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エリー・アーメリングのクリスマス・ソング集

「エリー・アーメリングとのクリスマス:英独仏西蘭のクリスマス・ソング」(Kerst met Elly Ameling: kerstliederen uit Engeland, Duitsland, Frankrijk, Spanje en Nederland)
Kerst_met_ameling_2Brilliant Classics: 99623
録音:[1976年頃?]
エリー・アーメリング(Elly Ameling)(S)
ドルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(P)(1,6,7,10,13-19)
佐藤豊彦(Toyohiko Satoh)(Lute)(2-5,9,11,12)
ジョージ・センデ(George Szende)(VLA)(7)
アルバート・ド・クラーク(Albert de Klerk)(ORG)(8)
弦楽五重奏及び2本のホルン(Strijkkwintet en twee hoorns)(8)

イギリス編
1.イギリス民謡~フェリックス・ド・ノーベル編曲/明るい土手にすわっていたら(As I sat on a sunny bank)
2.イギリス民謡~アルネ・デルムスゴー編曲/その歌はやさしかったよ(Sweet was the song)

ドイツ&オーストリア編
3.ヘンリクス・ベギニケルによる写本1622より/イン・ドゥルチ・ユービロ(私の心は、甘き歓喜に酔いしれます)(In dulci jubilo)
4.ヘンリクス・ベギニケルによる写本1622より/また新たな喜びが(Ecce nova Gaudia)
5.ヘンリクス・ベギニケルによる写本1622より/さあ、坊やをあやしましょう(Nun wiegen wir das Kindlein)
6.シレジア民謡~フェリックス・ド・ノーベル編曲/山の上を(Uff'm Berge)
7.ブラームス/宗教的な子守唄(Geistliches Wiegenlied)Op. 91-2
8.ハイドン/はした女(め)(Cantilene pro adventu "Ein' Magd, ein' Dienerin")XXIIId, Nr.1

オランダ&フランダース編
9.オランダ民謡~フェリックス・ド・ノーベル編曲/おお、イスラエルの聖(きよ)らかな処女よ(O suver maecht van Ysraël)
10.フランダース民謡~フェリックス・ド・ノーベル編曲/小さな、小さなイエス(Klein, klein Jezuken)

スペイン編
11.カタルーニャ民謡~フランセスコ・アリオ編曲/クリスマスの歌(Cancó de nadal)
12.カタルーニャ民謡~ヘルムート・アルトマン編曲/ビリャンシーコ~クリスマスの踊り唄(Villancico - Baile de nadal)
13.アンダルシア民謡~ホアキン・ニン編曲/コルドバのビリャンシーコ(Villancico de Córdoba)
14.アンダルシア民謡~ホアキン・ニン編曲/アンダルシアのビリャンシーコ(Villancico Andaluz)

フランス編
15.フランス民謡~ヴィレム・ペイパー編曲/牡牛と灰色ロバにはさまれて(Entre le boeuf et l'âne gris)
16.フランス民謡~ヴィレム・ペイパー編曲/羊飼いの呼び声(L'appel des bergers)
17.フランス民謡~ヴィレム・ペイパー編曲/マリアのために(Noël pour l'amour de Marie)
18.ドビュッシー/家のない子どもたちのためのクリスマス(Noël des enfants qui n'ont plus de maisons)
19.ラヴェル/おもちゃのクリスマス(Noël des jouets)

(上記の日本語表記は主に国内盤LPレコード(EMI: EAC-80485)のライナーノーツを参考にしました)

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この時期になるとクリスマスに因んだアルバムが多くリリースされる。
最近もヘルマン・プライがホカンソンとDGに録音したコルネーリウス&ヴォルフのクリスマス歌曲集が初CD化されたばかりだが、1970年代にEMIから国内盤LPとして発売されて以来、日の目を見ることのなかったアーメリングの"Ameling sings Christmas"(国内盤LPのタイトルは「ヨーロッパのクリスマスを歌う」)がHMVのサイトの発売予定に掲載された時、久しく味わうことのなかったほどの待ち切れない思いでいっぱいになった。
どうやらオランダ国内では随分前から出回っていたようだが、日本で入手できるようになったのが今秋だったということなのだろう。
オランダのBrilliant Classicsがオリジナル音源のEMIから販売のライセンスをとったようだが、このレーベルはメジャーレーベルの録音を廉価で再発売することで知られており、今回のこのCDもHMVTower Recordで1000円を切る価格で入手することが出来る。
注文から随分待たされてようやく土曜日に届いたCDを何度もリピートして聴いている。

