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プライ日本公演曲目1978年(第4回来日)

第4回来日:1978年5月「シューベルト没後150周年記念」

ヘルマン・プライ(Hermann Prey)(BR)
ミヒャエル・クリスト(Michael Krist)(P)

5月14日(日)14:00 立川市市民会館:プログラムA
5月16日(火)18:30 名古屋市民会館:プログラムA
5月18日(木)19:00 東京文化会館大ホール:プログラムC
5月19日(金)18:30 宮城県民会館:プログラムA
5月22日(月)19:00 大阪フェスティバルホール:プログラムB
5月26日(金)19:00 日比谷公会堂:プログラムA
5月27日(土)19:00 東京文化会館大ホール:プログラムB

●プログラムA 共演:ミヒャエル・クリスト(P)

シューベルト/歌曲集「冬の旅」(Winterreise)D911

●プログラムB「シラーとゲーテの詩による歌曲」 共演:ミヒャエル・クリスト(P)

シューベルト/あこがれ(Sehnsucht)D636
 タルタルスの群れ(Gruppe aus dem Tartarus)D583
 巡礼(Der Pilgrim)D794
 潜水者(Der Taucher)D111

シューベルト/プロメテウス(Prometheus)D674
 ガニメード(Ganymed)D544
 馭者クロノスに(An Schwager Kronos)D369
 3曲のハープひきの歌
  Ⅰ孤独に身をゆだねる者は(Wer sich der Einsamkeit ergibt)D478
  Ⅱ家々の門辺に歩み寄って(An die Türen will ich schleichen)D479
  Ⅲ涙を流しながらパンを喰べたことのない者(Wer nie sein Brot mit Tränen aß)D480
 憩いなき恋(Rastlose Liebe)D138
 羊飼いの歎きの歌(Schäfers Klagelied)D121
 逢う瀬と別れ(Willkommen und Abschied)D767

●プログラムC 共演:ミヒャエル・クリスト(P)

シューベルト/歌曲集「美しい水車屋の娘」(Die schöne Müllerin)D795

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ヘルマン・プライ4回目の来日は、前回から5年後の1978年。
プログラムはシューベルトの没後150周年を記念して、シューベルトのみ3種類が組まれ、オーケストラとの共演はなかったようだ。
ピアニストはホカンソンの体調不良のため、代役をミヒャエル・クリスト(1946年Linz生まれ)が務めている。
前回までの来日公演では、公演の間に必ず1日以上オフの日が挟まれていたが、今回は、5月18~19日と、26~27日で連続して公演が行われている。2日連続でも問題ないほど喉が強くなったということなのだろうか。また、18日と19日は東京から宮崎への遠距離移動をしたことになるが体調管理は大丈夫だったのだろうか。
今回も7公演中過半数の4公演で「冬の旅」が演奏され、これまでの4回の来日すべてで歌われたことになる。
プログラムBは前半をシラー歌曲、後半をゲーテ歌曲でまとめた魅力的な選曲である。
前回の来日時にも披露された長大な「潜水者」を除くと、日本初披露の曲ばかりで組まれているのが興味深い。
プログラムCの「美しい水車屋の娘」は東京で1回のみの公演だが、1971年来日時も同じ会場で1回披露しただけだったので、今回までに東京の会場でしか歌っていないことになり、「冬の旅」の場合とは大違いである。
ピアニストのミヒャエル・クリストとはPhilipsの現代歌曲集の録音で共演済みだが、日本公演のパートナーとしては初めてである。

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春の歌3編

早いものでもう3月も下旬。
そんなわけで春の歌を3編ご紹介します。

最初はシューベルトの比較的知られた作品「春に」D882。
詩人のシュルツェは1806年から1812年までゲッティンゲン大学で神学、哲学、美学を学んだが、1812年に婚約者ツェツィーリエ・ティクセン(Cäcilie Tychsen)を亡くし、そのことが詩作に影響を与えた。
この詩はかつて恋人と共に時を過ごした丘に腰を下ろし、思い出に浸るという内容。
最後の1行はシューベルトによる付加である。
シューベルトの曲は途中でわずかに暗く高揚する以外は優しく慰撫するような響きが美しく、とりわけピアノパートの歌うようなメロディーは印象的である。
悲しみが思い出に溶け込み、じわっと沁みてくる名作である。
(Mäßig(中庸に)、4分の4拍子、ト長調)

Im Frühling, D882
 春に

Still sitz' ich an des Hügels Hang,
Der Himmel ist so klar,
Das Lüftchen spielt im grünen Tal.
Wo ich beim ersten Frühlingsstrahl
Einst, ach so glücklich war.
 私は静かに丘の斜面に座っている、
 空はとても澄み切っており、
 風は緑の谷間を戯れる。
 ここは最初の春の光が注いだとき、
 かつて、ああ、とても幸せだった場所だ。

Wo ich an ihrer Seite ging
So traulich und so nah,
Und tief im dunklen Felsenquell
Den schönen Himmel blau und hell
Und sie im Himmel sah.
 ここは彼女の隣で
 とても心地よく、近くで歩いた場所、
 そして暗い岩の湧き水の深くに
 美しい空が青く明るく映り、
 その空の中に彼女が見えたものだ。

Sieh, wie der bunte Frühling schon
Aus Knosp' und Blüte blickt!
Nicht alle Blüten sind mir gleich,
Am liebsten pflückt ich von dem Zweig,
Von welchem sie gepflückt!
 ほら、すでに色とりどりの春が
 蕾や花々からのぞいている!
 私にとってはどの花も同じなのではない、
 この枝から摘むのが最も好きなのだ、
 彼女が摘んだその枝から。

Denn alles ist wie damals noch,
Die Blumen, das Gefild;
Die Sonne scheint nicht minder hell,
Nicht minder freundlich schwimmt im Quell
Das blaue Himmelsbild.
 なぜならすべてが当時のままだから、
 花も野原も。
 太陽は同じように輝き、
 泉の中では同じように親しげに
 青い空の姿が漂っている。

Es wandeln nur sich Will und Wahn,
Es wechseln Lust und Streit,
Vorüber flieht der Liebe Glück,
Und nur die Liebe bleibt zurück,
Die Lieb und ach, das Leid.
 ただ意志や空想だけが変わり、
 喜びやいさかいは移り行く、
 愛の幸福は逃げ去り、
 ただ愛だけが残される、
 愛、そしてああ、苦しみが。

O wär ich doch ein Vöglein nur
Dort an dem Wiesenhang
Dann blieb ich auf den Zweigen hier,
Und säng ein süßes Lied von ihr,
Den ganzen Sommer lang.
 おお私が
 あそこの草原の斜面にいる小鳥ならば、
 この枝々にとまり、
 彼女のことを甘く歌うだろうに、
 夏の間ずっと。

