« 2008年3月 | トップページ | 2008年5月 »

ヴォルフ「春に」(詩:メーリケ)

Im Frühling
 春に

Hier lieg' ich auf dem Frühlingshügel:
Die Wolke wird mein Flügel,
Ein Vogel fliegt mir voraus.
Ach, sag' mir, alleinzige Liebe,
Wo du bleibst, daß ich bei dir bliebe!
Doch du und die Lüfte, ihr habt kein Haus.
 この春の丘の上に私は寝転んでいる、
 雲がわが翼となり、
 鳥が私の前を飛ぶ。
 ああ、言っておくれ、たった一つの愛よ、
 おまえはどこにいるのか、私はおまえのそばにいたいのだ!
 だがおまえと風はすみかを持たない。

Der Sonnenblume gleich steht mein Gemüte offen,
Sehnend,
Sich dehnend
In Lieben und Hoffen.
Frühling, was bist du gewillt?
Wann werd' ich gestillt?
 ひまわりさながら私の気持ちは開かれて
 憧れて
 広がっていく、
 愛と希望の中に。
 春よ、何を望んでいるのだ。
 いつになったら私の心は静まるのだろうか。

Die Wolke seh' ich wandeln und den Fluß,
Es dringt der Sonne goldner Kuß
Mir tief bis ins Geblüt hinein;
Die Augen, wunderbar berauschet,
Tun, als schliefen sie ein,
Nur noch das Ohr dem Ton der Biene lauschet.
 雲や川が流れていくのが見え、
 太陽の黄金色の口づけは
 私の血の奥深くまで達している。
 この目は素晴らしさに酔いしれて
 眠り込んでいるかのよう、
 ただ耳だけは蜜蜂の羽音を追っている。

Ich denke dies und denke das,
Ich sehne mich und weiß nicht recht, nach was:
Halb ist es Lust, halb ist es Klage:
Mein Herz, o sage,
Was webst du für Erinnerung
In golden grüner Zweige Dämmerung? -
Alte unnennbare Tage!
 私はあれこれ思いを馳せる、
 憧れを抱くが、何に対してかよく分からない。
 半ばは喜び、半ばは嘆き。
 わが心よ、おお言っておくれ、
 おまえは
 金色に染まる緑の枝の黄昏にどんな思い出を織っているのだ。
 昔の、言葉に出来ない日々!

詩:Eduard Friedrich Mörike (1804.9.8, Ludwigsburg – 1875.6.4, Stuttgart)
曲:Hugo Philipp Jakob Wolf (1860.3.13, Windischgraz – 1903.2.22, Wien)

----------------------------

フーゴ・ヴォルフの最高傑作の一つ。
ヴォルフにとっての「歌の年」1888年(5月8日)に作曲され、53曲からなる歌曲集「メーリケ詩集」の13曲目として出版された。

メーリケは牧師としての役目をたまにさぼっていたというが、この詩に読まれているように寝転んで「昔の、言葉に出来ない日々」の思い出にふけっていたのだろうか。
ヴォルフは詩からさらに深い心情を引き出すことに成功している。
春のけだるい浮遊するような気分を音でこれだけ深く表現するのはやはり天才としか言いようがない。

| | | コメント (2) | トラックバック (0)

プライ日本公演曲目1984年(第6回&第7回来日)

第6回来日:1984年2~3月

Prey_deutsch_1984_pamphletヘルマン・プライ(Hermann Prey)(BR)
ヘルムート・ドイッチェ(Helmut Deutsch)(P)
読売日本交響楽団
ブルーノ・ヴァイル(Bruno Weil)(C)

Prey_deutsch_1984_chirashi2月22日(水)19:00 ゆうぽうと簡易保険ホール:プログラムA
2月24日(金)18:30 福岡郵便貯金ホール:プログラムA
2月26日(日)15:00 名古屋市民会館大ホール:プログラムB
2月28日(火)19:00 大阪フェスティバルホール:プログラムA
3月1日(木)19:00 ゆうぽうと簡易保険ホール:プログラムB
3月3日(土)19:00 ゆうぽうと簡易保険ホール:プログラムC

●プログラムA 共演:ヘルムート・ドイッチェ(P)

