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アーメリングのメンデルスゾーン・ディスコグラフィー

ソプラノのエリー・アーメリング(Elly Ameling: 1933-)は、今年生誕200年を迎えたメンデルスゾーンの歌曲も当然ながらレパートリーに加えているが、録音されたものはそれほど多くはなく、以下のとおりである。

1)アメリンク~歌の翼に

Ameling_baldwin_1972_emi_2東芝EMI: SERAPHIM: TOCE-8956 (CD)
録音:1972年9月6-11日, Gemeindehaus Studio, Zehlendorf, Berlin
Elly Ameling(S)
Dalton Baldwin(P)

歌の翼に(Auf Flügeln des Gesanges) Op. 34-2

ボールドウィンと共演した全18曲からなるEMIへの初オムニバス盤の7曲目に「歌の翼に」が収録されている(当時39歳)。
英独仏伊の各言語を駆使した彼女らしい名録音で、「歌の翼に」も伸びやかに歌われている。

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2)くるみの木~アーメリング/ドイツ・ロマン派歌曲集
Ameling_baldwin_german_romantic_son(German Romantic Songs)

日本フォノグラム: PHILIPS: X-7806 (LP)
録音:1976年9月10-14日, Kleine zaal, Concertgebouw, Amsterdam
Elly Ameling(S)
Dalton Baldwin(P)

恋する女の手紙(Die Liebende schreibt) Op. 86-3

ボールドウィンと共演した11人のロマン派の作曲家による計18曲のプログラム(当時43歳)。
メンデルスゾーンの歌曲からは「恋する女の手紙」が歌われ、7曲目に置かれている。
彼女の多くの未CD化の録音の中でもとりわけCD化が待ち望まれる名盤の1つである。

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3)“歌の翼に”~アメリング・メンデルスゾーン歌曲集(全17曲)
Ameling_jansen_mendelssohn(Mendelssohn: Lieder)

CBS: 28AC1407 (国内盤LP)
録音:1979年12月4日, 30th Street Studio, New York
Elly Ameling(S)
Rudolf Jansen(P)

第1面
歌の翼に(Auf Flügeln des Gesanges) Op. 34-2 (')
挨拶(Gruss) Op. 19-5
新しい愛(Neue Liebe) Op. 19-4
ロマンス(Romanze) Op. 8-10
ゆりかごのそばで(Bei der Wiege) Op. 47-6
慰さめ(Tröstung) Op. 71-1
秋に(Im Herbst) Op. 9-5
春の歌(Frühlingslied) Op. 47-3
月(Der Mond) Op. 86-5

第2面
恋する女の手紙(Der Liebende schreibt) Op. 86-3
ズライカ(Suleika) Op. 34-4 (「ああ、湿り気をおびてそよいでくるおまえ」"Ach, um deine feuchten Schwingen")
ズライカ(Suleika) Op. 57-3 (「心をかきたてるこのそよぎは何なのでしょう」"Was bedeutet die Bewegung?")
お気に入りの場所(Lieblingsplätzchen) Op. 99-3
最初のすみれ(Das erste Veilchen) Op. 19-2
乙女のなげき(Des Mädchens Klage)
夜の歌(Nachtlied) Op. 71-6
魔女の歌(Hexenlied) Op. 8-8

(上述の歌曲の日本語表記は国内盤LPの表記によった)

アーメリング唯一のメンデルスゾーンのみによる歌曲集であり、同じオランダ出身のルドルフ・ヤンセンとの初共演録音でもあった(当時46歳)。
「歌の翼に」「恋する女の手紙」以外は当然ながら彼女にとって初録音であり、メンデルスゾーンの著名な歌曲と無名な歌曲がバランス良く選曲されている。
アーメリングの円熟に向かいつつある声はまだまだ充分にチャーミングで、語り口の巧みさはますます磨きがかかっている。
このLPレコードも未だCD化されていないが、復活は望み薄だろうか。

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4)「歌の翼に」

Ameling_jansen_1988日本フォノグラム: PHILIPS: 28CD-896 (422 333-2)
録音:1988年2月22~25日, La Chaux-de-Fonds, Switzerland
Elly Ameling(S)
Rudolf Jansen(P)

歌の翼に(Auf Flügeln des Gesanges) Op. 34-2

アーメリングがPHILIPSレーベルに最後に録音したのは、「歌の翼に」と題された19曲からなるアンコール・ピース集だった(当時55歳)。
その冒頭に「歌の翼に」が置かれており、彼女にとって3回目にして最後の同曲の録音となった。
声は濃密さを増したが、弱声の魅力がさらに増していることに驚かされる。

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アーメリングの録音したメンデルスゾーン歌曲のレパートリーは結局17曲にとどまったが、ほぼ有名な作品は網羅しており、その点では満足できるだろう(出来れば「葦の歌」や「ヴェネツィアのゴンドラの歌」も彼女の歌で聴いてみたかったが)。
やはり「歌の翼に」を3度も録音しているのが目を引く。
それはレコード会社の意向もあったのだろうが、アーメリングの日本での引退コンサートのアンコールでもこの曲が歌われており、彼女が「歌の翼に」を好んで歌っていたということは間違いないだろう。

ちなみに歌曲ではないが、若かりし頃(1968年6月)にサヴァリシュ指揮、シュライアー、アーダムら共演でオラトリオ「エリア」Op. 70全曲録音(PHILIPS)に参加していることも忘れてはならないだろう。

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ゲルネのシューベルト・エディション

バリトンのマティアス・ゲルネ(Matthias Goerne)が仏harmonia mundiに10枚以上のシューベルト歌曲シリーズを録音中であることは以前の記事でも触れた。
自身でharmonia mundiにこの企画を持ち込んだらしい。
共演のピアニストは様々な人を起用している。

第1巻はエリザベト・レオンスカヤとの15曲、
第2巻はヘルムート・ドイチュとの20曲とエリック・シュナイダーとの23曲の2枚組、
そして最近リリースされた第3巻はクリストフ・エッシェンバハとの「美しい水車屋の娘」全20曲である。

