ハイドン/回想
Recollection, Hob. XXVIa no. 26
回想
The season comes when first we met,
But you return no more.
Why cannot I the days forget,
Which time can ne'er restore?
O days too fair, too bright to last,
Are you indeed forever past?
はじめて私たちが出会った季節がやってきます、
でもあなたはもう戻ってきません。
あの日々をどうして私は忘れることができないのでしょう、
時が決して戻すことの出来ない日々を。
おお、あまりに美しくあまりにまぶしいために続かなかった日々よ、
あなたは本当に永遠の過去なのですか?
The fleeting shadows of delight
In memory I trace;
In fancy stop their rapid flight
And all the past replace.
But ah! I wake to endless woes,
And tears the fading visions close.
喜びにおけるつかの間の影を
私は記憶の中にたどります。
空想の中でその素早い飛行は止まり、
すべては過去に取って代わります。
しかしああ!私は無限の苦悩に目覚め、
涙は色あせていく夢想を閉じるのです。
詩:Anne Hunter (née Home: 1742-1821)
曲:Franz Joseph Haydn (1732-1809)
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アン・ハンターの英語詩による「6つのオリジナル・カンツォネッタ 第1集」の第2曲。
全2節の有節形式。
歌はヘ長調の穏やかな調子で始まり、失った恋を静かに落ち着いて回想しているように感じられる。
ハイドンの歌曲はテキストの同じ箇所を数回繰り返す傾向があるが、この曲でも何度も繰り返すことによって主人公の苦しみを強調しているかのようだ。
4分の3拍子、Adagio。歌声部の最高音は2点イ音(一オクターブ低い1点イ音と選択できる)、最低音は1点ハ音。
アーメリング(S)デームス(P):PHILIPS:1980年録音:アーメリングは若干重みを増した声で曲の陰影をうまく表現している。デームスも歌手とぴったり同調した演奏を聴かせている。
ミルン(S)ヴィニョールズ(P):Hyperion:2001年録音:ミルンは高音で若干余裕がなくなるが、テキストに反応した細やかな表情を聴かせている。ヴィニョールズは繊細で余韻のある演奏。
F=ディースカウ(BR)ムーア(P):EMI(ODEON):1959年録音:F=ディースカウはめりはりのある説得力に満ちた歌で魅力的。ムーアはすみずみまでよく歌い、素晴らしい。第1節しか演奏されていないのが残念。
YouTubeにカウンターテノールのアンドレーアス・ショルがこの曲を歌っている映像がありました(共演者はMarkus Märkl)。
http://jp.youtube.com/watch?v=FryvHq0g2u8
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コメント
いい詩ですね。
心の痛む記憶と重なってきます。
恋の喜びを謳歌した詩や歌よりも、別れや回想を表現したそれに、より惹かれてしまうのは、人生の終わりを意識する人間のなせる処かも知れませんが・・・。
カウンターテナーの歌も素敵でしたが、たとえば、古楽専門のソプラノ、広瀬奈緒(イギリス王立音楽院出身)の、きれいな英語の発音で、聴いてみたいと思いました。
投稿: Clara | 2009年2月 1日 (日曜日) 10時35分
Claraさん、こんにちは。
私もハイドンの穏やかな曲を聴いていて、こんなに切ない感情を表現した詩だったとはこれまで気付きませんでした。
鑑賞する人それぞれの経験に応じた感情を呼び起こす内容ですね。
広瀬奈緒さんという方、私は存じ上げないのですが、古楽の女声で歌われると良さそうですね。
機会があればぜひ聴いてみたいと思います。
投稿: フランツ | 2009年2月 1日 (日曜日) 12時54分
アンドレーアス・ショル
**
迫力あるでしょうね。彼は一度だけ生を見ましたがでっかいふいごのようでした!
投稿: Auty | 2009年2月 1日 (日曜日) 19時00分
Autyさん、こんばんは。
私はショルの歌を生はもちろん録音でもこれまで聴いたことがなかったのですが、この映像を聴くと歌曲との相性がいい歌手だと思いました。
アルトのシュトゥッツマンみたいな声ですね。
投稿: フランツ | 2009年2月 1日 (日曜日) 19時47分
嬉しいことに、ご紹介のアンドレアス・ショルの歌唱を聴かせていただきました。「時・時間」についていささかかん考えていたもので、アン・ハンターの詩を面白く聴きました。聴きこなしてはいませんが。
しかし、Are you indeed forever past? とは……。まるで万葉集か、ギリシア詞華集にもありそうな、詩行ですね。ハイドンはどんな想いで作曲したのでしょうかしら。
いつも興味深い記事を嬉しく拝読しております!
投稿: 辻乃森 | 2009年2月 2日 (月曜日) 01時49分
こんばんは。
詩の訳についてですけど、fairは「公平」というよりたんに「美しい」という意味ではないでしょうか? あまりに公平なので長続きしない、というのはちょっと受け取りにくいような気がするのですが。
投稿: sbiaco | 2009年2月 2日 (月曜日) 02時36分
辻乃森さん、おはようございます。
ショルの歌唱、喜んでいただけてうれしいです。
確かに「時」がテーマの詩のようですね。
万葉集やギリシア詞華集についてのご指摘、勉強になります。
私はこれらの歌集をあまり知らないので、辻乃森さんのブログで勉強させていただきますね。
今後ともよろしくお願いいたします!
投稿: フランツ | 2009年2月 2日 (月曜日) 07時42分
sbiacoさん、おはようございます。
ご指摘有難うございました。
英語詩にはほとんど馴染んでいないので、手探りで訳しています(本当は公開できるレベルではないのですが)。
今後ともご教示いただければ幸いです。
投稿: フランツ | 2009年2月 2日 (月曜日) 07時44分
私は原詩を見ないで、日本語訳の詩だけ読んでいましたが、そう言えば、イギリスで、美人のことを a fair lady,とか、金髪を fair hair なんて言ってましたね。
それは兎も角、フランツさんの訳詩は、とても素敵です。
昔見た映画で、「愛情の花咲く樹」というアメリカ映画の中で、愛し合いながら別れなければならない恋人同士が、互いに詩の一節を唱え合う場面(それはバイロン卿の詩でしたが)があり、今でも心に残っていますが、そんなことを思い出しました。
投稿: Clara | 2009年2月 2日 (月曜日) 11時39分
Claraさん、こんばんは。
そう言われてみればMy fair ladyという映画もあるぐらいですから、ちょっと考えれば分かったのに、とお恥ずかしい限りです。
映画の中で、男女が詩を唱えあうというのは素敵ですね。たしか額田王という人が相聞歌を作っていたと記憶していますが、歌というのは男女のコミュニケーションに便利なものなのかもしれませんね。
バイロンの詩にもたとえばヴォルフなどは歌曲をつくっています。
そんな立派な詩人たちの詩の翻訳を無謀にも続けているわけですが、Claraさんに喜んでいただけるのでしたら励みになります。有難うございました。
投稿: フランツ | 2009年2月 2日 (月曜日) 20時42分