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演奏家の引き際-ロッテ・レーマンの場合

かつて名伴奏者と謳われたジェラルド・ムーア(Gerald Moore)がステージからの引退を表明した際、長くEMIを牛耳ってきたプロデューサーのウォルター・レッグは、彼のお気に入りの歌手3人に共演のアポをとり、1967年2月にロンドンで彼のためにフェアウェル・コンサートを催した。
ムーアはテレビでの演奏やLP録音についてはさらに5年ほど継続した。

メッゾ・ソプラノのクリスタ・ルートヴィヒ(Christa Ludwig)や、ソプラノのエリー・アーメリング(Elly Ameling)、テノールのペーター・シュライアー(Peter Schreier)は、引退表明後に世界中でフェアウェル・コンサートのツアーを催し、各地のファンに別れを告げた。

ソプラノのE.シュヴァルツコプフ(Elisabeth Schwarzkopf)は、世界各地でのフェアウェル・コンサートを長年かけて徐々に催してきたが、1979年3月19日に催したチューリヒのリサイタルの3日後に主君のウォルター・レッグが亡くなったのをきっかけに演奏活動を辞めて、指導者に専念した。

一方、メッゾソプラノのブリギッテ・ファスベンダー(Brigitte Fassbaender)や、バリトンのD.フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)は、突然引退を表明して、フェアウェル・コンサートを催すこともなく歌手としての活動を終えてから、前者は歌劇場の演出家として、後者は指揮者、ナレーターなどとしての活動を継続した。

往年のメッゾ・ソプラノのエレーナ・ゲーアハルト(Elena Gerhardt)の場合は、ムーアの自叙伝「お耳ざわりですか」(1982年 音楽之友社)によると、1947年3月に共演者のムーアに対して「この次のリヴァプールでの演奏会が、私の最後の演奏会になると思うわ」と打ち明け、リヴァプールの聴衆には何も知らされないまま演奏会が催され、そのまま演奏活動から幕を下ろしたのだという。

それでは、20世紀前半の名ソプラノ、ロッテ・レーマン(Lotte Lehmann: 1888.2.27, Perleberg - 1976.8.26, Santa Barbara, CA)の場合はどうだったのか。
ここに1枚の実況録音がある。
"LOTTE LEHMANN: The New York Farewell Recital (1951)"と題されている。

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「ロッテ・レーマン:ニューヨーク・フェアウェル・リサイタル(1951)」
Lehmann_ulanowsky_1951VAI Audio: VAIA 1038
録音:1951年2月 Town Hall
ロッテ・レーマン(Lotte Lehmann)(S)
ポール・ウラノウスキー(Paul Ulanowsky)(P)

シューマン
1.献呈Op. 25-1
2.おお殿方よOp. 37-3
3.セレナーデOp. 36-2
4.誰があなたをこれほど傷つけたのかOp. 35-11
5.昔の響きOp. 35-12

メンデルスゾーン
6.月Op. 86-5
7.ヴェネツィアのゴンドラの歌Op. 57-5

コルネーリウス
8.一つの音Op. 3-3
9.子守歌Op. 1-3

ヴァーグナー
10.夢

フランツ
11.音楽のためにOp. 10-1
12.セレナーデOp. 17-2
13.おやすみOp. 5-7
14.まだ覚えているかいOp. 16-5
15.これもあれもOp. 30-5

シューベルト
歌曲集「美しい水車屋の娘」D795より
16.どこへD795-2
17.小川への感謝D795-4
18.知りたがり屋D795-6
19.涙の雨D795-10
20.好きな色D795-16
21.小川の子守歌D795-20

22.音楽に寄せてD547

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レーマンはこのリサイタルの前にニューヨークでの最後のリサイタルということを明かしていなかった。
前半のプログラム終了時に彼女はとうとう切り出した。
「私は自分自身の葬式を祝いたいとは思わないので、事前に発表したくなかったのですが、これがニューヨークでの私の最後のリサイタルです。」
これを聞いて聴衆は思わず「ノー!」と叫ぶ。
「有難う。そう言ってくださると思っていました。」とレーマンは感謝の気持ちを聴衆と共演者のウラノウスキーに語る。
その時の彼女の言葉はこのCDには含まれていないが、YouTubeで聞くことが出来る。

http://www.youtube.com/watch?v=6ZStXBXrGqc&feature=related

アンコールで「最後に「音楽に寄せて」を歌ってみます。」と言って、彼女の最後の絶唱が始まる。
これは最後の舞台になんとふさわしい曲なのだろうか。
音楽への愛惜の思いをこめた彼女の歌が力強く響き渡る。
しかし、最後の一言"[Du holde Kunst,] ich danke dir dafür!"([いとしい芸術よ、]あなたに感謝します)は涙で言葉にならず、ウラノウスキーがそっと歌の旋律を弾いて幕は下りたのだった。

