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シューベルト三昧(1)

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2008~シューベルトとウィーン~

ゴールデンウィークの音楽祭としてすでに4回目になる「熱狂の日」音楽祭。
この時期は出かけてしまうことが多く、私は今年がはじめての参加である。
有楽町の国際フォーラムの有料公演だけでも2日から6日まで一日中今年のテーマのシューベルトが流れるという私にとってはまさに垂涎の企画だが、5日連続で聴く自信もなかったので、3日から5日までに絞り11公演のチケットを購入した(オークションでなんとか入手した白井さん以外はかろうじて電子ぴあで購入出来たが、あっという間に完売の公演がほとんどで、この音楽祭の認知度の高さに驚かされた)。
なお、各ホールにシューベルトにゆかりの深い人名が付けられているのも面白いアイディアである。

2008年5月3日(土)

はじめて出かけたラ・フォル・ジュルネはあいにくの曇り空。時々小雨がぱらつく。
それでも外ではオープンカフェのような席が並び、家族連れなどで賑わい、人だかりの中無料コンサートが開かれている。

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14:30 Hall C(マイアーホーファー)
シューベルト/ミサ曲第5番イ長調D678
ユッタ・ベーネルト(Jutta Böhnert)(ソプラノ)
マルフリート・ファン・ライゼン(Margriet van Reisen)(メゾ・ソプラノ)
トマス・ウォーカー(Thomas Walker)(テノール)
デイヴィッド・ウィルソン=ジョンソン(David Wilson-Johnson)(バス)
カペラ・アムステルダム(Cappella Amsterdam)
ヴュルテンベルク室内管弦楽団(Württembergisches Kammerorchester Heilbronn)
ダニエル・ロイス(Daniel Reuss)(指揮)

最初に聴いたのは「ミサ曲第5番」。
シューベルトの6曲のラテン語によるミサ曲の中でも人気の高いこの作品をはじめて生で聴いたが、独唱者、合唱団、オーケストラ、指揮者、それぞれが高い力を備えた人たちだったようで、50分ほどが弛緩することなく充実した響きに満たされていた。
こまかめのヴィブラートがうるさくならずに清潔な歌唱を聞かせたベーネルト、低音の包むような深みを備えたライゼン、真摯な表現を聴かせたウォーカー、重厚な声で円熟味あふれる支えとなったウィルソン=ジョンソンといった独唱者と共に、混声合唱団、オーケストラの質の高い演奏がこの美しい作品を魅力的に響かせていた。
こういう曲をいつか教会でも聴いてみたいものである。

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15:30 Hall B7(ショーバー)
シューベルト/ピアノ曲変ホ長調D946-1
シューベルト/ピアノソナタ第17番ニ長調D850
デジュー・ラーンキ(Dezsö Ranki)(ピアノ)

シフ、コチシュと共にハンガリーを代表するピアニストとして名前は知っていたが、なかなか聴く機会がなかった。
舞台に登場したラーンキは端正な容姿は変わらぬものの、すっかり白くなった髪が否応なく年月の経過を示していた。
最初のうちこそ若干硬さが感じられたものの、徐々に調子が出て、シューベルトの美しい響きを再現していた。
豊かな歌心とともに弱音のコントロールが素晴らしく、若干硬質の強音よりも弱音での美しさに惹かれた。
決して技巧家ではないが、シューベルトを弾くのに理想的な演奏家の一人だと感じた。
個性的な第17番のソナタを見事に弾きこなし、豊かな一時だった。
ただ、演奏中の彼はかなり鼻息が荒く、それがちょっと気になった。
なお、この会場は広い部屋に椅子を並べたような感じだが、ステージの背景の白壁が不思議と異空間を作り出していていい雰囲気だった。