廉価盤だけあって、CDには解説や歌詞などは全く付けられていないが、国内盤LPのライナーノーツと歌詞対訳を参照しながら聴き進めている。
録音データは明記されていないが、丸P年表示が1977年となっているので、おそらく1976年前後の録音なのだろう。
ということはアーメリング40代前半の時の歌唱ということになる。
実際聴いてみても、その伸び伸びとした声の張りと美しさはまだいささかも衰えを見せておらず、全盛期だった頃の貴重な記録である。
そして彼女特有の温かい雰囲気を醸し出す声の表情は、クリスマスソングとの最高の相性の良さを感じずにはいられない。
アーメリングの素晴らしい点の一つはそのディクションの明晰さにあると思う。
どんな言語を歌ってもどんな子音にいたるまではっきり言葉が発音され、母音の響きも彼女なりにその言語の特徴に近づけようと尽力し、多くの場合は成功しているように思う。
この録音で彼女は英語、ドイツ語、ラテン語、オランダ語、カタルーニャ語、スペイン語、フランス語を披露している。
私にとってはいずれも外国語なので、ネイティヴ同然と断言する自信はないが、少なくとも違和感なくどの言語の作品も生き生きと自分のものにして聞かせているということははっきりと感じる。
国内盤LPの解説を書いておられる濱田滋郎氏の「諸国語それぞれの歌には、それぞれ固有の“いのち”がある。そしてアメリンクはじつによくその“いのち”に迫りえている」という言葉に全く共感するのである。

選ばれた作品は世界各地の民謡が多く、それらをオランダの共演ピアニスト・指揮者のフェリックス・ド・ノーベル(Felix de Nobel)や、ノルウェーの作曲家・編曲家のアルネ・デルムスゴー(Arne Dørumsgaard)たちがピアノ共演、あるいはリュート共演の形に編曲している。
一方で、ブラームスやハイドン、ドビュッシー、ラヴェルなどのオリジナル曲もあり、クリスマスというテーマから様々な側面を引き出している。
クリスマスといえば、キリスト教徒でもない限りは楽しい(あるいは淋しい?)イベントというところにとどまってしまいがちだが、ここに選曲された作品で、キリストの誕生を喜んだり、人々の救済者となるための悲劇的な運命を悲しんだりしながら、キリスト教の根付いている国々の人々の信仰心を一時的にでも体験することが出来ると思う。
異色なのがドビュッシーの「家のない子どもたちのためのクリスマス」で、戦争で家も両親も学校も失った幼い子供が「フランスの子供に勝利をください」とキリストに祈るという内容である。
第1次大戦中にドビュッシー自身によって書かれたテキストに作曲されたこの作品は明らかに反戦歌であり、戦火の中でクリスマスを迎えなければならない人が今もなくならない現状を思い起こさせる選曲である。
特に面白かったのが「ビリャンシーコ~クリスマスの踊り唄」というカタルーニャ地方の民謡で、12月25日、聖母マリアの御子が生まれたと歌われるが、随所に出てくる"fum, fum, fum"という掛け声に呼応するスペイン情緒たっぷりの手拍子が入る。
アーメリング本人が手を叩いているのかどうかは分からないが、リズミカルで浮き立つような曲にぴったりで、オリジナルでも同じように楽器や手をたたいて囃したそうだ。
このCDの曲の中で唯一実演で聴いたことがあるのがホアキン・ニンの編曲した「アンダルシアのビリャンシーコ」で、はじめてアーメリングの実演を聴いた1987年のアンコールで、「クリスマスが近いのでニンのクリスマスソングを歌います」と前置きしてこの曲が歌われたのが懐かしく思い出される。
情熱的な前奏に導かれて明るい旋律が歌われる。
なお、安藤博氏の解説によれば、ビリャンシーコとは元来は15-16世紀のスペインの3~4声部の歌曲を指していたそうだが、18世紀以後はクリスマス賛歌のことを指すようになったそうである。
「さあ、坊やをあやしましょう」という曲はブラームスの「砂男(眠りの精)」にそっくりで、解説者も触れているようになんらかの関連があるのかもしれない。
このアルバムでブラームスの「宗教的な子守唄」が聴けるのがうれしい。
民謡「ヨーゼフ、私のいとしいヨーゼフ」(Josef, lieber Josef mein)をヴィオラパートに置き、苦しみで疲れている幼児を起こさないでくださいというガイベルのテキストが厳粛な中にも優しく穏やかな響きで歌われ、素晴らしい聞き物になっている。
アーメリングの優しい歌声は幼児への最高の子守唄となっていた。
有名な「イン・ドゥルチ・ユービロ」や哀愁を漂わせる「牡牛と灰色ロバにはさまれて」、あるいは歌とオルガン、弦楽五重奏、2本のホルンという編成のハイドンの「はした女」なども素晴らしいが、中世オランダ語とラテン語が混ざった「おお、イスラエルの聖(きよ)らかな処女よ」は古風な旋律を真摯に歌い上げるアーメリングと絶妙にからむリュートが印象深かった。
「羊飼いの呼び声」のユーモラスな表現はアーメリングの独壇場だ。
こういう曲を歌わせたら彼女は最高である。
アルバムの最後を飾るのはラヴェルの自作の詩による「おもちゃのクリスマス」。
機械仕掛けの動物やモミの木につらされた飾りがラヴェルのクールな肌触りの曲の中で繊細に描かれ、最後は「クリスマスだ!(Noël!)」と高らかに歌われて締めくくる。