[Ich säng von ihr den ganzen Sommer lang.]
 [夏の間ずっと彼女のことを歌うだろうに。]

詩:Ernst Konrad Friedrich Schulze (1789.3.22, Celle - 1817.6.29, Celle)
曲:Franz Peter Schubert (1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

YouTubeでフィッシャー=ディースカウとムーアによる演奏を見ることが出来る。
http://www.youtube.com/watch?v=OaFhfYRWDps

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次はヴォルフやシューマンの作曲で知られるメーリケの"Er ist's!"。
一般的には「春だ!」「時は春」などの訳で知られているが、"er"が男性名詞を受ける代名詞であることを考慮して「あいつだ!」という訳にしてみた(「春」を明示しないのが詩人の意図と思われるので)。
そうはいっても詩の冒頭からいきなり「春」(Frühling)という語が出てくるので、あまりもったいぶった訳にしなくてもいいのかもしれないが。
シューマンの曲が冷静に春の喜びを語るのに対して、ヴォルフの曲は待ちに待った春の到来が自分には感じられたという感情の爆発が華やかなピアノと共に歌われる。
長く充実したピアノ後奏は、スター気取りの古い歌手の悩みの種だったようだ。
(Sehr Lebhaft, jubelnd(非常に生き生きと、歓呼して)、8分の4拍子、ト長調)

Er ist's!
 あいつだ!

Frühling läßt sein blaues Band
Wieder flattern durch die Lüfte;
Süße, wohlbekannte Düfte
Streifen ahnungsvoll das Land.
Veilchen träumen schon,
Wollen balde kommen.
Horch, von fern ein leiser Harfenton!
Frühling, ja du bist's!
Dich hab ich vernommen!
 春がその青いリボンを
 再び風になびかせる。
 甘い、馴染みの香りが
 予感に満ちて、地上をかすめる。
 すみれはもう夢見ている、
 じきに花開きたいのだ。
 ほら、遠くからかすかな竪琴の音!
 春よ、おまえなんだね!
 私にはおまえだと分かったよ!

詩:Eduard Friedrich Mörike (1804.9.8, Ludwigsburg – 1875.6.4, Stuttgart)
曲:Hugo Philipp Jakob Wolf (1860.3.13, Windischgraz – 1903.2.22, Wien)

amazonのサイトでアーリーン・オージェ(S)とアーウィン・ゲイジ(P)による音のサンプルが聴ける。
以下のサイトの7トラック目。
http://www.amazon.com/Hugo-Wolf-Poetry-Goethe-M%C3%B6rike/dp/B000002ZR8/ref=sr_1_10?ie=UTF8&s=music&qid=1206099227&sr=1-10

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最後はR.シュトラウス作曲の「四つの最後の歌」に含まれるヘルマン・ヘッセの詩による作品。
春の息吹を爽快感ではなく、うねるようなむせかえるような爛熟した響きで表現したのはシュトラウスならではだろう。
浮遊するように細かく長く浮き沈む声のメロディーは現実感よりも夢の中で漂っているかのようだ。
オーケストラは潮のうねりのように押しては返し、渦から抜け出ることが出来なくなりそうな感覚を覚える。
上述のピアノ歌曲とは全く異なる濃い世界が表現されている。

Frühling
 春

In dämmrigen Grüften
Träumte ich lang
Von deinen Bäumen und blauen Lüften,
Von deinem Duft und Vogelsang.
 薄暗い墓穴で
 私は長いこと夢見ていた、
 おまえの木々や青い風のこと、
 おまえの香りや鳥の歌のことを。

Nun liegst du erschlossen
In Gleiß und Zier,
Von Licht übergossen
Wie ein Wunder vor mir.
 今おまえは姿をあらわし、
 輝きと装飾をまとい、
 光を注がれ、
 奇跡のように私の前にいるのだ。

Du kennst mich wieder;
Du lockst mich zart.
Es zittert durch all meine Glieder
Deine selige Gegenwart!
 おまえは再び私に気付き、
 やさしく私を誘う。
 私の全身に震えが走る、
 おまえがここにいる幸せに!

詩:Hermann Hesse (1877.7.2, Calw - 1962.8.9, Montagnola, Switzerland)
曲:Richard Strauss (1864.6.11, München - 1949.9.8, Garmisch-Partenkirchen, Germany)

YouTubeのルチア・ポップの映像(ショルティ指揮シカゴ響)は若々しい美声と美貌を楽しむことが出来る(終始小さな雑音が入るのは我慢してください)。
http://www.youtube.com/watch?v=4WF4HYnfI10&feature=related

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アーメリングの新譜「1957-1991年放送録音集」

Elly Ameling 75 jaar: Live Concertopnamen 1957-1991: Nederlandse Omroep
Ameling_19571991(エリー・アーメリング75歳:コンサート・ライヴ録音1957~1991年:オランダ放送)
Omnium Audiovisueel: GW 80003 (5 CD Box)

CD1:オペラ

1.ビゼー/歌劇「カルメン」から(ミカエラ):第3幕:これが密輸業者のふだんの隠れ家ね~なにが出たってこわくはないわ(コンセルトヘボウ管;ベルナルト・ハイティンク(C):1966.10.28)

2.グノー/歌劇「ファウスト」から(マルグリット):第3幕:あの方は一体誰だったのか知りたい~昔トゥーレに一人の王さまがいて~ああ! 私は楽しげに自分を眺めているのだわ(コンセルトヘボウ管;ベルナルト・ハイティンク(C):1966.10.28)

3.マイヤール/歌劇「ヴィラールの竜騎兵」から(ローズ):第1幕:ティボーさん、あなたの騾馬は素敵ね(オランダ放送管;アルベルト・ヴォルフ(C):1957.12.1)

モーツァルト/歌劇「イドメネオ、クレタの王」から(イリア)
4.第1幕:いつ果てるのでしょう~父上、兄弟たち、さようなら!
5.第2幕:もし私が父上を失い
(オランダ放送室内管;ミヒャエル・ギーレン(C):1973.5.21)
6.第3幕:愛しい静寂よ~心地よい、やさしいそよ風よ~あの方が!(コンセルトヘボウ管;ベルナルト・ハイティンク(C):1970.2.11)

モーツァルト/歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」K588から(フィオルディリージ)
7.第2幕:すぐにも誠実な許婚の
8.第1幕:岩のように
(シモン・ファン・デア・ヘースト(T:フェルランド:7);オランダ放送室内管;マウリツ・ファン・デン・ベルフ(C):1958.2.2)

モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」K492から
9.(ケルビーノ):第1幕:自分で自分が分からない
10.(スザンナ):第4幕:とうとううれしい時がきた~恋人よ早くここへ
11.(スザンナ):(挿入アリア):喜びの衝動がK579
12.(伯爵夫人):第2幕:愛の神よ
13.(伯爵夫人):第3幕:スザンナはまだ来ないわ~楽しい思い出はどこへ
(オランダ放送室内管;ジャン・フルネ(C):1988.1.9)

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CD2:ドイツ歌曲

1.ベルク/「ワイン」(コンセルトヘボウ管;エーリヒ・ラインスドルフ(C):1973.12.2)

マーラー/
2.私はやさしい香りを吸い込んだ
3.私はこの世から忘れられた
(オランダ放送室内管;エト・スパンヤールト(C):1991.6.1、ユトレヒト)

R.シュトラウス/
4.万霊節Op.10-8(ルドルフ・ヤンセン(P):1983.2.3)
5.母親の戯れ話Op.43-2(ルドルフ・ヤンセン(P):1981.11.22)
6.明日Op.27-4(ルドルフ・ヤンセン(P):1983.2.3)
7.子守歌Op.41-1(ルドルフ・ヤンセン(P):1983.10.18)
8.悪天候Op.69-5(ルドルフ・ヤンセン(P):1981.11.22)
9.黄昏をとおる夢Op.29-1(ルドルフ・ヤンセン(P):1983.2.3)
10.言いました-それだけでは済みませんOp.36-3(ルドルフ・ヤンセン(P):1982.5.12)
11.ああ恋人よ、もう別れなければならないOp.21-3(ルドルフ・ヤンセン(P):1983.10.18)
12.バラのリボンOp.36-1(ドルトン・ボールドウィン(P):1974.4.28)
13.セレナーデOp.17-2(ドルトン・ボールドウィン(P):1975.5.5)

R.シュトラウス/歌曲集「4つの最後の歌」
14.春
15.九月
16.眠りにつく時
17.夕映えの中で
(コンセルトヘボウ管;ヴォルフガング・サヴァリシュ(C):1983.11.23)

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CD3:フランス歌曲

ドビュッシー/「3つのビリティスの歌」
1.パンの笛
2.髪
3.ナイヤードの墓
(ルドルフ・ヤンセン(P):1983.10.18)

ドビュッシー(スパンヤールト管弦楽編曲)/「3つのステファヌ・マラルメの詩」
4.ため息
5.むなしい願い
6.扇
(オランダ放送室内管;エト・スパンヤールト(C):1991.6.1、ユトレヒト)

デュパルク/
7.哀歌(ルドルフ・ヤンセン(P):1989.2.21)
8.恍惚(ルドルフ・ヤンセン(P):1989.2.21)
9.ため息(ドルトン・ボールドウィン(P):1979.1.4)
10.悲しい歌(ルドルフ・ヤンセン(P):1982.5.12)

フォレ/「優れた歌」Op. 61
11.後光を背負った聖女
12.暁の光は広がり
13.白い月影は森に照り
14.私はつれない道を歩む
15.私はほんとうに恐ろしいほど
16.暁の星よ、お前が消える前に
17.それはある夏の明るい日
18.そうでしょう
19.冬が終わって
(ルドルフ・ヤンセン(P);スヴェーリンク四重奏団:1981.11.17)

ラヴェル/「3つのステファヌ・マラルメの詩」
20.ため息
21.むなしい願い
22.もろいガラスの壺の
(ルドルフ・ヤンセン(P);スヴェーリンク四重奏団ほか:1981.11.17)

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CD4:歌曲とアリア(オランダ、アルゼンチン、イギリス、イタリア、ロシア)

コンスタンテイン・ハウヘンス/「聖と俗のパトディア」から
1.In quo corriget asolescentior 2.16
2.Memor fui dierum 2.34
3.甘き死(Italiaanse aria's: Morte dolce) 2.33
4.窓辺にかくれた乙女(Italiaanse aria's: Riposta dalla finestra) 1.37
5.Franse aria's: Graves tesmoins de mes délices 2.28
(ルドルフ・ヤンセン(clavicembalo):1981.11.22)

ヘンドリク・アンドリーセン(1892-1981)/
6.Magna rest est amor(1919)
7.Fiat Domine(1920-30)
(コンセルトヘボウ管;ベルナルト・ハイティンク(C):1967.9.27)

ヘンドリク・アンドリーセン/歌曲集「Miroir de Peine」(1923-33)
8.Agonie au jardin
9.Flagellation
10.Couronnement d'épines
11.Portement de croix
12.Crucifixion
(アルベール・ド・クレルク(ORG):1958.3.14)

ムソルクスキー/「子供部屋」(ドイツ語訳)
13.ばあやと一緒
14.部屋の隅で
15.かぶと虫
16.人形をもって
17.夕べの祈り
18.ねこの船乗り
19.木馬に乗って
(ルドルフ・ヤンセン(P):1978.10.3)

20.ストラヴィンスキー/牧歌(ルドルフ・ヤンセン(P):1989.2.21)

ダッラピッコラ(1904-1975)/「6つのアルカイオスの歌(Sex Carmina Alcaei)」(1943)
21. I Exposito
22. II Canon perpetuus
23. III Canones diversi
24. IV Vago e leggero, Canon contrario motu
25. V Mosso, ma non tanto
26. VI Conclusio
(コンセルトヘボウ管;エーリヒ・ラインスドルフ(C):1973.12.2)

27.ロッシーニ/ダンス(ルドルフ・ヤンセン(P):1982.5.12)

28.トスティ/セレナータ(ルドルフ・ヤンセン(P):1985.10.6)

29.グァスタビーノ/バラと柳(ルドルフ・ヤンセン(P):1981.11.17)

30.レイディー・ジョン・スコット/私のことを思ってね(ルドルフ・ヤンセン(P):1989.2.21)

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CD5:20世紀オランダの作品

ベルトゥス・ファン・リーア(1906-1972)/「雅歌(The Holy Song = Het Hooglied)」(1949)
1.Let him kiss me with the kisses of his mouth
2.To the horses of Pharao's chariots
3.The voice of my Beloved
4.At night on my bed (1st nightsong)
5.Who is this, that cometh out the wilderness
6.Behold! Thou art fair, my love
7.With me from Lebanon, o spouse
8.I sleep, but my heart waketh (2nd nightsong)
9.What is thy Beloved more than another beloved?
10. Thou art beautiful, o my love
11. Turn thee, turn thee (dance of the two armies)
12. How fair and pleasant art thou
13. I am my Beloved's
14. Who is she, that cometh up from the wilderness
(ジョージ・マラン(T);フース・フックマン(BS);オランダ・フィルハーモニー合唱団;コンセルトヘボウ管;ベルナルト・ハイティンク(C):1966.12.18)

