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ハイドン/絶望

Despair, Hob. XXVIa no. 28
 絶望

The anguish of my bursting heart
Till now my tongue hath ne'er betray'd.
Despair at length reveals the smart;
No time can cure, no hope can aid.
 私のはちきれそうな心の苦悶を
 今まで私の口は決して漏らしませんでした。
 絶望がついに苦悩を明かしました。
 時は癒すことが出来ず、希望も救うことが出来ないのです。

My sorrows verging to the grave,
No more shall pain thy gentle breast.
Think, death gives freedom to the slave,
Nor mourn for me when I'm at rest.
 墓に近づいている私の悲しみは、
 もはやあなたの穏やかな胸を苦しめることはないでしょう。
 考えてもごらんなさい、死は奴隷の身に自由を与えるのです。
 私が安らいでいるときにも私のために悲しまないでください。

Yet, if at eve you chance to stray
Where silent sleep the peaceful dead,
Give to your kind compassion way,
Nor check the tears by pity shed.
 しかし、もし間際にあなたがたまたま、
 押し黙って平穏な死の眠りについている場所からはぐれてしまったならば、
 あなたの親切な慈悲心に身をまかせてください、
 哀れんで涙が流れるのを気にもしないで。

Where'er the precious dew drop falls,
I ne'er can know, I ne'er can see;
And if sad thought my fate recalls,
A sigh may rise, unheard by me.
 どこで貴い露の滴が落ちていても
 私には知ることも、見ることも出来ません。
 そして悲しい思いが私の運命を思い出したならば
 溜息が漏れるかもしれませんが、私が聞くことはないのです。

詩:Anne Hunter (née Home: 1742-1821)
曲:Franz Joseph Haydn (1732-1809)

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アン・ハンターの英語詩による「6つのオリジナル・カンツォネッタ 第1集」の第4曲。
全4節の有節形式だが、最初の2節しか演奏されないことが多い(Henle版のハイドン全集(1960年)では楽譜の歌声部の下に最初の2節分が記載され、第3、4節は楽譜下の余白に別に記載されている)。

私が死んでも悲しまないでくださいという詩の内容は数年前に巷ではやった流行歌を思い起こさせるが、anguish(苦痛)、smart(心痛)、sorrow(悲しみ)といった言葉を重ねることで、この詩の主人公の苦しい心情をあらわしている。

穏やかなゆったりとしたホ長調の前奏は詩の苦悩を予感させない。
歌の旋律も一見苦悩を強調することはなく、静かに歌われるが、各節後半でテキストに応じて若干曲の趣も変わり、動きが出てくる。
ハイドンの曲は苦悩から距離を置いた視点で冷静に歌っているようだ。
4分の3拍子、Adagio。歌声部の最高音は2点ホ音、最低音は1点嬰ニ音。

アーメリング(S)デームス(P):PHILIPS:1980年録音:穏やかな音楽の中にさりげない味わいを織り込む熟した歌と演奏だった。最初の2節のみの演奏。

ミルン(S)ヴィニョールズ(P):Hyperion:2001年録音:噛んでふくめるような味わいのある歌だった。ヴォニョールズも歌声部と共によく歌っていた。最初の2節のみの演奏。

以下のHyperionレーベルのサイトを開き、Detailsの下にある音符のマークをクリックすると最初の数秒が試聴できます(ミルン&ヴィニョールズの演奏)。

http://www.hyperion-records.co.uk/tw.asp?w=W6829

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コメント

こんにちは。
アンハンターの詩は、フランツさんの日本語訳で、読ませていただいていますが、フランスのヴァルモール夫人の詩を思わせる、女性らしい繊細な心の情景が見えて、とても素敵ですね。
ハイペリオンで、前の「牧歌」も含め、メロディの一部を聴くことが出来ました。
悲しみ、苦悩、絶望の中にも、どこか優しく、救いの感じられるところが、好きです。
ミルンの声も、きれいですね。

投稿: Clara | 2009年2月14日 (土曜日) 12時43分

Claraさん、こんにちは。
訳詩を読んでいただき、有難うございます。
おっしゃるように女性の細やかな感性があらわれた詩ですね。
ヴァルモール夫人ははじめて知る名前だったのですが、ネットで訳詩を探して読んでみました。「サーディの薔薇」という作品だったのですが、やはり繊細で絵が浮かぶような素敵な詩でした。
教えていただき感謝しています!
ミルンは美しい声をもっていますよね。
曲も気に入っていただけてうれしいです。
悲しみをそのまま表現するのではなく、しっとり回想するような穏やかさがある点がハイドン歌曲の特徴の一つではないかと感じています。

投稿: フランツ | 2009年2月14日 (土曜日) 13時44分

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