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ホルツマイア&クーパー/アイヒェンドルフ歌曲集

アイヒェンドルフ歌曲集(EICHENDORFF LIEDER)
Holzmair_cooper_eichendorffPHILIPS: 464 991-2
録音:1999年10月13-17日、Haydnsaal, Schloss Esterházy, Eisenstadt
ヴォルフガング・ホルツマイア(Wolfgang Holzmair)(BR)
イモジェン・クーパー(Imogen Cooper)(P)

メンデルスゾーン(Mendelssohn: 1809-1847)
1.森の城(Das Waldschloß)
2.小姓の歌(Pagenlied)

フランツ(Franz: 1815-1892)
3.おやすみ(Gute Nacht)Op. 5-7
4.狩の歌(Jagdlied)Op. 1-9

メンデルスゾーン
5.夜の歌(Nachtlied)Op. 71-6
6.さすらいの歌(Wanderlied)Op. 57-6

シューマン(Schumann: 1810-1856)
歌曲集「リーダークライス(Liederkreis)」Op. 39
7.異国にて(In der Fremde)
8.間奏曲(Intermezzo)
9.森の会話(Waldesgespräch)
10.静けさ(Die Stille)
11.月夜(Mondnacht)
12.美しい異国(Schöne Fremde)
13.城の上で(Auf einer Burg)
14.異国にて(In der Fremde)
15.悲しみ(Wehmut)
16.たそがれ(Zwielicht)
17.森にて(Im Walde)
18.春の夜(Frühlingsnacht)

アリベルト・ライマン(Aribert Reimann: 1936-)
歌曲集「夜曲(Nachtstück)」
19.私たちは誠実に見張っている(Wir ziehen treulich auf die Wacht)
20.とても陽気に歌っていた鳥たち(Die Vöglein, die so fröhlich sangen)
21.城の前で木々の中を(Vor dem Schloß in den Bäumen)
22.谷底が呼んでいるのが聞こえるかい(Hörst du die Gründe rufen)
23.ここで私は誠実な見張りのように立っている(Hier steh ich wie auf treuer Wacht)

ヴォルフ(Wolf: 1860-1903)
24.楽師(Der Musikant)
25.セレナーデ(Das Ständchen)
26.なによりいいのは(Lieber alles)
27.夜(Die Nacht)
28.郷愁(Heimweh)
29.愛の幸せ(Liebesglück)
30.やけっぱちの恋人(Der verzweifelte Liebhaber)
31.ひめやかな愛(Verschwiegene Liebe)
32.船乗りの別れ(Seemanns Abschied)

ツェムリンスキー(Zemlinsky: 1871-1942)
33.町の前で(Vor der Stadt)

コルンゴルト(Korngold: 1897-1957)
34.夜にさすらう人(Nachtwanderer)Op. 9-2

プフィッツナー(Pfitzner: 1869-1949)
35.秋に(Im Herbst)Op. 9-3
36.誘い(Lockung)Op. 7-4
37.わが娘との別れに(Zum Abschied meiner Tochter)

シェック(Schoeck: 1886-1957)
38.追悼(Nachruf)

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「のらくら者の日記」などで知られるヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ(Joseph Karl Benedikt Freiherr von Eichendorff: 1788.3.10, Schloss Lubowitz bei Ratibor - 1857.11.26, Neisse)はドイツ・ロマン派の代表的詩人の一人であり、自然の中に身をおいた詩人の心のうちを吐露した詩は多くの作曲家の作曲意欲をかき立てた。
最も有名なのはシューマンの歌曲集「リーダークライス」Op. 39だろうが、ヴォルフは20曲(後に3曲削除)からなる「アイヒェンドルフの詩(Gedichte von Eichendorff)」を作曲し、ほかにもフランツ、ブラームス、メンデルスゾーン、プフィッツナー、シェックなども作曲している。
シューベルトがもっと長生きしていたらおそらく彼の詩に作曲していただろう。
森、山、雲、海、小川、夜、月、星、風、ナイチンゲール、バラ、等々ドイツ・ロマン派のキーワードに事欠かない彼の詩は、読み手や聴き手のイメージを充分にふくらませる。
一方、ヴォルフの「アイヒェンドルフ歌曲集」が、上述の要素に限らず、勇壮な人物像を数多くとりあげているのは、この詩人に対するありきたりのイメージを払拭するのに役立っているかもしれない。