15.ロベルト・ヘッペナー(1925-)/アッシジの聖フランチェスコの被創造物の頌歌(Cantico delle Creature di San Francesco d'Assisi)(1952)(オランダ室内管;ロナルト・ツォルマン(C):1977.10.15)

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エリー・アーメリング(Elly Ameling)の75歳を記念して、2月にオランダ国内で彼女の24歳から58歳までの放送録音を集めた5枚組のCDボックスが発売された。
今のところHMVやタワーレコードでは扱っておらず、ドイツのamazonで購入して、久しぶりの彼女の新譜をたっぷり満喫したところである(3/23追記:HMVでも取り扱いを始めました)。

内容は1枚目がオペラで、彼女が唯一舞台に立った「イドメネオ」のライヴ(ギーレン指揮)を聴くことが出来るほか、彼女がセルトーヘンボスのコンクールでも歌ったグノーの「宝石の歌」、さらに「カルメン」のミカエラのアリアや「フィガロの結婚」のケルビーノ、スザンナ、伯爵夫人まで収録されている。
2枚目はドイツ歌曲だが、すでにリリースされていたベルクの「ワイン」や、先日のオランダのラジオでも放送されたマーラーの2曲、R.シュトラウスの「4つの最後の歌」のほかに、「明日」「子守歌」「悪天候」などを含むこれまでのスタジオ録音で聴けなかったR.シュトラウスの多くのピアノ歌曲が含まれているのが貴重である。
3枚目はフランス歌曲で、ドビュッシーの「3つのステファヌ・マラルメの詩」は先日のラジオで放送されたものと同じ音源だが、ほかは初めて聴くものばかりで、特にフォレの「優れた歌」をピアノと弦楽四重奏に編曲したものなどなかなか聴けない版ではないだろうか。
デュパルクも「悲しい歌」以外はこれまでスタジオ録音されていないものばかりである。
4枚目は各国の歌曲をいろいろ集めたものだが、オランダのヘンドリク・アンドリーセンの作品は訴求力が強い力作だと思う。
ここに多数収録されているが、ぜひ聴いてみていただきたい。
ハウヘンスの「聖と俗のパトディア」はマックス・ファン・エグモント(BR)とEMIのLPに全曲を収録していたが、今回はヤンセンと5曲を演奏している。
ほかにロッシーニの軽快なタランテラ「ダンス」やグァスタビーノの物哀しい「バラと柳」と並んで、ムソルクスキーの「子供部屋」の全曲が含まれているのが興味深い。
彼女はHans Schmidtという人のドイツ語訳で歌っているが、日本でもかつて披露したらしいので録音で聴けるのは喜ばしい。
事実これらの歌曲は彼女の親しみやすい声の質と語りの巧みさで素晴らしい出来栄えになっている。
5枚目はオランダの作曲家ベルトゥス・ファン・リーアとロベルト・ヘッペナーの管弦楽歌曲。ファン・リーアの方は旧約聖書の「雅歌」のテキスト(男女の愛を歌ったものとして、聖書の中でも異色の歌)によるもので、以前オランダのDONEMUSというレーベルから出ていたLPと同一音源(このLP、作曲者の自筆楽譜が全曲添付されていたので印象深い)だが、ヘッペナーはおそらく初出(異なる指揮者の演奏は出ていたが)。
オランダの作曲家の声楽作品はオランダ語よりもほかの言語ではじめから作曲されることが多いようで、ファン・リーアは英語、ヘッペナーはイタリア語で歌われる。

このCDの中で最も若い録音はCD1のマイヤール作曲、歌劇「ヴィラールの竜騎兵」からのアリアで、24歳のアーメリングがすでに声の質、技術、スタイルをしっかり身に付けて魅力的に歌っているのを聴くことが出来る(この録音は以前一度CDで出ている)。
一方最も最近の録音はCD2のマーラー作曲、リュッケルト歌曲集からの2曲「私はやさしい香りを吸い込んだ」「私はこの世から忘れられた」で、58歳の録音である。
彼女の最後のスタジオ録音となったHyperionレーベルへのヴォルフ歌曲集も同じ年に録音されていることから、彼女がリリースに値すると自ら判断した最後が1991年ということなのかもしれない(ステージでは1996年まで歌っている)。
このマーラーの2曲、確かに声のボリュームやふくよかさは以前よりも減退しているが、フレーズをしっかり維持しつつ、より深い音色を獲得した彼女にしか出せない味わいがあり、素晴らしい演奏であった。

今回のこの5枚組、おそらくアーメリングがOKを出したものばかりが選ばれているのであろうからどれもが素晴らしいのは当然かもしれないが、なかでもデュパルクの「哀歌(Lamento)」は特に印象深かった。
ベルリオーズの「夏の夜」にも使われたテオフィール・ゴティエの詩によるものだが、デュパルクは原詩から3節分だけを取り出して作曲した(「詩と音楽」のサイトに藤井さんの訳と解説があります)。
「前世」や「フィディレ」などと同様に、この作品も詩の展開に応じて静かに始まり、後半に大きく盛り上がり、最後に再び静まって終わるという形をとっている。
1980年代後半になり、暗さを増した彼女の声と、言葉を大切にした語りのうまさ、さらに消え入らんばかりの弱声と第3節の悲痛な盛り上がりの表現力の幅広さなど円熟した彼女が満を持して披露したのが伝わってくる出来栄えであった。
惜しむらくは、ライヴ録音のためと思われるが、彼女が第1節後半に誤って第2節の後半のテキストを歌っているので、同じ歌詞を2回繰り返すことになってしまっていることだが、それを差し引いても、彼女の歌唱の素晴らしさは特筆に値すると思う。
ヴァーグナー風の官能的な「恍惚」も1980年代後半という時期を待って歌った作品であろう。
抑えた響きで官能のほてりをじわじわと発している。
「ため息」はよく出来た作品で、アーメリングの真摯な歌いぶりがよく合っていた。
最後に「Toujours(いつも)」と歌いおさめる時の余韻に心打たれる。

ドビュッシーの「3つのビリティスの歌」はCBS SONYのLP録音がいつまでも復活しないので、今回の放送録音がリリースされる意義は大きい。
LP録音時よりも後の録音であり、より詩のアンニュイな世界に踏み込んだ表現を試みているのが感じられる。
「3つのステファヌ・マラルメの詩」はドビュッシーとラヴェルで最初の2曲が同じテキストなので、聴き比べるのも興味深いだろう。
第1曲の「ため息」をとってみても、空気が立ち上っていくような前奏に導かれてまとわりつくように歌われるドビュッシーと、せわしなくきしむ弦と穏やかな管、ピアノの上で悠然と歌われるラヴェルとその違いがありながら、同じマラルメのテキストを表現しているという共通性もどことなく感じられる気がする。