このシリーズが始まった当初は、もっぱら著名なソロピアニストたちと組ませて売り上げを伸ばそうという安易な商業主義を危惧していたのだが、第2巻でお馴染みの歌曲ピアニスト2人が登場して安心したものだった(もちろんソリストのレオンスカヤが素晴らしい演奏を聴かせてくれたのは特記しておきたい)。

そして第3巻ではいよいよ「美しい水車屋の娘」が演奏された。
ゲルネは以前にエリック・シュナイダーとDECCAにこの歌曲集を録音しており、2度目の挑戦ということになる。
今回のピアニストはF=ディースカウやマティス、シュライアーなどとも共演してきた名手エッシェンバハである。
HMVの評でも指摘されているが、とにかく今回の演奏、一部の曲を除いてゆっくりしたテンポで貫かれている。
噛んでふくめるような丁寧な歌い方を徹底したため、自然とテンポ設定が遅めになる。
もちろんゲルネのことだから弛緩とは全く無縁で、どの瞬間も美しいドイツ語と豊かな表情で音楽的な歌唱を聞かせてくれてはいる。
それに包み込むような深々とした美声は相変わらず健在である。
だが、聴き終わって、この演奏が好きかと自問した時、素直に頷けないのも正直な気持ちである。
低声歌手でも例えばF=ディースカウのように実に魅力的な歌を聴かせる例もある。
ゲルネの「水車屋」はまだこれから、より良くなる余地を残しているような気がしてならない。
一方エッシェンバハは低く移調されて重くなりそうなところ、実にめりはりの効いたタッチで軽やかに響かせてみせる。
様々な声部を浮き上がらせて、彼ならではの新鮮で気持ちのいい演奏を聴かせてくれた。

これまでのゲルネ・エディションをドイチュ番号順にまとめたリストを作ってみたので、興味のある方はご覧ください。

ゲルネ・シューベルト・エディション・リスト(Excel)

通常女声しか歌わないミニョン歌曲をすでにシュナイダーと2曲ほど録音しているのが興味深い。
シューマンの「女の愛と生涯」にまで進出している彼は、男性の視点で女声歌曲に新たな息吹を吹き込もうとしているのかもしれない。
このリストに今後どのような曲が加わるのか、さらにどのようなピアニストが登場するのか楽しみである。

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アーメリングのシューマン・ディスコグラフィー

エリー・アーメリング(Elly Ameling: 1933-)は膨大なレパートリーを録音しているが、シューマンの歌曲も複数回録音している。
その録音歴を振り返ってみたい。

1)Robert Schumann / Die alten lieben Lieder: Lieder und Klavierstücke
Ameling_demus_schumann_1967(シューマン/昔のいとしい歌:歌曲とピアノ曲)

harmonia mundi: HMS 30 853/4 (輸入盤LP)
録音:1967年, Cedernsaal des Fuggerschlosses, Kirchheim, Schwaben
Elly Ameling(S)
Jörg Demus(Hammerflügel)

※歌曲27曲とピアノ独奏曲23曲。[ ]で囲まれたタイトルはピアノ独奏曲。

1面: DIE JAHRESZAITEN(季節の歌)

[冬 1 Op. 68-38]
まつゆき草Op. 79-27
新緑Op. 35-4
[五月、いとしい五月Op. 68-13]
時は春Op. 79-24
[収穫人の歌Op. 68-18]
[楽しき農夫Op. 68-10]
羊飼いのおとめOp. 90-4
森へのあこがれOp. 35-5
[ぶどう狩りの時Op. 68-33]
最後の花も枯れてOp. 104-6
[別れOp. 82-9]

2面: VON LIEBE UND SEHNSUCHT(愛と憧れの歌)

きみにささぐ(献呈)Op. 25-1
[クラーラにOp. 99-1]
ズライカの歌Op. 25-9
[使いOp. 124-18]
ことづてOp. 77-5
[苦痛の予感Op. 124-2]
あこがれOp. 51-1
[終わりのない苦痛Op. 124-8]
問いOp. 35-9
[なぜ? Op. 12-3]
[夕べの歌Op. 85-12]
わたしの美しい星Op. 101-4

3面: VON BLUMEN UND BÄUMEN(花や木の歌)

はすの花Op. 25-7
忍従の花Op. 83-2
[孤独な花Op. 82-3]
ばらよ!Op. 89-6
私の庭Op. 77-2
私のばらOp. 90-2
[花の曲集(全5曲) Op. 19]
ジャスミンの木Op. 27-4
ちょうちょうOp. 71-2
くるみの木Op. 25-3

4面: VON MÄRCHEN, HEXEN UND WAHRSAGERINNEN(メルヒェン、魔女、占い師の歌)

[寓話Op. 12-6]
てんとう虫Op. 79-14
[妖精Op. 124-17]
小さいふくろうOp. 79-11
[予言の鳥Op. 82-7]
森の語らいOp. 39-3
ローレライOp. 53-2
海の妖精Op. 125-1
[幻影Op. 124-14]
眠りの精Op. 79-13
[夢のもつれOp. 12-7]
トランプ占いの女Op. 31-2

(上述の歌曲のうち21曲の日本語表記は国内盤LPの表記によった)

ちなみに上述のうち、歌曲のみ21曲抜粋されたLPは以下のとおり(CD化されている)。

Ameling_demus_shetler_harmonia_mundテイチク:harmonia mundi: ULX-3035-H (国内盤LP)
BMGファンハウス : deutsche harmonia mundi : BVCD-38060/38061

1面
きみにささぐ(献呈)Op. 25-1
ことづてOp. 77-5
あこがれOp. 51-1
問いOp. 35-9
わたしの美しい星Op. 101-4
まつゆき草Op. 79-27
新緑Op. 35-4
時は春Op. 79-24
羊飼いのおとめOp. 90-4
森へのあこがれOp. 35-5
最後の花も枯れてOp. 104-6