これはアイヒェンドルフの詩による歌曲を38曲集めたCDだが、シューマンやヴォルフのみによるアイヒェンドルフ歌曲集はこれまでにも出ているが、9人の作曲家による集成というのは意外とありそうでなかった企画ではないだろうか。
思い出す限りではF=ディースカウ&サヴァリシュのザルツブルク・ライヴがあったぐらいだろうか。

ここで演奏しているのは、朴訥とした表情がなんとも魅力的なハイバリトンの美声歌手ヴォルフガング・ホルツマイアと、歌曲ピアニストとしても最高の一人と思うイモジェン・クーパーである。
ホルツマイアは今年のラ・フォル・ジュルネで久しぶりに来日する筈だったのだが、何故かキャンセルとなったのが残念である(来日していてもチケットは取れなかったので聴けなかったのだが)。

メンデルスゾーンやフランツの歌曲は確かにシューベルトやシューマンのような斬新さを歌曲史にもたらさなかったが、無視するにはあまりにも惜しい美しい小品を沢山残してくれた。
その一端をこのアルバムで聴けるのがなんともうれしい。

シューマンの「リーダークライス」はこのアルバムの目玉といっていいだろう。
メランコリックな「異国にて」(1曲目)や繊細な美しさが比類ない「月夜」など名曲の宝庫だが、なかでも9曲目の「悲しみ」という曲が個人的には気に入っている。
長調の穏やかな響きの中でひっそりと語られる心の底の悲しみがなんとも切なく、後奏の響きがまた慰撫するような優しさにあふれていて、私にとって癒しの1曲である。

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Wehmut, Op. 39-9
 悲しみ

Ich kann wohl manchmal singen,
Als ob ich fröhlich sei,
Doch heimlich Tränen dringen,
Da wird das Herz mir frei.
 私は時に歌うことができる、
 あたかも陽気であるかのように。
 だがひそかに涙があふれ出る、
 それで私の心は解き放たれるのだ。

Es lassen Nachtigallen,
Spielt draußen Frühlingsluft,
Der Sehnsucht Lied erschallen
Aus ihres Kerkers Gruft.
 ナイチンゲールは、
 外で春風が戯れると、
 憧れの歌を響かせる、
 牢獄の墓場から。

Da lauschen alle Herzen,
Und alles ist erfreut,
Doch keiner fühlt die Schmerzen,
Im Lied das tiefe Leid.
 あらゆる心が耳をそばたてて
 なにもかもが喜ぶ。
 だが、誰も苦痛を感じないのだ、
 歌にひそむ深い悲しみを。

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アリベルト・ライマンはF=ディースカウやファスベンダーのピアノ共演者としても有名な作曲家で、オペラ「リア王」などの作品がよく知られている。
この5つの歌曲は、あたかも筆跡の濃淡や、絵と余白がお互いを引き立てている水墨画のような趣を感じた。
余韻に多くを語らせるという特徴はわれわれ日本人には馴染みやすいかもしれない。

ヴォルフの「アイヒェンドルフ歌曲集」は、彼の作品としては例外的に親しみやすく楽しい。
ヘルマン・プライが得意としていたのもうなずける。
ここでホルツマイアが歌った9曲は、この歌曲集の様々な側面を満遍なくとりあげていて良い選曲だと思う。
「船乗りの別れ」の前奏の和音は当時ブルックナーを驚かせたほど斬新だったようだ。
「ひめやかな愛」はヴォルフらしくない素直に美しい旋律が紡がれる名作でしばしば歌われる。
私は「夜」という作品の神秘的な響きがとりわけ気に入っているが、あまりにも伝統にのっとっていると感じたのだろうか、ヴォルフは「アイヒェンドルフ歌曲集」の改訂版出版の際にこの曲を外してしまうのである。

ツェムリンスキーの「町の前で」は楽師の奏でる音楽がピアノパートで表現されるが、ヴォルフなどと比べるとすでに後期ロマン派の響きが感じとれる。

コルンゴルトの「夜にさすらう人」はなまめかしいピアノの響きが耳が残る(似たような日本歌曲があったような)。

プフィッツナーは「ダンツィヒにて」のような優れたアイヒェンドルフ歌曲を多く残しているが、ここでは3曲が選ばれている。
Op. 9は5曲からなる小さなアイヒェンドルフ歌曲集でいずれも大変魅力的だが、ここで歌われている「秋に」はアルペッジョの響きにのって秋のぞくっとするような寂寥感がなんとも心に迫ってくる作品である。
「わが娘との別れに」はF=ディースカウも好んで歌っていたが、後半に向けて高揚していく真に感動的な作品である。

