歌と朗読でつづるE.メーリケとH.ヴォルフの世界(2009年7月17日 旧東京音楽学校奏楽堂)
東京室内歌劇場コンサート 世界の旅シリーズ22ドイツ歌曲の魅力を探るⅦ
歌と朗読でつづるE.メーリケとH.ヴォルフの世界
2009年7月17日(金) 18:30 旧東京音楽学校奏楽堂
ソプラノ:池田尚子/奥村喜美子/高橋節子/津山恵
メゾソプラノ:石井真紀/木村圭子
バリトン:松井康司(企画・構成)
バス:堀野浩史
ピアノ:東井美佳
朗読:塚田佳男
訳詩・台本:大出満美
E.メーリケ&H.ヴォルフ
小説「画家ノルテン」~音楽好きの幽霊たちの夜会~
<序>幽霊たちの奏でる音の風景
四月の黄蝶(奥村)
出会い(津山)
鼓手(松井)
ヴァイラの歌(石井)
乙女の初恋の歌(池田)
飽くことを知らぬ恋(堀野)
考えてもみよ、ああ心よ!(高橋)
明け方に(木村)
<第一部>若き日のノルテン
炎の騎士(堀野)
ムンメル湖の亡霊たち(奥村)
妖精の歌(池田)
捨てられた女中(津山)
~休憩~
<第二部>別れと再会
もう春だ(奥村)
春に(松井)
狩人(木村)
アグネス(池田)
<第三部>絵画「幽霊音楽会」がもたらすノルテンの運命
ペレグリーナⅠ(木村)
ペレグリーナⅡ(石井)
祈り(高橋)
恋人に(松井)
復活祭を待つ週(堀野)
風の歌(津山)
ためいき(石井)
なぐさめはどこに(高橋)
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上野にある旧東京音楽学校奏楽堂は木造の趣のある建物だった。
2階にあるホールは必ずしも音響に恵まれているわけではないが、レトロな味わいを放ち、蝉時雨も聞こえ、なかなかオツな時間を過ごすことが出来た。
ヴォルフが53曲もの作品を編み上げた「メーリケの詩による歌曲集」。
その中の16曲はメーリケの小説「画家ノルテン」に挿入された詩による。
この夜は、「画家ノルテン」抜粋の日本語訳が朗読され、その小説の進行の中で挿入された詩による歌曲(もちろんドイツ語で!)も歌われるという非常に珍しく貴重な試みがされた。
筑摩書房からかつて出ていた世界文学全集の中にこの「画家ノルテン」とケラーの小説による1冊があり、たまたま古書店で見つけて購入したことがあった。
ざっと中を開いてみたことはあったものの最初からじっくり読むこともないまま、今は家のどこかに隠れてしまっている。
現在も新訳は出ていないようで、メーリケの代表作でありながら意外と読む機会に恵まれていない作品ではないか。
主人公の画家ノルテンの恋愛が主軸にあるようだが、悲劇的な終結を迎える。
予想していた以上に重い内容だったが、幻燈劇として劇中に挿入される場が気分転換の役目を果たしていて、そこで歌われる詩にもヴォルフは作曲している。
この夜のコンサートでは、序として8人の歌手がそれぞれ1曲づつ「画家ノルテン」に含まれていない詩による歌曲を次々に披露した後、朗読の塚田氏が登場し、小説の朗読の流れに沿って歌手が登場して挿入された詩による歌曲を歌っては退場するという形で進行していった。
朗読者が大きな役割を果たすことは言うまでもないが、日本歌曲のピアニストとして著名な塚田佳男が朗読したというのが注目に値する。
実は塚田氏は声楽科の出身で歌手としても活動していることをこれまで知らなかったのだが、朗読の訓練も積み、すでに舞台で多く披露してきているようだ。
実際にマイルドでソフトな声だがメリハリがあり明瞭で聞き取りやすい朗読は一つの規範といってもいいほどの見事さだった。
ピアニストの東井美佳にはただただブラヴォーと言うほかない。
どの歌手に対してもしっかりとした土台と協力関係を築き、歌手のミスにも動じず対処し、堂々とした安定感があった。
決して易しくはないヴォルフのピアノパートを、完璧なテクニックとコントロールされたタッチで一貫して見事に演奏していた。
8人の歌手たちはそれぞれ個性の異なる声と表現をもち、おのおの3曲ずつ披露していたが、ヴォルフの各曲のキャラクターに合わせた人選がされていたようで、ヴォルフをはじめて聞く人にも飽きさせない工夫と感じられた。
先日リサイタルを聴いたばかりの高橋節子も、変わらず優れた歌を聞かせてくれ(専門のホールで聞くのとは多少音響のハンデはあったが)、特に締めで歌われた「なぐさめはどこに」での全身全霊を傾けた絶唱は前回のリサイタルでは聴かれなかったほどだった。
以前テレビのF=ディースカウのレッスンにも出演していた津山恵は当時と雰囲気がすっかり変わり洗練されていた。
最初のうち固さを感じたものの、徐々に真価を発揮していた。
ほかの女声陣もそれぞれ全力を投入していたように感じ、存分に楽しめた(石井真紀が見事に歌った「ためいき」は独特の不協和音が強烈で、生で聴くとやはり迫力ある作品だなと思った)。
5月に「パルジファル」でティトゥレル役を歌っていた堀野浩史は「炎の騎士」などを歌った。
曲によっては出を間違えてピアノとずれたまま進む箇所も聞かれ未消化なところはあったものの、声自体は渋く、これらの歌曲に合っていたと思う。
企画・構成も兼ねて進行役も果たしたバリトンの松井康司は熟練した味があり、聴いていてとても心地よい歌だった。
ヴォルフの歌曲がまとめて歌われる機会はそう多くないが、今回のような小説の流れに沿った企画となるとさらに珍しい機会だったと思う。
このような意欲的な企画と、それに関わった演奏家、スタッフ全員に拍手を贈りたい。
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