2面
ジャスミンの木Op. 27-4
ちょうちょうOp. 71-2
くるみの木Op. 25-3
てんとう虫Op. 79-14
小さいふくろうOp. 79-11
森の語らいOp. 39-3
ローレライOp. 53-2
海の妖精Op. 125-1
眠りの精Op. 79-13
トランプ占いの女Op. 31-2

(上述の歌曲の日本語表記は国内盤LPの表記によった)

アーメリング最初のシューマン・アルバムはイェルク・デームスとの共演で、歌曲とピアノ曲を交互に織り交ぜたもの。
デームスの弾いている楽器は、1839年ヴィーン製のConrad Grafのハンマーフリューゲルである。
なお、オリジナルLPに付けられた"Die alten lieben Lieder(昔のいとしい歌)"というタイトルは、歌曲集「詩人の恋」Op. 48の最終曲"Die alten bösen Lieder(昔のいまわしい歌)"をもじったものと思われる。
34歳のアーメリングがみずみずしい美声を伸びやかに聴かせる。
デームスの揺れる表情との相性もいい。
また、アーメリングが歌ったものの中から21曲を抜粋したLPも発売された。
以前harmonia mundi時代のアーメリングの録音をまとめた4枚組のCDボックスに歌曲全27曲が収められていたが、デームスの独奏曲はカットされていた。
国内盤でも歌曲の抜粋(21曲)がCD化されているが、曲順は入れ替わっている。

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2)シューマン歌曲集(全20曲)
(SCHUMANN: LIEDER RECITAL)
EMI Angel: EAC-70224 (国内盤LP)
録音:不明(1970年前後頃?)
Elly Ameling(S)
Jörg Demus(P)

第1面
献呈 作品25の1
くるみの木 作品25の3
はすの花 作品25の7
ジャスミンのしげみ 作品27の4
ことづて 作品77の5
魂を身近に 作品77の3
あきらめ 作品83の1
憂鬱 作品74の6
愛の歌 作品51の5
夕べの歌 作品107の6

第2面
ミニョン:語れとはいわないで 作品98aの5
フィリーネ:悲しげに歌わずに 作品98aの7
ズライカの歌 作品25の9
胸のいたみ 作品107の1
ローレライ 作品53の2
ちいさな民謡 作品51の2
無言の非難 作品77の4
天が一滴の涙を流した 作品37の1
兵士の花嫁 作品64の1
トランプを占う女 作品31の2

(上述の歌曲の日本語表記は国内盤LPの表記によった)

2回目の録音はEMI Angelレーベルで制作され、前回と同じデームスとの共演だが、今回はモダンピアノによる演奏である。
前回の録音と共通する曲目も多いが、ミニョンの歌や「天は一滴の涙を流した」など、アーメリングの新境地を思わせる選曲もある。
未だ一度もCD化されておらず、復活が待たれる。

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3)シューマン/歌曲集「女の愛と生涯」Op. 42(+シューベルト歌曲集)
Ameling_baldwin_schumann_schubert_1(Schumann / Frauenliebe und Leben)

PHILIPS: X-7552 (国内盤LP); PHCP-24091 (国内盤CD)
録音:1973年8月15-19日, Concertgebouw, Amsterdam
Elly Ameling(S)
Dalton Baldwin(P)

歌曲集「女の愛と生涯」作品42(あの方にお会いして以来;あの方はすべての男性の中で一番すばらしい方;分らないわ、信じられないわ;私の指に光る指環よ;手伝って頂戴、妹たち;やさしい友よ、あなたは不思議そうに;私の心に、私の胸に抱かれた;いまあなたは私にはじめて苦しみをお与えになりました)

(上述の歌曲の日本語表記は国内盤LPの表記によった)

アーメリングはリサイタルでは歌曲集「女の愛と生涯」全8曲を繰り返しとり上げていたようだが、スタジオ録音はこの1度きりである。
40歳になるのを待って、満を持して録音したのかもしれない。
声はふくよかさを増し、内的な充実が感じられる。
共演者にボールドウィンを迎え、隙のない緊密なアンサンブルを聴かせている。
なお、このLPは同時に録音されたシューベルト10曲(緑の中での歌;蝶、など)との組み合わせで発売された。
国内ではこのシューベルトとの組み合わせによるオリジナルの形でCD化されたが、海外ではSACDのハイブリッド盤でも復活している。

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4)くるみの木~アーメリング/ドイツ・ロマン派歌曲集
Ameling_baldwin_german_romantic_son(German Romantic Songs)

PHILIPS: X-7806 (国内盤LP)
録音:1976年9月10-14日, Kleine zaal, Concertgebouw, Amsterdam
Elly Ameling(S)
Dalton Baldwin(P)

献呈Op. 25-1
くるみの木Op. 25-3

11人のロマン派の作曲家による計18曲のプログラム。
シューマンの歌曲は「献呈」と「くるみの木」の2曲が歌われ、LPのA面冒頭に置かれている。
ちなみにこの2曲とも、3度目の録音であり、アーメリングの十八番のレパートリーといえるだろう。
ボールドウィンがピアノを担当したことにより、癖のないすっきりした演奏となっている。
このLPも、シューベルトの2曲(夜咲きすみれ;あなたは憩い)がCD化されているのみであり、アルバム全体でのCD化が望まれる。

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5)シューマン/歌曲集「リーダークライス」「子供のためのリート・アルバム」

Ameling_schumann_lp_1979PHILIPS: 25PC-78/79 (国内盤LP)
録音:1979年4月15-21日, La Chaux-de-Fonds, Switzerland
Elly Ameling(S)
Jörg Demus(P)

歌曲集「リーダークライス」Op. 39(異郷にて;間奏曲;森の対話;静寂;月の夜;美しき異郷;古城にて;異郷にて;悲しみ;たそがれ;森の中で;春の夜)