スイス人、オットマル・シェックは20世紀の作曲家の中で最もロマンティックな歌曲に力を注いだ作曲家だろう。
アイヒェンドルフの詩による膨大な数の歌曲を作っているが、この「追悼」は素直で親しみやすい歌の旋律と、リュートを模した際立って美しいピアノの響きで、アルバムの最後をしめくくるにふさわしい素敵な作品である。

ホルツマイアはオーストリア出身の貴重なバリトン歌手として数々の歌曲を歌ってきたが、純粋で素直な彼持ち前の魅力はそのままに、さらに安定した歌唱技術と細やかな表現力が加わり、ますます熟した歌を聴かせてくれた。
彼のシューベルトを聴くといつも、ヴィーンなまりのSの響きがところどころ顔を出すのが微笑ましく、洗練された標準ドイツ語からは得られない地方特有の温もりを感じたものだが、今回の歌曲集でもそれが聴かれたのが懐かしく感じられた。

イモジェン・クーパーは、例えばメンデルスゾーンやフランツの一見素朴なピアノパートから驚くほどの奥行きと躍動感を表現し、本来の魅力を最大限に引き出していた。
バルカローレのようなリズムの「おやすみ」での寂寥感、あるいは「狩人の歌」でひたすら元気な響きの中で見せる細やかな表情の変化など、これらの作品がロマン派の歌曲史の中で確かに重要な存在意義を持っていることを実感させてくれるような素晴らしい演奏であった。
「リーダークライス」ではシューマン特有の線の絡み合いがなんとも味わい深く、一つ一つの音がしっかり呼吸していて、ただただ聴きほれていた。
最終曲「春の夜」での1箇所のミスタッチだけが惜しい。
録り直しできなかったのだろうか。
ヴォルフの「船乗りの別れ」での雄弁な表現にはブラヴォーである。

これはあまり知られていないCDだと思うが、1人の詩人からいかに多くの解釈の可能性が生まれるかを知ることの出来る貴重な録音だと思う。
おそらくまだ廃盤にはなっていないと思うので興味のある方は聴いてみてください(HMVでは扱っていないかもしれません。amazonで入手可能です)。

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アーメリング&ボールドウィンのCBS SONYオムニバスLP2種

エリー・アメリンク・リサイタル(SOUVENIRS)(全17曲)
Ameling_baldwin_souvenirsCBS SONY: 25AC 680 (LP)
録音:1977年11月, 30th Street Studio, NYC
エリー・アメリンク(Elly Ameling)(S)
ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(P)

1.ロッシーニ(Rossini)/踊り(La danza)2'54
2.カントルーブ(Canteloube)/「オーヴェルニュの歌」:子守歌(Brezairola)3'16
3.ロドリーゴ(Rodrigo)/お母さん、ポプラの林へ行ってきたよ(De los alamos)1'58
4.ヴュイエルモズ(Vuillermoz)/愛の庭(Jardin d'amour)2'59
5.ラフマニノフ(Rachmaninoff)/雪解け(Spring waters)1'57
6.アーン(Hahn)/ラストワルツ(La dernière valse)4'41
7.アイヴズ(Ives)/追憶(Memories)2'38
8.シェーンベルク(Schönberg)/ギゲールレッテ(Gigerlette)1'39
9.中田喜直(Nakada)/おやすみなさい2'12

10.パーセル(Purcell)/憩いの音楽(Music for a while)4'11
11.ウェルドン(Weldon)/眠らないよるうぐいす(The wakeful nightingale)1'52
12.ブリトゥン(Britten)/おお、あわれよ(O Waly, Waly)3'49
13.マルタン(Martin)/菩提樹の下で(Unter der Linden)2'47
14.リスト(Liszt)/おお、いとしい人よ(O lieb)5'20
15.シベリウス(Sibelius)/春は飛ぶが如く足早に(Våren flyktar hastigt)1'38
16.オランダ民謡(Dutch folk song)/母(Moeke)1'47
17.フレブレーク(Hullebroeck)/アフリカーンスの子守歌(Afrikaans Wiegeliedjie)2'35

(日本語表記はジャケット記載に従った)

