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アンデルシェフスキ/リサイタル(2009年6月6日 サントリーホール)

ピョートル・アンデルシェフスキ ピアノ・リサイタル
Anderszewski_2009062009年6月6日(土) 19:00 サントリーホール(2階LA6列20番)
ピョートル・アンデルシェフスキ(Piotr Anderszewski)(P)

シューマン(Schumann)/暁の歌op.133(Gesänge der Frühe)
Im ruhigen Tempo
Belebt, nicht zu rasch
Lebhaft
Bewegt
Im Anfange ruhiges, im Verlauf bewegtes Tempo

J.S.バッハ(Bach)/パルティータ第6番ホ短調BWV830(Partita no.6)
Toccata
Allemande
Corrente
Air
Sarabande
Tempo di gavotte
Gigue

~休憩~

ヤナーチェク(Janáček)/霧の中で(In the Mists)
Andante
Molto adagio
Andantino
Presto

ベートーヴェン(Beethoven)/ピアノ・ソナタ第31番変イ長調op.110(Piano sonata no.31)
Moderato cantabile molto espressivo
Allegro molto
Adagio ma non troppo - Allegro ma non troppo

~アンコール~

バルトーク/チーク地方の3つのハンガリー民謡Sz35a~第1曲

バッハ/パルティータ第2番ハ短調BWV826~サラバンド

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昨夜、ワルシャワ生まれのピアニスト、ピョートル・アンデルシェフスキのリサイタルに出かけてきた。
私とほとんど同年代のこのピアニストが世界的な評価を得ているのを知り、どんな演奏をするのか興味がわき、当日券で聴いてきた。
実は彼をはじめて知ったのは演奏ではなく、「The Art of Piano」というDVD映像のコメンテイターとしてであり、そこでは往年の名ピアニストたちについてコメントしていた。

ステージに登場したアンデルシェフスキは長身で、若々しい容姿は舞台映えする。
笑顔を湛えながら拍手に応じるステージマナーも丁寧で好感がもてた。

実際の彼の演奏は、どの曲も決してもたつくことのない早めのテンポで清冽に弾き進める。
歌うべきところでは停滞することなくどのメロディーもしっかり浮き立たせる。
タッチは硬質で、強音など私の好みではもう少し柔らかい方が好きだが、荒々しいわけではなく、うまくコントロールされていたように感じた。
弱音では実にデリケートな感性が感じられ、惹きつけられた。
かなり体を自由に動かしながらも、これみよがしな誇張されたところがないのも気持ちいい。
テクニックは万全で音楽性も豊か、確かに第一線で活躍しているだけのことはあると感じながら、安心して聴いていた。

最初のシューマンの「暁の歌」に関しては配布されたプログラムにアンデルシェフスキのメッセージが挿入され、シューマンが精神を病む直前に完成させた最後の作品なので、作品の性格上演奏後の拍手は控えてほしいとあった。
そして、サントリーホールの聴衆はそのメッセージに従い、シューマンの後に誰ひとり拍手をせず、若干の間をおいて、バッハが続けて演奏されたのだった。

「暁の歌」の5曲はシューマンの音楽の総決算的な印象を受けた。
それぞれが異なる個性をもっているが、どれもシューマンの過去の作品を思い出させる、シューマンの刻印がしっかり刻まれた作品群だった。
内的な第4曲が特にシューマネスクな流れの美しさを感じたが、第3曲の狩の音楽も、第1曲の切り詰めた音によるモノローグも、しみじみと振り返るような第5曲も、それぞれがシューマンのもつ多面的な顔を見せていて、その個性をアンデルジェフスキが巧まずに自然に表現していたのが素晴らしかった。

バッハでは実に素直に生き生きと奏でていて、冒頭の長大なトッカータもその長さをあまり意識せずに聴くことが出来た。
特に最後のジーグにおけるフーガの扱いが素晴らしかった。
まるで生き物のように様々な声部がくっきりと浮かび上がり、ポリフォニーの醍醐味を味わわせてくれた。

20分間の休憩後にはまずヤナーチェクの「霧の中で」全4曲が演奏された。
急速な細かいパッセージがあちらこちらに散りばめられ、霧が眼前に浮かんでいるかのようだが、パンフレットの寺西基之氏の解説によれば、作曲当時ヤナーチェクは作品が理解されないことに悩んでいたといい、そういう心情のこめられたタイトルのようだ。
第1曲からしてアンニュイな雰囲気が聴き手の心を奪うが、第2曲など歌曲集「消えた男の日記」を思い起こさせる響きが聞かれ、そのためか官能的な印象を受けた。
子守歌のような第3曲を経て、民族色あふれる激しい終曲となる。
少し前に聴いたラプシャンスキーのリサイタルでもヤナーチェクのソナタを聴いたが、スラヴ系の演奏家にとって重要な作曲家の一人であることが伝わってくる。
アンデルシェフスキも振幅の大きな演奏で素晴らしかった。

最後に演奏されたのがベートーヴェンの第31番ソナタ。
この曲は、NHKで放送されたピレシュのワークショップ・シリーズで、ピレシュ自身の演奏が何度も流れたので私にも馴染み深い。
実演でも北川暁子、ペーター・レーゼルに続いて聴くのは3度目である。
アンデルシェフスキは力強い若さみなぎる演奏だった。
やはりバッハの時と同様に終楽章のフーガの扱いが素晴らしかった。
だが、数年後に再度アンデルシェフスキの演奏でこのソナタを聴いてみたいとも思う。
きっとさらに熟成された表現が聴けるのではないかという気がする。

アンコールはバルトークとバッハの2曲。
ハンガリー人の血も流れているアンデルシェフスキにとってバルトークもお国ものということになるだろう。
それにしてもバッハをこれほど素直に演奏しながら魅了する手腕はやはり素晴らしい。
今後のますますの活躍に注目していきたいピアニストであった。

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コメント

私もアンデルシェフスキの愛知公演を聴いて感銘を受け、ブログに記事を書いたところです。本当に素晴らしい演奏で、機会があれば是非とも再び実演を聴きたいと思います。

投稿: anator | 2009年6月 7日 (日曜日) 20時18分

anatorさん、こんばんは。
anatorさんも愛知でアンデルシェフスキを聴かれたのですね。
これだけの素晴らしいピアニストですから、多忙でしょうが、定期的に来日してくれるとうれしいですね。
これからanatorさんの記事を拝見しに行きますね。

投稿: フランツ | 2009年6月 7日 (日曜日) 21時22分

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