歌曲集「子供のためのリート・アルバム」Op. 79(宵の明星;蝶;春の便り;春の挨拶;なまけ者の天国;日曜日;ジプシーの歌その一&その二;少年の山の歌;五月の歌;みみずく;野外へ出よう!;眠りの精;てんとうむし;みなし子;幸福;クリスマスの歌;歩きまわる鐘;春の歌;春の到来;燕たち;子供たちの見張り;羊飼いの別れ;春だ;紡ぎ歌;少年狩人の歌;待雪草;塔守リュンコイスの歌;ミニョン)

再びデームスと組んで、アーメリングにとって全曲としては初録音となるシューマンの歌曲集を2つ録音した(抜粋の形ではすでに録音していた曲もある)。
アイヒェンドルフの詩による「リーダークライス」(全12曲)は女声で歌われることも多く、アーメリングも来日公演で披露している。
彼女はこの録音でいつも以上にしっとりと抑制した表現を試みているのだが、声の調子は必ずしも万全ではなかったように感じられる。
一方の「子供のためのリート・アルバム」(全29曲)は、重唱曲もすべてアーメリングの多重録音によってこなしている為、おそらく一人の歌唱としては初の全曲盤だったのではないか。
「リーダークライス」は外国で全曲CD化されているが、「子供のためのリート・アルバム」は抜粋の形でCD化されているに過ぎない。
来年のシューマン・イヤーあたりで全曲復活となれば有難いのだが。

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6)「セレナータ」

Ameling_jansen_serenataPHILIPS: 35CD179 (412 216-2)
録音:1983年10月31日~11月4日, Haarlem, Holland
Elly Ameling(S)
Rudolf Jansen(P)

君は花のようOp. 25-24

アーメリングが世界中の歌曲を17曲集めて歌った「セレナータ」と題するCDにシューマンの「君は花のよう」が含まれている(当時50歳)。
かなり有名な作品にもかかわらず、アーメリングにとって初めての録音である。
しっとりとした味わいの感じられる歌いぶりである。

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6)「歌の翼に」

Ameling_jansen_1988PHILIPS: 28CD-896 (422 333-2)
録音:1988年2月22~25日, La Chaux-de-Fonds, Switzerland
Elly Ameling(S)
Rudolf Jansen(P)

ことずてOp. 77-5

アーメリングがPHILIPSレーベルに最後に録音したのは、「歌の翼に」と題された19曲からなるアンコール・ピース集だった(当時55歳)。
その中にシューマンの「ことずて」が収録されており(第6トラック)、これが彼女が録音した最後のシューマン作品となった。
なお、この曲は1967年(harmonia mundi)、1970年頃(EMI Angel)に続き、3度目の録音であり、初期の頃との聴き比べも興味深いだろう。

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上述のように折にふれてシューマンの歌曲を録音してきたアーメリングだが、重複を除くと83曲を録音してきたことになる。

重複して録音された曲は以下の通り。

●3回録音
「ミルテ」~献呈Op. 25-1
「ミルテ」~くるみの木Op. 25-3
ことづてOp. 77-5

●2回録音
「ミルテ」~はすの花Op. 25-7
「ミルテ」~ズライカの歌Op. 25-9
ジャスミンの茂みOp. 27-4
トランプ占いの女Op. 31-2
「リーダークライス」~森の対話Op. 39-3
ローレライOp, 77-5
「子供のためのリート・アルバム」~みみずくOp. 79-10
「子供のためのリート・アルバム」~眠りの精Op. 79-12
「子供のためのリート・アルバム」~てんとうむしOp. 79-13
「子供のためのリート・アルバム」~春だOp. 79-23
「子供のためのリート・アルバム」~待雪草Op. 79-26

これほど多くのシューマンの録音を残した彼女だが、スタジオ録音は残さなかったもののステージでのみ歌ったレパートリーがあったのではないだろうか。
そういう音源が、いつの日かひょっこり発掘されたりしたら最高なのだが。

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歌と朗読でつづるE.メーリケとH.ヴォルフの世界(2009年7月17日 旧東京音楽学校奏楽堂)

東京室内歌劇場コンサート 世界の旅シリーズ22
Wolf_moerike_20090717ドイツ歌曲の魅力を探るⅦ
歌と朗読でつづるE.メーリケとH.ヴォルフの世界

2009年7月17日(金) 18:30 旧東京音楽学校奏楽堂

ソプラノ:池田尚子/奥村喜美子/高橋節子/津山恵
メゾソプラノ:石井真紀/木村圭子
バリトン:松井康司(企画・構成)
バス:堀野浩史

ピアノ:東井美佳

朗読:塚田佳男

訳詩・台本:大出満美

E.メーリケ&H.ヴォルフ
小説「画家ノルテン」~音楽好きの幽霊たちの夜会~

<序>幽霊たちの奏でる音の風景

四月の黄蝶(奥村)
出会い(津山)
鼓手(松井)
ヴァイラの歌(石井)
乙女の初恋の歌(池田)
飽くことを知らぬ恋(堀野)
考えてもみよ、ああ心よ!(高橋)
明け方に(木村)

<第一部>若き日のノルテン

炎の騎士(堀野)
ムンメル湖の亡霊たち(奥村)
妖精の歌(池田)
捨てられた女中(津山)

~休憩~

<第二部>別れと再会

もう春だ(奥村)
春に(松井)
狩人(木村)
アグネス(池田)

<第三部>絵画「幽霊音楽会」がもたらすノルテンの運命

ペレグリーナⅠ(木村)
ペレグリーナⅡ(石井)
祈り(高橋)
恋人に(松井)
復活祭を待つ週(堀野)
風の歌(津山)
ためいき(石井)
なぐさめはどこに(高橋)

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上野にある旧東京音楽学校奏楽堂は木造の趣のある建物だった。
2階にあるホールは必ずしも音響に恵まれているわけではないが、レトロな味わいを放ち、蝉時雨も聞こえ、なかなかオツな時間を過ごすことが出来た。

ヴォルフが53曲もの作品を編み上げた「メーリケの詩による歌曲集」。
その中の16曲はメーリケの小説「画家ノルテン」に挿入された詩による。
この夜は、「画家ノルテン」抜粋の日本語訳が朗読され、その小説の進行の中で挿入された詩による歌曲(もちろんドイツ語で!)も歌われるという非常に珍しく貴重な試みがされた。

