ラ・フォル・ジュルネ・ジャポン2009「バッハとヨーロッパ」第2日目(2009年5月4日 東京国際フォーラム)
5月4日(月)に聴いたのはバッハばかり5公演。
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2009/5/4(月・祝)
11:15~12:15(実際の終演は12:30頃) 262 ホールG402 3列7番
小林道夫(チェンバロ)
J.S.バッハ/イギリス組曲 第4番 ヘ長調 BWV809
J.S.バッハ/フランス組曲 第4番 変ホ長調 BWV815
J.S.バッハ/イギリス組曲 第5番 ホ短調 BWV810
アンコール
J.S.バッハ/パストラーレ~第2曲(原曲はオルガン曲)
今回LFJのチケットをとる際に最優先したのが小林道夫のコンサートだった。
私は小林さんの生の演奏は、ヤノヴィッツとのリートや、レーヴェの記念コンサートなど、リートピアニストとしての演奏しか聴いておらず、チェンバロ奏者としての演奏は今回はじめて接することになった。
ヤノヴィッツの共演者として接した小林さんの演奏があまりに素晴らしかったので、今回は小林さんのもう1つの得意分野であるバロック音楽の演奏をぜひ聴いてみたかったのである。
しかし、ただでさえ小ホールで席数が少ないうえ、発売日のパソコンの画面が「混み合っています」となってなかなかチケット注文の画面に到達しなかったが、あきらめずに格闘してようやく4日の2公演を入手できたのは幸運だった。
すでに70代になられた小林さんは穏やかな話しぶりやしっかりした足取りは全く年齢を感じさせないが、演奏に関しては若干指回りが不安定な箇所もあった(3日連続の6回公演で準備も大変だったとは思うが)。
しかし、奇をてらうことのないオーソドックスで芯のしっかりした温かい音色は聴き手の心をほぐしてくれるかのようだった。
演奏前に配布資料の補足として簡単な説明をしてくれたのは、聴き手にとっても望外の喜びであった。
小林さんは大体次のようなことを話された。
イギリス組曲第4番はプレリュードやジグを聴けば、決して「おだやか」な曲ではないと分かる。
イギリス組曲第4番のジグとモーツァルトのソナタとの相似(聴いてみると確かにそっくりだった!)。
フランス組曲第4番とリュートの曲との関連(この件は記憶が曖昧ですみません)。実際に「プレリュード」では、リュートのような音色を交えて演奏してくれた。
イギリス組曲第5番のホ短調がシリアスな調という説は人によって感じ方が違うだろうが、「マタイ受難曲」の主な調がホ短調であることは確かにシリアスな印象を与えている。
また、各曲の間で立ち上がるのもなんなので、拍手は曲間でしなくていいですよというような話があったため、3つの組曲を続けて演奏し、聴くことになった。
人柄が滲み出たような穏やかなバッハであった。
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2009/5/4(月・祝)
13:00~14:00 243 ホールC 3階4列1番(L6扉)
レイチェル・ニコルズ(ソプラノ)
青木洋也(カウンターテナー)
ユリウス・プファイファー(テノール)
ステファン・マクラウド(バス)
バッハ・コレギウム・ジャパン
鈴木雅明(指揮)
J.S.バッハ/カンタータ「イエスよ、わが魂を」 BWV78
J.S.バッハ/カンタータ「喜べ、救われし群れよ」BWV30
あまりにも有名な古楽集団だが、私ははじめて実演に接することが出来て、楽しみだった。
まず感じたのはオケ(楽器集団といった方がいいかも)がめちゃくちゃ上手い。
どの楽器をとっても豊かな音色と見事な技術があいまって強く主張して響いてくる。
また、今回4人の独唱者もソロを歌ってない時は合唱団の一員として歌っていたのが興味深かった。
BCJはいつもこういうやりかたなのだろうか。
最初のうちは楽器群の豊かな音に比べて合唱の音量が弱い印象を受けたが、徐々に対等な響きになったように感じた。
ドロテー・ミールズの代役のソプラノ、レイチェル・ニコルズの美声と豊かな響きは私にとって大きな収穫だった。
この名前は覚えておこう(プログラムの表記がミールズのままなのは、ニコルズに対してあんまりではと思うが、差し替える時間がなかったのだろうか)。
カウンターテナーの青木洋也は一見外国人かと思ったほど長身だが、昨日聴いたカルロス・メナに比べると、ボーイソプラノのような響きで清澄な印象。
同じカウンターテナーでも個性がいろいろで聴き比べると面白い。
スキンヘッドのテノール、プファイファーは堅実な歌唱。
昨日も聴いたバスのマクラウドはいかにも古楽の歌手という感じで丁寧な歌を歌う。