シューベルト/歌曲集「冬の旅」(Winterreise)D911

●プログラムB「ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ、フランツ・シューベルトによる歌曲とバラード」 共演:ヘルムート・ドイッチェ(P)

シューベルト作曲
第1部(1814~1816)
 歌びと(Der Sänger)D149
 あこがれ(Sehnsucht)D123
 憩いなき恋(Rastlose Liebe)D138
 海の静けさ(Meeres Stille)D216
 漁師(Der Fischer)D225
 トゥーレの王(Der König in Thule)D367
 宝掘り(Der Schatzgräber)D256
 魔王(Erlkönig)D328

 ~休憩~

シューベルト作曲
第2部(1816~1822)
 プロメテウス(Prometheus)D674
 人間の限界(Grenzen der Menschheit)D716
 ガニュメート(Ganymed)D544
 御者クロノスに(An Schwager Kronos)D369
 耽溺(Versunken)D715
 秘めごと(Geheimes)D719
 遠く離れたひとに(An die Entfernte)D765
 逢う瀬と別れ(Willkommen und Abschied)D767

●プログラムC「オペラ・アリアの夕べ」 共演:読売日本交響楽団;ブルーノ・ヴァイル(C)

モーツァルト作曲
歌劇<ドン・ジョヴァンニ>序曲(Overture Don Giovanni)
ドン・ジョヴァンニのアリア:
 “みんな楽しくお酒をのんで”(酒の歌)(Fin ch'han dal vino calda la testa)
 “窓辺においで”(セレナード)(Deh! vieni alla finestra, o mio tesoro)

歌劇<フィガロの結婚>序曲(Overture Le Nozze di Figaro)
フィガロのアリア:
 “もう飛ぶまいぞ、この蝶々”(Non più andrai, farfallone amoroso)
伯爵のレチタティーヴォとアリア:
 “もうあんたの勝ちだといったな~溜息をついている間に”(Hai già vinto la causa! - Vedrò, mentr'io sospiro)

歌劇<魔笛>序曲(Overture Die Zauberflöte)
パパゲーノのアリア:
 “おいらは鳥さし”(Der Vogelfänger bin ich ja)
 “かわいい娘か女房が”(Ein Mädchen oder Weibchen wünscht Papageno sich!)

 ~休憩~

ワーグナー作曲
歌劇<ニュルンベルグのマイスタージンガー>前奏曲(Vorspiel Die Meistersinger von Nürnberg)
ハンス・ザックスの“にわとこ”のモノローグ(Fliedermonolog of Hans Sachs "Wie duftet doch der Flieder")

歌劇<タンホイザー>序曲より(Overture Tannhäuser)
ヴォルフラムのアリア:
 “この高貴なるつどいを見渡すと”(Blick's ich umher in diesem edlen Kreise)
 “夕星の歌”(An den Abendstern "O du, mein holder Abendstern")

--------------------

ヘルマン・プライ6回目の来日は、前回から4年後の1984年。
前回はオペラ公演のみだったので、歌曲演奏会は6年ぶりということになる。
また、これまではオケとの共演は歌曲のみが歌われていたのに対し、今回ははじめてオペラアリア集が歌われている。
ピアニストのヘルムート・ドイチュ(1945年Wien生まれ)とも日本初共演である。
オーケストラは第3回来日時にも共演した読売日本交響楽団が務めている(今回も主催は読売新聞社)が、ブルーノ・ヴァイル(1949年Hahnstätten生まれ)とは初共演である。

