アーメリング&ボールドウィンのCBS SONYオムニバスLP2種
エリー・アメリンク・リサイタル(SOUVENIRS)(全17曲)CBS SONY: 25AC 680 (LP)
録音:1977年11月, 30th Street Studio, NYC
エリー・アメリンク(Elly Ameling)(S)
ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(P)
1.ロッシーニ(Rossini)/踊り(La danza)2'54
2.カントルーブ(Canteloube)/「オーヴェルニュの歌」:子守歌(Brezairola)3'16
3.ロドリーゴ(Rodrigo)/お母さん、ポプラの林へ行ってきたよ(De los alamos)1'58
4.ヴュイエルモズ(Vuillermoz)/愛の庭(Jardin d'amour)2'59
5.ラフマニノフ(Rachmaninoff)/雪解け(Spring waters)1'57
6.アーン(Hahn)/ラストワルツ(La dernière valse)4'41
7.アイヴズ(Ives)/追憶(Memories)2'38
8.シェーンベルク(Schönberg)/ギゲールレッテ(Gigerlette)1'39
9.中田喜直(Nakada)/おやすみなさい2'12
10.パーセル(Purcell)/憩いの音楽(Music for a while)4'11
11.ウェルドン(Weldon)/眠らないよるうぐいす(The wakeful nightingale)1'52
12.ブリトゥン(Britten)/おお、あわれよ(O Waly, Waly)3'49
13.マルタン(Martin)/菩提樹の下で(Unter der Linden)2'47
14.リスト(Liszt)/おお、いとしい人よ(O lieb)5'20
15.シベリウス(Sibelius)/春は飛ぶが如く足早に(Våren flyktar hastigt)1'38
16.オランダ民謡(Dutch folk song)/母(Moeke)1'47
17.フレブレーク(Hullebroeck)/アフリカーンスの子守歌(Afrikaans Wiegeliedjie)2'35
(日本語表記はジャケット記載に従った)
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愛の小径~エリー・アメリング愛唱集(Think On Me: Personal Favourites)(全16曲)CBS SONY: 28AC 1242 (LP)
録音:1979年10月, オランダ
エリー・アメリング(Elly Ameling)(S)
ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(P)
1.スコットランド古謡(Old Scots Air)/わたしのことを思ってね(Think on me)4'29
2.ヴェッケルリン(Weckerlin)/タンブラン(Tambourin)1'11
3.オランダ民謡(Dutch folk song)/冬に雨が降ると(Des winters als het regent)2'36
4.ヴォーン・ウィリアムズ(Vaughn Williams)/しずかな真昼(Silent noon)4'47
5.ドヴォルザーク(Dvořák)/わが母の教え給いし歌(Als die alte Mutter)2'18
6.リスト(Liszt)/愛はすばらしいもの(Es muss ein Wunderbares sein)2'12
7.ブラームス(Brahms)/乙女の唇はバラのように赤い(Mein Mädel hat einen Rosenmund)1'51
8.ワーグナー(Wagner)/夢(Träume)5'33
9.グラナドス(Granados)/かしこいマホ(El majo discreto)1'31
10.グァスタビーノ(Guastavino)/バラと柳(La rosa y el sauce)2'52
11.ニン(Nin)/パーニョ・ムルシアーノ(Paño murciano)1'40
12.モンサルバーチェ(Montsalvatge)/黒人の子守歌(Canción de cuna para dormir a un negrito)2'40
13.トゥリーナ(Turina)/恋狂い(Las locas pór amor)1'18
14.プーランク(Poulenc)/愛の小径(Les chemins de l'amour)3'54
15.アーン(Hahn)/リラにくる夜ウグイス(Le rossignol des lilas)2'00
16.ガーシュイン(Gershwin)/シュトラウス礼讃(By Strauss)2'46
(日本語表記はジャケット記載に従った)
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エリー・アーメリングは1970年代にCBS SONYのためにいくつかのLP録音を行った。
シューベルトの四季に因んだ歌曲集やメンデルスゾーン歌曲集、クリスマス・アルバムなどがあるが、とりわけ印象深いのが、ここに挙げた1977年と1979年にドルトン・ボールドウィンとともに録音した2枚のオムニバス・アルバムである。
1977年の"SOUVENIRS"と題されたLPはアーメリングのアメリカ演奏旅行中に録音されたそうだ。
ここで歌われる言語は細かく分ければ実に13ヶ国語!
イタリア語ではじまり、仏オヴェルニュ地方方言、スペイン語、フランス語、ロシア語、米語、英語、ドイツ語、日本語、中世ドイツ語、スウェーデン語、オランダ語、アフリカーンス語まですべて原語のままである!
