« 梅丘歌曲会館「詩と音楽」投稿(2) | トップページ | アーメリング&ボールドウィンのCBS SONYオムニバスLP2種 »

アーメリング&ボールドウィン/ドイツ・ロマン派歌曲集(LP)

Ameling_baldwin_german_romantic_son「くるみの木~ドイツ・ロマン派歌曲集(German Romantic Songs)」
日本フォノグラム: PHILIPS: X-7806
録音:1976年9月10~14日、Kleine zaal, Concertgebouw, Amsterdam
エリー・アーメリング(Elly Ameling)(S)
ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(P)

1.シューマン/献呈(Widmung) 作品25の1
2.シューマン/くるみの木(Der Nussbaum) 作品25の3
3.シューベルト/夜咲きすみれ(Nachtviolen) D752
4.ヴォルフ/夏の子守歌(Wiegenlied im Sommer)
5.マーラー/夏の交代(Ablösung im Sommer)
6.レーガー/二人だけの森(Waldeinsamkeit) 作品76の3
7.メンデルスゾーン/恋する女の手紙(Die Liebende schreibt) 作品86の3
8.ブラームス/ああお母さん、欲しいものがあるの(Och Moder, ich well en Ding han)
9.ブラームス/姉さん(Schwesterlein)
10.フランツ/私の大きな苦しみから(Aus meinen großen Schmerzen) 作品5の1

11.R.シュトラウス/たそがれの中を行く夢(Traum durch die Dämmerung) 作品29の1
12.R.シュトラウス/言いました-それだけではすみません(Hat gesagt - bleibt's nicht dabei) 作品36の3
13.プフィッツナー/それで空が春にはこんなに青いのだろうか?(Ist der Himmel darum im Lenz so blau) 作品2の2
14.ヴォルフ/庭師(Der Gärtner)
15.レーヴェ/漁師(Der Fischer) 作品43の1
16.シューベルト/あなたは憩い(Du bist die Ruh)D776
17.R.シュトラウス/万霊節(Allerseelen) 作品10の8
18.R.シュトラウス/セレナード(Ständchen) 作品17の2

(日本語表記はレコードジャケットによる)

-----------------------

たまに懐かしいLPレコード時代の録音を聴きたくなる。
アーメリングとボールドウィンによる「ドイツ・ロマン派歌曲集」というレコードをMDにおとした演奏を久しぶりに聴いて、残暑の疲れを癒しているところである。
アーメリングの声と表現の充実していた時期に名コンビのボールドウィンとともに録音した彼女の代表作の1つだと思うが、残念ながらCD化されたのはシューベルトの2曲のみで、ほかは未だ復活しない。

エリー・アーメリングは50年代半ばに2つのコンクール(オランダのセルトーヘンボスとスイスのジュネーヴ)で優勝後、フランスのバリトン歌手ピエール・ベルナックに師事し、オラトリオやリサイタルを中心に活動を始めたが、60年代の半ばから後半にかけてHarmonia mundiにシューベルト、シューマン、ブラームスなどの歌曲をデームス、シェトラーと録音、同時にバッハのカンタータなども手がけ、清澄でつやのある歌声を惜しげもなく伸び伸びと披露していた。
この頃はなんといってもその爽やかでみずみずしい美声が彼女の最高の魅力だった。
60年代後半から彼女はPHILIPSやEMIで一連のドイツ、フランス歌曲をボールドウィンとともにさらに録音する。
このあたりから彼女の声は徐々に落ち着きを見せはじめ、声を絶妙にコントロールする知性がさらに増してきた。
素晴らしい数々のシューベルトの録音をはじめ、ブラームス、ヴォルフの歌曲集や、ハイドン、モーツァルトの全集なども録音するのだが、70年代半ばに彼女が満を持して録音したこの「ドイツ・ロマン派歌曲集」は、リート芸術とアーメリングの芸術双方のエッセンスが詰まっているような素晴らしい企画であった。

内訳はR.シュトラウスが4曲、
シューベルト、シューマン、ブラームス、ヴォルフが各2曲、
レーヴェ、メンデルスゾーン、フランツ、マーラー、プフィッツナー、レーガーが各1曲で、
計11人の作曲家による18曲のアンソロジーである。
リートの重要な作曲家をほぼ網羅した内容である一方、なかなか録音で聴けない珍しい作品もあるので、リート初心者、愛好家のどちらにも配慮しているのが感じられる。
目を引くのがR.シュトラウスを4曲も歌っていること。
彼女はシュトラウスのソロ・アルバムを一度も録音しなかったが、それは引退公演時の彼女のインタビューによれば、彼女の意思というよりもレコード会社からオファーがなかったかららしい。
実際、最近リリースされた放送用録音集では「4つの最後の歌」を含む14曲ものシュトラウス歌曲を歌っている。
確かに彼女の声にはシュトラウスの爛熟した要素は希薄かもしれないが、「万霊節」での真摯な表現、「言いました-それだけではすみません」でのユーモアなど、彼女の良さが生きるレパートリーは決して少なくないと思う。

