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ヘルマン・プライとピアニストたち

不世出の名バリトン、F=ディースカウは100人以上のピアニストたちと共演したという。
それに対してプライ(Hermann Prey: 1929-1998)の場合はどうだろうか。
彼がレコードで共演したピアニストを思い返すだけでも、F=ディースカウの数には及ばずとも、歌曲専門家、独奏者、作曲家を問わず、様々なピアニストたちと共演していることが分かる。
ここで、共演したことが確実に分かっている人を以下に挙げておきたい。
もちろん実際にはさらに多くのピアニストの名前がこのリストに加わるはずだろう。

*参考文献:『ヘルマン・プライ自伝:喝采の時』(原田茂生、林捷訳:1993年 メタモル出版)(“”内の言葉はこの著書の中のプライ自身の言葉を引用したもの)

●プライと共演したピアニストたち(以下、姓のアルファベット順)

フィリップ・ビアンコニ(Philippe Bianconi: 1960-):仏・ニース出身。シューベルト三大歌曲集録音(DENON: 1984-1985年録音)で共演。「冬の旅」でのあまりにもあっけらかんとした明るいピアノの響きは評価が分かれたが、「水車屋の娘」ではその明るい響きが生きた。

リチャード・ボスワース(Richard Bosworth):アメリカのピアニスト。

アルフレート・ブレンデル(Alfred Brendel: 1931-):プライにとって最初となるはずだった「美しい水車屋の娘」を録音したが、結局お蔵入りとなった。コンサートでの共演ではリハーサルでいつも討論になったとのこと。1961,1962,1965,1966年ザルツブルク音楽祭で共演(1961年はプライのザルツブルクでのリサイタル・デビューだった)。“シューベルトへの共通の熱狂が私たちを結びつけた”

イェルク・デームス(Jörg Demus: 1928-2019):オーストリアのピアニスト。モーツァルト歌曲集録音(PHILIPS)で共演。ソリストとしてだけでなく、F=ディースカウ、シュライアーなど声楽家・楽器奏者の共演者としても知られる。

ヘルムート・ドイチュ(Helmut Deutsch: 1945-):ヴィーン出身のピアニスト。シューベルト、ブラームス(「マゲローネのロマンツェ」と個々の歌曲集)、レーヴェ歌曲集の録音で共演。プライ来日公演でも2回(1984,1988年)共演した。ザルツブルク音楽祭では4回共演(1982,1984,1985,1991年)。1970年代後半にはすでに日本人歌手たちとの共演者として欠かせない人となる。ドイチュの言葉:「彼からどれだけのことを学んだことだろう。私の伴奏者としての経歴の中で、やはり最も思い出の多い歌い手である。」(ヘルムート・ドイチュ『伴奏の芸術』(1998年 ムジカノーヴァ発行)より)。

ライアン・エドワーズ(Ryan Edwards):Phyllis Curtinの共演者として知られる。

デトレフ・アイジンガー(Detlev Eisinger: 1957-):ミュンヒェン出身のピアニスト。ソリストとしての活動の他にプライやエンゲンなどの共演者としても活動。

ミヒャエル・エンドレス(Michael Endres: 1961-):ドイツのピアニスト。レーヴェのゲーテ歌曲集の録音(CAPRICCIO)で共演。プライ晩年の多くのコンサートで共演。プライの来日公演では3回(1993,1995,1997年)共演した。

カール・エンゲル(Karl Engel: 1923-2006):スイスのピアニスト。モーツァルトやシューマンの独奏曲全集を録音する一方、カザルスやF=ディースカウなどとも共演している。プライとも数多くの録音・コンサートで共演。プライ最初の「冬の旅」(EMI: 1961年録音)、「美しい水車屋の娘」(TELDEC: 1971年録音)の録音が印象深い。また「詩人の恋」の録音(EMI: 1962年録音)ではそのテクニックのキレのあるうまさと感情表現の雄弁さが素晴らしかった。ザルツブルク音楽祭では1972,1974年に共演。

