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アージェンタ&タン/シューベルト歌曲集

シューベルト歌曲集(Schubert / Lieder)
Argenta_tan_schubertEMI CLASSICS: CDC 7 54175 2
録音:1990年6月、No. 1 Studio, Abbey Road, London
ナンシー・アージェンタ(Nancy Argenta)(S)
メルヴィン・タン(Melvyn Tan)(Fortepiano)
エーリヒ・ヘップリヒ(Erich Hoeprich)(CL: D965)

シューベルト/春の神D448;ハナダイコンD752;さすらい人が月に寄せてD870;ムーサの息子D764;
ナイチンゲールに寄せてD497;蝶々D633;夕星D806;妹の挨拶D762;うずらの鳴き声D742;夜と夢D827;
あらゆる姿をとる恋する男D558;水の上で歌うD774;ますD550;
あの国をご存知ですかD321;話せと言わないでくださいD877-2;ただ憧れを知る人だけがD877-4;私をこのままの姿でいさせてくださいD877-3;
ひそやかな愛D922;遙かな女性にD765;幸福D433;初めての喪失D226;憩いない愛D138;
岩の上の羊飼いD965

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中古屋に入ると時々懐かしいCDに出会うことがある。
発売された当初はそれほど興味を惹かれなかったのに、店頭で見かけなくなった後に思いがけず再会すると、何故か聴いてもいないうちから懐かしさでうれしくなってしまう。
そんなCDを入手した。

ソプラノのナンシー・アージェンタが、フォルテピアノ奏者のメルヴィン・タンと共演したシューベルトの歌曲集。
アージェンタというと古楽が活動の中心で、歌曲はハイペリオンのシューベルト・シリーズにわずかに参加していたぐらいで縁遠い印象を持っていた。
古楽の歌手というと清潔だが、コントロールされた響きで、ロマン派歌曲の感情表現はどうなのだろうという不安もあったが、今回のこのCDは予想以上の驚きをもたらしてくれた。
声は透明で美しいが常に温かさがあり、聴いていて心が洗われるようだ。
若い頃のアーメリングの声に近い感じだ。
カナダ出身の英語圏の人だがドイツでも学んでいるようでドイツ語の発音も明瞭で美しい。
このCD、彼女のリリックで透明な声と表現に合った軽快で優美な作品が多く選曲されているが、「妹の挨拶」やミニョン歌曲群(D321, D877)のような深刻な曲も含まれている。
だが「蝶々」や「幸福」のような軽快な曲にこの当時の彼女の最良の部分が現れていたように思う。
「ます」も流麗な爽やかさが心地よいが、ますを捕らえた盗人への心情が表現できたらさらに良かっただろう。
深刻な曲の中では「話せと言わないでください」が心に迫ってきた。
表現の幅や深さはこれから先の楽しみにとっておくことにして、このCD、若き古楽界のホープが歌曲の歌唱でも豊かな才能をもっていることを示しており、とても楽しめた1枚だった。

メルヴィン・タンは実演を一度だけ聴いたことがある。
ベートーヴェンのソナタの連続演奏会のうちの1回だったと思うが、柔和な物腰とは対照的な情熱的なベートーヴェンだったと記憶している。
このCDでのタンはアージェンタの声と表現に合わせて優しく誠実に寄り添っている。
しかし「春の神」の後奏では豊かな歌心も聞かせ、「あの国をご存知ですか」では雄弁な力強さも表現する。
シューベルトのピアノパートは歌うようなタッチが不可欠だと思うが、タンはその点理想的なシューベルト演奏家であった。

このCD録音から18年も経ち、アージェンタもタンもどのような演奏家になったのか聴いてみたいと思った。

すでに入手しにくいCDかもしれませんが、機会があればぜひ聴いてみてください。

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Der Schmetterling, D633
 蝶々

Wie soll ich nicht tanzen?
Es macht keine Mühe,
Und reizende Farben
Schimmern hier im Grünen.
Immer schöner glänzen
Meine bunten Flügel,
Immer süßer hauchen
Alle kleinen Blüten.
Ich nasche die Blüten,
Ihr könnt sie nicht hüten.
 どうして踊らずにいられよう。
 踊るのに苦はないし、
 魅力的なとりどりの色が
 この緑野にきらめいているのに。
 ますます美しく
 ぼくの色鮮やかな羽根は輝き、
 ますます甘美に
 あらゆる小さな花々が息づく。
 ぼくは花々をつまみ食いするのさ、
 きみたちに花の番人はつとまらないよ。