R.シュトラウスのサヴァリシュとの「4つの最後の歌」は、彼女自身がCD化されることを望んでいたものなので、ようやく念願かなったというところだろう(ファンにとっても同様の気持ちである)。
昨年暮れのオランダのラジオ4で一足先に聴くことが出来た音源と同じだが、R.シュトラウスを歌ってもアーメリングはどこまでも彼女自身の歌唱だったということが分かる。
特に「夕映えの中で」の達観した響きは、他の数多くの名演と肩を並べるのに充分な資格をもっていると言えるのではないか。
さらにR.シュトラウスのピアノ歌曲も貴重である。
このCDのレパートリーの中では、「万霊節」「黄昏をとおる夢」「言いました-それだけでは済みません」「セレナーデ」以外はスタジオ録音を残していない。
従って、CD2は彼女のR.シュトラウス・アルバムとして独立して発売してもよいのではないかと思えるほど貴重な録音である。
「母親の戯れ話」や「悪天候」「ああ恋人よ、もう別れなければならない」は彼女の来日公演のプログラムにも含まれているので、こうしてはじめて録音で聴けるのは有難いが、有名な「明日」や「子守歌」も歌っていたというのは初めて知ったので、ここで聴くことが出来て純粋にうれしい。
多くのシュトラウス歌手たちがこれらの歌曲を自身の声のボリュームや息の長さをアピールする手段として選曲しているように思えるのに対して、アーメリングの場合はそれぞれの歌曲をあくまで作品重視で演奏しているのが素晴らしい。
なかでも「母親の戯れ話」のようなコミカルな作品は出色の出来であった。

オペラアリアでは、ハイティンクと1966年に共演したミカエラのアリアと、宝石の歌が、いずれも声のみずみずしさ、声量、表現力、どれをとっても完璧で素晴らしいと思う。
また、実際に舞台に立ってギーレン指揮で歌った「イドメネオ」からの抜粋も素晴らしい表現の連続で、ぜひ全曲をオランダのラジオ4あたりで流してほしいものである。
1988年の円熟期にフルネ指揮で「フィガロの結婚」の三役を次々と歌ったものも、声の若さは望めないまでも充分美しさは保っており、ケルビーノのアリアの歌い収めなどは焦燥感も滲ませるあたり、若い歌手には出せない味を響かせていた。

共演者はオランダ人がやはり多く、みな思いのこもったいい演奏をしていたと思うが、このCDではごくわずかの曲で共演しているのみのアメリカ人ピアニスト、ドルトン・ボールドウィンが改めて凄いピアニストなのだなぁと思った。
もちろんルドルフ・ヤンセンも超一流の歌曲ピアニストであるが、ロッシーニの「ダンス」のような曲をなんでもないように平然とリズミカルに弾くことがいかに至難の業であることか、今回のヤンセンの若干重めの演奏を聴いて思った。
ボールドウィンはLP録音で軽々とこの曲をペダルに殆ど頼らず弾いていたものだった。
今回のCDでもR.シュトラウスの「セレナーデ」を見事に粒だった美しいタッチで披露している。

こうして彼女の放送録音を聴いてみると、彼女がスタジオで録音した膨大な作品も彼女のレパートリーの一部に過ぎず、オペラアリアも含め、様々な作品を披露していることに改めて驚かされる。
そして、その量の多さだけではなく、質が常にしっかりしているのもこの歌手の非凡さを実感させられる。
とにかく、難しいことを考えずに、次々に繰り広げられるアーメリングの歌の世界をただ楽しむというだけでも格好のCDボックスであることは確かである。
興味をもたれた方はぜひ聴いてみてください。

今度は彼女の歌っている映像をどこかのレーベルが出してくれることを願いたい。

現在のところ、オランダのvanLeest KlassiekやドイツamazonでこのCDを購入することが出来ます。
http://www.vanleestklassiek.nl/pages/productview.asp?productid=1462308&navid=46
http://www.amazon.de/75-Jaar-Elly-Ameling/dp/B0013GBDCE/ref=pd_rhf_p_1

※3/23追記:さらにHMVでも購入可能になりました。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2711125

なお、以下のサイトで全曲試聴できます。
http://www.muziekweb.nl/shared/cat/ti/index.php?tnr=DAX4918

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プライ日本公演曲目1973年(第3回来日)

第3回来日:1973年10~11月

ヘルマン・プライ(Hermann Prey)(BR)
レナード・ホカンソン(Leonard Hokanson)(P:プログラムA~C)
読売日本交響楽団(プログラムD)
山田一雄(C:プログラムD)

10月19日(金)18:30 北海道厚生年金会館:プログラムC
10月22日(月)19:00 東京文化会館大ホール:プログラムA
10月26日(金)19:00 東京文化会館大ホール:プログラムD「第96回読売日本交響楽団定期演奏会」
10月28日(日)18:30 新潟県民会館:プログラムB
10月30日(火)19:00 東京厚生年金会館大ホール:プログラムC
11月2日(金)19:00 東京文化会館大ホール:プログラムC
11月5日(月)19:00 大阪フェスティバルホール:プログラムC
11月9日(金)18:30 千葉県文化会館:プログラムB
11月11日(日)18:30 神奈川県立音楽堂:プログラムB
11月13日(火)19:00 東京文化会館大ホール:プログラムB

●プログラムA「シューベルトとレーヴェのバラード」 共演:レナード・ホカンソン(P)

シューベルト/魔王(Erlkönig)D328
 トゥーレの王(Der König in Thule)D367
 歌びと(Der Sänger)D149
 潜水者(Der Taucher)D77

レーヴェ/アーチボード・ダグラス(Archibald Douglas)Op. 128
 オルフ氏(Herr Oluf)Op. 2-2
 海を行くオーディン(Odins Meeresritt)Op. 118
 忠実なエッカルト(Der getreue Eckardt)Op. 44-2
 婚礼の歌(Hochzeitslied)Op. 20-1
 魔王(Erlkönig)Op. 1-3

●プログラムB「白鳥の歌とザイドルの詩による四つの歌/シューベルト」 共演:レナード・ホカンソン(P)

・ザイドルの詩による五つの歌
シューベルト/まちの外で(Im Freien)D880
 あこがれ(Sehnsucht)D879
 さすらい人が月に寄せて(Der Wanderer an den Mond)D870
 窓辺にて(Am Fenster)D878
 鳩の使い(Die Taubenpost)D965A(D957-14)

・歌曲集「白鳥の歌」よりハイネの詩による六つの歌
シューベルト/アトラス(Der Atlas)D957-8
 彼女のおもかげ(Ihr Bild)D957-9
 漁師の娘(Das Fischermädchen)D957-10
 まち(Die Stadt)D957-11
 海辺で(Am Meer)D957-12
 影法師(Der Doppelgänger)D957-13