ユストゥス・フランツ(Justus Frantz: 1944-):ポーランド出身のピアニスト、指揮者。エッシェンバッハとの連弾は有名。

アーウィン・ゲイジ(Irwin Gage: 1939-2018):ハンガリー人とロシア人を両親にもつアメリカのピアニスト。歌曲演奏が本領だが、アッバード指揮ヴィーン・フィルと共演したこともある(1973年)。プライとは「冬の旅」のライヴ録音(ERMITAGE: 1978年録音)がある。1980年代前半のヴォルフ「イタリア歌曲集」のコンサート前にはピアノの蓋の開け方でプライと論争した。“ゲージは、ある時私にこう言ったことがある。単純で些細なことが、作品の深さを開示し、演奏を感動的にする、そのことを私(=プライのこと)から学んだ、と”

デイヴィッド・ガーヴィー(David Garvey: 1922–1995):アメリカのピアニスト。レオンティーン・プライスの固定伴奏者として著名。

フリードリヒ・グルダ(Friedrich Gulda: 1930-2000):ヴィーン出身のピアニスト。グルダ自作の歌曲"Selige Sehnsucht"録音で共演(PHILIPS: 1973年録音)。シューマンのコンサートでも共演した。“私たちはごく自然に意を通じあい、一致協力して仕事にあたった”

ヘルベルト・ハイネマン(Herbert Heinemann: ?-):ヴィルトゥオーゾ・ピアニストとして知られていた。ルードルフ・ショックなどとも共演している。プライとはシューベルト、シューマン、グリーグなどの録音(EMIなど)で共演。

レナード・ホカンソン(Leonard Hokanson: 1931-2003):スウェーデン系アメリカ人ピアニスト。プライとの数多くの録音・コンサートで共演。シュナーベルの弟子。プライにとって最も多く共演したピアニストだったのではないか。ベートーヴェン歌曲全集(CAPRICCIO: 1987-1989年録音)など重要な録音でも多く共演している。プライの来日公演では3回(1971,1973,1990年)共演した。ザルツブルク音楽祭では4回共演(1971,1973,1975,1976年)。“彼は私のほぼ理想に近い伴奏者だといってよい。というのも歌手に関して彼はもっぱら私とだけ仕事をするからだ”

ハルトムート・ヘル(Hartmut Höll: 1952-):ドイツのピアニスト。白井光子、F=ディースカウ、フレミング等との共演で知られるが、プライとの共演経験もあったらしい。

ヨアヒム・カイザー(Joachim Kaiser: 1928-):ドイツの音楽評論家・作家。1984年のドイツの対談番組でシューベルトの「音楽に寄せて」をプライと演奏した。

ベルンハルト・クレー(Bernhard Klee: 1936-):ドイツの指揮者・ピアニスト。エーディト・マティスと分け合ったモーツァルト歌曲全集録音(DG: 1975年録音)で共演。

ヴァルター・クリーン(Walter Klien: 1928-1991):オーストリアのピアニスト。シューベルト「白鳥の歌」の録音(LONDON: 1962年録音)ではプライともども情熱的なピアノを聴かせた。ソリストとして端正なモーツァルト弾きの印象が強いが、ゼーフリート、ホッターなどの歌曲ピアニストとしての顔ももつ。

ゼバスティアン・クナウアー(Sebastian Knauer: 1971-):ハンブルク出身のピアニスト。

小林道夫(Michio Kobayashi: 1933-):プライ1961年の初来日公演で共演。「冬の旅」やバッハ、マーラー、ヘンツェ、フォルトナーを弾いた。彼はほかにもヒュッシュ、ヘフリガー、シュライアー、F=ディースカウ、ホッター、デラ・カーサ、アーメリング、マティス、ヤノヴィツ、オジェーなどとも共演し、外来歌手から一目置かれる存在であった。

グウェンドリン・コルドフスキー(Gwendolyn Koldofsky: 1906-1998):カナダのピアニスト。ロッテ・レーマンの共演者として有名。

エルンスト・クシェネク(Ernst Krenek: 1900-1991):作曲家。クシェネク自作の歌曲集"Reise aus den österreichischen Alpen"からの3曲の抜粋録音で共演(PHILIPS: 1973年録音)。