筑摩書房からかつて出ていた世界文学全集の中にこの「画家ノルテン」とケラーの小説による1冊があり、たまたま古書店で見つけて購入したことがあった。
ざっと中を開いてみたことはあったものの最初からじっくり読むこともないまま、今は家のどこかに隠れてしまっている。
現在も新訳は出ていないようで、メーリケの代表作でありながら意外と読む機会に恵まれていない作品ではないか。

主人公の画家ノルテンの恋愛が主軸にあるようだが、悲劇的な終結を迎える。
予想していた以上に重い内容だったが、幻燈劇として劇中に挿入される場が気分転換の役目を果たしていて、そこで歌われる詩にもヴォルフは作曲している。

この夜のコンサートでは、序として8人の歌手がそれぞれ1曲づつ「画家ノルテン」に含まれていない詩による歌曲を次々に披露した後、朗読の塚田氏が登場し、小説の朗読の流れに沿って歌手が登場して挿入された詩による歌曲を歌っては退場するという形で進行していった。

朗読者が大きな役割を果たすことは言うまでもないが、日本歌曲のピアニストとして著名な塚田佳男が朗読したというのが注目に値する。
実は塚田氏は声楽科の出身で歌手としても活動していることをこれまで知らなかったのだが、朗読の訓練も積み、すでに舞台で多く披露してきているようだ。
実際にマイルドでソフトな声だがメリハリがあり明瞭で聞き取りやすい朗読は一つの規範といってもいいほどの見事さだった。

ピアニストの東井美佳にはただただブラヴォーと言うほかない。
どの歌手に対してもしっかりとした土台と協力関係を築き、歌手のミスにも動じず対処し、堂々とした安定感があった。
決して易しくはないヴォルフのピアノパートを、完璧なテクニックとコントロールされたタッチで一貫して見事に演奏していた。

8人の歌手たちはそれぞれ個性の異なる声と表現をもち、おのおの3曲ずつ披露していたが、ヴォルフの各曲のキャラクターに合わせた人選がされていたようで、ヴォルフをはじめて聞く人にも飽きさせない工夫と感じられた。
先日リサイタルを聴いたばかりの高橋節子も、変わらず優れた歌を聞かせてくれ(専門のホールで聞くのとは多少音響のハンデはあったが)、特に締めで歌われた「なぐさめはどこに」での全身全霊を傾けた絶唱は前回のリサイタルでは聴かれなかったほどだった。
以前テレビのF=ディースカウのレッスンにも出演していた津山恵は当時と雰囲気がすっかり変わり洗練されていた。
最初のうち固さを感じたものの、徐々に真価を発揮していた。
ほかの女声陣もそれぞれ全力を投入していたように感じ、存分に楽しめた(石井真紀が見事に歌った「ためいき」は独特の不協和音が強烈で、生で聴くとやはり迫力ある作品だなと思った)。
5月に「パルジファル」でティトゥレル役を歌っていた堀野浩史は「炎の騎士」などを歌った。
曲によっては出を間違えてピアノとずれたまま進む箇所も聞かれ未消化なところはあったものの、声自体は渋く、これらの歌曲に合っていたと思う。
企画・構成も兼ねて進行役も果たしたバリトンの松井康司は熟練した味があり、聴いていてとても心地よい歌だった。

ヴォルフの歌曲がまとめて歌われる機会はそう多くないが、今回のような小説の流れに沿った企画となるとさらに珍しい機会だったと思う。
このような意欲的な企画と、それに関わった演奏家、スタッフ全員に拍手を贈りたい。

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ホッター日本公演曲目1986年(第8回)

第8回来日:1986年10月

ハンス・ホッター(Hans Hotter)(BSBR)
小林道夫(P)
小林一夫(通訳)

10月24日(金)19:00 音楽の友ホール

●特別講演会 共演:小林道夫(P);小林一夫(通訳)

第Ⅰ部:ドイツリートから

シューベルト(Schubert)/春の小川にて;ミューズの寵児

ブラームス(Brahms)/日曜日;セレナーデ

ヴォルフ(Wolf)/考えてもみよ,おお心よ;庭師;あなたにセレナーデを捧げるために僕はやって来た

R.シュトラウス(Strauss)/わが胸の思い;みつけた花;あゝ悲し不幸なるわれ

第Ⅱ部:講演「ドイツリートの歌い方」

(上記の曲目の日本語表記は雑誌「音楽の友」の広告表記に従いました)

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ハンス・ホッター(Hans Hotter: 1909.1.19, Offenbach am Main – 2003.12.6, Grünwald)が最後の来日公演ツアーを行ってから12年後、77歳のホッターは再び来日した。
(財)ソニー音楽芸術振興会の招聘により、5回のマスター・クラスを開いたが、そのほかに1度だけ小リサイタルと講演を組み合わせた形でステージに立った。
共演ピアニストは、数知れない外来演奏家との共演歴をもつ小林道夫。
前半はシューベルト、ブラームス、ヴォルフ、R.シュトラウスのいずれもホッターお得意のレパートリーが披露されたようだ。
上述の曲目は雑誌の広告に予告されていたものなので、実際には別の曲も歌われたかもしれない(プログラム冊子は見ることが出来なかった)。
すでに歌手としての活動はほとんど行っていなかった時期のようで、当夜の聴衆は老境の巨匠の貴重な瞬間に立ち会えたことだろう。

私はこのころにはクラシックのコンサートにも通いはじめていたのだが、このリサイタルを聴かなかったのは今思うと残念でならない。
結局一度もホッターの実演に接する機会をもつことが出来なかった。
この小リサイタルを聴いたという人の話では声量はいささかも衰えていなかったとのこと。
音楽の友ホールのような小さなサロン風スペースで、親密な演奏が聴かれたのではないだろうか。

