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花井尚美&アントネッロ/フランス歌謡(シャンソン)の歴史 第1部(2009年5月23日 淀橋教会 小原記念聖堂)

花井尚美&アントネッロ
フランス歌謡(シャンソン)の歴史 第1部 中世編(12~15世紀)
2009年5月23日(土) 17時30分 淀橋教会 小原記念聖堂

花井尚美(S)
アントネッロ(Anthonello)
 濱田芳通(コルネット,リコーダー)
 石川かおり(フィーデル)
 西山まりえ(オルガネット,中世ハープ)

ベアトリッツ・デ・ディア/嫌なことも歌わずにいられない
ランボー・ド・ヴァケイラス/五月の日々も
作者不詳(モンペリエ写本)/モテット《花よりも美しいひと》
アダン・ド・ラ・アル/ロンドー《僕はひとときの恋で》
アダン・ド・ラ・アル/ロンドー《ひとときの快い恋が》
アダン・ド・ラ・アル/モテット《旦那の前で奥様方に》
アダン・ド・ラ・アル/シャンソン《愛の神よ感謝します》
ギョーム・ド・マショー/バラード《恥と恐れと疑惑》(器楽曲)
ギョーム・ド・マショー/バラード《私は思わない》

~休憩~

古謡《適齢期の娘たち》(器楽曲)
作者不詳/フランス風バッロ《恋人》(器楽曲)
アントネッロ・ダ・カゼルタ/バラード《恋が私の心を》
作者不詳/ヴィルレ《さあさあ、眠りすぎだよ》
ギョーム・デュファイ/ロンドー《あなたの美しい目を見て》
ギョーム・デュファイ/バラード《美しいひとが塔の下に座り》
ギョーム・デュファイ/バラード《親しき友よ》(器楽曲)
ギョーム・デュファイ/ロンドー《良き日、良き月》
ギロー・ド・ボルネイユ/栄光の王

アンコール:オスティナートを伴う即興(「オー・シャンゼリゼ」)

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昨年の目白バ・ロック音楽祭ではじめて聴いて感銘を受けたアントネッロのコンサートに出かけた。
会場は、総武線大久保駅北口から徒歩1分の淀橋教会の2階にある小原記念聖堂である。
聖堂の中はあっけないほど簡素で、自然の光が差し込む大きな窓がひときわ目立っていた。

「フランス歌謡(シャンソン)の歴史 第1部 中世編」と題され、12~15世紀のフランス世俗声楽曲の歴史が紐解かれた。
濱田氏の話によると、この頃の楽器はほぼ現存せず、楽譜のリズムもよく分からないとのこと。
時代の距離を埋めるのは難しく、せめてフランスと日本という地理的な距離を近づけようとしているという意気込みを語っていた。
ちなみにアントネッロという団体名は後半で演奏された作曲家アントネッロ・ダ・カゼルタからとったとのこと。
日本で言うところの「たかし」「ひろし」のようなイタリアではよくある名前だそうだ(濱田氏は演奏だけでなく、楽器の紹介なども含めた軽妙なトークでも会場を沸かせていた)。

ソプラノの花井尚美さんを加えてアントネッロがフランス歌謡と器楽曲を演奏した。
昨年の目白バ・ロックでは楽器だけでなく歌も披露していたアントネッロの女性メンバーも今回は楽器演奏に専念し、歌唱はすべて花井さんが担当していた。

プログラムは12世紀から時代の流れに沿って15世紀の作品まで選曲された。
普段めったに古楽を聴かない私はアダン・ド・ラ・アル、マショー、デュファイの名前ぐらいは知っていても、曲に関してはすべて知らないものばかりだった。
最初の作品はフランス南部のトルバドゥールが歌った曲で、現代フランス語とは直接つながらないというオック語による歌が歌われた。
やはり全然フランス語っぽくない。
その後、モテトゥスを集めたという「モンペリエ写本」からの1曲が歌われ、さらにアダン・ド・ラ・アルの歌が続けて4曲、前半最後はマショーの中世ハープ独奏曲と歌が続けて披露された。

後半はより複雑な技法を駆使した作品が歌われ、デュファイの4曲を経て、中世ハープのみの伴奏で花井さんが歌い、語る「栄光の王」で締めくくられた(今谷和徳氏のプログラムノートを参照しました)。

ソプラノの花井尚美さんは蒸留水のような澄んだ美声をもち、ヒーリングのような癒される清楚な響きが感じられたが、どんな難曲も余裕でこなしていた。
ヴィブラートも薄めで、古楽歌唱にうってつけの歌手と感じた。

アントネッロの3人も緊密なアンサンブルで典雅、かつ生命力の感じられる演奏を聞かせてくれた。
濱田氏はコルネットやトロンボーンのような楽器も吹いていたが、リコーダーの響きがとりわけ心地よい。
大型のリコーダーからは尺八のような息がもれる音も聞こえ、独特の趣を出していた。
フィーデルを弾く石川さんは縁の下の力持ちのような安心感を与えていた。
西山さんはハープと小型オルガンを兼ね、独奏に伴奏に感情豊かで繊細な演奏を披露していた。

アンコールでは、一定の音型を繰り返すオスティナートという手法に基づいた即興を厳かに始めたと思ったら、途中から花井さんも加わり、歌われたのは「オー・シャンゼリゼ」。
古楽と現代ポップスが融合して、聴き手を「今」に引き戻してお開きとなった。

教会の小さな聖堂の限られた人数の客席から割れんばかりの大拍手が起こり、アントネッロの熱烈なファンの多さを実感させられた。
曲を知らなくても、生気に満ちたアンサンブルから醸し出されるいにしえの異国の雰囲気にひたる時間が心地よく感じられたコンサートだった。

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コメント

フランツさん、こんにちは。
いつも、詳細な品格のあるコンサート記事、愉しみに読ませていただいてます。
アントネッロは、昨年2月、ラ・ヴォーチェ・オルフィカとの共演「スペイン音楽500年」というコンサート(東京カテドラル)で、初めて聴きました。濱田芳通氏の素晴らしいコルネットとリコーダーにすっかり感激して、それから何度か聴いています。リコーダーという、一見単純な楽器が、あんなに豊かな音と表情を持っていることを、それまで知りませんでした。私が古楽の世界にだんだん囚われてしまったのも、このときの演奏がきっかけでしたが、古楽関係は、歌い手も、オペラ歌手とはまた違った、魅力がありますね。
花井尚美さんも、まさに天上から聞こえてくるような済んだ声と、繊細な表現力が素晴らしいですね。
このようなコンサートの機会が増えてきたのは、たいへん嬉しいです。フランス歌曲のコンサート、10月の第2部は、ルネッサンスの曲も取りあげるというので、知っている歌も出てくるのではないかと、楽しみにしています。

投稿: Clara | 2009年5月28日 (木曜日) 10時21分

Claraさん、こんばんは。
いつもご訪問とコメントを有難うございます。励みになっています。
Claraさんもアントネッロに惹かれて、すでに何度かお聴きになっておられるのですね。
HPを見てもコンサートに録音に大活躍のようです。
リコーダーの音色、素晴らしかったですね。おっしゃるようにあの小さな楽器からあれほど表情豊かな音色が聴けるとは驚きです。
濱田さんのダンディな雰囲気とそのトークのざっくばらんとした感じのギャップも面白かったです。
10月の第2部も聴いてみようかなと思案中です。第2部には馴染みのある曲があるかもしれませんね。

投稿: フランツ | 2009年5月29日 (金曜日) 00時10分

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