Wie groß ist die Freude,
Sei's spät oder frühe,
Leichtsinnig zu schweben
Über Tal und Hügel.
Wenn der Abend säuselt,
Seht ihr Wolken glühen;
Wenn die Lüfte golden,
Scheint die Wiese grüner.
Ich nasche die Blüten,
Ihr könnt sie nicht hüten.
 なんて大きな喜びなのだろう、
 晩の遅い時だろうが朝早い時だろうが、
 軽々と
 谷や丘の上を飛び回るのは。
 夕方の風がそよぐと
 雲が赤くなるのが見える。
 空気が金に染まると
 草原はさらに緑に輝く。
 ぼくは花々をつまみ食いするのさ、
 きみたちに花の番人はつとまらないよ。

詩:Karl Wilhelm Friedrich von Schlegel (1772.3.10, Hannover - 1829.1.12, Dresden)
曲:Franz Peter Schubert (1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

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コメント

Argentaというと、聞いたことないんですが、銀とか、フランス語だったらお金という意味でしょうか。綺麗な名前ですね。。
古楽のナンバー聞いてみたいです。。

投稿: Auty | 2008年4月13日 (日曜日) 07時22分

>声は透明で美しいが常に温かさがあり
ああ、これいいですね。聴いてみたいです。それにジャケ写をみるかぎり、アージェンタさんはお美しい。またひとり気になる歌手がふえました。
「岩の上の羊飼い」はアーメリングの名唱(DHM)とくらべていかがでした?

投稿: sbiaco | 2008年4月13日 (日曜日) 09時20分

Autyさん、こんにちは。
Argentaという名前、彼女が幼少時代を過ごした地名のようです。
本名はHerbisonというそうなのですが、同じカナダのソプラノ歌手にNancy Hermistonという人がいて、紛らわしいのでステージネームを使用しているようです。
この人、古楽がすごく合いそうな声です。

投稿: フランツ | 2008年4月13日 (日曜日) 12時22分

sbiacoさん、こんにちは。
私も実はこの写真に惹かれて手にしました。
「岩の上の羊飼い」もDHMのアーメリングに匹敵する美しさです。長大な曲ですが、しり上がりに素晴らしくなるのが微笑ましい感じです。
試聴サイトは見つけられませんでしたが、ArkivMusicという廃盤を正規のルートで受注生産しているらしいサイトで入手可能です。
http://www.arkivmusic.com/classical/album.jsp?album_id=167021&album_group=8

投稿: フランツ | 2008年4月13日 (日曜日) 12時26分

あ、わざわざ入手先まで教えてくださってありがとうございます。いまはちょっと余裕がないので、また後日再訪することにします。

投稿: sbiaco | 2008年4月13日 (日曜日) 18時07分

sbiacoさん、ご返事をありがとうございます。あくまで参考にですから、お時間のある時にでもゆっくり見てみてください。

投稿: フランツ | 2008年4月13日 (日曜日) 20時50分

私もこの盤中古でgetして所有しています。
古楽畑の人でノンビブラート唱法でアカデミックな演奏かと思いきやさにあらず、自然でチャーミング歌いまわしがとても素敵です。
タンもあまり作為的にならずこれはいいですね。

アージェンタの他のディスクでは2枚組のパーセル Songs&Ariasがなんといってもお勧めです。
http://www.amazon.co.jp/Songs-Airs-Nigel-North/dp/tracks/B000059LOH/ref=dp_tracks_all_1#disc_1
聴いてみて下さい!

投稿: jin | 2011年2月23日 (水曜日) 22時28分

jinさん、こんばんは。
jinさんも中古で入手されたのですね。
こういうチャーミングな表現と声で歌われるシューベルトもまた格別ですね。
メルヴィン・タンのフォルテピアノもとても好感のもてるものでした。

ご紹介いただいたパーセルの録音、興味深いです。ぜひ聴いてみたいと思いました。

投稿: フランツ | 2011年2月24日 (木曜日) 22時39分

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