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春の歌3編

早いものでもう3月も下旬。
そんなわけで春の歌を3編ご紹介します。

最初はシューベルトの比較的知られた作品「春に」D882。
詩人のシュルツェは1806年から1812年までゲッティンゲン大学で神学、哲学、美学を学んだが、1812年に婚約者ツェツィーリエ・ティクセン(Cäcilie Tychsen)を亡くし、そのことが詩作に影響を与えた。
この詩はかつて恋人と共に時を過ごした丘に腰を下ろし、思い出に浸るという内容。
最後の1行はシューベルトによる付加である。
シューベルトの曲は途中でわずかに暗く高揚する以外は優しく慰撫するような響きが美しく、とりわけピアノパートの歌うようなメロディーは印象的である。
悲しみが思い出に溶け込み、じわっと沁みてくる名作である。
(Mäßig(中庸に)、4分の4拍子、ト長調)

Im Frühling, D882
 春に

Still sitz' ich an des Hügels Hang,
Der Himmel ist so klar,
Das Lüftchen spielt im grünen Tal.
Wo ich beim ersten Frühlingsstrahl
Einst, ach so glücklich war.
 私は静かに丘の斜面に座っている、
 空はとても澄み切っており、
 風は緑の谷間を戯れる。
 ここは最初の春の光が注いだとき、
 かつて、ああ、とても幸せだった場所だ。

Wo ich an ihrer Seite ging
So traulich und so nah,
Und tief im dunklen Felsenquell
Den schönen Himmel blau und hell
Und sie im Himmel sah.
 ここは彼女の隣で
 とても心地よく、近くで歩いた場所、
 そして暗い岩の湧き水の深くに
 美しい空が青く明るく映り、
 その空の中に彼女が見えたものだ。

Sieh, wie der bunte Frühling schon
Aus Knosp' und Blüte blickt!
Nicht alle Blüten sind mir gleich,
Am liebsten pflückt ich von dem Zweig,
Von welchem sie gepflückt!
 ほら、すでに色とりどりの春が
 蕾や花々からのぞいている!
 私にとってはどの花も同じなのではない、
 この枝から摘むのが最も好きなのだ、
 彼女が摘んだその枝から。

Denn alles ist wie damals noch,
Die Blumen, das Gefild;
Die Sonne scheint nicht minder hell,
Nicht minder freundlich schwimmt im Quell
Das blaue Himmelsbild.
 なぜならすべてが当時のままだから、
 花も野原も。
 太陽は同じように輝き、
 泉の中では同じように親しげに
 青い空の姿が漂っている。

Es wandeln nur sich Will und Wahn,
Es wechseln Lust und Streit,
Vorüber flieht der Liebe Glück,
Und nur die Liebe bleibt zurück,
Die Lieb und ach, das Leid.
 ただ意志や空想だけが変わり、
 喜びやいさかいは移り行く、
 愛の幸福は逃げ去り、
 ただ愛だけが残される、
 愛、そしてああ、苦しみが。

O wär ich doch ein Vöglein nur
Dort an dem Wiesenhang
Dann blieb ich auf den Zweigen hier,
Und säng ein süßes Lied von ihr,
Den ganzen Sommer lang.
 おお私が
 あそこの草原の斜面にいる小鳥ならば、
 この枝々にとまり、
 彼女のことを甘く歌うだろうに、
 夏の間ずっと。

[Ich säng von ihr den ganzen Sommer lang.]
 [夏の間ずっと彼女のことを歌うだろうに。]

詩:Ernst Konrad Friedrich Schulze (1789.3.22, Celle - 1817.6.29, Celle)
曲:Franz Peter Schubert (1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

YouTubeでフィッシャー=ディースカウとムーアによる演奏を見ることが出来る。
http://www.youtube.com/watch?v=OaFhfYRWDps

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次はヴォルフやシューマンの作曲で知られるメーリケの"Er ist's!"。
一般的には「春だ!」「時は春」などの訳で知られているが、"er"が男性名詞を受ける代名詞であることを考慮して「あいつだ!」という訳にしてみた(「春」を明示しないのが詩人の意図と思われるので)。
そうはいっても詩の冒頭からいきなり「春」(Frühling)という語が出てくるので、あまりもったいぶった訳にしなくてもいいのかもしれないが。
シューマンの曲が冷静に春の喜びを語るのに対して、ヴォルフの曲は待ちに待った春の到来が自分には感じられたという感情の爆発が華やかなピアノと共に歌われる。
長く充実したピアノ後奏は、スター気取りの古い歌手の悩みの種だったようだ。
(Sehr Lebhaft, jubelnd(非常に生き生きと、歓呼して)、8分の4拍子、ト長調)

Er ist's!
 あいつだ!