曲目については、再び「冬の旅」が3公演で歌われ、前回のオペラ公演を除いてすべての来日公演で歌われたことになる。
さらにBプログラムとしてゲーテの詩によるシューベルトの歌曲集16曲が初期と後期作品に分けて歌われたが、1982年3月にIntercordレーベル(国内盤はテイチク発売)に録音された24曲のシューベルトのLP録音とほぼ同じ選曲と順序となっている
(LPに含まれていないのは「人間の限界」のみで、他はすべてLPの最初の15曲がそのままの順序で歌われた)。
実は私がはじめてプライの実演に接したのは、3月1日の五反田で行われたこのBプロで、音楽の授業でインパクトを受けた「魔王」が著名な歌手の歌で聴けるとあってかなり興奮して聴きに行ったものだった。
プライはどの曲も遅めのテンポで噛みしめるように歌っていた。
ドイチュも硬質のタッチでリズミカルな「御者クロノスに」や「逢う瀬と別れ」など、これ以上はないぐらい遅めのテンポ設定を貫く(プライの指示であろうことは確かである)。
だが、その遅めのどっしりしたテンポでしっかりと歌われるプライの語りはきっと当時の私の心を打ったことだろう。
当時のメモによると、「プライはいつもの暖かい歌を聴かせていたし、ドイッチュのピアノも深い解釈によってていねいに演奏していた」とある。
歌曲を聴き始めて間もない頃の私でもプライの声に温かさを感じていたということになる。
その声の魅力は熱烈なマニアだけでなく初心者にも訴えるものがあったということなのだろう。

3月1日のアンコールはメモによるとシューベルトの「ムーサの息子」「川辺にて」「野ばら」「あらゆる姿の恋する男」「さすらい人の夜の歌Ⅱ」(順不同)の5曲だったようだ。

プログラム冊子にはピアニストのドイチュの初来日は1980年と書かれているが、音楽年鑑などを見ているとすでに70年代後半に膨大な数の日本人歌手と共演していることが分かった。
どういうきっかけで日本での活動をはじめたのか興味がもたれるところだ。
鮫島有美子さんのご主人であることは言うまでもないが(この当時はまだ鮫島さん曰く「友だち」だったようだ)、ゼーフリート、シュトライヒ、コトルバシュといった往年のプリマ・ドンナたちとの共演で相当鍛えられたようだ。
プライとのリハーサルも時にはかなり辛い思いをしたそうだが、そういう経験を経て、現在の第一人者の位置を築いてきたというのは感慨深い。

--------------------

第7回来日:1984年4月

アンネ・ゾフィー・ムター(Anne-Sophie Mutter)(VLN)
ルチア・ポップ(Lucia Popp)(S)
小林一男(T)
ヘルマン・プライ(Hermann Prey)(BR)
東京芸術大学音楽学部(合唱)
東京放送児童合唱団
NHK交響楽団
ヴォルフガング・サヴァリッシュ(Wolfgang Sawallisch)(C)

4月29日(日) 19:15 NHKホール

●日独交歓・NHK交響楽団特別演奏会
プフィッツナー/「ハイルブロンのケートヒェン」序曲
ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調Op. 26
オルフ/「カルミナ・ブラーナ」

プライは上述のように1984年2~3月に来日してリート公演を行っているが、同じ年の4月下旬に「日独交歓・NHK交響楽団特別演奏会」に出演するため再来日している。

当日の公演はテレビ放映時に見た記憶がある。
オルフという作曲家も「カルミナ・ブラーナ」という作品もこの時初耳だった。
ルチア・ポップの美しい舞台姿と声、プライのリートとは違ったワイルドな歌唱が印象に残っている。特にプライのファルセットをはじめて聴いて、面白い作品だなと思ったのを覚えている。
まだサヴァリッシュも若々しかった。

| | | コメント (7) | トラックバック (0)

アージェンタ&タン/シューベルト歌曲集

シューベルト歌曲集(Schubert / Lieder)
Argenta_tan_schubertEMI CLASSICS: CDC 7 54175 2
録音:1990年6月、No. 1 Studio, Abbey Road, London
ナンシー・アージェンタ(Nancy Argenta)(S)
メルヴィン・タン(Melvyn Tan)(Fortepiano)
エーリヒ・ヘップリヒ(Erich Hoeprich)(CL: D965)

シューベルト/春の神D448;ハナダイコンD752;さすらい人が月に寄せてD870;ムーサの息子D764;
ナイチンゲールに寄せてD497;蝶々D633;夕星D806;妹の挨拶D762;うずらの鳴き声D742;夜と夢D827;
あらゆる姿をとる恋する男D558;水の上で歌うD774;ますD550;
あの国をご存知ですかD321;話せと言わないでくださいD877-2;ただ憧れを知る人だけがD877-4;私をこのままの姿でいさせてくださいD877-3;
ひそやかな愛D922;遙かな女性にD765;幸福D433;初めての喪失D226;憩いない愛D138;
岩の上の羊飼いD965

