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シェック「秋の感情」(詩:ゲーテ)

Herbstgefühl, Op. 19a-1
 秋の感情

Fetter grüne, du Laub,
Am Rebengeländer
Hier mein Fenster herauf!
Gedrängter quellet,
Zwillingsbeeren, und reifet
Schneller und glänzend voller!
Euch brütet der Mutter Sonne
Scheideblick, euch umsäuselt
Des holden Himmels
Fruchtende Fülle;
Euch kühlet des Mondes
Freundlicher Zauberhauch,
Und euch betauen, ach!
Aus diesen Augen
Der ewig belebenden Liebe
Vollschwellende Tränen.
 より分厚く緑になれ、木の葉よ、
 葡萄棚に接した
 この私の窓辺へ上っておいで!
 さらにせかされてふくらむのだ、
 双子の葡萄よ、そして実るのだ、
 よりはやく、より輝きにあふれて!
 おまえたちを母なる太陽が
 別れの眼差しで照りつけ、おまえたちのまわりで
 素敵な天からの
 豊かな実りが音をたてる。
 おまえたちを月の
 親しげな魔法の息吹が冷やす。
 そしておまえたちを露でぬらすのは、ああ!
 この瞳から、
 永遠に元気づける愛の瞳から、
 いっぱいに溢れる涙なのだ。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749.8.28, Frankfurt am Main - 1832.3.22, Weimar)
曲:Othmar Schoeck (1886.9.1, Brunnen - 1957.3.8, Zürich)

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今年はスイスの作曲家オットマル・シェックの没後50年目である。
彼は膨大な数の歌曲を残し、F=ディースカウやヘフリガーなどによって歌われてきたものの、必ずしも質と量に見合った知名度、評価を得ていない。
実は私自身も彼の歌曲はこれまでほんの一部しか聴いておらず、Jecklinレーベルの11巻からなる歌曲全集も1、5、10巻を所有しているのみである。
この機会に少しシェックの歌曲に触れてみようと1、5巻の初期歌曲から聴き始めているのだが、これがなかなか良い。
R.シュトラウスのような爛熟した陶酔ではなく、もっと自然で丁寧な作風が一見地味なのだが、詩に対して誠実に向き合っているのがとても心地よい。
ゲーテ、ハイネ、メーリケ、アイヒェンドルフといったシェックにとっても過去の偉人たちに作曲しているだけでなく、ヘルマン・ヘッセのような彼の同時代人の詩も積極的に取り上げている(かつてF=ディースカウはヘッセの詩のみによるシェック歌曲集を録音していた)。

ここで訳したゲーテの「秋の感情」はブラームスによるヘルティの詩による「秋の感情」とは全く趣が異なり、秋の「実り」を歌っているようだ。
シェックの曲はゲーテの詩ばかりを集めた作品19aの第1曲目で、しっとりとした中に詩の展開を反映させた動きも感じられ、味わい深い作品である。

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シューベルト「収穫の歌」(詩:ヘルティ)

Erntelied, D434
 収穫の歌

Sicheln schallen,
Ähren fallen
Unter Sichelschall;
Auf den Mädchenhüten
Zittern blaue Blüten,
Freud' ist überall.
 鎌で刈る音が鳴り、
 穂が落ちる、
 鎌の音とともに。
 娘たちの帽子の
 青い花飾りは震え、
 喜びはいたるところにある。

Sicheln klingen,
Mädchen singen
Unter Sichelklang,
Bis, vom Mond beschimmert,
Rings die Stoppel flimmert,
Tönt der Erntesang.
 鎌で刈る音が響き、
 娘たちは歌う、
 鎌の響きとともに。
 月に照らされて、
 周囲に切り株がきらめくまで、
 収穫の歌は響き続ける。

Alles springet,
Alles singet,
Was nur lallen kann.
Bei dem Erntemahle
Ißt aus einer Schale
Knecht und Bauersmann.
 皆飛び跳ね、
 皆歌う、
 ろれつの回らぬまま話せることを。
 収穫時の食事では、
 一枚の深皿から食べるのだ、
 使用人も農夫も。

Jeder scherzet,
Jeder herzet
Dann sein Liebelein.
Nach geleerten Kannen
Gehen sie von dannen,
Singen und juchhei'n!
 それから誰もがふざけ、
 誰もが抱き合う、
 それぞれの恋人と。
 ジョッキを飲み干すと
 彼らはそこから帰り、
 歌ったり、歓声を挙げたりするのだ!