ロッシーニの「踊り」は月ののぼった浜辺で男女が夜を徹して踊ろうではないかと歌われる。
8分の6拍子のタランテラのリズムによるダンスミュージックをボールドウィンが全く破綻もなく軽やかに弾きこなし、アーメリングが余裕のある早口で楽しげに歌う。
カントルーブ「子守歌」の前奏でのボールドウィンの歌にあふれた演奏は特筆すべきだろう。
なかなか眠らない子に向けた子守歌はどこまでも心地よく、歌いながら眠ってしまいそうな甘美さだ。
アーメリングの魅力全開である。
ロドリーゴの「お母さん、ポプラの林へ行ってきたよ」は実演でも聴いたが、意外とピアノパートが複雑のようで、その時弾いていたヤンセンの手の動きがあわただしかったのを覚えている。
言うまでもなく恋人との逢引を歌った内容である。
ラフマニノフの有名な歌曲「雪解け」(「春の洪水」という訳でも知られる)はオリジナルのロシア語で歌われているが、アーメリングのロシア語の歌唱が聴ける録音はほかにないのではないだろうか。
彼女はムソルクスキーの歌曲集「子供部屋」なども手がけているが、いつもドイツ語訳で歌っていたようだ。
ラフマニノフらしい超絶技巧が求められる「雪解け」のピアノパートもボールドウィンは完璧に弾きこなしていて素晴らしい。
面白いのがアイヴズの「追憶」という曲で、アイヴズ自身の2つの詩を合わせて1曲にしている。
前半は歌曲史上最も早口が要求されるのではないかと思われるほどの高速で"Very Pleasant(非常に楽しく)"と指示され、劇場で開幕を待つときめきを歌う。
早口の間にアーメリングの軽快な口笛まで聞ける!
一方、後半は一転して"Rather Sad(かなり悲しげに)"と指示され、懐かしいメロディーを耳にして、祖父がその歌を歌っていた思い出にひたるという哀愁漂う音楽である。
陽気さとメランコリーの両面を瞬時に切り替えて、どちらも見事に歌うアーメリングの表現の幅広さを堪能した。
中田喜直の「おやすみなさい」は彼女の言葉に対する感覚の見事さを実感させてくれる見事な歌唱だった。
もちろん"r"が巻き舌になっていたり、"e"を伸ばす時ドイツ語のように「エ」と「イ」の中間のような発音になったり(極端に言えば「帰るまで」が「カエルマディー」のように聞こえる感じ)完璧でない箇所を指摘することは出来るが、そういう部分を含みながらも、彼女が歌の核心を理解しようとして、かなり成功しているように感じられるのは、単なる私の贔屓だけではないように思う。
日本語をはっきりと聞き手に伝え、しかもその言葉を西洋の法則に則ってつくられた旋律に乗せて魅力を引きだすのは日本人でも容易なことではないと思う。
その意味で彼女がこのレコードで聞かせた「おやすみなさい」は、ネイティヴではない外国人が日本語の響きを一から学んで歌ったがゆえの魅力を引きだすことに成功していると言えるのではないか。
私は彼女がこの曲を来日公演のアンコールで歌ったのを実際に聴いたことがあるが、さらに海外の音楽祭のアンコールでも彼女がこの曲を歌っているのを知り、単なる日本人へのサービスではなく、国境を問わず、気に入った作品を世界に発信しようとしている姿勢に感銘を受けた。
パーセルの「憩いの音楽」(「しばしの音楽」などとも訳される)はヴィブラートを抑制気味にして、装飾的なパッセージも織り込むなど、アーメリングの古楽風アプローチが耳に心地よい。
リストの「おお、いとしい人よ」(「愛せる限り愛せ」)は、あまりにも有名なピアノ曲「愛の夢第3番」の元歌だが、私もピアノ曲の方を先に知っていて、このアルバムではじめて原曲に接することが出来たものだった。
ピアノ編曲版での即興的なパッセージはオリジナルのこの歌曲には無く、リストが歌曲をピアノ曲に編曲する術は他人の作品でも自作でも変わらないようだ。
シベリウスの有名な歌曲に続いて、最後に母国語の民謡「母」と、南アフリカのオランダ語であるアフリカーンス語による「アフリカーンスの子守歌」でアルバムを締めくくる。
コミカルなリフレインが印象的な「母」と、素朴で非常に美しい「アフリカーンスの子守歌」、どちらもオランダ語であるがゆえの自在さはあるのだろうが、他国の歌曲と基本的にアプローチは変わらないように感じられ、アーメリングの歌曲との接し方に一切のブレがないのが、「歌曲の女王」たる所以ではないだろうかと感じた。
77年のアルバム紹介だけで長くなってしまった。
79年録音のアルバムも彼女の多彩さと温もりの詰まった素晴らしい作品である。
ヴァーグナーの官能的な「夢」のような作品にあえてチャレンジしているのもうれしい。
「夢」での彼女の歌唱は、オペラティックに歌われることの多いこの曲からリートらしさを取り戻したような歌いぶりであった。
意外と相性のよさを感じさせたのがスペイン歌曲。