----------------------------

中古屋に入ると時々懐かしいCDに出会うことがある。
発売された当初はそれほど興味を惹かれなかったのに、店頭で見かけなくなった後に思いがけず再会すると、何故か聴いてもいないうちから懐かしさでうれしくなってしまう。
そんなCDを入手した。

ソプラノのナンシー・アージェンタが、フォルテピアノ奏者のメルヴィン・タンと共演したシューベルトの歌曲集。
アージェンタというと古楽が活動の中心で、歌曲はハイペリオンのシューベルト・シリーズにわずかに参加していたぐらいで縁遠い印象を持っていた。
古楽の歌手というと清潔だが、コントロールされた響きで、ロマン派歌曲の感情表現はどうなのだろうという不安もあったが、今回のこのCDは予想以上の驚きをもたらしてくれた。
声は透明で美しいが常に温かさがあり、聴いていて心が洗われるようだ。
若い頃のアーメリングの声に近い感じだ。
カナダ出身の英語圏の人だがドイツでも学んでいるようでドイツ語の発音も明瞭で美しい。
このCD、彼女のリリックで透明な声と表現に合った軽快で優美な作品が多く選曲されているが、「妹の挨拶」やミニョン歌曲群(D321, D877)のような深刻な曲も含まれている。
だが「蝶々」や「幸福」のような軽快な曲にこの当時の彼女の最良の部分が現れていたように思う。
「ます」も流麗な爽やかさが心地よいが、ますを捕らえた盗人への心情が表現できたらさらに良かっただろう。
深刻な曲の中では「話せと言わないでください」が心に迫ってきた。
表現の幅や深さはこれから先の楽しみにとっておくことにして、このCD、若き古楽界のホープが歌曲の歌唱でも豊かな才能をもっていることを示しており、とても楽しめた1枚だった。

メルヴィン・タンは実演を一度だけ聴いたことがある。
ベートーヴェンのソナタの連続演奏会のうちの1回だったと思うが、柔和な物腰とは対照的な情熱的なベートーヴェンだったと記憶している。
このCDでのタンはアージェンタの声と表現に合わせて優しく誠実に寄り添っている。
しかし「春の神」の後奏では豊かな歌心も聞かせ、「あの国をご存知ですか」では雄弁な力強さも表現する。
シューベルトのピアノパートは歌うようなタッチが不可欠だと思うが、タンはその点理想的なシューベルト演奏家であった。

このCD録音から18年も経ち、アージェンタもタンもどのような演奏家になったのか聴いてみたいと思った。

すでに入手しにくいCDかもしれませんが、機会があればぜひ聴いてみてください。

------------------------------

Der Schmetterling, D633
 蝶々

Wie soll ich nicht tanzen?
Es macht keine Mühe,
Und reizende Farben
Schimmern hier im Grünen.
Immer schöner glänzen
Meine bunten Flügel,
Immer süßer hauchen
Alle kleinen Blüten.
Ich nasche die Blüten,
Ihr könnt sie nicht hüten.
 どうして踊らずにいられよう。
 踊るのに苦はないし、
 魅力的なとりどりの色が
 この緑野にきらめいているのに。
 ますます美しく
 ぼくの色鮮やかな羽根は輝き、
 ますます甘美に
 あらゆる小さな花々が息づく。
 ぼくは花々をつまみ食いするのさ、
 きみたちに花の番人はつとまらないよ。

Wie groß ist die Freude,
Sei's spät oder frühe,
Leichtsinnig zu schweben
Über Tal und Hügel.
Wenn der Abend säuselt,
Seht ihr Wolken glühen;
Wenn die Lüfte golden,
Scheint die Wiese grüner.
Ich nasche die Blüten,
Ihr könnt sie nicht hüten.
 なんて大きな喜びなのだろう、
 晩の遅い時だろうが朝早い時だろうが、
 軽々と
 谷や丘の上を飛び回るのは。
 夕方の風がそよぐと
 雲が赤くなるのが見える。
 空気が金に染まると
 草原はさらに緑に輝く。
 ぼくは花々をつまみ食いするのさ、
 きみたちに花の番人はつとまらないよ。