・歌曲集「白鳥の歌」よりレルシュタープの詩による七つの歌
シューベルト/愛の便り(Liebesbotschaft)D957-1
 兵士の予感(Kriegers Ahnung)D957-2
 春のあこがれ(Frühlingssehnsucht)D957-3
 セレナーデ(Ständchen)D957-4
 わが宿(Aufenthalt)D957-5
 遠い国で(In der Ferne)D957-6
 わかれ(Abschied)D957-7

●プログラムC 共演:レナード・ホカンソン(P)

シューベルト/歌曲集「冬の旅」(Winterreise)D911

●プログラムD「第96回読売日本交響楽団定期演奏会」 共演:読売日本交響楽団;山田一雄(C)

モーツァルト/交響曲第36番ハ長調K.V.425<リンツ>
ヘンツェ/「5つのナポリの歌」(5 neapolitanische Lieder)
マーラー/歌曲集「さすらう若人の歌」(Lieder eines fahrenden Gesellen)(彼女の婚礼の日は/朝の野辺を歩けば/燃えるような短剣で/彼女の青い目が)
ファリャ/舞踊組曲<三角帽子>

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ヘルマン・プライ3回目の来日は、前回からわずか2年後の1973年。
プログラムはレナード・ホカンソンとの3種類と、読売日本交響楽団定期公演でのヘンツェとマーラーである。
ホカンソンとのリサイタルでは前2回同様「冬の旅」が歌われているほかに、Aプログラムではシューベルトとレーヴェのバラードばかりを集め、東京で1回だけ披露され、Bプログラムでは「白鳥の歌」全曲にザイドルの歌曲を加えた意欲的な選曲である。
プライはハースリンガー出版の「白鳥の歌」を“解体”した最初の一人だろう。
ハースリンガーが最後に置いたザイドルの「鳩の使い」をほかのザイドル歌曲と共に最初に置き、続いて後半のハイネ歌曲集を置き、ハースリンガー版最初のレルシュタープ歌曲集を最後に置く。
この順序の解体がプライにとってどのような意味を持つのかは分からないが、「白鳥の歌」の曲順がシューベルトの意思とは無関係である以上、プライの試みを否定する理由は全くない。
今回のプログラムで最も注目すべきなのはやはりプログラムAのシューベルトとレーヴェのバラードの夕べであろう。
シューベルトの「魔王」で始まり、同じ詩によるレーヴェの「魔王」で終えるというプログラミングは良く考えられたものだと思う。
30分近くかかる長大なシラーの詩によるバラード「潜水者」など、当時はほとんど演奏されることのない珍しい選曲だったのではないか。
レーヴェ歌曲の部では、10分ほどかかる「アーチボード・ダグラス」で始め、「オルフ氏」や「海を行くオーディン」などよく知られた曲が続いている。
プライのレーヴェはF=ディースカウのような歯切れのよい芝居っ気ではなく、のびのびとした屈託のなさに良さがある。
そういう意味ではプライの美質を生かす曲とは必ずしもいえない深刻な曲が多く選ばれているのが興味深い。
読売日本交響楽団の定期演奏会では前2回の来日公演でも歌われた「さすらう若人の歌」と、初来日時に歌われたヘンツェ「5つのナポリの歌」を再度取り上げている。
初期のプライが気に入っていた歌曲集なのだろう。

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Every Little Thing/8thオリジナルアルバム「Door」

3月5日に、約1年半ぶりにEvery Little Thingの8番目のオリジナルアルバム「Door」がリリースされた。
前作の「Crispy Park」は10周年記念にリリースされたが、その後の超過密スケジュールゆえの声の不調に心配させられたものだった。
あれから時が経ち、彼女も声を取り戻したようだ。
4曲目の「パリの娘」の中に「さーさ/どうぞ/Doorを/開けてみて」という詞が出てくるが、今回はDoorを通して様々な世界を見て欲しいという意味が込められているようだ。
また、持田さんが言うには、自分の体の中にドアを持って、そのドアを開くことによって、自分の中に新鮮な風を通すことが出来たらという思いもあるようだ。
なかなか深い。

1.GATE #8(Instrumental)
伊藤さん作曲のインスト曲。
ドンドンとドアをたたくような音を織り交ぜて、アルバム「Door」の導入曲としての役割を担っている。
短い曲だが華やかでインパクトが強い。

2.まさかのTelepathy
曲は80年代歌謡曲へのオマージュという感じで魅力的(松田聖子の曲を思い出させる)。
歌詞も「懐かしい音ね」と始まる。
持田さんは爽やかなはきはきした歌い方で言葉がはっきりと伝わってくる。
サビのファルセットが印象的。

3.キラメキアワー(Door version)
歌は32ndシングルの使い回しではなく、アルバム用に歌い直したとのこと。
シングルの方はもっとはじけた懸命さが前面に出ていたが、今回は歌いこんだ余裕のようなものが感じられ、肩の力が抜けた感じだ。
楽しそうに歌っているのが聴いていて気持ちよい。
リアレンジはシングルを大きく外れることなく、若干手を加えた程度なので曲のイメージが変わってしまうことはない。

4.パリの娘
持田さんがパリの印象を描いたもの。
以前の「water(s)」のように声を重ねることによって可愛らしさが出て、時々原由子さんを思い出させる。
「フルーツ」と「プリーズ」のようなあからさまでない韻を踏むところは作詞家持田のセンスの良さを感じた。
フランス語の語りを混ぜたりして遊び心のある作品だった。

5.サクラビト
ELTにとってこれほど和風な曲は初めてだろう。
最初に聴いた時はそれほど強い印象を受けなかったが、繰り返し聴き続けるうちにやみつきになった。
何よりもヴォーカリストとしての持田さんの声の力を感じる。
以前だったらこれほどELTらしさを薄めた冒険的な曲はシングルでは出さなかっただろうが、アルバム先行曲としてあえてリリースしたのは彼らの自信のあらわれではないか。

6.WONDER LAND
今回のアルバム曲の中で個人的に最も気に入った曲。
「water(s)」や「スイミー」の早川さんの作曲。
シンセの細かい響きは初期のELTを彷彿とさせるが、曲調はあくまで現在のELTのもの。
サビの早口はインパクトが強い。
「WONDER LAND」というタイトル通り、めまぐるしく表情が変わる魅力的な曲。

7.冬がはじまるよ feat.槇原敬之
33rdシングル「恋をしている」のダブルA面として槇原敬之の「冬がはじまるよ」をカバーした作品。
槇原自身も多重録音による分厚いコーラスで参加している。
個人的には槇原のオリジナルのアレンジの方が好みだが、今回のELT用のアレンジも単なるカバーに終わらない意欲が感じられてなかなか良い感じだ(最後の方はチャイニーズな感じ?)。

