アーメリング&ボールドウィンの放送録音(Radio4)
オランダのRadio4で3日(日)に放送されるOase(オランダ語で「オアシス」の意味)という番組の中で、エリー・アーメリングとドルトン・ボールドウィンによるシューマン「女の愛と生涯」全曲の放送録音が流されます。
この番組、現地時間の日曜日12時15分~14時2分に放送されるので、日本時間では19時15分~21時2分に相当します(夏時間)。
CD音源中心の内容の中に放送録音も混ぜるという構成の番組のようです。
なお、アーメリングの放送前に10曲ほど別の演奏家によるCD音源が流される予定なので、予告通りに進めば、夜8時前後に放送されることになると思われます。
詳細は以下のリンク先にあります。
http://www.radio4.nl/page/programma/37/2008-08-03
1975年1月5日、アムステルダム・コンセルトヘボウ録音とのことなので、彼女が同じくボールドウィンとスタジオ録音した73年8月の2年後というまさに旬の時期の歌唱であり、楽しみです。
Radio4の他の番組同様、放送後1週間ほどは最新の放送内容を好きな時に聴けるようになっているので、後であらためて聴くことも可能です。
聴き方は、時間通りに聴く場合は左側の"RADIO 4 LIVE" をクリックします。
後で聴く場合は、プレゼンテイターの写真の下にある"Beluister Oase"をクリックして、出てきた画面の上の方にある"Beluister"と書かれたリンクをクリックするとラジオが立ち上がります。
アーメリング・ファン、ボールドウィン・ファン、シューマン・ファンの方はぜひ!
以上、ご案内でした。
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(追記:ラジオを聴き終えて)
アーメリングとボールドウィンによるシューマンの歌曲集「女の愛と生涯」Op. 42の全8曲のライヴをさきほど聴きました。
アムステルダムのコンセルトヘボウ(オランダ語の正式な発音では「コンセルトヘバウ」)での演奏、アーメリングは広い会場だからといってことさらにドラマ性を強めたりはせず、あくまで慎ましやかな女性像に終始していました。
1975年というと、アーメリングがオペラ「イドメネオ」に出演した1973~1974年の翌年にあたり、声は若かりし頃のどこまでも伸びる声から変化を見せて若干渋みを増しはじめ、表現がより内なるものに向かおうとする頃でしょうか。
今回の演奏でも、抑制した表現が印象的でした。
この歌曲集は以下のように進みます。
1.「彼に会ってからというもの目が見えなくなったよう」と出会いの衝撃を歌う。
2.「彼は、誰よりも素晴らしい」、こんなに優しく、こんなに親切、と彼を星にたとえる一方、自分のような卑しい娘には目もくれずにもっともふさわしい女性を選んでくださいと歌う。だが、喜んで祝福するといっていながら心の中では胸が張り裂けると告白しており、本音ではないことが分かる。
3.「私には分からない、信じられない」、彼が私のようなみじめな者を選んでくれたなんてと、彼に求愛された喜びを歌う。2、3曲目での詩の表現に女性の自己卑下をあらわす言葉が使われており、これがこの詩の不人気の原因になっている。
4.「私の指にはめた指輪よ」:婚約指輪をもらって、人生の深い価値を知った気持ちが歌われる。
5.「手伝って、妹たち」:花嫁衣裳を身に着ける喜びと同時に、妹たちとの別れの寂しさも忍ばせる。
6.「いとしい友よ、あなたは不思議そうに私を見ています」:涙を流して子供を授かった喜びを彼に伝えるという歌。
7.「私の心で、私の胸で」:あなたは私の喜び、私の楽しみ!と、赤ちゃんを胸に抱き、幸せすぎる気持ちを爆発させるように歌う。男の人は母親の幸せを感じることが出来ないから気の毒ねなどと余裕のあることを言うほどの喜びようである。
8.「今あなたは私にはじめて苦痛を与えました」:彼の死によって、放心して虚しさを感じ、心の中の私と彼との思い出の世界に引きこもると歌う。
シューマンの歌曲の中では賛否両論に分かれる作品ではありますが、それはシューマンの責任というよりもシャミッソーの詩における女性像への不満に由来するものと思われます。
シューマンの音楽は、いわば小市民的なささやかな幸せを追い求める人生のスナップショットといった感のある詩の内容に合わせて、深みよりは日常の一こまのような平穏さで作曲しているように思います。
ここに「詩人の恋」の深い苦悩や「リーダークライス」Op. 24の若々しい繊細さを求めてはいけないのでしょう。
アーメリングの歌う女性像は、小市民的なささやかな気持ちの表出という点でよくキャラクターに合っていると思います。
澄んでいて細身な声は華奢で慎ましい女性の気持ちと違和感なく溶け込んでいたし、はっきりした語り口のうまさが物語の展開をうまく伝えていたと思います。