後半は「ドイツリートの歌い方」と題する講演が開かれた。
この内容については雑誌「音楽の友」1986年12月号の84~85ページにレポートが掲載されている。
「美しい水車屋の娘」を歌いたかったが諦めざるをえなかった事情など興味深い話を読むことが出来る。
興味のある方はぜひ図書館などでご覧ください。

ホッターの来日公演はおそらくこの1986年が最後だったのではないかと思う。
ホッターは引退コンサートのようなツアーを行うこともなく、自然に歌手活動から指導者へとシフトし、たまにオファーがあれば負担にならない歌を歌うというスタンスだったようだ。
いずれにせよ、日本の聴衆はホッターの最盛期から晩年まで接する機会をもてたわけで、たびたび来日してくれたことに感謝しなければならないだろう。

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アルミンク指揮新日本フィル/シュミット「七つの封印を有する書」(2009年7月10日 すみだトリフォニーホール)

新日本フィルハーモニー交響楽団第448回定期演奏会
2009年7月10日(金) 19:15 すみだトリフォニーホール(1階3列3番)

フランツ・シュミット(Franz Schmidt: 1874-1939)/オラトリオ「七つの封印を有する書」(Das Buch mit sieben Siegeln)(日本語字幕付)

ヘルベルト・リッペルト(Herbert Lippert)(ヨハネ: T)
増田のり子(Noriko Masuda)(S)
加納悦子(Etsuko Kanoh)(A)
吉田浩之(Hiroyuki Yoshida)(T)
クルト・リドル(Kurt Rydl)(BS)
室住素子(Motoko Murozumi)(ORG)
栗友会合唱団(Ritsuyukai Choir)
栗山文昭(Fumiaki Kuriyama)(合唱指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団(New Japan Philharmonic)
クリスティアン・アルミンク(Christian Arming)(C)

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金曜日に新日本フィルの定期演奏会を聴いてきた。
曲目はフランツ・シュミットの大作オラトリオ「七つの封印を有する書」。
この曲、これまでに全く聴いたことがなかったのだが、豪華なソリスト陣の名前に惹かれたこともあって、錦糸町に出かけてきた。
聖書の黙示録をテキストにもつこの作品、プロローグと第1部が70分、休憩をはさんで第2部が50分と、かなり長大であった。

会場に入ると、アルミンクによるプレ・トークが始まるというアナウンスがあり、舞台中央に立ったアルミンクと通訳が曲の解説を始めた。
時々録音も交えて丁寧にゆっくりと語るアルミンクの解説は15分ぐらいだっただろうか。
トーク終了後、ほどなくして演奏者が舞台でそれぞれ音を鳴らしたりして短く準備した後、あっという間に本番となった。

今回は独唱者5人、オルガニスト、混声合唱団、それにオーケストラとかなりの大編成である。
シュミットのこのオラトリオはドラマティックだった。
ステージ右側に流れた字幕を追いながら音楽を聴いてみると、確かにテキストに応じた多彩な音楽が展開している。
ただ、この曲を楽しむには、テキストをよく読みながらさらに何度も聴きこむことが必要だとも感じた。
例えばドラマティックに盛り上がるところでは何度も同じような楽想がしつこいほど繰り返される。
もっと変化があった方がより聴き手を圧倒する音楽になるのではと感じたのは聴き馴染んでいないからかもしれない。

ソリストはみな熱演で満足だったが、とりわけアルトの加納悦子の深々とした声と表現力は圧巻だった。
以前ヴォルフ歌曲のコンサートで聴いて以来だったが、彼女には今後もリートをどんどん歌ってほしい。
ヨハネ役としてドラマの進行を伝える語り部のようなテノールのヘルベルト・リッペルトは、時に不安定になることはあっても全力で歌いきり、最後まで立派に務めをまっとうしたことに拍手を贈りたい。
ソプラノの増田のり子も艶々した声の響きが魅力的だったし、テノールの吉田浩之はオペラティックな表現を聴かせた。
バスのクルト・リドルは抜群の声の豊麗さとどっしりした安定感で強い存在感を放ち素晴らしかったのだが、ほかの独唱者とのアンサンブルになるとやや異質に響いた。
トリフォニーホールのオルガンは2階に設置されており、オルガニストの室住素子はストップ操作の助手とともに2階に座り、演奏していたが、オラトリオの縁の下の力持ち的な役割だけでなく、途中におかれた数曲の独奏曲が魅力的だった。
期せずしてオーケストラとオルガン・ソロの両方を楽しめたのは幸運だった。
混声合唱団も長丁場にもかかわらずよく歌っていたし、新日本フィルもアルミンクの軽快な指揮でめりはりのきいた演奏を聴かせていたと思う。

Das_buch_mit_sieben_siegeln_2009071次に実演を聴く機会があったならば、聖書の知識が乏しいので、事前に予習して臨みたいと感じた。

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フォーレ全歌曲連続演奏会I(2009年7月8日 東京文化会館小ホール)

フォーレ全歌曲連続演奏会I
Faure_20090708-日本フォーレ協会第XX回演奏会-

2009年7月8日(水) 19:00 東京文化会館小ホール(自由席)

Op.1-1 蝶と花
Op.1-2 五月
Op.2-1 僧院の廃墟にて
Op.2-2 水夫たち
 田中詩乃(S)中村玲子(P)

Op.3-1 ひとりきり
Op.3-2 トスカーナのセレナーデ
Op.4-1 漁夫の歌
Op.4-2 リディア
 平林龍(BR)徳田敏子(P)

Op.5-1 秋の歌
Op.5-2 愛の夢
Op.5-3 いない人
 中村まゆ美(MS)徳田敏子(P)

Op.6-1 朝の歌
Op.6-2 悲しみ
Op.6-3 シルヴィ
 安陪恵美子(S)中村玲子(P)

Op.7-1 夢のあとに
Op.7-2 賛歌
Op.7-3 舟歌
 秋山理恵(S)須江太郎(P)

~休憩~

Op.8-1 水のほとり
Op.8-2 身代金
Op.8-3 この世
 岡田理恵子(S)徳田敏子(P)