鈴木雅明率いるバッハ・コレギウム・ジャパンは今後も古楽界の牽引的存在であり続けるのではないか。
BWV78の第2曲のソプラノとアルトの二重唱はとても愛らしく印象的な音楽で、一度で気に入った。
宗教的な題材でもこのような愛らしい曲を織り込むバッハは案外お茶目な人なのかもしれない。
多忙だったせいか、作品の使いまわしが多いようだが、ちゃんと作品として成立しているのはさすがというべきか。
BWV30も含めて魅力的なカンタータ2曲であった。
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2009/5/4(月・祝)
15:00~15:45 213 ホールA 1階46列76番(R6扉)
東京都交響楽団
小泉和裕(指揮)
J.S.バッハ;ストコフスキー(編曲)/前奏曲 変ホ短調 BWV853(オーケストラ版)
J.S.バッハ;ストコフスキー(編曲)/パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582(オーケストラ版)
J.S.バッハ;ストコフスキー(編曲)/トッカータとフーガ ニ短調 BWV565(オーケストラ版)
J.S.バッハ;斎藤秀雄(編曲)/「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004」よりシャコンヌ(オーケストラ版)
私はバッハで何が一番聴きたいかといえばオルガン曲を挙げると思う。
しかし、残念ながら国際フォーラムには備え付けのオルガンはなさそうだ。
そんなわけでオルガン曲のプログラムが企画されなかったのだろうが、その渇望を多少癒してくれそうな都響のコンサートを聴いた。
ホールAなので、やはりスクリーンが左右に映り、演奏者の表情が遠くの席でも見ることが出来る。
指揮の小泉和裕は、エネルギッシュな指揮ぶり。
そして矢部達哉率いる東京都交響楽団はこれらの編曲ものをオリジナル作品のように足並みそろえて素晴らしく演奏した。
ストコフスキーの編曲はどれも原曲の持ち味を生かしていて好感がもてる。
トッカータとフーガなどは、曲の次のセクションに移る際に前のセクションの音をしばらく引き伸ばしてオルガンの残響のような効果を出しているのはストコフスキーの原曲を尊重した姿勢のあらわれだろう。
それから、私の大好きなパッサカリアとフーガをストコフスキー編曲で聴くのはおそらくはじめてだが、低弦や金管楽器を効果的に使って、オルガンの重厚さをうまく引き出していたと思う。
特にテューバの響きがこれほどオルガンの足鍵盤にぴったりだとはこれまで気付かなかった。
平均率からとった前奏曲の編曲も美しく物憂げな作品になっていて素敵だった。
これらの編曲を聴いて果たして私は満足したのか自問してみる。
ストコフスキーの編曲の見事さや、オケのかゆいところに手が届いたような見事な演奏は確かに素晴らしく、その点では充分満足した。
だが、この素敵な編曲を聴いた後にまず思ったのは、すぐにでもオルガンによる原曲が聴きたいということだった。
実際に家に帰ってからヴァルヒャの古い録音を聴いてすっかり満足したのだった。
それから特筆すべきは往年の指揮者、斎藤秀雄編曲による「シャコンヌ」。
胸を打つ繊細な弦のハーモニーと、管楽器の使い方の見事さ。
ブゾーニやブラームスだけでない、もう1つの編曲版「シャコンヌ」を知ることが出来たのは大きな収穫だった。
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2009/5/4(月・祝)
17:30~18:30(実際の終演は18:45頃) 266 ホールG402 3列35番
小林道夫(チェンバロ)
J.S.バッハ/フランス組曲 第5番 ト長調 BWV816
J.S.バッハ/イギリス組曲 第6番 ニ短調 BWV811
J.S.バッハ/フランス組曲 第6番 ホ長調 BWV817
再び小林道夫のバッハ。
薄暗い照明の中、金屏風の前にろうそくを模したような照明が立ち、まさにサロンコンサートといった趣。
午前に聞いた時は小林氏の右後ろあたりの席で指がよく見えたが、今回は反対側の一番端。
演奏する小林氏の顔の正面にあたる位置である(楽譜が置かれたため、実際に顔は見えなかったが)。
今回も最初に小林氏の解説付き。
イギリス組曲第6番の「ガヴォット1・2」のうち、ミュゼット(同じ低音が継続して響く)に相当するのは2の方だけという説明、
フランス組曲第6番の「メヌエット」は事情が複雑で、曲集の最後に置かれることもあるが、今回は「ポロネーズ」の後に「メヌエット」を演奏するという話などであった。