ミヒャエル・クリスト(Michael Krist: 1946-):オーストリアのピアニスト。マーラー(PHILIPS: 1972年録音)や近現代作曲家の歌曲集録音(PHILIPS: 1973,1975年録音)で共演。1978年のプライの来日公演でも共演してオール・シューベルトを演奏した。

トーマス・レアンダー(Thomas Leander):1989年Bad Urachでのヴォルフ「イタリア歌曲集」(TV収録された)等で共演。

ジェイムズ・レヴァイン(James Levine: 1943-):アメリカの指揮者で歌曲のピアノもしばしば披露する。1992年12月カーネギーホールでのシューベルト・コンサートで共演。

マルク・ローター(Mark Lothar: 1902-1985):作曲家。ローター自作の歌曲"Der Pirol"録音で共演(PHILIPS: 1975年録音)。

デイヴィッド・ラッツ(David Lutz):アメリカ出身のピアニスト。ヴィーン在住。ロベルト・ホル、トマス・ハンプソンなどとの共演で知られる。

オレク・マイセンベルク(Oleg Maisenberg: 1945-):オデッサ出身のピアニスト。ザルツブルク音楽祭で1987,1993,1995年に共演。ソリストとしてだけでなく、ロベルト・ホルやクレーメルの共演者としても有名。

マルティーン・メルツァー(Martin Mälzer: 1929-):ドイツのピアニスト、指揮者。ブラームス歌曲集の録音(EMI: 1957年録音)で共演。1955年「冬の旅」のコンサートでも共演。F=ディースカウなどとも共演している。東京芸大での指導経験もあるようだ。"Mülzer" "Mölzer" "Mälzel"等の誤表記が多く、気の毒。

ジェラルド・ムーア(Gerald Moore: 1899-1987):イギリスのピアニスト。歌曲ピアニストの代名詞的存在。プライとは数多くの録音・コンサートで共演。ヴォルフ&プフィッツナー歌曲集の録音(COLUMBIA)が忘れがたい。ザルツブルク音楽祭では1964年8月に共演したが、すでに「白鳥の歌」の従来の順序を解体して「アトラス」からはじめている。“ムーアとは数々の素晴らしいコンサートが持てた”

トマス・ムラコ(Thomas Muraco: 1949-2024):アメリカのピアニスト、指揮者。

岡原慎也(Shinya Okahara: 1954-):プライの1994年来日公演で「冬の旅」共演。ソリストとして、さらに歌曲ピアニストとして幅広く活動している。アーダム、ゲンツ、ヘンシェルとも舞台で共演している。

クルト・パーレン(Kurt Pahlen: 1907-2003):オーストリアの指揮者、作曲家、音楽学者。

クン=ウー・パイク(白 建宇)(Kun-Woo Paik: 1946-):韓国のピアニスト。1977年6月26日、HohenemsのRittersaal im PalastにてKun-Woo Paikのリサイタルにプライが出演してシューベルトの「さすらい人」D493を歌った。

ジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons: 1929-1995):オーストラリアのピアニスト。シュヴァルツコプフ、ホッターなど大歌手たちの信頼を得てきた最高の歌曲ピアニストの1人。プライとはブラームス「ドイツ民謡集」の録音(CAPRICCIO)で共演。ザルツブルク音楽祭では4回共演(1977,1978,1981,1988年)。“ジェラルド・ムーアの正統な後継者と呼ぶにふさわしいピアニストだ”

セバスティアン・ペシュコ(Sebastian Peschko: 1909-1987):ドイツのピアニスト。ハインリヒ・シュルスヌスの共演者として名高い。シュルスヌス夫人の招聘により、1962年シュルスヌス十回忌コンサートで共演(R.シュトラウスなど)。