8.B.L.V.D.(Instrumental)
伊藤さんのインストだが、1曲目とは異なり、ゆったりとしたBGM風の曲でギターも心地よく響く。

9.NEROLI
ネロリとはストレスからのリラックス作用があるアロマのことだそうだ。
ELTには時々かなりアグレッシブな曲調の作品があるが、これもそんな曲の一つ。
持田さんも曲調に合わせてかなりダークな響きを出していて、彼女の声の対応力のすごさをあらためて感じた。
伊藤さんのギターも前に前に出ている。

10.カラカラ
ELT初のレゲエは彼ら曰く「変化球」がほしくて取り入れたようだ。
歌のメロディーはいつものELTらしいポップスを保ちながら、バックに心地よいレゲエが流れる。
ソーダ水の氷が「カラカラ」鳴る夏の幸せな恋の歌。
けだるい持田さん自身のコーラスも効果的。

11.恋をしている
33rdシングルとして発売された「恋をしている」はELTの王道バラードのためか、ここ数年の中ではかなり売り上げも良かった。
無条件に心に沁みてくるような菊池さんの曲はさすがというほかない。
歌も真摯で感動的だ。
PVでの持田さんを見ると彼女の表情の美しさをあらためて思わずにいられない。

12.gladiolus
ELTにとって初めての女性の作曲家の作品とのこと(もちろん持田さんの作曲は除いて)。
グラジオラスという花がタイトルに付けられ、まろやかだが強い力をもった感動的なバラードになっていた。

13.オフェリア_act2
オフェリアというタイトルは当初ファンの間でシェイクスピアの「ハムレット」の登場人物を歌ったものと予想されていたが、持田さんによれば「バンズ・ラビリンス」という映画の主人公オフェリアのことだそうだ。
私はこの映画を見ていないのだが、act(幕)という言葉が使われているのは「ハムレット」に引っ掛けていると考えてもいいのではないか。
34thシングル「サクラビト」のカップリングだった「オフェリア_act1」はヴォカリーズだったが、このact2は同じ旋律に歌詞が付けられ、より幻想的な曲になっている。

全く異なった表情をもった作品が1つにつながり、表現力を増した持田さんの歌と、平然と細かいパッセージもこなしてしまう伊藤さんのギターによって、印象深いアルバムに仕上がっていると思う。
しばらくヘビーローテーションで聴くことになるだろう。

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白井光子が歌うシュレーゲルの詩集「夕映え」による11の歌曲(シューベルト)

シューベルト/ツィクルス「夕映え」より;シュポーア/ドイツ歌曲
Shirai_hoell_schubert_spohr_2CAPRICCIO: 67 198
録音:1986年(シューベルト)&1993年(シュポーア), Tonstudio Teije van Geest, Heidelberg/Sandhausen
白井光子(MS)
エードゥアルト・ブルンナー(Eduard Brunner)(CL: 12-18)
ハルトムート・ヘル(Hartmut Höll)(P)

シューベルト(1797-1828)作曲

フリードリヒ・フォン・シュレーゲルの詩集「夕映え」から
1.夕映えD690(1823年3月作曲)
2.山D634(1819年頃作曲)
3.鳥D691(1820年3月作曲)
4.少年D692(1820年3月作曲)
5.流れD693(1820年3月作曲)
6.ばらD745(1822年初頭(5月以前)作曲)
7.蝶々D633(1819年頃作曲)
8.さすらい人D649(1819年2月作曲)
9.少女D652(1819年2月作曲)
10.星D684(1820年作曲)
11.茂みD646(1819年1月作曲)

12.歌劇「謀反人たち」D787より~ロマンツェ(私は用心深くそっとあちこち忍び歩く)

シュポーア(1784-1859)作曲

独唱、クラリネット、ピアノのためのドイツ歌曲Op. 103
13.静まれ、わが心よ(シュヴァイツァー男爵)
14.二重唱(ライニク)
15.憧れ(ガイベル)
16.子守歌(ファラースレーベン)
17.ひそやかな歌(コッホ)
18.目覚めよ(不詳)

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昨年はハルトムート・ヘルの足の負傷により白井光子の病気回復後の復帰コンサートが中止となり残念だったが、今年のラ・フォル・ジュルネには出演するようだ(チケットがすぐに売切れてしまいそうだが)。

つい最近久しぶりに彼らの録音がCAPRICCIOからリリースされたので聴いてみた。
内容はシューベルトのシュレーゲルによる歌曲11曲と、歌劇「謀反人たち」からの美しいロマンツェ、さらにルイス・シュポーア作曲のクラリネット助奏付きの6つの歌曲である。
新譜とはいえ、シューベルトは20年ほど前、シュポーアも10年以上前の録音であり、随分長いこと眠っていたものである。
レコード業界の不況の中、録音してもそう簡単にリリースできるものでもないのだろう。
このCD、輸入盤取り扱い店で3000円~4000円台の値がついていて驚いた。
結局ドイツamazonの中古で安く入手したが、送料を含めると大差なかったかもしれない。

ジャケットの彼女はすでに白髪だが、穏やかな実にいい顔をしている。
豊かな人生を経てきたのがあらわれているかのような表情である。

フリードリヒ・フォン・シュレーゲル(Friedrich von Schlegel: 1772-1829)の詩集「夕映え(Abendröte)」は22編の詩から成るが、シューベルトはそのうち11編に1819年から1823年にかけてばらばらに作曲した。
従って、シューベルトが「夕映え」による11曲の歌曲集をあらかじめ想定していたとは考えにくいが、数曲が同じ時期に作曲されており、小さな規模でまとめて出版しようとしていたとしても不思議ではない。
いずれにせよこれらの曲がまとめて演奏されることによって、1つの詩集の統一感と同時にその中の多様性を味わうことは出来るだろう。
シュレーゲルの詩集「夕映え」は次のような構成になっている。

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Abendröte(詩集「夕映え」)

Erster Teil (第一部)

[Tiefer sinket schon die Sonne] (すでに日はさらに深く沈み:無題)(=夕映え)
Die Berge(山)
Die Vögel(鳥)
Der Knabe(少年)
Der Fluß(流れ)
Der Hirt(羊飼い:作曲されていない)
Die Rose(ばら)
Der Schmetterling(蝶々)
Die Sonne(太陽:作曲されていない)
Die Lüfte(風:作曲されていない)
Der Dichter(詩人:作曲されていない)

Zweiter Teil(第二部)