詩:Ludwig Heinrich Christoph Hölty (1748.12.21, Mariensee - 1776.9.1, Mariensee)
曲:Franz Peter Schubert (1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

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秋は落葉の感傷にひたるだけではなく、実りの季節でもある。
天真爛漫な収穫の喜びを開放的に歌ったヘルティの詩に、シューベルトが4節の有節歌曲として作曲した。
リズミカルでうきうきしてくるような楽しい曲である。

4分の2拍子、ホ長調で、標示は「中庸のテンポで」(Mässig)。
前奏4小節の後に1節につき15小節の歌が続くので、4節とも歌われると全64小節ということになる。
歌声部の最高音は2点嬰ト音、最低音は1点ホ音。

シュヴァルツコプフがEMIのソングブック・シリーズの中でパーソンズと録音しているが、素朴だが耳に残るメロディーはすぐに好きになったものだった。
あまり歌われないが、なかなか素敵な曲ではないだろうか。

この曲の楽譜を閲覧できるサイトがあります(下のリンク先の左側にある曲目リストの28番をクリックすると表示されます。)
http://www.dlib.indiana.edu/variations/scores/bhs2046/large/index6.html

なお、楽譜最初の1ページ分のサンプル音源がMIDIで聴けるサイトがありますので参考までに(以下のサイトの楽譜上のListen to Sampleをクリックしてください。ただし、サンプル楽譜の1ページ目にリピート記号があると、本来リピートされる箇所でないところで自動的にリピートされてしまうので、この曲のサンプルもそうなっていることをご了承ください)。

http://www.freehandmusic.com/ProductDetail.aspx?ProdID=256540

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ブラームス「秋の感情」(詩:シャック)

Herbstgefühl, Op. 48-7
 秋の感情

Wie wenn vom frost'gen Windhauch tödlich
Des Sommers letzte Blüte krankt,
Und hier und da nur, gelb und rötlich,
Ein einzles Blatt im Windhauch schwankt,
 凍てつく風の息吹に吹かれ、絶え入らんばかりに
 夏の名残の花が病むときのように、
 またそこかしこに、黄や紅に色づいて、
 一枚一枚、木の葉が風の息吹に揺れるときのように、 

So schauert über mein Leben
Ein nächtig trüber kalter Tag,
Warum noch vor dem Tode beben,
O Herz, mit deinem ew'gen Schlag!
 私の人生に
 暗く陰鬱な冷たい日が降りかかる、
 何故まだ死を前にして震えるのか、
 おお、心よ、永遠に鼓動しながら!

Sieh, rings entblättert das Gestäude!
Was spielst du, wie der Wind am Strauch,
Noch mit der letzten welken Freude?
Gib dich zur Ruh' - bald stirbt sie auch.
 見よ、周囲に茂みが葉を落とすのを!
 おまえは何を戯れているのだ、潅木に吹く風のように、
 まだ最後のしぼんだ喜びを抱いたまま。
 憩うがいい-すぐに喜びも死ぬのだ。

詩:Graf Adolf Friedrich von Schack (1815.8.2, Brüsewitz - 1894.4.14, Roma)
曲:Johannes Brahms (1833.5.7, Hamburg - 1897.4.3, Wien)

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ブラームスの1867年の作品。
詩人のシャックはR.シュトラウス作曲の「セレナーデ(Ständchen, Op. 17-2)」などの詩でも知られる。

