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ゲルネのシューベルト・エディション

バリトンのマティアス・ゲルネ(Matthias Goerne)が仏harmonia mundiに10枚以上のシューベルト歌曲シリーズを録音中であることは以前の記事でも触れた。
自身でharmonia mundiにこの企画を持ち込んだらしい。
共演のピアニストは様々な人を起用している。

第1巻はエリザベト・レオンスカヤとの15曲、
第2巻はヘルムート・ドイチュとの20曲とエリック・シュナイダーとの23曲の2枚組、
そして最近リリースされた第3巻はクリストフ・エッシェンバハとの「美しい水車屋の娘」全20曲である。

このシリーズが始まった当初は、もっぱら著名なソロピアニストたちと組ませて売り上げを伸ばそうという安易な商業主義を危惧していたのだが、第2巻でお馴染みの歌曲ピアニスト2人が登場して安心したものだった(もちろんソリストのレオンスカヤが素晴らしい演奏を聴かせてくれたのは特記しておきたい)。

そして第3巻ではいよいよ「美しい水車屋の娘」が演奏された。
ゲルネは以前にエリック・シュナイダーとDECCAにこの歌曲集を録音しており、2度目の挑戦ということになる。
今回のピアニストはF=ディースカウやマティス、シュライアーなどとも共演してきた名手エッシェンバハである。
HMVの評でも指摘されているが、とにかく今回の演奏、一部の曲を除いてゆっくりしたテンポで貫かれている。
噛んでふくめるような丁寧な歌い方を徹底したため、自然とテンポ設定が遅めになる。
もちろんゲルネのことだから弛緩とは全く無縁で、どの瞬間も美しいドイツ語と豊かな表情で音楽的な歌唱を聞かせてくれてはいる。
それに包み込むような深々とした美声は相変わらず健在である。
だが、聴き終わって、この演奏が好きかと自問した時、素直に頷けないのも正直な気持ちである。
低声歌手でも例えばF=ディースカウのように実に魅力的な歌を聴かせる例もある。
ゲルネの「水車屋」はまだこれから、より良くなる余地を残しているような気がしてならない。
一方エッシェンバハは低く移調されて重くなりそうなところ、実にめりはりの効いたタッチで軽やかに響かせてみせる。
様々な声部を浮き上がらせて、彼ならではの新鮮で気持ちのいい演奏を聴かせてくれた。

これまでのゲルネ・エディションをドイチュ番号順にまとめたリストを作ってみたので、興味のある方はご覧ください。

ゲルネ・シューベルト・エディション・リスト(Excel)

通常女声しか歌わないミニョン歌曲をすでにシュナイダーと2曲ほど録音しているのが興味深い。
シューマンの「女の愛と生涯」にまで進出している彼は、男性の視点で女声歌曲に新たな息吹を吹き込もうとしているのかもしれない。
このリストに今後どのような曲が加わるのか、さらにどのようなピアニストが登場するのか楽しみである。

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コメント

ご無沙汰しております。(ちゃんと記事はチェック・拝読しております!)
『水車屋』……ゲルネのCDはシュナイダーとの録音しか知らないのですが、その演奏でもじっくりと丹念に歌っているなあ(後半ますますと)という印象が強く残っているのですが、エッシェンバッハとのCDではさらにそれが……、のようで興味が湧くところではあります。

 ていねいな「リスト」も拝見(保存もしちゃいました)。詩人別に並べ替えると、マイアーホーファーとゲーテの二人のJohannが中心であることが歴然ですね。そして第三巻がミュラーとなるのですが、続いてどうなっていくのでしょうね。たぶん『冬の旅』もまた再録じゃないかな。

投稿: Zu・Simolin | 2009年7月27日 (月曜日) 12時41分

ゲルネさんてまだ「若手」ですもんね。中堅かな。これからどんどん世界を深めてほしいですね。。私は白鳥の歌と冬の旅を聞きました。Ich moechte gerne...ってお馬鹿ですみません!!

投稿: Auty | 2009年7月27日 (月曜日) 15時43分

Zu・Simolinさん、こんばんは。
シュナイダーとの『水車屋』をお聴きになっているのですね。私もこの機会にシュナイダー盤を引っ張り出してきたいのですが、整理がついていないので部屋から探すのに一苦労です・・・。

ゲルネのシューベルト・エディション・リスト、どうぞご利用ください。ゲーテとマイアホーファーが中心とのご指摘、有難うございました。気が付きませんでした。
今後どのような作品が選ばれるのか楽しみですね。ちなみに三大歌曲集は録音するそうですから、あらたな「冬の旅」もいつか聴けそうですよ。

投稿: フランツ | 2009年7月27日 (月曜日) 23時50分

Autyさん、こんばんは。
ゲルネは若手という印象が強いですね。でも、年齢的にはそろそろ中堅というところでしょうか。
Autyさんも白鳥の歌と冬の旅を聴かれたのですね。"Ich moechte gern..."は「水車屋」のUngeduldですね。この曲、喜びが炸裂していていいですね!

投稿: フランツ | 2009年7月27日 (月曜日) 23時54分

Autyさん、今気が付きました!
Ich moechte "Goerne"ということだったのですね。鈍くてすみません...

投稿: フランツ | 2009年7月27日 (月曜日) 23時58分

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