Frühling läßt sein blaues Band
Wieder flattern durch die Lüfte;
Süße, wohlbekannte Düfte
Streifen ahnungsvoll das Land.
Veilchen träumen schon,
Wollen balde kommen.
Horch, von fern ein leiser Harfenton!
Frühling, ja du bist's!
Dich hab ich vernommen!
 春がその青いリボンを
 再び風になびかせる。
 甘い、馴染みの香りが
 予感に満ちて、地上をかすめる。
 すみれはもう夢見ている、
 じきに花開きたいのだ。
 ほら、遠くからかすかな竪琴の音!
 春よ、おまえなんだね!
 私にはおまえだと分かったよ!

詩:Eduard Friedrich Mörike (1804.9.8, Ludwigsburg – 1875.6.4, Stuttgart)
曲:Hugo Philipp Jakob Wolf (1860.3.13, Windischgraz – 1903.2.22, Wien)

amazonのサイトでアーリーン・オージェ(S)とアーウィン・ゲイジ(P)による音のサンプルが聴ける。
以下のサイトの7トラック目。
http://www.amazon.com/Hugo-Wolf-Poetry-Goethe-M%C3%B6rike/dp/B000002ZR8/ref=sr_1_10?ie=UTF8&s=music&qid=1206099227&sr=1-10

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最後はR.シュトラウス作曲の「四つの最後の歌」に含まれるヘルマン・ヘッセの詩による作品。
春の息吹を爽快感ではなく、うねるようなむせかえるような爛熟した響きで表現したのはシュトラウスならではだろう。
浮遊するように細かく長く浮き沈む声のメロディーは現実感よりも夢の中で漂っているかのようだ。
オーケストラは潮のうねりのように押しては返し、渦から抜け出ることが出来なくなりそうな感覚を覚える。
上述のピアノ歌曲とは全く異なる濃い世界が表現されている。

Frühling
 春

In dämmrigen Grüften
Träumte ich lang
Von deinen Bäumen und blauen Lüften,
Von deinem Duft und Vogelsang.
 薄暗い墓穴で
 私は長いこと夢見ていた、
 おまえの木々や青い風のこと、
 おまえの香りや鳥の歌のことを。

Nun liegst du erschlossen
In Gleiß und Zier,
Von Licht übergossen
Wie ein Wunder vor mir.
 今おまえは姿をあらわし、
 輝きと装飾をまとい、
 光を注がれ、
 奇跡のように私の前にいるのだ。

Du kennst mich wieder;
Du lockst mich zart.
Es zittert durch all meine Glieder
Deine selige Gegenwart!
 おまえは再び私に気付き、
 やさしく私を誘う。
 私の全身に震えが走る、
 おまえがここにいる幸せに!

詩:Hermann Hesse (1877.7.2, Calw - 1962.8.9, Montagnola, Switzerland)
曲:Richard Strauss (1864.6.11, München - 1949.9.8, Garmisch-Partenkirchen, Germany)

YouTubeのルチア・ポップの映像(ショルティ指揮シカゴ響)は若々しい美声と美貌を楽しむことが出来る(終始小さな雑音が入るのは我慢してください)。
http://www.youtube.com/watch?v=4WF4HYnfI10&feature=related

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コメント

「あいつだ!」という訳は初めて見ました。おもしろいですね。
「春が来た!」という叫びでしょうか。
今日は関東地方18~19度になるようですが、朝は結構寒いです。
まだ服の入れ替えができないな。。

投稿: Auty | 2008年3月22日 (土曜日) 07時43分

Autyさん、おはようございます。
最初は「彼だ!」にしようかとも思ったのですが、やはり季節に「彼」を使うのはやり過ぎかと思い直し、結局「あいつだ!」にしました。
春とはいえ朝晩と昼の温度差が激しいですね。暑がりな私でもまだ朝はふとんから出るのがつらいです。

投稿: フランツ | 2008年3月22日 (土曜日) 10時14分

本日 08年 4月 2日( 水曜日)
NHKラジオ「アンコールドイツ語講座」で、「Er ist's」を歌曲付きで放送していました.放送後、このサイトを知り、「Er ist's」の歌曲を何回も聴きました.
ありがとうございます.

投稿: このサイトに感謝 | 2008年4月 2日 (水曜日) 13時52分

コメントをいただき、有難うございます。
私の訳は素人の自己流なので、間違えているところもあるかもしれませんが、少しでもお役に立てたのでしたら光栄です。ドイツ語講座、私も学生の頃はよく聞いていました。Er ist'sも題材になっているのですね。
今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: フランツ | 2008年4月 2日 (水曜日) 20時56分

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