クルト・ラップフ(Kurt Rapf: 1922-2007):オーストリアのピアニスト、指揮者、作曲家。ホッターやシュヴァルツコプフ、グリュンマーとも共演した。

ミヒャエル・ラウハイゼン(Michael Raucheisen: 1889-1984):ドイツのピアニスト。歌曲ピアニストのパイオニア的存在。1953年4月コルネーリウス、レーヴェ、シューベルトの録音で共演。“彼は愛すべき人物そのものだった。私たちははじめからとてもよく理解しあえた”

ヘルマン・ロイター(Hermann Reutter: 1900-1985):作曲家・ピアニスト。シュヴァルツコプフやF=ディースカウとの共演でも知られる。ロイター自作の歌曲"Abendphantasie"録音で共演(PHILIPS: 1974年録音)。

コンラート・リヒター(Konrad Richter: 1935-):ドイツのピアニスト。ヴォルフ「アイヒェンドルフ歌曲集」の録音(EMI)で共演。1967年8月にザルツブルク音楽祭で共演。

ヴォルフガング・サヴァリシュ(Wolfgang Sawallisch: 1923-2013):ドイツの指揮者だが、歌曲ピアニストとしても非凡な存在。「冬の旅」(PHILIPS: 1971年録音)、ベートーヴェン歌曲集(DENON: 1980-1981年録音)の録音で共演。1968, 1970年にザルツブルク音楽祭でピアニストとして共演。

ハルトムート・シュナイダー(Hartmut Schneider: 1960-):ドイツのピアニスト。プライ最後のザルツブルク音楽祭出演となった1997年8月に共演(「白鳥の歌」ほかシューベルト歌曲)。

フリッツ・シュヴィンハンマー(Fritz Schwinghammer):ドイツのピアニスト。特にディートリヒ・ヘンシェル(BR)との共演で知られるが、プライ晩年のいくつかのリサイタルで共演した。

ノーマン・シェトラー(Norman Shetler: 1931-):アメリカのピアニスト。シュライアーやS.ローレンツ、F=ディースカウとの共演者として有名。人形を使った芸でも知られている。

アードルフ・シュタウホ(Adolf Stauch: 1903-1981):ドイツのピアニスト・教育者。プライに大きな影響を与えた師であり、共演者でもあった。往年のバリトンKarl Schmitt-WalterやテノールRudolf Schockなどとの共演で知られる。

レオ・タウプマン(Leo Taubman: 1907-1966):オーストリア生まれのピアニスト。ビルギット・ニルソンやジョージ・ロンドンと共演した。

フローリアン・ウーリヒ(Florian Uhlig: 1974-):ドイツのピアニスト。1997年9月30日シューベルト・ライヴ録音で共演。

パウル・ウラノウスキー(Paul Ulanowsky: 1908-1968):ヴィーン出身のアメリカ人ピアニスト。ロッテ・レーマンとの共演で有名。“典型的なウィーン子で、気むずかしい皮肉屋の彼は、面白がらせておいて、それに水を差すような地口をいつも用意していた”

チャールズ・ワズワース(Charles Wadsworth: 1929-):アメリカの歌曲ピアニスト。1987年9月アメリカでのコンサート(「詩人の恋」、R.シュトラウス)などで共演。

ウーヴェ・ヴェーグナー(Uwe Wegner):RCAの「Aus der Kinderwelt(子供の世界から)」というLP録音で共演。

アレクシス・ヴァイセンベルク(Alexis Weissenberg: 1929-2012):ブルガリア出身のフランス人ピアニスト。リスト歌曲集の録音(EMI: 1978年録音)で共演。“彼とは最初の瞬間からとてもよくうまがあった”

ギュンター・ヴァイセンボルン(Günther Weissenborn: 1911-2001):ドイツのピアニスト・指揮者。ヴォルフ「イタリア歌曲集」「アイヒェンドルフ歌曲集」、レーヴェ歌曲集などの録音で共演。1963年7月ザルツブルク音楽祭で共演。“プフィッツナーの素晴らしい歌曲を私が歌うようになったのはヴァイセンボルンのお蔭である”

