« 演奏家の引き際-ロッテ・レーマンの場合 | トップページ | ペーター・レーゼルのベートーヴェン(2008年10月2日 紀尾井ホール) »

イモジェン・クーパーのシューベルト(2008年10月1日 東京文化会館小ホール)

Cooper_recital_20082008年10月1日(水)19:00開演 東京文化会館小ホール(1階H列17番)

イモジェン・クーパー(Imogen Cooper)(P)
(主催:日本アーティスト)

オール シューベルト プログラム(All Schubert programme)

3つの小品D946
 1. 第1番 変ホ短調 Allegro assai
 2. 第2番 変ホ長調 Allegretto
 3. 第3番 ハ長調 Allegro

ピアノ・ソナタ第16番イ短調 D845, Op. 42
 1. Moderato
 2. Andante, poco mosso
 3. Scherzo. Allegro vivace - Trio. Un poco più lento
 4. Rondo. Allegro vivace

~休憩~

ピアノ・ソナタ第17番ニ長調 D850, Op. 53
 1. Allegro vivace
 2. Con moto
 3. Scherzo. Allegro vivace
 4. Rondo. Allegro moderato

[アンコール]
シューベルト/12のエコセーズD781より

-------------------------------

イギリス出身でブレンデルなどに師事したピアニスト、イモジェン・クーパーのリサイタルを聴いた。
バリトン歌手のホルツマイアとの共演でその美しく粒立ったタッチにすっかり惹かれ、いつか実演を聴いてみたいと思っていたのだが、ようやく念願かなった。
しかも彼女が最も得意とするシューベルトのみによるプログラムで期待はふくらむ。

東京文化会館は音楽資料室をよく利用するものの、小ホールは本当に久しぶりで訪れた。
若干空席があるものの、ほぼ満席という客層は年配の方が多いという印象。
ピアノのコンサートでよく見かける音大の女性らしい人はあまりいなくて、現時点でのクーパーの受容がまだ若い層には広まっていないことを示しているようだ。
シルバーのシャツに黒のパンツというシックないでたちで登場したイモジェン・クーパーはすらりとした長身の女性だった。
50代後半とはとても思えないほど若々しい。
最初のうちこそ若干音が硬いかなという印象だったが、徐々に音が滑らかになり、会場を豊かな響きで満たした。
彼女はあまり体を動かさずに弾いていて、視覚的にも音楽に集中できるタイプだったのが良かった。
演奏はもう何も文句を言うこともないほどひたすら素晴らしく、音は磨かれて極めて美しく、そして柔らかい。
シューベルトの音楽を知り尽くした人による歌にあふれた演奏だった。
fでも決して音は汚れず、pでも音はしっかりとした芯をもち、その音色の多彩さとコントロールの妙味に感動した。
テンポも恣意的な揺れは一切なく、ここぞという時に若干引き伸ばす箇所もあるが、それが全く不自然にならないのは彼女のテンポ感覚の見事さによるのだろう。

それにしても長大なプログラムであった。
「3つの小品」で30分近く、ピアノ・ソナタ第16番も30分以上で、前半だけで1時間ほど。
休憩をはさんで、ピアノ・ソナタ第17番が40分ほど。
アンコールも含めて終演は9時15分ぐらいだった。
「3つの小品」は第1曲が有名で、私もこの曲は何度か耳にしていた。
切迫した急速な部分が全体にわたって何度も繰り返され、その合間に対照的な優しい部分が挿入されるという形である。
第2曲はいかにもシューベルトらしいゆったりとした歌にあふれた曲調が繰り返され、間にはさまれるエピソードとして急速な重音のトレモロによる暗雲が立ち込めたり、メランコリックな単音の歌が奏でられたりする。
第3曲は軽快でユーモラスな曲調が全体のテーマでトレモロによる華やかさも加味されるが、すぐにシューベルトらしい穏やかな歌が挿入される。
この小品集の最後を飾るにふさわしい華麗な曲であった。

ソナタ第16番は第1楽章冒頭の装飾音をまじえた寂しげな導入のテーマが印象的だが、すぐにがっしりしたたくましいリズムに受け継がれる。
最終楽章は無窮動曲のように細かい動きが連なり、魅力的。

ソナタ第17番はかなり規模が大きい作品だが、最終楽章のハイドンのような可愛らしいテーマが印象に残る。

実のところ会社帰りの平日のコンサートは眠気との闘いでもあり、今回のコンサートも意識と無意識の争いの中で聴いていたようなものだった。
なんというもったいない聴き方なのだろうとも思うが、クーパーの素晴らしい演奏で眠れるならばそれも贅沢の極みだと自分に言い聞かせてはみるものの、やはり残念。
平日のコンサートは前日に睡眠をたっぷりとっておかないとと反省した一夜であった。

シューベルトの音楽にどっぷり浸った良い時間だったが、最後まで朦朧とした中で聴くことになったのが正直心残り。
来週のマーク・パドモアとの「冬の旅」は自分自身のコンディションを整えて聴きたいものである。

|

« 演奏家の引き際-ロッテ・レーマンの場合 | トップページ | ペーター・レーゼルのベートーヴェン(2008年10月2日 紀尾井ホール) »

イモジェン・クーパー」カテゴリの記事

コンサート」カテゴリの記事

シューベルト」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

コメント

フランツさん、こんにちは。
イモジェン・クーパーのコンサート、とても良かったようですね。
詳細なレポート、有り難うございます。
私も行きたかったのですが(当日売りはあるとのことも聞きましたので)、都合が付かなくて見送りました。
年配の聴衆が多かったというのは、それだけ、固定したファンが多いと言うことではないでしょうか。

コンサートで睡魔に襲われるのは、私は良くあります。
演奏がいい場合に限ってそうです。
いい気持ちで、陶酔しているうちに、眠気に襲われてしまうのですが、耳には、ちゃんと音楽が聞こえてます。
あまり気に染まない演奏の方が、些末なところが気になって、眠るどころではなくなってしまうので、私の評価は、眠くなったかどうかで、決まるようなものですが、でも、やはり勿体ないですね。
なるべく、起きて聞きたいと思います。(笑)

投稿: Clara | 2008年10月 4日 (土曜日) 12時18分

Claraさん、こんにちは。
コメントを有難うございます。
クーパーの演奏は本当に素晴らしかったです。こういう演奏の前では言葉での形容はいかに無力なものかと思い知らされますが、少しでも感動をおすそ分けできたらうれしいです。
彼女は以前PHILIPSに多くのソロ録音を残していたので、おっしゃるように固定ファンがいたという可能性もありますね。
睡魔を評価の基準になさっているというお話、興味深く拝見しました。確かに気に入らない演奏だと眠れないですよね。私もそう自分に言い聞かせて納得することにします(笑)。

投稿: フランツ | 2008年10月 4日 (土曜日) 13時20分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/150976/42677504

この記事へのトラックバック一覧です: イモジェン・クーパーのシューベルト(2008年10月1日 東京文化会館小ホール):

« 演奏家の引き際-ロッテ・レーマンの場合 | トップページ | ペーター・レーゼルのベートーヴェン(2008年10月2日 紀尾井ホール) »