クヴァストフ&グリモー/ブラームス&シューマン・ライヴ(ネットラジオ Suisse Romande Espace 2)
6月18日(現地時間13:30-15:00)に、スイスのネットラジオ局(Suisse Romande Espace 2)で、バリトンのトーマス・クヴァストフとピアニストのエレーヌ・グリモーによる歌曲のライヴ録音を聴いた。
詳細は以下のとおり。
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トーマス・クヴァストフ(Thomas Quasthoff)(バリトン)
エレーヌ・グリモー(Hélène Grimaud)(ピアノ)
ブラームス/「9つの歌曲(9 Lieder und Gesänge)」op.32
(なんと私は夜に跳ね起きて/もうおまえの許へは行くまい/私はあたりを忍び歩く/私のわきでざわめく小川よ/なんと辛い、おまえは私を再び/私が思い違いをしていたとあなたは言う/厳しいことを言おうとあなたは思っている/こうして僕らは立っている/なんとあなたは、わが女王よ)
シューマン/歌曲集「詩人の恋(Dichterliebe)」op.48(全16曲)
録音:2007年7月29日ヴェルビエ(Verbier)
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トーマス・クヴァストフは現代ドイツを代表する歌手の一人であるが、歌曲を積極的に歌っているばかりか、昨今ではジャズにまでレパートリーを広げているようだ。
そんな彼のスイス、ヴェルビエでのブラームス&シューマンのライヴ録音を聴くことが出来た。
ピアノは日本でも人気の高いソリストのエレーヌ・グリモーである。
以前雑誌のインタビューでグリモーが歌曲演奏をしたと話していたのでいつか聴きたいと思っていて、ようやく念願かなったところだ。
ブラームスの作品32の9曲はプラーテンとダウマーの詩により、内容的にまとまった歌曲集ではないが、暗鬱な雰囲気に始まり、最後には心が溶けていくような流れが感じられ、私の大好きなブラームス歌曲群である。
特に第1曲「なんと私は夜に跳ね起きて」は、学生時代にF=ディースカウ&ヘルのライヴ録音をFMで聴いて以来虜となっている作品である。
クヴァストフは艶のある声で重厚だが情熱的な歌を歌う人である。
テーオ・アーダムを彷彿とさせるような几帳面でストレートな歌声で、丁寧に歌い上げる。
たまに力んで声が裏返るのはご愛嬌だが、言葉を決しておろそかにせず、大切に扱っているのが伝わってくる。
「詩人の恋」も感情の襞を繊細に掬い取って素晴らしかったが、クヴァストフの良さが特に生きたのはブラームスだったと思う。
F=ディースカウの雄弁さとも、ホッターの包み込むような味わいともまた違った、実直さゆえの感動を与えてくれたように感じた。
最後の「なんとあなたは、わが女王よ」を静かに終えた後、若干の沈黙の後に静かに拍手が始まったのは、会場の聴衆がいかに感銘を受けていたかを想像させるものだった。
グリモーのピアノは、とても丁寧で余韻を大切にした演奏だった。
決してあせらず常に堂々たるテンポを維持する彼女の演奏は、すでにベテランの円熟味すら感じさせられた。
ブラームスでは作品特有のがっちりした構築感と重みを失わないまま、しなやかな柔らかさをも感じさせた魅力的な演奏だった。
シューマンでも低く移調しているハンデを感じさせない美しく優しい音色で、感情の揺れを丁寧に表現していた。
彼女は詩をよく理解した演奏を聴かせてくれて、歌曲演奏にも非常に向いているように感じた。
このラジオ放送の数日後、今度はオーストリアのラジオ局Ö1でユストゥス・ツァイエンとのライヴ録音が放送された。
真夜中だったため、前半のシューベルトとシューマンを聴いただけで寝てしまったのだが、後半はドビュッシーのフランソワ・ヴィヨン歌曲集やラヴェルのドン・キホーテ歌曲集が歌われたはずである。
クヴァストフはかつて来日公演を一度だけ聴いたことがあるが、名パートナーのユストゥス・ツァイエンと共にいい演奏を聴かせてくれたものだった。
もう随分日本に来ていないのではないか。
そろそろ再来日してくれたらいいのだが。
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