ディーター・ツェヒリン(Dieter Zechlin: 1926-2012):ドイツのピアニスト。ブラームス「4つの厳粛な歌」録音で共演。シューベルトのピアノ・ソナタ全曲録音などで知られる。

50人以上の名前が挙がったが、録音ではホカンソン、エンゲルとの共演が群を抜いて多い。
鋭利な切れ味をもったテクニシャン、カール・エンゲルに対し、緩やかで20世紀前半の自在な弾き方を彷彿とさせるレナード・ホカンソン。
全く異なった個性をもったこの2人がプライにとって最もお気に入りの共演者だったのではないだろうか。

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コメント

フランツさん、今回も敬愛するヘルマン・プライのために素敵な記事を開いて下さり、ありがとうございます。私はフランツさんほど多くの演奏を聴いておらず、すでに入手不可能のCDもありますが、個人的な感想を書きたいと思います。
 プライの歌曲ピアニストでは、1993年来日演奏のミヒャエル・エンドレスが感動的でした。まずマードレ松田ホールで聴いた『冬の旅』抜粋ですが、作品とプライの歌唱とエンドレスのピアノが重なり合いながら一体となり、リート芸術の完成を見たような気がします。節度のある奥深さと真摯な態度が演奏に表れ、ひとつひとつの音に魂を感じました。狭い空間で聴いたことも理由だったかもしれませんが、テレビで『美しき水車小屋の娘』を鑑賞した時も、同じ感想でした。先ほどフランツさんの追記を読みましたが、全く同感です。その感想は、1993年来日のページにコメントしましょう。この年の来日演奏はとても素晴らしかったですが、1997年来日時のサントリーホールでの「ヘルマン・プライのシューベルティアーデ」では、ピアノが少し控えめで時折歌に合わせているという印象を受けました。翌年の来日演奏では、国際的活動をしている岡原慎也さんがピアノを弾かれたのですね。詩の解釈と音楽表現との両方をたいせつにし、ドイツ・リートの普及のために励まれている岡原さんは、日本が誇る国際的ピアニストです。
 CDの演奏では、サヴァリッシュ先生(先生付けは長年の習慣です。お許し下さい)との『冬の旅』が気に入っており、これまで学会例会での研究発表や声楽家を対象とした講演で「あふれる涙」、「回想」、「春の夢」に、著作権の許容範囲内でこのCDを使いました。「春の夢」では、前奏のトリルの数が少ないピアニストが多いのですが、サヴァリッシュ先生はトリルをたくさん入れるので、雲雀とナイチンゲールが競って鳴くという詩の内容がよく表れており、プライはその詩句を官能的に表現しています。
 他にビアンコニ、ドイチュ、エンゲル、ゲージとのCDも素晴らしい演奏だと思います。甲斐貴也さんからもヴァルター・クリーンとの共演「白鳥の歌」が素晴らしいと聞いているのですが、残念ながらこのCDは入手できませんでした。
 先日フィッシャー=ディースカウのDVDを観た時、(正確ではなく大意ですが)我々は「音楽家によって音楽を得るのであって、音楽によって音楽家を得るのではない」といった印象的なことばを聞きました。たとえばバレンボイムとのブラームス歌曲などの共演の時、ピアニストが音楽を作ってくれたと。あれほどの大家でも共演者から音楽を学ぼうという姿勢があり、またそのようなピアニストがいたからこそ、互いに高め合っていたのですね。偉大な人は謙遜だと思います。プライもおそらく多くのピアニストから音楽を得、そして与えていたことでしょう。フランツさん、素晴らしい記事をありがとうございました。では1993年プライ来日にコメントします。