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17:00 Hall D7(ヒュッテンブレンナー)
シューベルト/「シラーの<ギリシアの神々>の一節」 D677
シューベルト/「孤独な人」 D800
シューベルト/「冬の夕べ」 D938
シューベルト/「さすらい人の月に寄せる歌」 D870
シューベルト/「弔いの鐘」 D871
シューベルト/「野外で」 D880
シューベルト/「さすらい人」 D649(プログラム表記のD493は誤り)
シューベルト/「星」 D684(1節のみ)(プログラム表記のD939は誤り)
シューベルト/「流れ」 D693(1節のみ)
シューベルト/「ばら」 D745
シューベルト/「蝶々」 D633
シューベルト/「マリア」 D658
シューベルト/「それらがここにいたことは」 D775
シューベルト/「シルヴィアに」 D891
白井光子(Mitsuko Shirai)(メゾ・ソプラノ)
ハルトムート・ヘル(Hartmut Höll)(ピアノ)

先日紫綬褒章を受章したばかりの白井光子はギラン・バレー症候群の克服後初の国内お披露目ということだが、ステージに登場してすぐに状況の説明があった。
風邪で声の調子が悪く、中声域が出ないとのことで、今朝病院で注射を打ってきたとのこと。
そんなわけで、全曲1オクターブ(!)下げての歌唱。
リートの夕べというより、練習の場に居合わせたような印象。
ところどころ彼女らしい響きも垣間見えたものの、声のボリュームは充分とはいえない。
いわゆる有名曲の寄せ集めとは一線を画した素晴らしい選曲ながら、正直シューベルトの歌が聞こえてこないもどかしさを感じながら最後まで聞くことになってしまった。
だが彼女としてはおそらく並々ならぬ努力でようやくここまでこぎつけて、キャンセルしたくなかったのかもしれない。
一日も早い完治を祈りたい。
演奏会の最後には「お聴き苦しかったと思いますが、次の「冬の旅」は頑張って歌いたい」と話していた(「冬の旅」はヘンドリックスの公演と時間が重なっていたのでチケットをとらなかった)。
顔色はよさそうだし、「蝶々」では明るい笑顔すら見せていたので、あとは体の楽器を整えることだろう。
ちなみにヘル氏の右足はもう完全によさそうで、ペダリングに難はないように見える。
いつもなら白井さんと「対決」しているかのような過激なピアノを弾くヘルだが、今日は白井さんを全面的に支えていたのが印象的だ(それでも「弔いの鐘」では自己主張が強すぎたが)。
過度な主張を極力排したことにより、ヘルが本来もっている豊かな歌心が浮かび上がっていたように感じた。
これまで常に完璧な歌を披露してきた白井が、晴れの復帰公演で不調の状態を晒してまでもあえて出演にこだわったのはどんな気持ちなのだろうと思いを馳せた時間だった。

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18:30 Hall B5(テレーゼ・グロープ)
<シューベルトのピアノ連弾作品全曲シリーズ第3回>
シューベルト/3つの英雄的行進曲 D602
シューベルト/3つのポロネーズ (6つのポロネーズ D824より抜粋):第1番ニ短調、第2番ヘ長調、第3番変ロ長調
シューベルト/ハンガリー風ディヴェルティメント D818
クリスティアン・イヴァルディ(Christian Ivaldi)(ピアノ:D602&D824プリモ)
ジャン=クロード・ペヌティエ(Jean-Claude Pennetier)(ピアノ:D818プリモ)

この日最後に聴いたのは、フランスの名手2人による連弾曲。
これこそ円熟の技というのだろう。
落ち着いた過不足のない音のイヴァルディ(1938年生まれ)と、華麗で大きめの音を響かせるペヌティエ(1942年生まれ)という個性の違いも、1台のピアノで1つの音楽を作り上げるといううえでは全く妨げにならない。
どの音も芯がしっかりしていて指は思ったような音が響き、シューベルトの音楽に安心して浸れるという演奏。
この境地に達した演奏はそう聴けるものではないだろう。
あまり馴染みのない作品ばかりを素晴らしい演奏で堪能した。
「ハンガリー風ディヴェルティメント」の3楽章は「ハンガリーのメロディー」として有名なソロの曲と同じ素材を使っているが、この楽章だけで15分ほどかかる大作だ。
次々に披露される異なった美しい音楽の連続に身を委ねるのがシューベルトの魅力だろう。

※(2)(3)に続く

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