まだ、低声は充実の余地を残していて、さらに80年代になると8曲目の深みなども出てくるのですが、1975年当時の彼女の声の若さもなかなか魅力的でした。
ボールドウィンはまさに額縁のようにくっきりとした背景を描いていました。
タッチは深みがあり、劇性も感じさせ、ピアノのみの箇所では無言歌のように前面で歌いあげ、アーメリングの歌との自然な架け橋を作っていました。
歌とピアノがそれぞれの持ち味を溶け合わせて相互補完的な一体感を作り上げていたように感じました。
このオランダのOaseという番組、毎回番組が始まって約45分を過ぎた頃にCD音源ではない貴重なライヴ録音を流しているようです。
来週はブリテンの歌曲集「セレナード」をジェラルド・イングリッシュが歌ったライヴが放送されるようですので興味のある方はどうぞ。
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コメント
お知らせありがとうございます。
この番組はCD録音を流していると思い込んでいましたので、まったく気がついていませんでした。
早速録音予約をしておきました。
投稿: さすらい人 | 2008年8月 3日 (日曜日) 11時42分
さすらい人さん、こんにちは。
前回のBIS!でのアーメリング特集をさすらい人さんに教えていただき感謝していましたので、今度はお知らせできて少し恩返しができたでしょうか。
どうやらこの番組、CD音源の中に1曲ぐらい放送録音を加えているようですね。
オランダ語の響きもラジオを通じて随分耳に馴染んできました(といっても何を言っているのかは聞き取れませんが)。
投稿: フランツ | 2008年8月 3日 (日曜日) 12時08分
フランツさん、貴重な情報いつもありがとうございます。
黄金コンビですね。CDよく聞きました。オランダ語のラジオ、時間があったら聞きます。前に教えていただいて聞いたときは、本編よりオランダ語のアナウンスにはまってしまいました(笑)。オランダと言えば、昨日フェルメールを見てきたのですが、光と影がとても素敵で、オランダにも行きたくなりました。アーメリンクのゆかりの地なんてあるのかな??
アーメリンク大好き!!
投稿: Auty | 2008年8月 3日 (日曜日) 12時12分
Autyさん、こんにちは。
喜んでいただけて、お知らせした甲斐がありました。
アーメリングとボールドウィンのような緊密なアンサンブルはリート演奏の1つの理想のような気がします。まさに黄金コンビですね。
私も今オランダ語の初級本を買ってテープを聞きながらちょっとずつ読み進めている最中なのですが、ところどころドイツ語やら英語に似ているのは当然とはいえ面白いです。
フェルメール展、私も行きたいと思っています。混雑するのは嫌なので平日に有休でもとって行くつもりです。
アーメリングはロッテルダム出身ですが、ゆかりの地かどうかはともかく、若い歌手たちの宿泊施設としてHet Elly Ameling Huis(エリー・アーメリング・ハウス)というのを作ったようです。
http://www.amsterdamsebinnenstad.nl/binnenstad/191/ameling.html
投稿: フランツ | 2008年8月 3日 (日曜日) 12時40分
フランツさん、こんばんは!
お知らせいただいた時間にアクセス、アーメリングとボールドウインの演奏、聴くことが出来ました。
私はどちらかというと、ボールドウインのピアノの方に関心があったのですが、アーメリングの歌唱もすばらしかったです。
シューマンのあとのバッハまで、ついでに聴いてしまいました。
逗留先に持ってきたノートパソコンは、あまり音が出ないし、録音用のディスクも持って来なかったので、あとであらためて聴くつもりです。
情報有り難うございました。
「篤姫」と時間が重なったので、これから、BSの再放送を見ます。
投稿: Clara | 2008年8月 3日 (日曜日) 21時15分
Claraさん、こんばんは。
聴いてくださったのですね。有難うございます!
「篤姫」を後回しにさせてしまって申し訳ない気持ちです。
アーメリングも抑制した表現が新鮮で素敵でしたが、ボールドウィンのくっきりとしたピアノでの歌いぶりは素晴らしかったです。もともと歌手志望だったというだけあって、ピアノで歌う術を完全に身に付けているのですね。
PCに無料でインストールできるReal Playerが最近録音機能を付けたようで(昔からあったのかもしれませんが)、このラジオのURLでReal Playerを再生して、録音ボタンをクリックしたところ、アーメリングの演奏が無事録音できました。
Claraさんも何かインターネットラジオを録音したい時にはReal Playerをお勧めします。
それではBSの「篤姫」を楽しんでください。
投稿: フランツ | 2008年8月 3日 (日曜日) 23時15分