詩:Karl Wilhelm Friedrich von Schlegel (1772.3.10, Hannover - 1829.1.12, Dresden)
曲:Franz Peter Schubert (1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

| | | コメント (8) | トラックバック (1)

プライの歌うマーラー「ある遍歴職人の歌(さすらう若者の歌)」

ヘルマン・プライ(Hermann Prey)は初来日(1961年)から第3回来日(1973年)まで連続してマーラー自作のテキストによる歌曲集「ある遍歴職人の歌(さすらう若者の歌)」(Lieder eines fahrenden Gesellen)を日本の聴衆に披露してきた。
第1回目は小林道夫のピアノと、第2回目以降はオーケストラと共演して。
プライはこの歌曲集を私の知る限り2回録音している。

Prey_sanderling_mahler1)1960年、Staatliches Komitee fr Radio, Berlin録音:クルト・ザンダーリング(Kurt Sanderling)(C);ベルリン放送交響楽団(Rundfunk-Sinfonie-Orchester Berlin)(BERLIN Classics: 0184152BC)

Prey_haitink_mahler 2)1970年5月27,28日、Concertgebouw, Amsterdam録音:ベルナルト・ハイティンク(Bernard Haitink)(C);ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(Royal Concertgebouw Orchestra)(PHILIPS: 454 014-2)

1回目の録音は初来日の1年前、2回目の録音は2回目の来日の1年前であり、当時のプライの声を想定するのに格好な録音である。
実際プライの声は1960年盤では感情のおもむくままという感じで若々しく甘美な声を惜しみなく聴かせ、1970年盤ではより客観性を加えて落ち着いた歌唱を聴かせる。
どちらも喉の調子はすこぶる良かったようで安心してプライの美声に身をまかせることが出来る。

各々の演奏時間を比べてみると以下のようになる(各トラック前後の空白時間は含めていない)。

1)ザンダーリング盤:3'53/4'40/3'22/5'12
2)ハイティンク盤: 3'43/4'11/2'54/5'32

ザンダーリング盤は1~3曲目までハイティンク盤より時間が長く、特に第2、3曲目は30秒近い差がある。
思いいれたっぷりの若きプライと、経験を積み締まりのある歌を聴かせる10年後の成熟したプライの違いがあらわれているのではないか。
しかし面白いのは最終曲のみハイティンク盤の方が20秒も長くかかっていることである。間の多いゆっくりしたテンポの第4曲は管弦楽の音も薄く、こういう曲でたっぷりとした表現をするのは若い歌手には難しいのかもしれない。

マーラー自作の詩は擬音や語の繰り返しを用いて、素朴な民謡調を模しているように思える。
4曲目で憩いの場として「Lindenbaum(リンデの木)」が登場するのは、シューベルトの「冬の旅」を意識しているかのようだ。
最初にピアノ伴奏版がつくられ、後に管弦楽化されたようだ。

●第1曲「僕の大切な人が結婚式をあげるとき」:Leise und traurig bis zum Schluss.(最後まで声を抑えて悲しげに)、4分の2拍子、ホ短調。
テンポはSchneller(より早く)とLangsamer(よりゆっくりと)が入れ替わり、結婚式の楽しげな響きと主人公の悲痛な訴えが交差する。
フルート2、オーボエ2、B管クラリネット2、B管バスクラリネット、ファゴット2、ホルン2、グロッケンシュピール、トライアングル、ティンパニー、ハープ、弦楽5部

●第2曲「今朝、野原を歩いていると」:In gemächlicher Bewegung.(ゆったりとした動きで)、2分の2拍子、ニ長調。
ピッコロ、フルート3、オーボエ2、B管クラリネット2、B管バスクラリネット、ファゴット2、トランペット、ホルン4、トライアングル、ティンパニー、ハープ、弦楽5部

●第3曲「僕は赤熱したナイフを持っている」:Stürmisch, wild.(嵐のように、荒々しく)、8分の9拍子、ニ短調。
フルート3、オーボエ2(第1奏者はイングリッシュホルンも兼ねる)、B管クラリネット3、B管バスクラリネット、ファゴット2、F管トランペット2、トロンボーン3(第3奏者はバストロンボーンも兼ねる)、F管ホルン4、トライアングル、シンバル、ティンパニー、ハープ、弦楽5部