投稿: 渡辺美奈子 | 2008年8月23日 (土曜日) 22時24分

渡辺さん、こんばんは。
コメントを有難うございます。貴重なご意見がうかがえて、うれしく思います。
マードレ松田ホールは行ったことがないのですが、確かにサロンのような小空間でリートを聴くと、シューベルトが友人たちを招いて内輪のサークルを楽しんでいた感じをイメージできるような気がしますね。かつてエディト・マティスが個人宅のサロンで歌曲を歌ったことがあったのですが、本当にアットホームな空間で身近に歌われると、大ホールで聴くのとは全く違った雰囲気を味わうことが出来ました。本来リートの聴き方としては小さな空間の方が適しているのでしょうね。エンドレスとプライの感動的な演奏ぶりが伝わってくるレポートを有難うございました。
サヴァリッシュは何を弾いてもその曲の核心をとらえたようなすごい演奏をする人だと思います。一見クールだけれど芯は熱い情熱をもっているのではないでしょうか。「春の夢」のトリルのお話、興味深いですね。早速聴いてみます。
甲斐さんが絶賛されているクリーンとの「白鳥の歌」、歌、ピアノともはちきれんばかりの熱い演奏で、本当に素晴らしいです。こういう演奏がすぐに手に入らないという現状は残念ですね。
F=ディースカウのお話、素晴らしいですね。楽譜のままではいくら立派な曲でも音楽ではなく、それを演奏する人がいてはじめて音楽になるということでしょうか。ディースカウがあれほど多くのピアニストと共演したのは、1つの曲から様々な演奏の可能性を追究していたのではないかと思います。共演者から学ぶという姿勢があったからこそ、あれほどの敬意をもって聴衆から迎えられたのでしょうね。
話を戻しますと、私はプライというとやはりカール・エンゲルがまず頭に浮かびます。この人の実演はとうとう聴くことが出来なかったのですが、アンサンブルで相手を生かしながら、雄弁に自己主張するその技の巧みさは録音で聴いただけでも本当に非凡な人だと感じます。亡くなった時に日本では全く報道されなかったのが悲しかったです。

投稿: フランツ | 2008年8月23日 (土曜日) 23時47分

丁寧なお返事をありがとうございます。コメントを送信した後に気づいたのですが、訂正があります。私はサヴァリッシュ先生の「春の夢」の前奏と、「回想」の詩句を一緒にして書いてしまいました(*^^*ゞ 「雲雀とナイチンゲール」からは「回想」の話です。素敵な演奏を思い出して興奮してしまったようで、すみません。かなり知っているつもりの2曲を混ぜるとは情けないです。申し訳ありませんでした。

投稿: 渡辺美奈子 | 2008年8月24日 (日曜日) 01時20分

つい混同してしまうことは私などはしょっちゅうありますから、全然気になさらないでください。
かえって渡辺さんの誠実さを感じましたよ。

さきほどサヴァリッシュの「春の夢」を聴きました。こんなにトリルを沢山入れている演奏ははじめてです。とても効果的で美しいですね。

投稿: フランツ | 2008年8月24日 (日曜日) 02時37分

フランツさん、こんにちは。

パソコンの音声が直る間、こちらの記事にコメントさせて頂きますね。

まず、このように膨大な資料を書き出してくださったことに感謝します。
「まるでコンコルダンスだなあ」と思いつつ拝見しました(語句ではないですが)。

この中で、ワルター・クリーンの記述に目が止まりました。
「ソリストとして端正なモーツァルト弾きの印象が強いが・・」
私はクリーンは、62年のロンドン版の「白鳥の歌」でのプライさんとの共演しか知りませんので、へ~と思わず言ってしまいました(笑)。

プライさんの絶唱も絶唱なら、クリーンのピアノもピアノ(よくピアノ線が切れなかったものです)という演奏ですものね。
あの演奏を聴いてしまったから、その後どんなに「ドラマチックなアトラス!」なんて書いてあっても、ドラマチックに聞こえませんでしたから。

改めてこうして見ると本当にたくさんのピアニストと共演していますね。
グルダは、息子さん同士も共演しましたね。
Jr.同士の「冬の旅」を持っていますが、なんだか感慨深いです。