4分の3拍子(1~80小節)-4分の6拍子(81小節以降)。嬰ヘ短調。標示は「かなりゆっくりと(Ziemlich langsam)」。
全92小節。歌声部の最高音は2点嬰ニ音、最低音は1点ニ音で、ほとんど1オクターブ内の狭い音域で歌われる。

A-B-A’という構成で、Aは2分音符+4分音符のリズムが繰り返されるが、それが決して単調に陥らず緊張感みなぎる表現になっているのがブラームスのすごいところである。
Bは詩の第2節を反映して3連符の動きを見せ、心の揺らぎを表現する。
第3節最後の1行(Gib dich zur Ruh' - bald stirbt sie auch.)のみ4分の6拍子になり、音価をたっぷりとって、深い思いをブラームスが込めているのが分かる。

この曲をはじめて聴いたのはおそらくF=ディースカウだったと思う。彼はブラームスの夕べで「秋の感情」をしばしば歌っており、録音も数種類あるので、彼のお気に入りの曲だったのではないか。ディースカウは世評ではブラームスに不向きと言われることがあるが、私にとってはディースカウとブラームスは相性がいいように思う。彼の歌唱でどれほどブラームス歌曲の魅力を知ったことだろう。一般に詩よりも音楽寄りの傾向の強いブラームス歌曲にディースカウが若干劇性を加えることで渋みの中からブラームスの肉声が聞こえてくるようである。

この曲の楽譜を閲覧できるサイトがあります(下のリンク先の左側にある曲目リストの41番をクリックすると表示されます。ただしオリジナルより半音高く移調されています。)
http://www.dlib.indiana.edu/variations/scores/bgn9130/large/index3.html

なお、冒頭数小節のみサンプル音源がMIDIで聴けるサイトがありますので参考までに(以下のサイトの楽譜上のListen to Sampleをクリックしてください)。
http://www.freehandmusic.com/ProductDetail.aspx?ProdID=274689

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プフィッツナー「秋に」(詩:アイヒェンドルフ)

Im Herbst, Op. 9-3
 秋に

Der Wald wird falb, die Blätter fallen,
Wie öd und still der Raum!
Die Bächlein nur gehn durch die Buchenhallen
Lind rauschend wie im Traum,
Und Abendglocken schallen
Fern von des Waldes Saum.
 森は黄に色あせ、葉は落ちる、
 あたりのなんと荒涼として静かなことか!
 小川はひたすらぶなの広場を通り流れるのみ、
 夢の中のように穏やかにさざめきながら。
 そして夕べの鐘が鳴り渡る、
 森のはずれの遠くで。

Was wollt ihr mich so wild verlocken
Hier in der Einsamkeit?
Wie in der Heimat klingen diese Glocken
Aus stiller Kinderzeit-
Ich wende mich erschrocken,
Ach, was mich liebt, ist weit!
 おまえたちは何故私をこんなに乱暴にここへ誘おうとするのか、
 孤独の中で。
 故郷にいるようにこの鐘は響く、
 静かな子供時代を過ごした故郷にいるように。
 私は驚いて振り返る、
 ああ、私を愛したものははるか彼方!

So brecht hervor nur, alte Lieder,
Und brecht das Herz mir ab!
Noch einmal grüß' ich aus der Ferne wieder,
Was ich nur Liebes hab'.
Mich aber zieht es nieder
Vor Wehmut wie ins Grab.
 さあ響き始めるのだ、古い歌よ、
 そして私の心を砕いてくれ!
 もう一度遠くから挨拶を送ろう、
 私がただ愛したものへ向けて。
 だが私は沈み込む、
 悲しみのあまり、墓の中にいるように。

詩:Josef Karl Benedikt von Eichendorff (1788.3.10, Schloß Lubowitz bei Ratibor - 1857.11.26, Neiße)
曲:Hans Erich Pfitzner (1869.5.5, Moscow - 1949.5.22, Salzburg)