「楽理科出身なので、つい気にしてしまう」と言って聴衆を笑わせて、なごやかな雰囲気のまま、演奏がスタート。
今回も途中で拍手中断がなく、最初と最後だけであった。
演奏については午前中同様、温かい音色で、作品に誠実な姿勢を貫く。
イギリス組曲など、かなりの大作で若干疲れもあったように思うが、最後まで真正面から対峙した演奏を聞かせてくれた。
終演後、「随分時間が過ぎてしまいましたので、これで」と申し訳なさそうなコメントがあって、アンコールをせずにお開きとなった。
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2009/5/4(月・祝)
19:15~20:00(実際の終演は20:15頃) 215 ホールA 2階23列73番(R11扉)
ボリス・ベレゾフスキー(ピアノ: BWV1056,BWV1062)
ブリジット・エンゲラー(ピアノ: BWV1052,BWV1062)
シンフォニア・ヴァルソヴィア
ジャン=ジャック・カントロフ(指揮)
J.S.バッハ/ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 BWV1052
J.S.バッハ/ピアノ協奏曲 第5番 ヘ短調 BWV1056
J.S.バッハ/2台のピアノのための協奏曲 第3番 ハ短調 BWV1062
今回私が聴いたLFJの一連のコンサートで最初で最後の現代ピアノによる演奏。
チェンバロも味があるが、やはり現代ピアノの響きは魅力的だ。
エンゲラーははじめて聴いたが、まろやかな音色が魅力的で私の好きなタイプの演奏だ。
ベレゾフスキーは以前実演を聴いた時はばりばり弾く印象だったが、今回はより内省的な演奏を聴かせていて、以前よりも良い印象を受けた。
ベレゾフスキーの弾いた第5番は随分短い曲だったが、緩徐楽章の馴染み深いメロディといい、聴きやすい作品だった。
2台のピアノのための協奏曲は、エンゲラーとベレゾフスキーが阿吽の呼吸で生き生きと演奏し、カントロフ指揮のポーランドのオケもソリストと一体となっていた。
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イベント広場での無料コンサートでは、ストコフスキー編曲の「トッカータとフーガ」を聴くことが出来た(3日)。
また、たまたま休憩していた新東京ビル内のカフェ(休憩室?)ではすぐ隣で無料イベントをやっていて、「マタイ」のアリアなどと共に、ベートーヴェンの「君を愛す」やブラームスの「あなたの青い目」なども聞こえてきて、思いがけず聞き入ってしまった。
よく晴れた気持ちよい気候だったが、一応インフルを警戒してマスクをしていったら、同じようにマスクをしていた人も結構見かけた。
今回も親切なことに声楽作品にはテキストの対訳が付いていたが、ミサ曲での鈴木雅明氏の訳は、ラテン語と日本語対訳にこまかく番号が振られ、どの単語がどの日本語に対応するのか分かるように書かれていて大変有難かった。
こういう心遣いはうれしい!
空き時間に「相田みつを美術館」の第2ホールで催されていた「バッハの素顔展」をのぞいてみた。
バッハの頭骨から復元した顔や、これまでに残された肖像画の数々が展示されていて、さらにイタリア、フランドル、ドイツの、時代の異なるチェンバロの解説も行われていて(若干営業色が強かったが)面白かった。
バッハの肖像画はハルトマンという画家にバッハ自身が依頼して書かせたものが最も信憑性の高いものとのこと。
復元されたバッハも確かにそんな趣があった。
スタッフの方々は今年も声を張って頑張っておられた。
チケットをもぎる時に「行ってらっしゃいませ」と声をかけられるのも決まりとはいえうれしいものだ。
だが、若干がんじがらめの警戒のように感じられることもあったのは、これだけの人数を相手にするためには仕方ないのだろうか。
「お帰りはエレベーターが混雑しているので、階段をお使いください」というのは、見た目では分からない足や腰の悪い人にとってはあまりうれしくない言葉だろう。
せめて「階段を」と強制するのではなく「よろしければ階段もお使いください」と言うだけでも違うと思うのだが。
また、昨年も思ったのだが、「プログラムはこちらにあります」という案内がほとんど無かったのは若干不親切だと思う。
私も初参戦だった昨年はプログラムがテープルにおいてあることに途中でやっと気付いたものだった。
とはいえ、全体としては楽しみながらいい音楽をたっぷり味わえたよいイベントであり、これだけ盛況になるのもよく分かる気がした。
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