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プレガルディエン&ゲース/〈歌曲(リート)の森〉第3篇(2009年3月5日 トッパンホール)

〈歌曲(リート)の森〉~詩と音楽 Gedichte und Musik~ 第3篇
2009年3月5日(木) 19:00開演 トッパンホール(D列6番)

クリストフ・プレガルディエン(Christoph Prégardien)(T)
ミヒャエル・ゲース(Michael Gees)(P)

ハインリヒ・ハイネの詩による歌曲

シューマン作曲
1.海辺の夕暮れ Op.45-3
2.憎悪しあう兄弟 Op.49-2
3.きみの顔 Op.127-2
4.きみの頬を寄せたまえ Op.142-2
5.二人の擲弾兵 Op.49-1
6.ぼくの愛はかがやき渡る Op.127-3
7.ぼくの馬車はゆっくりと行く Op.142-4

シューベルト作曲
歌曲集《白鳥の歌》D957より
8.漁夫の娘
9.海辺で
10.都会
11.影法師
12.彼女の絵姿
13.アトラス

~休憩~

シューマン作曲
歌曲集《詩人の恋》 Op.48
14.うるわしい、妙なる5月に
15.ぼくの涙はあふれ出て
16.ばらや、百合や、鳩
17.ぼくがきみの瞳を見つめると
18.ぼくの心をひそめてみたい
19.ラインの聖なる流れの
20.ぼくは恨みはしない
21.花が、小さな花がわかってくれるなら
22.あれはフルートとヴァイオリンのひびきだ
23.かつて愛する人のうたってくれた
24.ある若ものが娘に恋をした
25.まばゆく明るい夏の朝に
26.ぼくは夢のなかで泣きぬれた
27.夜ごとにぼくはきみを夢に見る
28.むかしむかしの童話のなかから
29.むかしの、いまわしい歌草を

~アンコール~
1.シューマン/「リーダークライス」Op.24~第9曲「ミルテとばらで」
2.シューマン/「リーダークライス」Op.24~第3曲「ぼくは木々の下をさまよう」

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トッパンホール主催による〈歌曲(リート)の森〉~詩と音楽 Gedichte und Musik~もいよいよ最終回である。
パドモア&クーパーによる「冬の旅」、ボストリッジ&ドレイクによるシューマン&ブラームスに続いて、今回はクリストフ・プレガルディエンとミヒャエル・ゲースによるハイネの詩に焦点を絞った歌曲集である。

かつてF=ディースカウは前半にシューベルトの「白鳥の歌」の中からハイネの詩による6曲、そして後半にシューマンの同じくハイネの詩による「詩人の恋」を歌って、一夜のプログラムを組んでいた。
ザルツブルクでのムーアとのライヴ録音は現在も輸入盤で入手可能であろう。

今回のプレガルディエンとゲースによるハイネ歌曲集ではF=ディースカウのプログラムに、さらにシューマンの単独のハイネ歌曲7曲を追加するというボリュームの多いプログラムを披露した。
この7曲のうち4曲(Op.127とOp.142)はもともと「詩人の恋」に含める予定で作曲されたものである。

私にとってプレガルディエンを生で聴くのは今回が2度目である。
1度目はもう15年以上も前にオーストリアのフェルトキルヒでシューベルティアーデを聴いた時。
シューベルトの重唱曲をバンゼ、ツィーザク、ファスベンダー、ベーア、A.シュミットらと共に歌った楽しいコンサートだった(指揮者のような身振りで歌手たちを統率していた姿が今でも目に焼きついている)。
しかし、これまでプレガルディエンのソロ・リサイタルは一度も聴いたことがなく、今回がはじめてだった。

すでに白髪混じりの頭で登場したプレガルディエンは以前よりも恰幅がよくなった印象である。
若い頃の録音では端正だが単色な印象を受けることが多かったが、今回実際の歌唱を聴いて、声は多彩さを増し、語り口はもはや名人芸的な域に達し、血肉となった自在な表現を聴いて感銘を受けた。
高音は若干厳しくなりつつあるようで、飛びつくように音をとらえ、力みが感じられることもあったが、一方低音域ではテノールとは思えないほど充実した響きを出していた。
ドイツ語の発音の美しさはやはりネイティヴの強みだろう。
弛緩することなく快適なテンポで語るように歌う。
端正な良さはそのままに味わいを増した歌で、シューベルト最晩年の深みも、シューマンのロマンも魅力的に聴かせてくれた。
内面的な歌もドラマティックな歌も安心して身を委ねて聴いていられた。

ピアニストのミヒャエル・ゲースは、長髪を後ろで束ね、衣装の着こなしといい、愛嬌のあるステージマナーといい、どことなくチョコレート工場の有名俳優みたいな雰囲気である(容姿ではなく雰囲気です)。
ジャズもこなすというこのピアニストは演奏中も首を横に振ったり、スウィンギーなノリを見せ、純然たるクラシックピアニストとはどこか異なる印象だ。
積極的な音楽への姿勢は充分感じるものの、音の濁りも辞さず、アルペッジョを多用した崩し方は時にやり過ぎと感じられた。
とはいえ、「詩人の恋」の第1曲のアンニュイな演奏など美しい響きを聞かせる場面もあった。
ドラマティックな「アトラス」は実演で聴くと歌手への配慮からか控えめなピアノを聴くことが多いが、ゲースの雄弁な演奏は久しぶりに曲の立体感を見事に表現していたと感じた(中間部のアクセントが無視されていたのは残念だったが)。
概してゲースは演奏の性質上、シューベルトよりもシューマンがより合っていたようだ。

円熟して表現力を増したプレガルディエンの歌唱をたっぷり堪能した一夜だった。

Pregardien_gees_200903_chirashi

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コメント

フランツさん、今晩は!
トッパンホールのプレガルディエンとゲース、「リートの森」の最終コンサート、愉しまれたのですね。
シューマンとシューベルトの、歌曲満載の演奏会だったのですね。
私は今日、所沢でプレガルディエン/ゲースの「冬の旅」を聴き、とても良かったです。
感動のあまり、コンサートではほとんど買ったことのないCD(美しい水車小屋の娘)を買い、サインまで貰ってしまいました。

投稿: Clara | 2009年3月 7日 (土曜日) 20時42分

Claraさん、こんばんは!
所沢での「冬の旅」、良かったそうですね。
彼らが最近録音した「水車屋」のCDは、シューベルトの友人だった歌手フォーグルによる装飾を付加したものとして話題になっていて、私もいずれ購入しようと思っています。
「冬の旅」のコンサートでも装飾された演奏だったのではないかと想像しています。
Claraさんが会場でCDを購入されたり、サインをもらったりというお話をうかがい、感動された熱気が伝わってきました。

投稿: フランツ | 2009年3月 7日 (土曜日) 21時42分

どことなくチョコレート工場の有名俳優みたいな雰囲気
**
ジョニー・デップ?

凸版ホールは良さそうなホールですね。私はドイツの美しい本展に行ってお隣でした。

投稿: Auty | 2009年3月 8日 (日曜日) 02時07分

Autyさん、こんばんは。
私はこんなこと書いておきながらこの映画まだ見ていないのですが、レンタル屋によく置いてあったので、いつか借りてみたいと思っています。

トッパンホールはリートを聴くのにはちょうど良い空間です。印刷会社だけあって、ロビーに絵本の外国語訳(アラビア語?)したものが展示されていました。

投稿: フランツ | 2009年3月 8日 (日曜日) 02時17分

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