このレコードでは、まずシューマンの開放的な「献呈」としっとりとした「くるみの木」ではじめ、この作曲家の二面性を表現する。
そしてシューベルトの「夜咲きすみれ」という彼女にうってつけの曲が続く。
マーラー「夏の交代」やブラームスの「ああお母さん、欲しいものがあるの」でのユーモラスな語りは彼女のうまさ健在というところだが、ブラームス「姉さん」での悲痛さの細やかな表情や、レーヴェ「漁師」でのバラーデの語り口の巧みさはまさに彼女が表現力において上り坂にあったことを感じさせる見事さである。
レーガー「二人だけの森」やフランツ「私の大きな苦しみから」、プフィッツナー「それで空が春にはこんなに青いのだろうか?」は地味だが、彼女が歌うと小さな宝石のようにひっそりと魅力を放つ。
こういう演奏を聴くと、選曲のうまさがアーメリングの美質の1つであることをあらためて思い出させてくれる。
このアルバムで私が最も気に入っているのが、ヴォルフの「夏の子守歌」である。
3節の有節歌曲なのだが、各節の最後を
"Gut' Nacht, gut' Nacht, lieb' Kindlein, gute Nacht!"
(おやすみ、かわいい子、おやすみね!)
と締めくくるところのアーメリングの歌いぶりは彼女にしか出せない親しみやすい温かさがあって、なんとも心地よいのだ。

ドルトン・ボールドウィンはどの曲をとっても隙のない素敵なアンサンブルを築いている。
彼はうまさを前面でひけらかすタイプではないので、昔はその凄さにあまり気付いていなかったのだが、今こうして聴いてみると、どんなタイプの曲にもぴったり対応して、歌とバランス・呼吸の両面で一体になりながら、完璧に演奏する手腕はどんなに凄いことかと思う。
歌曲のピアニストは普通は自分でレパートリーを選べない。
従って、歌手の選んだどんな難曲も弾きこなすテクニックと音楽性を兼ね備えていなければならない。
これはある意味、ソリスト以上に多くのものを求められているということではないだろうか。
その点、ボールドウィンは間違いなくムーア、パーソンズの後に続く歌曲演奏の功労者といっていいのではないだろうか。

|

« 梅丘歌曲会館「詩と音楽」投稿(2) | トップページ | アーメリング&ボールドウィンのCBS SONYオムニバスLP2種 »

LP」カテゴリの記事

エリー・アーメリング」カテゴリの記事

ドルトン・ボールドウィン」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

コメント

お久しぶりです。
76年のアーメリングですか……垂涎ものですね。
私は彼女のこういうごちゃまぜ風のアンソロジーが大好きなので。一見、節操がなさそうにもみえるのですが、おっしゃるように「リート初心者、愛好家のどちらにも配慮している」ところが彼女の魅力であり、身上だと思います。
私のところもLPプレイヤーを復活させたので、機会があればぜひ聴いてみたいですね。

投稿: sbiaco | 2008年9月 7日 (日曜日) 22時57分

sbiacoさん、こんばんは。
コメントを有難うございます。
このLP、たまにオークションで見かけるので、探してみると見つかるかもしれません。
ここでのアーメリング、sbiacoさんにもきっと満足していただける魅力的な歌唱です。こういうごちゃまぜのアンソロジーで聴き手を満足させるのは実はかなりセンスが問われると思います。そういう意味で彼女のミックス・プログラムはどれもはずれがありません。機会がありましたらぜひ聴いてみてください。とても楽しいです。

投稿: フランツ | 2008年9月 7日 (日曜日) 23時20分

くまぐすと申します。いつも拝見させて頂いてます。私の大好きなアメリンクのこのLPへの素晴らしいコメントを読ませて頂き、思わず書き込みさせてもらいました。私も、高校2年生の頃、このLPを購入して以来、何十回と聴き返しました。今でもCD-Rに焼きなおしてそれをウォークマンに入れて通勤途上で聴いてます。私が特に好きなのは、レーガー~メンデルスゾーンの曲の流れと万霊節のひそやかな哀しみです。ジャケットの絵画も歌の風景をそのまま表現している素敵なセンスだと思います。本当にどうしてこんな素晴らしいアルバムがCD化されないのでしょうね。あと、SONYに入れた一連のアンソロジーなんかもそうですが、

投稿: くまぐす | 2008年9月 9日 (火曜日) 12時31分

くまぐすさん、お久しぶりです。
以前シューマンのハイネ歌曲で意見交換したことがありましたよね。
くまぐすさんもアーメリングのこのアルバムを気に入っておられると知り、私もとてもうれしいです。レーガーのひそやかなミニアチュールの世界、メンデルスゾーンの健康的な愛の歌、それから厳かな感動がわき起こる「万霊節」と、どれも素晴らしい曲であり、演奏ですね。
ジャケットの深い森に入っていく若い男女の絵も、視覚を通してドイツ・ロマン派の世界に誘ってくれますね。
このLPだけでなく、くまぐすさんもおっしゃるようにCBSのオムニバス盤も本当に楽しかったので、このまま埋もれたままでいるのがもったいない気がします。いつか復活する日が来ることを気長に待ちたいものですね。

投稿: フランツ | 2008年9月 9日 (火曜日) 19時45分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/150976/42397086

この記事へのトラックバック一覧です: アーメリング&ボールドウィン/ドイツ・ロマン派歌曲集(LP):

« 梅丘歌曲会館「詩と音楽」投稿(2) | トップページ | アーメリング&ボールドウィンのCBS SONYオムニバスLP2種 »