●第4曲「いとしい人の二つの青い瞳」:Mit geheimnisvoll schwermüthigem Ausdruck. Ohne Sentimentalität.(秘密めいて陰鬱な表現で。感傷はなく。)、4分の4拍子、ホ短調。
フルート3、オーボエ2(第2奏者はイングリッシュホルンも兼ねる)、B管クラリネット3(第3奏者はB管バスクラリネットも兼ねる)、ホルン3、ティンパニー、ハープ、弦楽5部

----------------------------------------

Lieder eines fahrenden Gesellen
 ある遍歴職人の歌

1. Wenn mein Schatz Hochzeit macht
 僕の大切な人が結婚式をあげるとき

Wenn mein Schatz Hochzeit macht,
Fröhliche Hochzeit macht,
Hab' ich meinen traurigen Tag!
Geh' ich in mein Kämmerlein,
Dunkles Kämmerlein,
Weine, wein' um meinen Schatz,
Um meinen lieben Schatz!
 僕の大切な人が結婚式をあげるとき、
 楽しい結婚式をあげるとき、
 僕にとっては悲しい日なのだ!
 僕は自分の小部屋に、
 暗い小部屋に入り、
 泣くのだ、僕の大切な人を思って、
 僕のいとしい大切な人を思って。

Blümlein blau! Verdorre nicht!
Vöglein süß! Du singst auf grüner Heide.
Ach, wie ist die Welt so schön!
Ziküth! Ziküth!
 青い花よ!枯れるな!
 かわいい小鳥よ!おまえは緑の野原で歌っている、
 ああ、世界はなんて美しいのだ!
 チュン!チュン!

Singet nicht! Blühet nicht!
Lenz ist ja vorbei!
Alles Singen ist nun aus.
Des Abends, wenn ich schlafen geh',
Denk' ich an mein Leide.
An mein Leide!
 歌うのをやめろ!花咲くな!
 春は過ぎ去った!
 あらゆる歌はもう終わった。
 晩に寝床につくとき、
 僕は自分の苦しみを思うのだ。
 僕の苦しみを!

  ----------

2. Ging heut morgen übers Feld
 今朝、野原を歩いていると

Ging heut morgen übers Feld,
Tau noch auf den Gräsern hing;
Sprach zu mir der lust'ge Fink:
"Ei du! Gelt? Guten Morgen! Ei gelt?
Du! Wird's nicht eine schöne Welt?
Zink! Zink! Schön und flink!
Wie mir doch die Welt gefällt!"
 今朝、野原を歩いていると
 草々にはまだ露がかかっていた。
 陽気なヒワが僕に語った、
 「おや!おや!ねえ?おはよう!ねえったら。
 きみ!美しい世界じゃないこと?
 チュッ!チュッ!美しく輝いているよ!
 ぼくはこの世界が大好きさ!」

Auch die Glockenblum' am Feld
Hat mir lustig, guter Ding',
Mit den Glöckchen, klinge, kling,
Ihren Morgengruß geschellt:
"Wird's nicht eine schöne Welt?
Kling, kling! Schönes Ding!
Wie mir doch die Welt gefällt! Heia!"
 野辺のキキョウも
 陽気に機嫌よく、
 鈴の音で、リン、リン、
 僕に朝の挨拶を鳴らしてくれた。
 「美しい世界になるんじゃないかしら?
 リン、リン!素敵なこと!
 この世界が大好きなの!わーい!」

Und da fing im Sonnenschein
Gleich die Welt zu funkeln an;
Alles Ton und Farbe gewann
Im Sonnenschein!
Blum' und Vogel, groß und klein!
"Guten Tag, ist's nicht eine schöne Welt?
Ei du, gelt? Schöne Welt?"
 すると日の光を浴びて
 すぐに世界が輝き始めた。
 あらゆるものが音や色を
 日の光を浴びて手に入れたのだ!
 花や鳥が、大きいのから小さいのまで!
 「こんにちは、素晴らしい世界じゃない?
 きみ、ねえ?素晴らしい世界だね?」
 
Nun fängt auch mein Glück wohl an?
Nein, nein, das, ich mein',
Mir nimmer blühen kann!
 今や僕も幸せになり始めたのだろうか?
 いや、いや、僕が思うに、
 もう花咲くことなんか出来ないんだ!

