ジャルスキ&デュクロ/フランス歌曲集(ネットラジオ局france musiqueの放送)
さきほど素敵なコンサートをフランスのネットラジオで聴いた。
若手カウンターテナー(フランス語ではcontre-ténorと言うそうだ)のフィリップ・ジャルスキが、ピアニストのジェロム・デュクロと組んで、フランス歌曲を歌ったコンサートのライヴ録音である。
様々な作曲家の名曲を散りばめたフランス歌曲の花束といった趣である。
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フランス歌曲集(Mélodies Françaises)
フィリップ・ジャルスキ(Philippe Jaroussky)(contre-ténor)
ジェロム・デュクロ(Jérôme Ducros)(piano)
録音:2009年4月5日、パリ、シャトゥレ座(ライヴ)
(Concert donné le 5 avril 2009 au Théâtre du Châtelet à Paris)
1.デュポン(Gabriel Dupont)/マンドリン(Mandoline)
2.ショッソン(Ernest Chausson)/ハチドリ(Le colibri)
3.フランク(César Franck)/夜想曲(Nocturne)
4.サン=サーンス(Camille Saint-Saëns)/阿片の夢想(Opium)
5.アーン(Reynaldo Hahn)/捧げ物(Offrande)
6.シャミナッド(Cécile Chaminade)/ソンブレロ(Sombrero)
7.シャミナッド/秋(ピアノ独奏)(Automne en ré bémol Majeur pour piano op.35 n°2)
8.アーン/クロリスに(A Chloris)
9.マスネ(Jules Massenet)/スペインの夜(Nuit d'Espagne)
10.ショッソン/時の女神(Les heures)
11.アーン/ブドウの収穫期の3つの日(Trois jours de vendange)
12.ルク(Guillaume Lekeu)/墓の上で(Sur une tombe)
13.アーン/艶やかな宴(Fêtes galantes)
14.フランク/前奏曲(ピアノ独奏)(Prélude pour piano)
15.シャミナッド/ミニョン(Mignonne)
16.フォレ(Gabriel Fauré)/秋(Automne)
17.フォレ/ネル(Nell)
18.ショッソン/リラの花咲くころ(Le temps des lilas)
19.アーン/わたしが離れ家にとらわれていたとき(Quand je fus pris au pavillon)
20.アーン/恍惚のとき(L'Heure exquise)
[アンコール]
21.ヴィヤルド/(曲名不明)
22.シャミナッド/ソンブレロ
(上述の作曲家の日本語表記、慣用と異なるものは私の表記ですのでご了承ください。)
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カウンターテナーというと、どうしても古楽の演奏家というイメージが強い。
もちろん、これまでも芸術歌曲を歌うカウンターテナーはいたが、どこか「余技」の印象は拭えなかった。
このフィリップ・ジャルスキ、1978年生まれというからやっと30代になったばかりである。
昨年は来日公演も行ったようだが、私はその頃、この歌手のことをほとんど知らず、チケットを買わなかった。
さて、実際の彼の歌唱、若い声が魅力である。
決して完成された声ではないかもしれないが、独自の魅力を持っている。
若干不安定さを残す部分もあるが、あらゆる音域にわたって、これだけの表現力で歌えるのはやはり非凡な能力なのではないか。
時々聞かせるポルタメントがやたら官能的で、それが曲によってプラスにもマイナスにもなりうるのは若さゆえかもしれない。
しかし、その妖しさは、確かにこれまでの近代歌曲の演奏にはなかったものではないだろうか。
例えば、フランス女声アルトのナタリー・ステュッツマンの声質は比較的近いものがあるように感じたが、ステュッツマンの方がさばさばとした健全そのものといった雰囲気で、アンニュイな趣には乏しい感もある。
それよりも30そこそこのこのコントルテノール(カウンターテナー)の方が余程なまめかしい。
この声でドゥビュッシーの「ビリティスの歌」などはぴったりはまるのではないかと思うが、今回の選曲には含まれていなかった。
フォレやドゥビュッシーの付曲で有名なヴェルレーヌの詩による「マンドリン」をガブリエル・デュポンという作曲家が作曲した珍しい作品で始めて、馴染みのある曲とそうでない曲をうまく組み合わせた変化に富んだプログラムビルディングを形成していたと感じた。
アーンの「恍惚のとき」でのジャルスキの弱声は繊細さを極めて、素晴らしい芸であった。
アンコールで再び歌ったシャミナッド作曲の「ソンブレロ」では、カウンターテナーだけでなく、テノールの音域も織り交ぜて歌い、聴衆の喝采を受けていたが、テノールとしての発声の訓練はあまりしていないのかもしれない(もちろんアンコールの楽しい雰囲気ではそんなことを言うのは野暮であり、素直にジャルスキのサービス精神を楽しめばよいのである)。
ピアノのジェロム・デュクロは美しい音を奏でていたが、聴きなれていた作品ではかなり大胆でドラマティックな演奏をしているように感じた(例えばフランクの「夜想曲」など)。
また、歌曲演奏会に2曲のピアノ独奏曲が加わっているのは珍しいと思うが、ここでもデュクロの華麗なテクニックが生かされていた。
アーンの「ブドウの収穫期の3つの日」という作品、途中で「怒りの日(ディエス・イレ)」のメロディがピアノにあらわれていた(それにしても、ベルリオーズをはじめとしてこのメロディを引用した作品の多いこと!)。
この放送、実は個人的にもう1つ楽しみだったことがあって、フランス人アナウンサーが、我々にお馴染みのフランス人作曲家の名前をどのように発音するのか、フランス語に疎い私は興味津々で耳を傾けていた。
サン=サーンスは確かにそのように発音していたし、フランク(Franck)も最後の"ck"(ク)は確かに発音していた。
一番興味深かったのは"Reynaldo Hahn"。
ヴェネズエラ出身の彼はフランス人ではないのだから(父親はドイツ系ユダヤ人とのこと)、フランス語の発音がオリジナルとは必ずしも言い切れないが、フランスで活動していたのだから、ほとんどフランス人といってもいいかもしれない。
フランス人アナウンサーは「アーン」ではなく、「アン」もしくは「アンヌ」のように発音していた。
"an"のような鼻母音でないことだけは確かであるが、"Jeanne"という時の"n"に近い感じだろうか。
また、Guillaume Lekeuの"Guillaume"は「ギョーム」というよりも「ギヨム」のように聞こえた。
ネットラジオで世界中の言語が耳に出来るのはこの上なく楽しい。
貴重な演奏をチェックするのはもちろん、しばらくネットラジオでアナウンサーの発音を聞き取る楽しみが続きそうだ。
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