[Als die Sonne nun versunken] (日が今や沈んだのに:無題:作曲されていない)
Der Wanderer(さすらい人)
Der Mond(月:作曲されていない)
Zwei Nachtigallen(二羽のナイティンゲール:作曲されていない)
Das Mädchen(少女)
Der Wasserfall(滝:作曲されていない)
Die Blumen(花:作曲されていない)
Der Sänger(歌びと:作曲されていない)
Die Sterne(星)
Die Gebüsche(茂み)
Der Dichter(詩人:作曲されていない)

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シューベルトのシュレーゲル「夕映え」歌曲群のテキスト大意は以下の通り。

1.夕映えD690:すでに日は深く沈み、すべてが憩いの呼吸をしている。鳥も人も山も川もすべてが詩人に語っているようだ。すべてが一つの合唱となり、一つの口から多くの歌を歌うことが詩人には分かったからだ。

2.山D634:われわれが高められたのを見て困難に打ち勝ったと思う。でもすぐに永遠に確固として自分自身に根ざしていることに驚いて気付かざるをえない。

3.鳥D691:飛び、歌い、地上を見下ろすのはなんて楽しいことだろう。人間は飛ぶことも出来ず、苦しみ歎いて、愚かなこと。私たちは空に羽ばたいていける。

4.少年D692:もし僕が鳥だったら、陽気に飛び回り、すべての鳥を打ち負かしたい。そしてお母さんのところに飛んで行き、もし怒られたら甘えてその真剣さを打ち負かすんだ。

5.流れD693:素晴らしい弦の響きによって歌がうねり、節が変わってもまた元に戻ってくるように、銀の流れがくねり、茂みを映しながら流れていく。

6.ばらD745:暖かさに誘われて光を求めたことを永遠に歎くしかありません。太陽が暑すぎたのです。私の短かった若い命のことを死に瀕して言いたかったのです。

7.蝶々D633:どうして踊らずにいられよう。魅力的な色が緑野の中で輝いているというのに。小さな花々は甘く香り、私は花を失敬する。花を私から守ることなんて出来ませんよ。

8.さすらい人D649:月の光がはっきり私に語り、旅に出ようと思わせる。「昔の道に従い、故郷をつくるな。永遠の苦しみが辛い日々をもたらすことになるから。苦しみを逃れて、さすらうのだ。」

9.少女D652:私のいい人がどれほど心から私に身を捧げていることでしょうと言ってみたいのです、彼が私をそれほど好きではないという歎きを和らげるために。

10.星D684:われわれがなんと神聖に輝いているかと驚いているのか、人間よ。ただ天の指示に従ってわれらが親しげに輝いていることが分かれば、俗世の苦悩などは消えてしまうだろう。すべては神の泉から湧き出たもの、それぞれが合唱の一員ではないだろうか。

11.茂みD646:涼しくかすかに暗い野を風が渡る。海のとどろきも木の葉のざわめきもただ一つの魂が動かしているのだ。霊が悲しめば波の響きが重なり、霊が生を呼吸すれば言葉が連なる。

------------------------------

シューベルトは詩集の第一部から7編、第二部から4編作曲していることが分かる。
白井&ヘルはこの詩集の順序そのままに11曲を歌っていることになる。
ちなみにハイペリオン歌曲全集27巻(グレアム・ジョンソンのピアノ)ではシェーファーとゲルネが分担して歌っているが、「少年」と「流れ」を入れ替えた以外は詩集の順序に則っている。

白井は以前日本でも「夕映え」による歌曲を集めて披露していたが、一見ロマン派の詩人が好みそうな主題がちりばめられていながら実は思索的で難解な洞察がされているテキストによるこれらの作品で、時に軽やかに明るく、時に深みをもってどのタイプの曲でも自在に表現する。
声は光沢にあふれてきらきらしている。
あるフレーズを歌い終える時の余韻の素晴らしさは彼女特有の美質だろう。
特に冒頭の「夕映え」の美しさは特筆すべきだろう。
この詩はもともと無題だったものにシューベルトが詩集全体のタイトル「夕映え」を付与したのだが、詩集全体にあらわれるもろもろが登場し、全体のモットーのような役割を与えられている。
夕暮れ時の自然の輝きと人間の研ぎ澄まされた感覚が赤みをおびたイメージと共に穏やかな倦怠感を呼び起こす。
その限られた瞬間の趣がシューベルトによって見事に表現されている。

これらの歌曲群は明るく美しい作品が多いが、なかでも「流れ」は個人的に特に気に入っている。
大きな孤を描いた息の長いフレーズをもった歌声部や、オクターブで美しいメロディーを歌うピアノパートなど、イタリアオペラのアリアをピアノ伴奏で歌ったものを思い起こさせるが、どこまでも甘美に溶けるような響きにひたれる、こういうタイプの曲はシューベルトには珍しいのではないか(有名な「アヴェ・マリア」も多少似たタイプではあるが)。
ヤノヴィッツやポップ、シェーファーなど美声のソプラノ歌手の録音が印象深いが、上述の3人、いずれもアーウィン・ゲイジが共演しているのが興味深い。
ゲイジのお気に入りの曲なのではないか。
白井さんは美しい響きを余裕をもって歌うが、曲の甘美さに溺れず、歌曲としてのフォルムを保っているところがいかにも彼女らしいと思った。

最後の「茂み」は随分遅めのテンポだが、噛みしめるようにしっとりと歌うことによって、例えばアーメリングが歌った時のような清涼感よりも自然の神秘性を前面に押し出しているように感じられた。
そして、そのほとんど魔術的な響きは第1曲に置かれた「夕映え」の響きに回帰したかのようである。

ヘルは作品に素直に寄り添い、恣意的なところもなく、冒頭の「夕映え」など繊細さを貫いていて素晴らしかった。

ちなみにシューマンのピアノ曲、幻想曲ハ長調Op. 17の冒頭には、「茂み」の最後の4行がモットーのように記されているという。

Durch alle Töne tönet
Im bunten Erdentraume
Ein leiser Ton gezogen,
Für den, der heimlich lauschet.
 すべての音を通して響くのだ、
 いろいろな地上の夢の中の
 かすかな音が、
 ひそかに耳を澄ます者には。

白井&ヘルはかつてリリースした「ヨーロッパの歌の本(Europäisches Liederbuch)」(CAPRICCIO: 67 024)と題されたCDの中で、お得意のシェックやベルク、ヴェーベルンなどのほかに、ブリテン、レスピーギ、ベリオ、シマノフスキーからプランクやドビュッシー(「もう家のない子供のクリスマス」)まで演奏しており、各国の色合いの異なる世界に違和感なく同化する幅の広さを示している。
「ぶらあぼ」2007年10月号のインタビューでは「日本歌曲のピュアな部分に惹かれています」と語っており、もしかしたら日本歌曲に彼女が手を伸ばす日も遠くないのかもしれない。

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