  ----------

3. Ich hab' ein glühend Messer
 僕は赤熱したナイフを持っている

Ich hab' ein glühend Messer,
Ein Messer in meiner Brust,
O weh! Das schneid't so tief
In jede Freud' und jede Lust.
Ach, was ist das für ein böser Gast!
Nimmer hält er Ruh', nimmer hält er Rast,
Nicht bei Tag, noch bei Nacht, wenn ich schlief.
O Weh!
 僕は赤熱したナイフを持っている、
 胸にナイフを、
 おお痛い!ナイフがこんなにも深く、
 喜びや欲求に突き刺さっている。
 ああ、なんていやな客なんだ!
 こいつは決して憩いも休みもしない、
 昼だろうが、僕が眠った夜だろうが。
 おお痛い!

Wenn ich in dem Himmel seh',
Seh' ich zwei blaue Augen stehn.
O Weh! Wenn ich im gelben Felde geh',
Seh' ich von fern das blonde Haar
Im Winde wehn.
O Weh!
 僕が空を見上げると
 二つの青い瞳が見える。
 おお痛い!僕が黄色い野原を歩くと、
 遠くからブロンドの髪が見える、
 風になびいて。
 おお痛い!

Wenn ich aus dem Traum auffahr'
Und höre klingen ihr silbern' Lachen,
O Weh!
Ich wollt', ich läg auf der schwarzen Bahr',
Könnt' nimmer die Augen aufmachen!
 僕が夢から覚めると、
 彼女の銀の笑い声が響き渡るのが聞こえる、
 おお痛い!
 僕は黒い棺に横たわって、
 二度と目を開けなくなればいいのに!

  ----------

4. Die zwei blauen Augen von meinem Schatz
 いとしい人の二つの青い瞳

Die zwei blauen Augen von meinem Schatz,
Die haben mich in die weite Welt geschickt.
Da mußt ich Abschied nehmen vom allerliebsten Platz!
O Augen blau, warum habt ihr mich angeblickt?
Nun hab' ich ewig Leid und Grämen.
 いとしい人の二つの青い瞳、
 それが僕を遠い世界に送り出したのだ。
 僕は最愛の場所から別れを告げなければならない!
 おお青い瞳よ、なぜ僕を見つめたのだ?
 今や僕は永久に苦悩と悲痛をかかえるのだ。

Ich bin ausgegangen in stiller Nacht
Wohl über die dunkle Heide.
Hat mir niemand Ade gesagt.
Ade! Mein Gesell' war Lieb' und Leide!
 僕は静かな夜に
 暗い荒野を通り、出て行った、
 僕に別れの言葉をかける者もなく。
 さらば!僕の道づれは愛と苦悩だった!

Auf der Straße steht ein Lindenbaum,
Da hab' ich zum ersten Mal im Schlaf geruht!
Unter dem Lindenbaum,
Der hat seine Blüten über mich geschneit,
Da wußt' ich nicht, wie das Leben tut,
War alles, alles wieder gut!
Alles! Alles, Lieb und Leid
Und Welt und Traum!
 通りにはリンデの木が立っていて、
 僕ははじめてそこで眠り休んだ!
 リンデの木の下では、
 その花びらが僕の上に舞い落ちて、
 どのような人生だったのか僕には分からなくなった、
 すべてが、すべてが再び良くなったのだ!
 すべて!すべて、愛も苦悩も
 世界も夢も!

