デカメロン物語~14世紀イタリアの恋歌とダンス(目白バ・ロック音楽祭)(2008年6月15日 立教大学第一食堂)
NEC古楽レクチャーコンサート
デカメロン物語~14世紀イタリアの恋歌とダンス
2008年6月15日(日)15時開演 立教大学第一食堂
レクチャー:細川哲士(ほそかわさとし)
上尾信也(あがりおしんや)
演奏:アドリアン・ファン・デル・スプール(Adrian Rodriguez van der Spoel)(ヴォーカル/中世リュート)
春日保人(かすがやすと)(ヴォーカル/フルート)
五十嵐柾美(いがらしまさみ)(ダンス)
アントネッロ(Anthonello)
濱田芳通(はまだよしみち)(コルネット/リコーダー)
西山まりえ(ヴォーカル/オルガネット/中世ハープ)
石川かおり(フィーデル)
藤沢エリカ(ヴォーカル)
わだみつひろ(パーカッション)
第1部:レクチャー
~休憩~
第2部:演奏とダンス
1.作者不詳:ロッシ写本より/彼女が手と美しい顔を洗うあいだ(Lavandose le mane)(Madrigale)
2.ヤコポ・ダ・ボローニャ(Jacopo da Bologna)/私が不死鳥であった時は(Fenice fu)(Madrigale)
3.フランチェスコ・ランディーニ(Francesco Landini)/春が来た(Ecco la primavera)(Ballata)
4.作者不詳:ロンドン写本より/イスタンピッタ「美徳の始まり」(Istampitta 'Principio de virtu')
5.作者不詳:ロッシ写本より/美しい城から(Dal bel castel)(Madrigale)
6.ゲラルデッロ・ダ・フィレンツェ(Gherardello da Firenze)/私は愛する(I' vo' bene)(Madrigale)
7.フランチェスコ・ランディーニ/思いに耽けって(Chosi pensoso)(Ballata)
8.作者不詳:ロンドン写本より/イスタンピッタ「ベリカ」(Istampitta Belicha')
9.ロレンツォ・ダ・フィレンツェ(Lorenzo da Firenze)/刈り入れの後に(A poste messe)(Caccia)
アンコール1曲(曲名は分かりませんでした)
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目白バ・ロック音楽祭が5月30日(金)から6月15日(日)にかけて目白界隈の様々な施設で開催された。
主催のスタッフの一人が学生時代の先輩であることもあり、私でも名前ぐらいは以前から知っていたのだが、何分古楽は全く疎いので、いつも気付いた時には終わっていたという感じだった。
今年はClaraさんのレポートを拝見して、何か行こうと思っていたのだが、気付いたらあと1週間ぐらいで終わりという時期だった。
この最終日の「デカメロン物語」など面白そうだと思っていたのだが、ぴあでは「予定枚数終了」と出ており、音楽祭のHPでも入手できないようになっていたので諦めていたところ、「当日券あり」とHPに書いてある旨Claraさんからご連絡をいただき、急遽会場に向かった。
会場は立教大学の第一食堂というところ。
立教大学ははじめて行ったが、池袋駅西口から歩いて10分ほどのところにあった。
レンガ造りの建物の壁は葉に覆われ、伝統の重みを感じさせる閑静な雰囲気が味わい深い。
公式ブログの写真で演奏会場を見ることが出来るが、食堂とは思えない趣のある会場で、高い天井に大きな窓がいくつかあり、そこから差し込む光があたかも教会の中にいるような気分にさせてくれる。
ランディーニやトレチェント音楽については授業で名前を知っている程度で、音を聴いたことは殆どなかったと思うので、このプログラムは楽しみだった。
ボッカッチョによって「デカメロン」が書かれた時代に作られ歌われた世俗的な作品を集めた内容で、音楽自体が直接「デカメロン」と関係あるわけではない。
だが、男女の愛を扱ったこれらの詩を音楽版デカメロンと位置付けた企画は面白いと思った。
中世、ルネッサンス時代の世俗的な声楽曲は歌詞があけっぴろげで露骨な愛の歌が多いというイメージだった。
例えばヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデの詩にグリーグやF.マルタンが作曲した歌曲をイメージすれば分かりやすいかもしれない。
バッラータ(踊りの曲に由来する)やカッチャ(狩りの歌)といったジャンルの違いも私には聴いただけではその違いがよく分からないのだが、典雅な響きなのに詩の内容は現在にも通用するようなあっけらかんとした愛の歌というギャップがとても面白く感じた。
アントネッロという濱田氏率いる3人のアンサンブルは古楽界ではすでに知らぬ者のない団体。
歌手はアルゼンチン出身のアドリアン・ファン・デル・スプールの美しい高音と、春日保人の柔軟な低音のヴォーカルがほかのメンバーの歌声と見事なアンサンブルを築いていた。
数曲を除いて、五十嵐柾美が音楽に合わせてダンスを披露し、時に清楚に、時に艶かしく、柔らかい体躯で表現していて、視覚的にも楽しめた。
それにしても、古楽の演奏者というのはすごいなとこのコンサートを聴いてつくづく思った。
この日の演奏者7人のほとんどが複数の役割を兼ねて、どれも単なる間に合わせのレベルとはかけ離れた高度な技を聞かせていたのだから、その器用さには驚かされる。
古楽の複雑な声部を歌ったかと思うと、次の曲ではリュートやフルートをこなすなど、相当な訓練の賜物なのだろう。
古楽器に疎い私だが、西山さんの演奏していた手持ちオルガンのオルガネットという楽器は興味深かった。
左手で蛇腹のような箇所を動かし、右手で鍵盤(のようなボタン?)を演奏するのだが、数本のパイプがついていて、携帯型パイプオルガンといった感じ。
この西山さんもオルガネットとハープを持ち替え、さらによく通るヴォーカルまで披露したのだから凄い。
前半のレクチャーは40分ほど。
この時代の詩が生まれる背景(例えば戦争で20歳以上の男がいなくなり、より若い男との恋愛詩が生まれた、など)を話されたのが印象に残っている。
細川氏は「吟遊詩人」という言い方は適切ではなく、「叙情詩人」と言うべきだという持論をもっておられるそうだが、その根拠についても出来れば話してほしかった。
トレチェント(14世紀)のイタリアの男女の恋歌を美しいハーモニーと素敵な演出で満喫できた貴重な体験だった。
古楽もいろいろ探索していくと面白そうだなと思えたのが収穫だった。
とはいえ、あまりにも広大な世界なので、少しずつ機会を見つけて今後も聴いていけたらと思う。
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コメント
おお、フランツさん、デカメロン物語、当日売りが有ったようで良かったですね。
詳しいレポート、興味深く読ませていただきました。
その日、私は、ほかのことと重なって行かれなかったので、ホントに残念だったのですが、歌やダンスもあって、楽しいコンサートだったようですね。
6月7日に、別のプログラムで、濱田さん達3人の演奏を聴いているので、フランツさんの詳しいレポートと重ね合わせて、会場の雰囲気まで、よく伝わってきました。
古楽の演奏、最近聴く機会が多いのですが、今まで知らなかった楽器の音を知って、とても魅力を感じています。
私は特に、濱田さんのコルネットが好きなのですが、あの繊細な音の表現力は素晴らしいと思います。
西山まりえさんのオルガネット、7日の時も、演奏しましたが、不思議な楽器ですね。
古楽の方々って、まさにマルチ演奏家ですね。
投稿: Clara | 2008年6月22日 (日曜日) 01時58分
Claraさんが教えてくださったおかげで、このコンサートを聴くことが出来ました。
本当に有難うございました!!
古楽演奏者は本当に凄いなと感心してしまいました。1つの楽器や歌を修得するだけでも大変なことなのに複数の役割、特に自分の体が楽器の歌と、一般の楽器といった全く別種の分野を共にマスターするのは時間的にも相当長期間の訓練が必要とされた筈。きっと皆さん、そういう修行を苦と思わないほど古楽が好きなのでしょうね(もちろん好きなだけで修得できるものでもないでしょうが)。
濱田さんのコルネット、光沢があり素敵な音色でした。リコーダーの素朴さと比べると、それぞれの良さがありますね。
投稿: フランツ | 2008年6月22日 (日曜日) 02時25分