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愛の小径~エリー・アメリング愛唱集(Think On Me: Personal Favourites)(全16曲)
Ameling_think_on_meCBS SONY: 28AC 1242 (LP)
録音:1979年10月, オランダ
エリー・アメリング(Elly Ameling)(S)
ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(P)

1.スコットランド古謡(Old Scots Air)/わたしのことを思ってね(Think on me)4'29
2.ヴェッケルリン(Weckerlin)/タンブラン(Tambourin)1'11
3.オランダ民謡(Dutch folk song)/冬に雨が降ると(Des winters als het regent)2'36
4.ヴォーン・ウィリアムズ(Vaughn Williams)/しずかな真昼(Silent noon)4'47
5.ドヴォルザーク(Dvořák)/わが母の教え給いし歌(Als die alte Mutter)2'18
6.リスト(Liszt)/愛はすばらしいもの(Es muss ein Wunderbares sein)2'12
7.ブラームス(Brahms)/乙女の唇はバラのように赤い(Mein Mädel hat einen Rosenmund)1'51
8.ワーグナー(Wagner)/夢(Träume)5'33

9.グラナドス(Granados)/かしこいマホ(El majo discreto)1'31
10.グァスタビーノ(Guastavino)/バラと柳(La rosa y el sauce)2'52
11.ニン(Nin)/パーニョ・ムルシアーノ(Paño murciano)1'40
12.モンサルバーチェ(Montsalvatge)/黒人の子守歌(Canción de cuna para dormir a un negrito)2'40
13.トゥリーナ(Turina)/恋狂い(Las locas pór amor)1'18
14.プーランク(Poulenc)/愛の小径(Les chemins de l'amour)3'54
15.アーン(Hahn)/リラにくる夜ウグイス(Le rossignol des lilas)2'00
16.ガーシュイン(Gershwin)/シュトラウス礼讃(By Strauss)2'46

(日本語表記はジャケット記載に従った)

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エリー・アーメリングは1970年代にCBS SONYのためにいくつかのLP録音を行った。
シューベルトの四季に因んだ歌曲集やメンデルスゾーン歌曲集、クリスマス・アルバムなどがあるが、とりわけ印象深いのが、ここに挙げた1977年と1979年にドルトン・ボールドウィンとともに録音した2枚のオムニバス・アルバムである。

