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オピッツ/ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全32曲演奏会(第8回)(2008年12月26日 東京オペラシティ コンサートホール)

ゲルハルト・オピッツ ベートーヴェン・ピアノソナタ全32曲演奏会(全8回)第8回

Oppitz_20082008年12月26日(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(1階3列6番)

ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)(P)

ベートーヴェン(Beethoven)作曲

ソナタ第30番ホ長調作品109
 1. Vivace, ma non troppo - Adagio espressivo
 2. Prestissimo
 3. Andante molto cantabile ed espressivo

ソナタ第31番変イ長調作品110
 1. Moderato cantabile molto espressivo
 2. Allegro molto
 3. Adagio ma non troppo - Fuga: Allegro ma non troppo

~休憩~

ソナタ第32番ハ短調作品111
 1. Maestoso - Allegro con brio ed appasionato
 2. Adagio molto semplice e cantabile

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今年ももう残りわずかである。
仕事納めの今日、今年最後となるであろうコンサートに出かけた。
ドイツのベテラン、ゲルハルト・オピッツによるベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲シリーズの最終回である。
とはいえ、オピッツのコンサートを生で聴くのは私にとって今回がはじめて。
かつてNHKのレッスンで名教師ぶりを披露していたゲルハルト・オピッツの実演をいつか聴いてみたいと思っていた。
当日券売り場に行くと、S席とA席が残っており(不況のせいか、オピッツほどの人でも完売にならないのは、聴き手にとっては券が入手しやすいので正直有難い)、せっかくなので前から3列目の席を購入。
オペラシティでこんなに前の席ははじめてである。
残り物には福があるとはこういうことか。
左の方の席なので、オピッツの姿を右後ろから見る形になるが、手の動きははっきりと見ることが出来たのが良かった。
バイブルにもたとえられるベートーヴェンのピアノソナタの中でもこの日に演奏されるのは最後のソナタ3曲。
演奏者はもちろん聴き手にも充分なエネルギーと集中力が要求される難曲である。

オピッツは1953年バイエルン州生まれというから今55歳。
まさに脂の乗った時期である。
ケンプにも師事している。
ブラームス、ベートーヴェンなどに続き、現在シューベルトのシリーズを録音中とのこと。
彼はヴァルトラウト・マイアーの共演者として「女の愛と生涯」やシューベルト、ブラームスの歌曲集も録音している。

登場したオピッツは思ったほど大きい人ではなく、手のサイズも普通ぐらいだった。
しかし、指回りは全く問題なく、大作3曲をいささかの弛緩もなく、見事に弾ききったのは素晴らしかった。
オピッツは例えば同じドイツ出身のペーター・レーゼルなどと比べると、技術の安定しているところは共通しているが、より感情表現が素直に外面にあらわれるタイプのようだ。
作りこんだ感じよりも即興的で自然な印象を与える演奏である。
テンポをゆらし、強弱の幅を大きくとりながらも、やりすぎることのないコントロールの妙があった。

ソナタ第31番は先日NHKでの放送が終了したマリア・ジョアン・ピレシュのワークショップ・シリーズで頻繁にピレシュの演奏が放送され、馴染んでいたので、ピレシュとの違いを感じながら、オピッツの演奏を楽しめた。
ピレシュの巨匠然としたどっしり感に対して、オピッツの演奏はより柔軟で自由さのある演奏だった。
もっとドイツ的ながっちりした構築感をイメージしていたのだが、先入観というのは音楽を聴くうえでは邪魔なだけであることがよく分かった。

ベートーヴェン最後のソナタである第32番は2つの楽章からなる30分ほどかかる大作である。
第1楽章は屹立した巨人とか、ごつごつした岩などがイメージされ、あたかも何か大きな力と戦っているような音楽である。
オピッツはただ力強いだけではない隅々まで目の行き届いた充実した演奏を聴かせた。
一方第2楽章は"Arietta"と題され、ひたすら内面に沈潜していき、表面的な耳あたりのよさを排除した渋みあふれる世界が繰り広げられる。
オピッツの弾くこの第2楽章を聴いて、ベートーヴェンの心の中に行き来する様々な思いの移り行きを次々披露されているような感じを受けた。
とりわけ高音域で繊細に奏でられる箇所では星のきらめきのような崇高さを感じた。
長いトリルのうえで静かに語られる締めのモノローグはオピッツのデリカシーにあふれた良さが最高の形で発揮されていたように思う。
こういう音楽を心を無にして聴き入ることの幸せを感じながら、ひたすら身をまかせていた。

聴衆の熱烈な拍手でオピッツは何度もステージに呼び戻されたが、穏やかな笑顔をたたえながら拍手に応え、アンコールは弾かなかった。
ベートーヴェンの全ソナタ・シリーズをやり遂げ、満足だったことだろう。
来年はブラームスのコンチェルトを弾きに再来日するようだ。
都合があえばまた聴いてみたいピアニストである。

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コメント

久しぶりにオピッツの名を聞き、ブラームスの間奏曲などのCD(妻が購入したもので、ちゃんと聴いていなかった!)を引っぱり出して聴いています。ケンプにも師事していたのですか。なるほど、ケンプのベートーヴェンの演奏(CDです)が大好きですし、どこか硬質な、でも決して硬直してはいないところなど師弟なのでしょうか?などと勝手に思いながら聴いています。
 ブラームスの間奏曲などでは、グールドが面白くてよく聴いていたのですが、オピッツもちゃんと聴くようにいたします。
 どうぞよい年の暮れをお過ごしください。できれば記事もまだ更新を!(失敬)

投稿: tsujimori | 2008年12月27日 (土曜日) 18時18分

tsujimoriさん、こんにちは。
私はオピッツの演奏、名前はよく知っていたもののあまりしっかり聴いていなかったのですが、実際にコンサート会場で聴き、とても人間味あふれる余韻にあふれた演奏だと感じました。やはりケンプの音楽をどこか受け継いでいるのではないかと感じました。硬質だけれど硬直していないというのはまさにその通りだと思います。
グールドの間奏曲も懐かしいです。
今年の更新はもうないかもしれませんが、ご訪問有難うございました。
tsujimoriさんもよい年をお迎えください!

投稿: フランツ | 2008年12月27日 (土曜日) 19時59分

はじめまして。先日、オピッツの、「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集」を購入し、少しずつ聴いているところですが、ようやく満足できる全集に出会えたと喜んでいます。予想以上にロマンティックな演奏でした。オピッツに関しては、「ブラームス ピアノ曲全集」や、私のブログでも紹介した「リスト ピアノ協奏曲集」も大好きな録音です。

投稿: anator | 2009年1月 1日 (木曜日) 08時15分

anatorさん、はじめまして。
ご訪問とコメントを有難うございます。
オピッツのベートーヴェンの全集録音、素晴らしいようで良かったですね。
私も購入したいところですが、若干高めなので、最後の3曲のみ入ったバラ売りを買おうかなと考えています。
私も、anatorさんのおっしゃるようにオピッツが意外とロマンティックな演奏をすることに驚きました。謹厳実直という先入観が強かったので。
ブラームスやリストも良さそうですね。私は最近ブラームスのコンチェルト2曲の入った組み物を注文したので、コンチェルトでのオピッツの演奏が楽しみです。
anatorさんのブログも素敵ですね。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

投稿: フランツ | 2009年1月 4日 (日曜日) 20時45分

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