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プフィッツナーの歌曲は秋がよく似合う。
歌曲の王道ではない人の中では私の最も好きな作曲家の一人である。
彼の歌曲の中でもとりわけ気に入っているのは、アイヒェンドルフの詩による5曲からなる作品9の歌曲集である。
いわゆる連作歌曲集ではないのだが、まとめて歌われることも多く、心にしみる雰囲気で貫かれているように思う。
プライ&ムーアのColumbiaへのLP録音でこれらをはじめて知り、その後、EMIのF=ディースカウ&エンゲル盤や、cpoのプフィッツナー全集でのA.シュミット&ヤンセン(1998年)の録音などを聴いたが、いずれも素晴らしかった。

「秋に」は吹き渡る寂しげな秋の風のような幅広いアルペッジョを奏でるピアノの上を深刻にかみしめるような歌が歌われる。
A-B-A’の素朴な構成だが、分かりやすい旋律なのに胸をしめつけられる思いがする。
保守的と評されるプフィッツナーだが、彼の作品は魅力にあふれている。
もっと聴かれても(あるいは演奏されても)いいのではないだろうか。

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シューベルト「秋」(詩:レルシュタープ)

Herbst, D945
 秋

Es rauschen die Winde
So herbstlich und kalt;
Verödet die Fluren,
Entblättert der Wald.
 風がざわめく、
 これほど秋めいて、冷たく。
 野は荒れ果て、
 森は葉を落とす。

Ihr blumigen Auen!
Du sonniges Grün!
So welken die Blüten
Des Lebens dahin.
 おまえたち、花咲いていた野よ!
 おまえ、日の光の照っていた緑よ!
 こうして人生の花々は
 枯れ果てるのだ。

Es ziehen die Wolken
So finster und grau;
Verschwunden die Sterne
Am himmlischen Blau!
 雲が流れる、
 これほど暗く灰色になって。
 星々は
 天上の青で消え去った!

Ach wie die Gestirne
Am Himmel entflieh'n,
So sinket die Hoffnung
Des Lebens dahin!
 ああ、天の星が
 逃げるように、
 人生の希望は
 沈み去るのだ!

Ihr Tage des Lenzes
Mit Rosen geschmückt,
Wo ich die Geliebte
Ans Herze gedrückt!
 おまえたち、春の日々は
 バラに飾られ、
 私は恋人を
 胸に押し付けたものだった!

Kalt über den Hügel
Rauscht, Winde, dahin!
So sterben die Rosen
Der Liebe dahin!
 丘の上を冷たく
 ざわめき去れ、風よ!
 こうして愛のバラは
 死に去るのだ!

詩:レルシュタープ(Heinrich Friedrich Ludwig Rellstab: 1799.4.13, Berlin - 1860.11.27, Berlin)
曲:シューベルト(Franz Peter Schubert: 1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

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シューベルト最後の年1828年の4月に作曲された。
詩人のレルシュタープはベートーヴェンのピアノ・ソナタに「月光」というニックネームが付くきっかけとなった形容をしたことで有名。
「白鳥の歌」としてシューベルト死後にハスリンガーによってまとめられた7曲のレルシュタープ歌曲には含まれなかったが、最近の演奏家たちはレルシュタープ歌曲の中にこの「秋」も加えて歌うことがある(プライがその先駆けだろうか。シュライアーや最近ではゲルネも加えて歌っているが、F=ディースカウはハイネ歌曲はまとめて歌うのに、レルシュタープ歌曲はそれぞれ単独にリサイタルで歌い、「秋」はあまりリサイタルには加えなかったようだ。しかし80年代にはPHILIPSに録音しており、その枯れた声の味がなかなか曲に合っていた)。

原詩の2節分を曲の1節として、全3節の有節歌曲となっている。
ピアノ右手のトレモロが寂しい秋の雰囲気と、それに対応した精神状態を否応なしに強調しているように思われる。
雰囲気のある歌曲である。

楽譜の1頁目(インターネット上のサンプル)
http://everynote.com/goods.1/Schubert-Herbst.pdf

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