1977年の"SOUVENIRS"と題されたLPはアーメリングのアメリカ演奏旅行中に録音されたそうだ。
ここで歌われる言語は細かく分ければ実に13ヶ国語!
イタリア語ではじまり、仏オヴェルニュ地方方言、スペイン語、フランス語、ロシア語、米語、英語、ドイツ語、日本語、中世ドイツ語、スウェーデン語、オランダ語、アフリカーンス語まですべて原語のままである!
ロッシーニの「踊り」は月ののぼった浜辺で男女が夜を徹して踊ろうではないかと歌われる。
8分の6拍子のタランテラのリズムによるダンスミュージックをボールドウィンが全く破綻もなく軽やかに弾きこなし、アーメリングが余裕のある早口で楽しげに歌う。
カントルーブ「子守歌」の前奏でのボールドウィンの歌にあふれた演奏は特筆すべきだろう。
なかなか眠らない子に向けた子守歌はどこまでも心地よく、歌いながら眠ってしまいそうな甘美さだ。
アーメリングの魅力全開である。
ロドリーゴの「お母さん、ポプラの林へ行ってきたよ」は実演でも聴いたが、意外とピアノパートが複雑のようで、その時弾いていたヤンセンの手の動きがあわただしかったのを覚えている。
言うまでもなく恋人との逢引を歌った内容である。
ラフマニノフの有名な歌曲「雪解け」(「春の洪水」という訳でも知られる)はオリジナルのロシア語で歌われているが、アーメリングのロシア語の歌唱が聴ける録音はほかにないのではないだろうか。
彼女はムソルクスキーの歌曲集「子供部屋」なども手がけているが、いつもドイツ語訳で歌っていたようだ。
ラフマニノフらしい超絶技巧が求められる「雪解け」のピアノパートもボールドウィンは完璧に弾きこなしていて素晴らしい。
面白いのがアイヴズの「追憶」という曲で、アイヴズ自身の2つの詩を合わせて1曲にしている。
前半は歌曲史上最も早口が要求されるのではないかと思われるほどの高速で"Very Pleasant(非常に楽しく)"と指示され、劇場で開幕を待つときめきを歌う。
早口の間にアーメリングの軽快な口笛まで聞ける!
一方、後半は一転して"Rather Sad(かなり悲しげに)"と指示され、懐かしいメロディーを耳にして、祖父がその歌を歌っていた思い出にひたるという哀愁漂う音楽である。
陽気さとメランコリーの両面を瞬時に切り替えて、どちらも見事に歌うアーメリングの表現の幅広さを堪能した。
中田喜直の「おやすみなさい」は彼女の言葉に対する感覚の見事さを実感させてくれる見事な歌唱だった。
もちろん"r"が巻き舌になっていたり、"e"を伸ばす時ドイツ語のように「エ」と「イ」の中間のような発音になったり(極端に言えば「帰るまで」が「カエルマディー」のように聞こえる感じ)完璧でない箇所を指摘することは出来るが、そういう部分を含みながらも、彼女が歌の核心を理解しようとして、かなり成功しているように感じられるのは、単なる私の贔屓だけではないように思う。
日本語をはっきりと聞き手に伝え、しかもその言葉を西洋の法則に則ってつくられた旋律に乗せて魅力を引きだすのは日本人でも容易なことではないと思う。
その意味で彼女がこのレコードで聞かせた「おやすみなさい」は、ネイティヴではない外国人が日本語の響きを一から学んで歌ったがゆえの魅力を引きだすことに成功していると言えるのではないか。
私は彼女がこの曲を来日公演のアンコールで歌ったのを実際に聴いたことがあるが、さらに海外の音楽祭のアンコールでも彼女がこの曲を歌っているのを知り、単なる日本人へのサービスではなく、国境を問わず、気に入った作品を世界に発信しようとしている姿勢に感銘を受けた。
パーセルの「憩いの音楽」(「しばしの音楽」などとも訳される)はヴィブラートを抑制気味にして、装飾的なパッセージも織り込むなど、アーメリングの古楽風アプローチが耳に心地よい。
リストの「おお、いとしい人よ」(「愛せる限り愛せ」)は、あまりにも有名なピアノ曲「愛の夢第3番」の元歌だが、私もピアノ曲の方を先に知っていて、このアルバムではじめて原曲に接することが出来たものだった。
ピアノ編曲版での即興的なパッセージはオリジナルのこの歌曲には無く、リストが歌曲をピアノ曲に編曲する術は他人の作品でも自作でも変わらないようだ。
シベリウスの有名な歌曲に続いて、最後に母国語の民謡「母」と、南アフリカのオランダ語であるアフリカーンス語による「アフリカーンスの子守歌」でアルバムを締めくくる。
コミカルなリフレインが印象的な「母」と、素朴で非常に美しい「アフリカーンスの子守歌」、どちらもオランダ語であるがゆえの自在さはあるのだろうが、他国の歌曲と基本的にアプローチは変わらないように感じられ、アーメリングの歌曲との接し方に一切のブレがないのが、「歌曲の女王」たる所以ではないだろうかと感じた。

77年のアルバム紹介だけで長くなってしまった。
79年録音のアルバムも彼女の多彩さと温もりの詰まった素晴らしい作品である。
ヴァーグナーの官能的な「夢」のような作品にあえてチャレンジしているのもうれしい。
「夢」での彼女の歌唱は、オペラティックに歌われることの多いこの曲からリートらしさを取り戻したような歌いぶりであった。
意外と相性のよさを感じさせたのがスペイン歌曲。
アルゼンチンのグァスタビーノ「バラと柳」は、柳が思いを寄せていたバラが少女に折られてしまい悲しむという内容だが、そのメランコリックな曲調は彼女の声質にぴったりはまって美しかった。
一方、ニンの「パーニョ・ムルシアーノ」でも気取りのない声がこの作品と意外なほど相性がよく、見事だった。
ほかにもヴォーン・ウィリアムズ「しずかな真昼」、ドヴォルザーク「わが母の教え給いし歌」、プーランク「愛の小径」など素敵な歌唱が盛り沢山である。
最後に置かれたガーシュウィンの「シュトラウス礼讃」(バイ・シュトラウス)は、作曲家の兄アイラの詩によるもので、アーヴィン・バーリンもコール・ポーターもガーシュウィン(!)も聞きたくない、ウィーンのワルツを流しておくれ、「ドーナウ」や「こうもり」のようなJ.シュトラウスのワルツを!という内容である。
こういう音楽も彼女流に律儀に調理してしまうのが素晴らしい。
ポピュラー畑の人の歌唱とはもちろん違うが、これはこれでなんとも楽しい。
YouTubeにもこの曲を歌う彼女のライヴがアップされているので興味のある方はご覧ください。
http://jp.youtube.com/watch?v=j0Pq9X29mEo