詩:Gustav Mahler (1860.7.7, Kaliště - 1911.5.18, Wien)
曲:Gustav Mahler (1860.7.7, Kaliště - 1911.5.18, Wien)

| | | コメント (6) | トラックバック (0)

プライ日本公演曲目1980年(第5回来日)

第5回来日:1980年9~10月「ウィーン国立歌劇場公演」

9月30日(火)18:30 東京文化会館
10月3日(金)18:30 東京文化会館
10月13日(月)18:30 大阪・フェスティバルホール
10月17日(金)18:30 大阪・フェスティバルホール
10月21日(火)18:30 神奈川県民ホール
10月24日(金)18:30 神奈川県民ホール
10月28日(火)18:30 東京文化会館

●プログラム

モーツァルト/歌劇『フィガロの結婚』K.492

 アルマヴィーヴァ伯爵:ベルント・ヴァイケル(Bernd Weikl)(BR)/ハンス・ヘルム(Hans Helm)(BR)
 伯爵夫人:グンドゥラ・ヤノヴィツ(Gundula Janowitz)(S)
 スザンナ(Susanna):ルチア・ポップ(Lucia Popp)(S)
 フィガロ(Figaro):ヘルマン・プライ(Hermann Prey)(BR)
 ケルビーノ(Cherubino):アグネス・バルツァ(Agnes Baltsa)(MS)
 マルチェリーナ(Marcellina):マルガリタ・リローヴァ(Margarita Lilowa)(A)
 ドン・バジーリオ(Don Basilio):ハインツ・ツェドニク(Heinz Zednik)(T)
 ドン・クルーツィオ(Don Cruzio):クルト・エクヴィルツ(プログラム冊子の表記はエキルツ)(Kurt Equiluz)(T)/アントン・ヴェンドラー(Anton Wendler)(T)
 バルトロ(Bartolo):クルト・リドル(Kurt Rydl)(BS)
 アントーニオ(Antonio):ヴァルター・フィンク(Walter Fink)(BS)
 バルバリーナ(Barbarina):マリア・ヴェヌーティ(Maria Venuti)(S)
 ウィーン国立歌劇場合唱団(Chor der Wiener Staatsoper)
 ウィーン国立歌劇場管弦楽団(Orchester der Wiener Staatsoper)
 指揮:カール・ベーム(Karl Böhm)(Dirigent)/ハインリヒ・ホルライザーHeinrich Hollreiser)(Dirigent)
 演出:ヘルゲ・トーマ(Helge Thoma)(Inszenierung)
 装置:パンテリス・デシラス(Pantelis Dessyllas)(Bühnenbild)
 衣装:ジャン・ピエール・ポネル(Jean-Pierre Ponnelle)(Kostüme)

--------------------

ヘルマン・プライ5回目の来日は、前回から2年後の1980年。
今回はコンサートのためではなく、ウィーン国立歌劇場の「フィガロの結婚」のフィガロ役を歌うための来日である。
日本の聴衆の前でオペラを歌う姿を披露したのも、リートを全く歌わなかったのも、この時が初めてのことである。
この時の公演初日はNHKが録画しており、TV放送されたそうだ。
その映像が最近DVD化されたので、HMVのサイトなどで視聴した人たちの公演評を見ることが出来る。
なにぶん高価なので、中古品を見つけてから購入しようと思っているが、貴重な映像には違いないので、早く見てみたい気もする。
ベームの指揮にプライ、ヤノヴィツ、ポップ、バルツァ、ヴァイクルといった最高の布陣による歴史の1ページが刻まれていることであろう。

なお、ウィーン国立歌劇場の初来日公演は9月30日から10月28日まで全22公演行われた。
プライが参加していない他の演目は以下の通り。
モーツァルト「後宮からの逃走」(10月7,10,20日東京文化会館):テオドール・グッシュルバウアー指揮、クルト・ユルゲンス、エディタ・グルベローヴァ、パトリシア・ワイズ
R.シュトラウス「サロメ」(10月2,4,11,22日NHKホール、10月15日大阪・フェスティバルホール):H.ホルライザー&ホルスト・シュタイン指揮、レオニー・リザネック、カラン・アームストロング
R.シュトラウス「エレクトラ」(10月7,10,20日東京文化会館):ベリスラフ・クロブチャール指揮、グレース・ホフマン、ビルギット・ニルソン
R.シュトラウス「ナクソス島のアリアドネ」(10月9,25日東京文化会館、10月14,16日大阪・フェスティバルホール):K.ベーム&B.クロブチャール&H.シュタイン指揮、G.ヤノヴィツ、サビーネ・ハス

「エレクトラ」は日本初演だったとのこと。

| | | コメント (4) | トラックバック (0)

« 2008年3月 | トップページ | 2008年5月 »