ボールドウィンのどんなタイプの曲にもぴったり対応する演奏は相変わらず素晴らしいし、佐藤豊彦のリュートの素敵な響きがどれほどアットホームな雰囲気を加味していることか。

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コメント

フランツさん、こんにちは。
このCDは、魅力がありますね。
最近、たまたま、家に、アーメリング/ボールドウインの「シューベルト歌曲集」のCDが眠っていたのを見つけ、早速2回、聴きました。
1970年代はじめごろの演奏が主なようでしたが、とても良かったです。
このクリスマス・ソングも、同じ組み合わせ。
是非、手に入れて、聴きたいと思います。
いつもの事ながら、詳細なレポート、有り難うございました。

投稿: Clara | 2008年11月23日 (日曜日) 11時46分

Claraさん、こんにちは。
このCDに興味をもっていただき、うれしく思います。
クリスマスソング集として出色の出来栄えに仕上がっていると思います。というのは、ただキリストの誕生を喜び、楽しもうというだけでなく、キリストの受難に思いを馳せるような暗い色調の曲や、戦火の中でクリスマスを迎える子供の激しい訴えなど、いろいろな感情が含まれているからです。
ボールドウィンはシューベルトの歌曲集同様、このCDでもとても魅力的な音色を聴かせています。
Claraさんも入手されたら是非楽しんでくださいね。

投稿: フランツ | 2008年11月23日 (日曜日) 13時11分

清らかな声とクリアーな発音、すてきなクリスマスが送れますね>アメリンクCD
いよいよわたしはもうすぐ(水曜日26日)ボストリッジです!

投稿: Auty | 2008年11月23日 (日曜日) 20時25分

Autyさん、こんばんは。
このCDのおかげで、1月も前から素敵なクリスマス気分を味わっています。
Autyさんはボストリッジを初台で聴かれるのですね。私は明日トッパンホールで聴いてきます!

投稿: フランツ | 2008年11月23日 (日曜日) 20時34分

ご無沙汰です。
アメリンクのクリスマスアルバム良さそうですね。プライのアルバムもついにCD化されましたか。私も注文しようかな。

投稿: たか | 2008年11月25日 (火曜日) 23時07分

たかさん、こんばんは。
お忙しそうですね。
このアーメリングのアルバム、疲れを癒してくれる効果もあると思います。機会があれば聴いてみてください。
プライのCDは歌詞カードが入っていないのが残念ですが、純粋に演奏だけ楽しむ分には歓迎すべき復活です。

投稿: フランツ | 2008年11月26日 (水曜日) 01時12分

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