Op.16 子守唄
Op.28 ロマンス
 鈴木まどか(VLN)佐々木京子(P)

Op.61 「優しい歌」(全9曲)
 武田正雄(T)須江太郎(P)

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水曜日に上野でフォーレ歌曲の全曲シリーズ1回目を聴いてきた。
フォーレの歌曲を作品番号ごとに異なる歌手が分担して(ピアニストはかけもちあり)、来年までの全4回で全曲演奏しようという壮大な企画である。
日本フォーレ協会の創立20周年を記念したシリーズとのことだが、フランス人によるフォーレ歌曲の歌唱を聴ける機会ですら極めて乏しい中で、日本人ばかりでこのような貴重な機会を得られたのは有難いことである。

EMIに録音されたフォーレ歌曲全集は、LP発売時は5枚組で、CD化にあたって4枚組になったが、私は1枚目の初期歌曲を聴く機会が圧倒的に多い。
「五月」「愛の夢」など珠玉のような歌曲(メロディというよりはロマンス)で大好きである。
フォーレ晩年の最低限の音を用いた朗誦に近づいた作品はフォーレの円熟を示していて素晴らしいのだが、やや晦渋な印象もあり、気楽に旋律美と和声の美しさを味わうには、初期の歌曲が一番である。

そんなわけで、今回の初期歌曲中心の選曲は私にとって次々に披露される宝物のような時間だった。
7人の歌手たちは世代も声域も異なる人たちで、それぞれ個性も異なり、バラエティに富んだ響きを味わうにはもってこいだった。
女声はメゾの中村まゆ美(味わいがあった)以外はすべてソプラノだったが、同じソプラノでも個性がみな異なり、堅実な田中、明朗な安陪、安定感のある秋山、しっとりとした岡田といった具合におのおのの良さを生かしていた。
まだ若そうなバリトンの平林龍はベルナックのような声に恵まれ、フランス歌曲との相性のよさを感じた。
そしてフォーレ中期の傑作「優しい歌」全曲を歌ったテノールの武田正雄はベテランの貫禄を感じさせ、生気みなぎる歌いぶりで感銘を受けた。

3人のピアニストもみな粒が揃った名手たちだったが、「優しい歌」などを弾いた須江太郎は音のパレットの豊かさと美しい響きでとりわけ素晴らしかった。
また、徳田敏子は堅実で丁寧な演奏ぶりが理想的な歌曲演奏を実現していたと感じた。

なお、後半でヴァイオリンとピアノのための小品2曲が演奏され、心地よい気分転換になった。

Faure_20090708_chirashiフォーレを演奏する人材がこんなにも豊富であることに感謝すると共に、彼らが今後もフォーレを歌う機会を多くもってほしいと願わずにはいられない。

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高橋節子&丸山滋/リサイタル(2009年7月4日 津田ホール)

高橋節子ソプラノリサイタル                       
Takahashi_maruyama_200907042009年7月4日(土) 18:30 津田ホール(自由席)

高橋節子(Setsuko Takahashi)(S)
丸山滋(Shigeru Maruyama)(P)

シューベルト(Schubert)
1.薔薇のリボンD280
2.最初の喪失D226
3.糸を紡ぐグレートヒェンD118

ブラームス(Brahms)
4.セレナーデOp. 106-1
5.恋人のもとへOp. 48-1
6.君がときどき微笑んでくれさえしたらOp. 57-2

7.ああ、このまなざしをそらしてOp. 57-4
8.永遠の愛についてOp. 43-1

~休憩~

ヴォルフ(Wolf)
《ゲーテ歌曲集》より
9.花の挨拶
10.アナクレオンの墓
11.とりすました娘
12.心とけた娘
 
13.ミニョンI:語れとはいわないで
14.ミニョンII:ただ憧れを知るひとだけが
15.ミニョンIII:このままの姿でいさせてください
16.ミニョン:あの国をご存知ですか

~アンコール~
1.シューベルト/ミニョンの歌:このままの姿でいさせてくださいD877-3
2.ブラームス/五月の夜Op. 43-2

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津田ホールで非常に魅力的なプログラミングのリーダーアーベントを聴いてきた。
ソプラノの高橋節子とピアニストの丸山滋によるシューベルト、ブラームス、ヴォルフの珠玉の作品によるリサイタルである。
演奏者は二人とも札幌出身とのことで、この東京公演に先立って6月13日には同じプログラムで札幌コンサートホール小ホールでも演奏したそうだ。

事前に予告されていた曲目と若干の変更はあったものの、どの曲も私の大好きな作品ばかりで、次々と披露されるのを心から楽しんだ。
特にブラームスの「ああ、このまなざしをそらして」やヴォルフのミニョン歌曲群、ペアの関係にある「とりすました娘」「心とけた娘」などはなかなか実演で接する機会がない為、嬉しい選曲だった。

グリーンのドレスをまとって歌った高橋の声はソプラノ特有の清澄さと、聴き手を包み込むような深みを合わせもった魅力を備えていた。
どの音域でもその特色は保たれ、アンコールの前に聞くことの出来た地声による話し声も低めで、落ち着いたメゾソプラノのようだった。
シューベルトやブラームスでの彼女の歌唱は完璧と感じた。
スタイリッシュで美しく、かつ深みもあり、発音も明瞭で、どこをとっても安定している。
ヴォルフも前半に歌われた4曲では優しく、時にコケティッシュな表情で、彼女の幅の広さを感じた。
後半のミニョン4曲は全く破綻のない優れた歌唱だったが、多少早めのテンポ設定だった為か、私の好みではちょっとあっさりした印象を受けた。

