ルイサダ/ピアノ・リサイタル(2009年6月11日 川口・リリア音楽ホール)
ジャン=マルク・ルイサダ ピアノ・リサイタル20092009年6月11日(木) 19:00 川口・リリア音楽ホール
ジャン=マルク・ルイサダ(Jean-Marc Luisada)(P)
ショパン/3つのノクターンOp.9
第2番変ホ長調
第1番変ロ短調
第3番ロ長調
ショパン/2つのノクターンOp.27
第1番嬰ハ短調
第2番変ニ長調
ショパン/ノクターン ハ短調Op.48-1
ショパン/ノクターン ロ長調Op.62-1
バッハ/フランス組曲第5番ト長調BWV816
~休憩~
シューマン/子供の情景Op.15
ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第23番へ短調Op.57「熱情」
~アンコール~
ショパン/4つのマズルカOp.24
シューマン/楽しい農夫
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チュニジア生まれのフランスのピアニスト、ジャン=マルク・ルイサダのリサイタルを聴いてきた。
ブーニンが優勝し、小山実稚恵が4位入賞した1985年のショパン・コンクールで第5位となり、メディアで大きくとりあげられてから随分経ってしまった。
その後NHKでのショパンのレッスンが放送されて、彼の指導者としての側面も知ることが出来た。
その際に印象に残ったのは、演奏する時に全身を使うということ。
例えば、ある箇所を演奏する際に腰を椅子から浮かすように生徒に指示していたのには驚いたものだった。
さて、そのルイサダの実演を聴くのははじめてだったが、当日券で聴くことが出来た。
前半最初はショパンのノクターンばかり7曲。
Op.9-2は私でも知っている有名な曲だが、ルイサダはOp.9-1と順序を入れ替えて、最初にこの有名な作品を弾くことで聴衆の心をつかんだ。
ルイサダはとにかくテンポをよく揺らして、旋律をくっきり浮き上がらせるが、その自由さが決して鼻につかず、やり過ぎない加減の上手さを感じた。
ショパンの曲はあまりにも演奏人口が多いせいか、やたらと自己陶酔したルバートだらけの演奏を聴くことが少なくないが、ルイサダは歌い方のさじ加減が絶妙で聴き手を決して置いてけぼりにしない。
さすがショパンで名を挙げただけのことはある演奏を聴かせてくれた。
バッハは一転して厳格な様式感をしっかり守った演奏。
しかし、どことなく洒脱さが感じられて粋な演奏だった。
休憩後のシューマン「子供の情景」はルイサダならではのユニークだが心のこもった素晴らしい演奏だった。
シューマンは昔からフランスのピアニストが得意としてきた傾向がある。
ルイサダもその例に漏れず、ロマンティック、かつ大胆な響きで聴き手を堪能させてくれた。
子供の平明な感覚を保ちつつ、大人の奥行きを加味したような深みがあり、最後の「詩人は語る」など心に沁みる演奏だった。
ルイサダは弱音が実にデリカシーに富み、絶妙なコントロールを感じさせるが、一方フォルテでは打鍵が硬めできつく感じられることがある。
好みの問題かもしれないが、強音でももっと音楽的な音が彼ほどの人ならば出せるのではないかと思うのだが・・・。
だが、その硬めの音質が生かされたのは最後に弾かれた「熱情」だった。
ショパンを得意とするルイサダのベートーヴェンは聴く前にはなかなかイメージが湧きにくかったのだが、聴いてみると、ベートーヴェンの厳粛さ、構築感といったものもしっかり感じさせてくれた演奏で、ルイサダの柔軟な対応力が感じられた。
彼のがっしりした硬めの音が作品の性格と合致して、ドラマティックないい演奏だったと思う(最終楽章は若干疲れが感じられたが)。
最前列の右の方の席だったので、彼の指づかいは見えなかったのだが、演奏している時の作品に没入している顔の表情や、右足のペダリング、それに所在なげに伸ばしたり曲げたりしている左脚が見れて楽しめた。
弾きながら彼のハミングが聴こえてきたが、おそらく無意識に歌っているのだろう。
ここ数年楽譜を置いて演奏しているそうで、この日も譜めくりの人を伴っていたが、聴衆の拍手にこたえる時に必ず譜めくりの人にもお辞儀をしていたのが興味深かった(ステージから退場する際に一度ルイサダにお先にどうぞという身振りをされた譜めくりの人が困惑していたようにも見えた)。
アンコールの最後に弾かれたのはシューマンの「楽しい農夫」。
これは本当に無邪気に楽しげに弾かれ、洒落っ気を漂わせながらお開きとなった。
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