とにかく彼女の温かく、気取りがなく、聞き手の心にじかに歌いかけてくれるような親密な空間を作り出す彼女の魅力が詰まった非常に楽しい2枚のアルバムです。
CD化は期待できないかもしれませんが、東京文化会館の音楽資料室ではおそらく聞けるでしょうし、中古店やオークションなどでLPが入手できる可能性はあるので、機会があれば是非聴いてみてください。

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アーメリング&ボールドウィン/ドイツ・ロマン派歌曲集(LP)

Ameling_baldwin_german_romantic_son「くるみの木~ドイツ・ロマン派歌曲集(German Romantic Songs)」
日本フォノグラム: PHILIPS: X-7806
録音:1976年9月10~14日、Kleine zaal, Concertgebouw, Amsterdam
エリー・アーメリング(Elly Ameling)(S)
ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(P)

1.シューマン/献呈(Widmung) 作品25の1
2.シューマン/くるみの木(Der Nussbaum) 作品25の3
3.シューベルト/夜咲きすみれ(Nachtviolen) D752
4.ヴォルフ/夏の子守歌(Wiegenlied im Sommer)
5.マーラー/夏の交代(Ablösung im Sommer)
6.レーガー/二人だけの森(Waldeinsamkeit) 作品76の3
7.メンデルスゾーン/恋する女の手紙(Die Liebende schreibt) 作品86の3
8.ブラームス/ああお母さん、欲しいものがあるの(Och Moder, ich well en Ding han)
9.ブラームス/姉さん(Schwesterlein)
10.フランツ/私の大きな苦しみから(Aus meinen großen Schmerzen) 作品5の1

11.R.シュトラウス/たそがれの中を行く夢(Traum durch die Dämmerung) 作品29の1
12.R.シュトラウス/言いました-それだけではすみません(Hat gesagt - bleibt's nicht dabei) 作品36の3
13.プフィッツナー/それで空が春にはこんなに青いのだろうか?(Ist der Himmel darum im Lenz so blau) 作品2の2
14.ヴォルフ/庭師(Der Gärtner)
15.レーヴェ/漁師(Der Fischer) 作品43の1
16.シューベルト/あなたは憩い(Du bist die Ruh)D776
17.R.シュトラウス/万霊節(Allerseelen) 作品10の8
18.R.シュトラウス/セレナード(Ständchen) 作品17の2

(日本語表記はレコードジャケットによる)

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たまに懐かしいLPレコード時代の録音を聴きたくなる。
アーメリングとボールドウィンによる「ドイツ・ロマン派歌曲集」というレコードをMDにおとした演奏を久しぶりに聴いて、残暑の疲れを癒しているところである。
アーメリングの声と表現の充実していた時期に名コンビのボールドウィンとともに録音した彼女の代表作の1つだと思うが、残念ながらCD化されたのはシューベルトの2曲のみで、ほかは未だ復活しない。

エリー・アーメリングは50年代半ばに2つのコンクール(オランダのセルトーヘンボスとスイスのジュネーヴ)で優勝後、フランスのバリトン歌手ピエール・ベルナックに師事し、オラトリオやリサイタルを中心に活動を始めたが、60年代の半ばから後半にかけてHarmonia mundiにシューベルト、シューマン、ブラームスなどの歌曲をデームス、シェトラーと録音、同時にバッハのカンタータなども手がけ、清澄でつやのある歌声を惜しげもなく伸び伸びと披露していた。
この頃はなんといってもその爽やかでみずみずしい美声が彼女の最高の魅力だった。
60年代後半から彼女はPHILIPSやEMIで一連のドイツ、フランス歌曲をボールドウィンとともにさらに録音する。
このあたりから彼女の声は徐々に落ち着きを見せはじめ、声を絶妙にコントロールする知性がさらに増してきた。
素晴らしい数々のシューベルトの録音をはじめ、ブラームス、ヴォルフの歌曲集や、ハイドン、モーツァルトの全集なども録音するのだが、70年代半ばに彼女が満を持して録音したこの「ドイツ・ロマン派歌曲集」は、リート芸術とアーメリングの芸術双方のエッセンスが詰まっているような素晴らしい企画であった。