ピアニストの丸山滋は手は大きな方ではないように見えたが、ペダルを制御した端正で引き締まった響きは、素晴らしかった。
ピアノの蓋は全開だったが、常に声に配慮しつつ、決して臆することなく起伏に富んだ響きを作り出していた。
それにしてもデリカシーに富んだ細やかなピアノの響きがどれほど歌の奥行きを深めていたことか。
特にブラームスでのちょっとした表情づけは絶妙だった(ショパン風の「恋人のもとへ」や劇的な「永遠の愛について」など)。
また、ヴォルフ「ミニョンII」や「あの国をご存知ですか」でのドラマティックな表現も、度を越えずに雄弁さを発揮した演奏だった。

Takahashi_maruyama_20090704_chirashアンコールの2曲もしっとりとした情感が素敵で、後味のよい締めくくりだった。
なお、配布された歌詞対訳は高橋さん自身によるもので、その意欲のほどがうかがえた。

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ホッター日本公演曲目1974年(第7回)

第7回来日:1974年3~4月

ハンス・ホッター(Hans Hotter)(BSBR)
ジョフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons)(P)

3月26日(火)19:00 東京文化会館(プログラム1)
3月29日(金)19:00 大阪・フェスティバルホール(プログラム1)
4月1日(月)18:30 札幌・北海道厚生年金会館(プログラム1)
4月4日(木)19:00 岡山市民会館(プログラム1)
4月10日(水)19:00 虎ノ門ホール(プログラム2)

●プログラム1 共演:ジョフリー・パーソンズ(P)

シューベルト(Schubert)/歌曲集「冬の旅」作品89[D.911](Winterreise)
(おやすみ;風見の旗;凍った涙;凝結;菩提樹;溢れる涙;川の上で;かえりみ;鬼火;休息;春の夢;孤独;郵便馬車;霜おく髪;からす;最後の希望;村にて;嵐の朝;まぼろし;道しるべ;宿;勇気;幻の太陽;辻音楽師)

●プログラム2 共演:ジョフリー・パーソンズ(P)

シューマン(Schumann)作曲
歌曲集「詩人の恋」作品48(Dichterliebe)
(美しい五月に;わたしの涙から;ばらを、ゆりを、はとを、太陽を;おまえの瞳を見つめるとき;私の心をひたそう、百合のうてなに;神聖なラインの流れの川波に;私は恨むまい;花が知っていたら;鳴るのはフルートとヴァイオリン;あの歌がひびくのを聞くと;ひとりの若者がある娘を愛した;光りかがやく夏の朝に;夢の中で私は泣いた;夜ごとの夢に;昔話の中から;あのいまわしい昔の歌も)

ブラームス(Brahms)作曲
教会墓地にて(Auf dem Kirchhofe)
いこえ、やさしい恋びとよ(Ruhe, Süssliebchen)
サッフォー風の頌歌(Sapphische Ode)
ことづて(Botschaft)

シューベルト(Schubert)作曲
「白鳥の歌」[D.957]より(From "Schwanengesang")
~愛のたより(Liebesbotschaft);春のあこがれ(Frühlingssehnsucht);別離(Abschied);鳩の使い(Die Taubenpost);彼女のおもかげ(Ihr Bild);漁師の娘(Das Fischermädchen);まち(Die Stadt);影法師(Der Doppelgänger)

(上記の演奏者名と曲目の日本語表記はプログラム冊子に従いました)

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ハンス・ホッター(Hans Hotter: 1909.1.19, Offenbach am Main – 2003.12.6, Grünwald)の第7回目の来日は前回の2年後の1974年だった(ホッター65歳)。
共演ピアニストはシュヴァルツコプフの共演者として1968年以降何度も来日しているジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons: 1929.6.15, Sydney - 1995.1.26, London)で、この同じ年の暮れにはシュヴァルツコプフの最後の来日公演のために再び来日することになるのである。

今回のツアーも、4月10日に虎ノ門ホールでシューマン、ブラームス、シューベルトによる歌曲の夕べが催されたほかはすべて「冬の旅」であり、このプログラミングがホッターの来日公演ではすっかり定着した感がある。
ほとんどの聴衆はホッターの「冬の旅」が聴きたいということなのだろう。

プログラム2では過去の来日公演で披露したもののほかに、ブラームス「教会墓地にて」「いこえ、やさしい恋びとよ」、シューベルト「別離」「鳩の使い」「漁師の娘」といった初披露の作品も含まれている。
ブラームスの選曲など、同時期にDECCAレーベルにこのコンビで録音(外国でCD化されている)したレパートリーを思い出させる。

ジェフリー・パーソンズがジェラルド・ムーア以降の最高の歌曲ピアニストの一人であることは言うまでもないだろう。
オーストラリアのシドニー生まれの彼は、ブゾーニ門下のWinifred Burstonのもとで学び、1947年のABC演奏歌唱コンクールではブラームスのピアノ協奏曲第2番を弾いて優勝。
1950年にはピーター・ドーソンとイギリス演奏旅行を行い、ヒュッシュとの「冬の旅」の共演などを経て、1961年以降シュヴァルツコプフのピアニストとなった。
日本へは1968年のシュヴァルツコプフのリサイタルに同行したのが初めてで、彼女以外の演奏家と来日したのはホッターの1974年公演が最初だった。
その後しばらく来日していなかったが、オーラフ・ベーアやジェシー・ノーマンの共演者として再来日を果たし、さらにロス・アンヘレスとも来日する予定だったがキャンセルとなり、その翌年、65歳の若さで亡くなった。
ホッターとの来日公演のころは私はまだ幼かったのでもちろん聴いていないのだが、ベーアやノーマンとの来日公演を聴くことが出来たのはかけがえのない貴重な体験となった。
実際にパーソンズの演奏を聴いて、やはりずば抜けて非凡な存在だったと感じたものだった。
その音の美しさはなかなか聴けないほど魅力的だった。
楽屋のサイン会の列に並んだ際、ベーアと楽しそうに談笑していたパーソンズの表情が思い出される。
早すぎる死が悔やまれるピアニストだった。

リサイタル・ツアーとしてのハンス・ホッターの来日は今回が最後だが、実はもう1度長い不在の期間を経て来日し、講演と小リサイタルを組み合わせた形で舞台に登場している。
その内容についてはまた次回。

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