相互リンクさせていただいている歌曲投稿サイト「詩と音楽」の管理人としてお世話になっております甲斐貴也氏が訳された新訳が掲載された、シューベルトの「冬の旅」のCDが、「OPUS蔵」レーベルからリリースされました。

演奏は名演の誉れ高いゲルハルト・ヒュッシュ&ハンス・ウード・ミュラーによるもので、演奏自体は以前の記事で私も触れたことがありました。

スタイリッシュな求道者のようなヒュッシュが、それでも時にポルタメントを使用して、当時の潮流と全く無縁ではなかったことを確認できるのも興味深いですが、それ以上にヒュッシュの声が詩の一言一言を実に敏感に表現し尽くしているのが分かり、あらためて突出したリート歌手であったことがはっきり伝わってきます。
ミュラーのピアノもよりくっきりとした音で再現され、このピアニストの感受性の豊かさと作品への共感の強さがあらためて感じられました。

今回のCD復刻ではSP盤のノイズをあえて残すことによって、声とピアノのオリジナルの響きを出来る限り再現しようと試みているようです。
確かに最初のうち、サーッという音が気になりますが、慣れてしまうと、ヒュッシュ&ミュラーの生々しい新鮮な音に惹きこまれていきます。

ブックレットで小林利之氏がヒュッシュ氏の言葉を引用しています。
「古いレコード原盤の針音を除去するために、声の質が変わってしまうよりは、むしろ針音があったも声がそのままのほうがよい」とヒュッシュ自身が考えていたそうで、その考えがほぼ実現された見事な復刻と言えるのではないでしょうか。

甲斐さんは独自の見解に基づき、1曲1曲に深い考察を反映した訳をご自身のサイト上で発表されていますが、それがこのCDのブックレットに掲載されたことにより、広くリート・ファンの目にとまることになり、新たな視点を提供することになるのは何とも喜ばしいことです。
ブックレットの歌詞の文字が小さくて読みにくい点だけは改善を求めたいですが、このCDの価値を減ずるものではありません。
ぜひ、対訳を追いながら、往年の名演奏をお聞きになってみてください。

ちなみにジャケットには珍しくヒュッシュだけでなく、ミュラーも一緒に写っている貴重な写真が使用されています。

CDの詳細については、甲斐さんご自身の以下のページをご覧ください。

http://umekakyoku.at.webry.info/200908/article_4.html

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コメント

フランツさん,こんばんは,お久しぶりです。ちょうどウド・ミュラー66回目の命日に当たる8月23日に書かれた記事,たいへん感慨深く拝読させていただきました。ヒュッシュ氏が1962年10月8日に東京で語ったという資料に拠れば,ウド・ミュラーは,ベルリンに,お母様と住んでいらしたのですが,「1943年8月23日,残酷なる爆弾が,彼の命を奪ってしまい......そのあと彼の身体の一片さえも見出すことはできなかった」ということです。心から追悼したいと思います。昨年の6月のことですが,ヒュッシュとミュラーの『冬の旅』でまず感銘を受けたのは,歌は言うまでもないことですが,ミュラーの素晴らしいピアノ。特に「あふれる涙」で受けたおふたりの強い印象は忘れられません。なぜか「あふれる涙」を聞き終えたところで突然プレーヤーが止まってしまい,デッキを買い換え,新たに届いた機材でまず全曲聴き直しました。ヒュッシュとミュラーの『冬の旅』はこうした思い出の演奏です。あれから1年以上の月日を経,数えきれぬほど意見を交わしてきた美しい甲斐さんの訳詩が,不滅の名演奏とともにリリースされ,感慨無量です。ひとつ惜しい点があるとするならば,その後のさらに深まった考察が活かされないことですが,人は常に歩み続けるものですから,次の機会を期待したいと思います。
 このことと関連しますが,ヒュッシュの魅力のひとつは,演奏から感じられる人間性でもあると思います。この記事を読まれる方には周知のことかもしれませんが,ここで先ほどのヒュッシュのことばからもうひとつ,ご紹介したいものがあります。ある歌手が進歩が止まったとするならば,それは「声の訓練にも,また音楽上の技巧の停滞によるものでもなく,人間的な発展が止まっていることに原因があると思うのです。もし彼が人間的に進歩し,自己自身を深めることができるなら,自分の芸術を深めることも可能であったでしょう」
 フランツさんのブログもさらに充実されていて,嬉しい限りです。お互いこれからもリートを愛してまいりましょう。長いコメントで失礼しました。素敵な記事に感謝します。

投稿: 渡辺美奈子 | 2009年8月24日 (月曜日) 21時46分

渡辺さん、おはようございます。
ご返事が遅くなりまして、すみません。

まず、ウード・ミュラーの命日にこの記事を投稿したのは全くの偶然だったのですが、確かに8月23日に亡くなったそうですね。ご指摘、有難うございます。それにしても、彼の悲劇的な最期は語り継がなければなりませんね。ミュラーもまた戦争に尊い命を奪われたのですから。ヒュッシュも当時はさぞかし悲しんだことでしょう。

「あふれる涙」での体験、渡辺さんの受けられた感動の余韻にひたる時間を与えられたかのようにデッキがとまってしまったのですね。確かに素晴らしい演奏だと思います。

ヒュッシュの「人間的な進歩」が芸術を深めるという言葉、胸に刻みたいと思います。全くそのとおりですね。声を失ってもなお感動的な演奏をする演奏家はみな人生経験を加味した深い世界に達しているからなのでしょう。

私のブログはまだまだ発展途上ですが、今後もよろしければご支援ください。

様々な情報を有難うございました。こちらこそ感謝いたします。

投稿: フランツ | 2009年8月25日 (火曜日) 05時15分

フランツさん,たいへん心のこもった御紹介ありがとうございます!
今回の復刻では,ヒュッシュの名唱はもとより,ウド・ミュラーのピアノの素晴らしさが注目を集めているようですね。再評価が進むことを期待しています。

投稿: 甲斐 | 2009年8月25日 (火曜日) 12時35分

甲斐さん、こんばんは。
このたびは本当におめでとうございます!
私もとてもうれしく思っています。
ウド・ミュラーのピアノは、ヒュッシュ以外では聴いたことがないのですが、爆撃の悲劇がなかったならば、もっと様々な演奏が残されたかもしれないと思うと残念ですね。
しかし、残されたヒュッシュとの録音を聴くと、タッチもリズムも音色も本当に素晴らしかったのではないかと思います。

投稿: フランツ | 2009年8月25日 (火曜日) 21時13分

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