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追悼黒田恭一氏

音楽評論家として雑誌、ラジオ、テレビなどで活躍されていた黒田恭一氏が5月29日、多臓器不全のため亡くなった。
71歳だったそうだ。
私がクラシック音楽を聴き始めた頃からすでにその文章やFMラジオでの解説などで馴染みの深かった方だけに淋しい思いがする。

黒田氏は他の評論家以上に歌曲への愛着が深かったと思われ、歌曲のラジオ放送や演奏会プログラムなどで接する機会も多かった。
黒田氏の文章はかなりユニークで、他の評論家の方と間違えようのない独自の趣をもっていた。
本題に入る前に音楽とは一見異なるたとえを使って、いわば読み手をじらすようにして、最終的に言葉では伝えにくい音楽への思いへと導くという感じだった。
クリスタ・ルートヴィヒの引退公演のパンフレットに寄せた文章では、友人との楽しい語らいの後にそろそろおいとましますと言う客に対して後ろ髪を引かれながらも同意する心情になぞらえた黒田氏の文章がなんとも味わい深かったのを覚えている。
ラジオでの解説も聴き手への配慮も加えながら穏やかな声で、その音楽や演奏者への評価を独特な言い回しで伝えていた(例えば「~である一方~ということが言えなくもない~の歌いぶりであった」という言い方はまさに黒田ぶし!)。
だが、その文章や語りの穏やかさに反して、評論に関しては妥協のない厳しさを感じることもあった。
F=ディースカウのバレンボイムとのヴォルフ歌曲全集のLP解説で、ソリストのバレンボイムがピアノを弾いたがゆえの見事さを讃える一方で、前回に全集で共演したムーアは専門の伴奏者であるがゆえの限界があったというようなことを書いていた。
私はこれを読んだ時には黒田氏の感覚とのギャップの大きさを感じ、反発さえ抱いたものだが、黒田氏の求める厳格なピアニスト像というものがそういう文章を導き出したのだろうと今では思っている。

一番最後に黒田氏の姿を見たのは、数年前にNHKで往年の名演奏家の来日公演を特集した番組だったように思う。
確か髭もたくわえられて、いい感じに年齢を重ねてきた印象を受けたが、こんなに早く亡くなるとは全く想像だにしていなかった。

あちらがわではすでに亡くなった多くの演奏家たちと会って音楽談義をしているのだろうか。
ご冥福をお祈りいたします。

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コメント

新聞で黒田氏の訃報を知り、感慨深いものがありました。私も若いころには様々な音楽評論家の文章を読んだり、言を聞いたりして、勝手な感想をもっていたものですが、黒田氏はある種、信頼をおいておりました。文章の特徴まではあまり気にしていませんでしたが、いわれてみればフランツさんのおっしゃるとおりです。思い出します。
 冥福を祈りましょう

投稿: Zu・Simolin | 2009年6月 6日 (土曜日) 19時13分

Zu・Simolinさん、こんばんは。
評論家という肩書きの方は多くいますが、黒田氏は他にないタイプの個性的な方だったと思います。
Zu・Simolinさんが信頼をおいておられたように、沢山の音楽ファンも黒田さんの文章や語りに惹かれていたと思います。
黒田さんの文章をあらためて読み返してみたい気持ちです。

投稿: フランツ | 2009年6月 6日 (土曜日) 23時17分

フランツさん、お早うございます。
黒田恭一氏は、お名前だけは、知っていましたが、文章はほとんど読んだことがありませんでした。
音楽評論というものが、そもそも、あまり好きではなかったこともあり・・・。
でも、昨年、都民劇場音楽サークルのプログラムがいいので、入会しましたが、企画が黒田さんだったんですね。
毎月送られてくる小冊子に、時々載る短文が、味わいがあって、好きでした。
今回、2冊ばかり図書館から借りだしてきましたが、分かりやすく、音楽以外のことについても、魅力のある、いい文章だと思いながら読んでいます。
本に登場するエピソードなど、同じ時代を生きてきたんだなあと、共感するところが多いですね。

投稿: Clara | 2009年6月 7日 (日曜日) 07時15分

Claraさん、おはようございます。
そういえば黒田さんは都民劇場にも関わっていたんでしたね。
私は都民劇場の企画にはまだ出かけたことがないのですが、ちらしに黒田さんの文章が書かれていたことを思い出しました。会員向けの小冊子というのもあったのですね。
そういえば雑誌などで接することの多かった黒田さんの文章ですが、著書を手にしたことはありませんでした。
私も図書館で今度探してみようと思います。
往年の名演奏家たちの生き証人がまた一人旅立たれて、遺された文章がますます大切に思えてきました。

投稿: フランツ | 2009年6月 7日 (日曜日) 11時45分

黒田恭一さん亡くなったんですね。昔、朝のクラシックのラジオなどよく聞いていました。いまのようにNHK FMがポップスばかりになる前です。

合掌。

投稿: Auty | 2009年6月 7日 (日曜日) 23時32分

Autyさん、こんばんは。
Autyさんも黒田さんのラジオ解説を聞かれていたんですね。
私も今ではFMラジオを聞かなくなって随分たちますが、クラシック初心者だったころに聞いた黒田さんの解説が懐かしく思い出されます。
合掌

投稿: フランツ | 2009年6月 8日 (月曜日) 00時08分

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