アルゼンチンのグァスタビーノ「バラと柳」は、柳が思いを寄せていたバラが少女に折られてしまい悲しむという内容だが、そのメランコリックな曲調は彼女の声質にぴったりはまって美しかった。
一方、ニンの「パーニョ・ムルシアーノ」でも気取りのない声がこの作品と意外なほど相性がよく、見事だった。
ほかにもヴォーン・ウィリアムズ「しずかな真昼」、ドヴォルザーク「わが母の教え給いし歌」、プーランク「愛の小径」など素敵な歌唱が盛り沢山である。
最後に置かれたガーシュウィンの「シュトラウス礼讃」(バイ・シュトラウス)は、作曲家の兄アイラの詩によるもので、アーヴィン・バーリンもコール・ポーターもガーシュウィン(!)も聞きたくない、ウィーンのワルツを流しておくれ、「ドーナウ」や「こうもり」のようなJ.シュトラウスのワルツを!という内容である。
こういう音楽も彼女流に律儀に調理してしまうのが素晴らしい。
ポピュラー畑の人の歌唱とはもちろん違うが、これはこれでなんとも楽しい。
YouTubeにもこの曲を歌う彼女のライヴがアップされているので興味のある方はご覧ください。
http://jp.youtube.com/watch?v=j0Pq9X29mEo
とにかく彼女の温かく、気取りがなく、聞き手の心にじかに歌いかけてくれるような親密な空間を作り出す彼女の魅力が詰まった非常に楽しい2枚のアルバムです。
CD化は期待できないかもしれませんが、東京文化会館の音楽資料室ではおそらく聞けるでしょうし、中古店やオークションなどでLPが入手できる可能性はあるので、機会があれば是非聴いてみてください。
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コメント
フランツさん、お早うございます。
このお2人の組み合わせ、8月にフランツさんが紹介してくださったオランダのラジオでも聴きましたが、アーメリングという人は、多才な表現力を持っているのですね。
フランツさんがアーメリングに寄せる並々ならぬ愛情も、よく分かります。私はボールドウインが好きなのですが、ピアニストにとっても、良き歌い手との出会いは、大事なことなのでしょうね。
今回の記事の内、13か国語で歌われた歌曲のオムニバスは、とても興味深いですね。
youtubeの方は、今、アクセスが集中しているのか、5秒ごとに画像が静止してしまって、ダメなのですが、その内見られるでしょう。
音楽資料室、上野に行ったときに一度覗いてみたいと思っています。
市場には出ていない珍しい物も、聴けるかも知れませんね。
有り難うございました。
投稿: Clara | 2008年9月14日 (日曜日) 09時05分
Claraさん、おはようございます。
コメントを有難うございます。
ボールドウィンは長い間フランスのバリトン、ジェラール・スゼーと組んで一心同体の演奏を実現していましたが、スゼー以外にもアーメリングなど様々な歌手たちと共演して、それぞれの歌手と同化するその能力は天性の歌曲ピアニストなのだと思います。
YouTubeは時間帯によってはすぐに止まってしまっていらいらしますね。時間をずらして聴いてみてくださいね。
上野の音楽資料室にはClaraさんにとってもいろいろ宝物があると思いますので、機会がありましたらぜひお寄りになってみてください。
投稿: フランツ | 2008年9月14日 (日曜日) 11時44分
こんばんは、またまた期待のコメント、ありがとうございました。この2枚では、私もリストの「愛の夢」とヴォーン=ウィリアムズの「静かな真昼」が好きです。リストの歌曲は、ピアノ曲の愛の夢にはないピアノ後奏が、とてもチャーミングで印象に残ってます。「静かな真昼」は、途中の夢みるような転調がまるで白昼夢のような気分に聴くものを連れ去るようですね。あとは、アメリンクのSONYレーベルへの録音、シューベルト、メンデルスゾーンが有りましたね。よろしくお願いします。(^^♪
投稿: くまぐす | 2008年9月15日 (月曜日) 20時52分
くまぐすさん、こんばんは。
再びコメントを有難うございます!
リストの「愛の夢」、今でも歌曲が原曲ということはあまり知られていないのかもしれませんね。リスト歌曲集自体があまりカタログに残っていないということもあるのでしょうが、そういう時にこそアーメリングのこのようなアルバムの存在意義があると思うので、CD復活するといいなぁと思っています(無理かなぁ)。
「しずかな真昼」、おっしゃるように中間部の夢のような響きはなんとも魅力的ですね。この曲は比較的イギリス人が好んで歌うようですが、外国人による歌唱は珍しいように思います。
ほかのCBS録音もいずれ記事に出来たらと思っております。気長に待っていてください!
投稿: フランツ | 2008年9月15日 (月曜日) 22時25分