投稿: 真子 | 2013年10月 8日 (火曜日) 17時13分

真子さん、こんにちは。
「コンコルダンス」の意味をYahooで調べたフランツです(笑)。

ヴァルター・クリーンはモーツァルト弾きとして有名だった人で、随分昔にNHKのモーツァルトのピアノレッスンの番組にも出演していました。そのレッスンを見ていた時に字幕が突然表示され、クリーンが亡くなったことを知りました。おそらくレッスンも病気をおして出演していたのでしょう。生では一度も聴くことが出来ませんでしたが、そのレッスンやFMでのライブ放送などを通じて、「端正」な印象を受けていました。それがプライとの「白鳥の歌」では別人のように情熱的で、きっとプライの出し惜しみすることの一切ない熱い歌と渡り合うために普段見せない部分を出していたのだろうと思ったりしたものでした。

私はどのピアニストが、どの歌手と組んだことがあるかということに興味があるので、このリストも楽しみながら作りました。
プライ&グルダのジュニアも共演を続けていくといいですね。

投稿: フランツ | 2013年10月 9日 (水曜日) 20時09分

フランツさん、こんにちは。

コンコルダンスの件、すみませんでした(^^;)
一般的に使われているんだと思っていました。
「資料をまとめる方は大変だけど、使う方はとても便利で助かる」というほどの意味合いでした。

歌手とピアニストの関係にご興味がお有りなんですね。
私も素人ではありますが、ピアニストで歌が変わることを体験していました。
自分の意を組んでくれて、同じ思いで、共に伴走(伴奏でなく)してくれるピアニストは、宝だと思います。

投稿: 真子 | 2013年10月10日 (木曜日) 13時31分

真子さん、こんばんは。
「コンコルダンス」については私の無知をさらけだしてしまいましたが、あたらしい言葉を知ることが出来て真子さんには感謝しています。有難うございました!
ピアニストによって歌が変わることを真子さんも経験しておられるそうですね。私が歌曲を聴く楽しみのひとつがまさにそれで、同じ歌手でもピアニストが違うと異なる雰囲気が感じられます。歌手とピアニストの関係は奥が深いと思います。

投稿: フランツ | 2013年10月11日 (金曜日) 01時16分

フランツさん、こんにちは。

>同じ歌手でもピアニストが違うと異なる雰囲気が感じられます。歌手とピアニストの関係は奥が深いと思います。

本当にそうですね。
と言っても、私はあまりそういう聞き方をして来なかったですが・・。

子供の頃から人間の声が好きで、特に歌を習い始めてからは、「この高い2点A音の「エ」の母音の響きが美しい・・」というような聞き方をしていた、というより、ついつい、そこに興味が行ってしまうのです。

フランツさんのお話を伺って、ふと思ったのは、歌手が、あるピアニストを選んだ時点で、既にどういう歌を歌いたいのかという青写真のようなものがあるのでしょうか。

思えば晩年のプライさんは、積極的に息子のような若いピアニストを、パートナーに選んでいましたね。
雑誌のインタビューでは「若い彼らからどんな影響を受けるか楽しみにしている」というようなことを言っていました。

その時は、こんな大御所が、音楽の学びにおいてなんと謙虚な、と思ったのですが(それもあるでしょうが)、芸術上のもっと深い探索もあったのかもしれませんね。

歌手とピアニスト、本当に奥深く興味深いものですね。
これからも、ぜひフランツさんの論評をお聞きかせください。

投稿: 真子 | 2013年10月11日 (金曜日) 11時47分

真子さん、こんにちは。
真子さんは声の響きに興味をお持ちとのことですね。それはご自身で歌われていることもあるのかもしれませんね。私は全く歌わないので、むしろ歌とピアノの解釈に意識が向かうのだと思います。
プライは晩年、ミヒャエル・エンドレスやフィリップ・ビアンコニのような親子ほど年の離れたピアニストと組んでいましたが、ディースカウも晩年、年のはなれたハルトムート・ヘルを共演者に迎え、若い風を演奏に吹き込もうとしていました。ディースカウもプライもコンサートや録音のたびに共演者を変えていたのは、「このプログラムにはこのピアニストがいい」という意図があったのではと思います。そういう観点から歌手とピアニストの関係を推測するのはとても興味深く感じます。

投稿: フランツ | 2013年10月13日 (日曜日) 09時40分

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