内訳はR.シュトラウスが4曲、
シューベルト、シューマン、ブラームス、ヴォルフが各2曲、
レーヴェ、メンデルスゾーン、フランツ、マーラー、プフィッツナー、レーガーが各1曲で、
計11人の作曲家による18曲のアンソロジーである。
リートの重要な作曲家をほぼ網羅した内容である一方、なかなか録音で聴けない珍しい作品もあるので、リート初心者、愛好家のどちらにも配慮しているのが感じられる。
目を引くのがR.シュトラウスを4曲も歌っていること。
彼女はシュトラウスのソロ・アルバムを一度も録音しなかったが、それは引退公演時の彼女のインタビューによれば、彼女の意思というよりもレコード会社からオファーがなかったかららしい。
実際、最近リリースされた放送用録音集では「4つの最後の歌」を含む14曲ものシュトラウス歌曲を歌っている。
確かに彼女の声にはシュトラウスの爛熟した要素は希薄かもしれないが、「万霊節」での真摯な表現、「言いました-それだけではすみません」でのユーモアなど、彼女の良さが生きるレパートリーは決して少なくないと思う。

このレコードでは、まずシューマンの開放的な「献呈」としっとりとした「くるみの木」ではじめ、この作曲家の二面性を表現する。
そしてシューベルトの「夜咲きすみれ」という彼女にうってつけの曲が続く。
マーラー「夏の交代」やブラームスの「ああお母さん、欲しいものがあるの」でのユーモラスな語りは彼女のうまさ健在というところだが、ブラームス「姉さん」での悲痛さの細やかな表情や、レーヴェ「漁師」でのバラーデの語り口の巧みさはまさに彼女が表現力において上り坂にあったことを感じさせる見事さである。
レーガー「二人だけの森」やフランツ「私の大きな苦しみから」、プフィッツナー「それで空が春にはこんなに青いのだろうか?」は地味だが、彼女が歌うと小さな宝石のようにひっそりと魅力を放つ。
こういう演奏を聴くと、選曲のうまさがアーメリングの美質の1つであることをあらためて思い出させてくれる。
このアルバムで私が最も気に入っているのが、ヴォルフの「夏の子守歌」である。
3節の有節歌曲なのだが、各節の最後を
"Gut' Nacht, gut' Nacht, lieb' Kindlein, gute Nacht!"
(おやすみ、かわいい子、おやすみね!)
と締めくくるところのアーメリングの歌いぶりは彼女にしか出せない親しみやすい温かさがあって、なんとも心地よいのだ。

ドルトン・ボールドウィンはどの曲をとっても隙のない素敵なアンサンブルを築いている。
彼はうまさを前面でひけらかすタイプではないので、昔はその凄さにあまり気付いていなかったのだが、今こうして聴いてみると、どんなタイプの曲にもぴったり対応して、歌とバランス・呼吸の両面で一体になりながら、完璧に演奏する手腕はどんなに凄いことかと思う。
歌曲のピアニストは普通は自分でレパートリーを選べない。
従って、歌手の選んだどんな難曲も弾きこなすテクニックと音楽性を兼ね備えていなければならない。
これはある意味、ソリスト以上に多くのものを求められているということではないだろうか。
その点、ボールドウィンは間違いなくムーア、パーソンズの後に続く歌曲演奏の功労者といっていいのではないだろうか。

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梅丘歌曲会館「詩と音楽」投稿(2)

先日、歌曲サイト「詩と音楽」に新作2曲を投稿しましたが、今度は私のブログですでに発表してきた記事の中からシューベルトの6曲に若干手を加えて再び投稿しました。

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梅丘歌曲会館「詩と音楽」更新情報
http://umekakyoku.at.webry.info/200809/article_4.html

シューベルト「収穫の歌(Erntelied)」D434
http://homepage2.nifty.com/182494/LiederhausUmegaoka/songs/S/Schubert/S1927.htm

シューベルト「流れ(Der Strom)」D565
http://homepage2.nifty.com/182494/LiederhausUmegaoka/songs/S/Schubert/S1928.htm

シューベルト「蝶々(Der Schmetterling)」D633
http://homepage2.nifty.com/182494/LiederhausUmegaoka/songs/S/Schubert/S1929.htm

シューベルト「幸福の世界(Selige Welt)」D743
http://homepage2.nifty.com/182494/LiederhausUmegaoka/songs/S/Schubert/S1930.htm

シューベルト「白鳥の歌(Schwanengesang)」D744
http://homepage2.nifty.com/182494/LiederhausUmegaoka/songs/S/Schubert/S1931.htm

シューベルト「秋(Herbst)」D945
http://homepage2.nifty.com/182494/LiederhausUmegaoka/songs/S/Schubert/S1932.htm

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弊ブログをご覧くださっている皆様には記事の内容に新鮮味はないかもしれませんが、よろしければご覧ください。

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