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パヴァロッティ/イタリア語による歌曲集

「パヴァロッティ・エディション9:イタリア語による歌曲集(Italian Songs)」
Pavarotti_songsユニバーサルミュージック: DECCA: UCCD-3114
録音:1973年~1999年

ルチアーノ・パヴァロッティ(Luciano Pavarotti)(T)ほか

1)ベートーヴェン/この暗い墓の中に
2)ドニゼッティ/舟人
 (フィルハーモニア管;ピエリーノ・ガンバ:指揮)
3)ドニゼッティ/私は家を建てたい
 (ボローニャ歌劇場管;アントン・グァダーニョ:指揮)
4)ロッシーニ/踊り
 (ボローニャ歌劇場管;リチャード・ボニング:指揮)
5)ロッシーニ/約束
 (フィルハーモニア管;ピエリーノ・ガンバ:指揮)
6)ベルリーニ/この悩み、やさしい妖精よ
7)ベルリーニ/お行き、幸せなばらよ
 (レオーネ・マジエラ:ピアノ)
8)リスト/「ペトラルカの3つのソネット」~平和は見いだせず
9)リスト/「ペトラルカの3つのソネット」~その日までいつくしみくださる
10)リスト/「ペトラルカの3つのソネット」~私は地上に天使のような姿を見た
 (ジョン・ウーストマン:ピアノ)
11)レスピーギ/雪
12)レスピーギ/雨
13)レスピーギ/霧
 (ボローニャ歌劇場管;リチャード・ボニング:指揮)
14)マスカーナ/セレナータ
 (ボローニャ歌劇場管;ヘンリー・マンシーニ:指揮)
15)レオンカヴァルロ/マッティナータ
16)トスティ/暁は光から
 (フィルハーモニア管;ピエリーノ・ガンバ:指揮)
17)トスティ/四月
 (ナショナル・フィルハーモニー管;アントニオ・トニーニ:指揮)
18)トスティ/最後の歌
 (フィルハーモニア管;ピエリーノ・ガンバ:指揮)
19)トスティ/セレナータ
20)トスティ/魅惑
21)トスティ/われ、もはや愛さず
 (ボローニャ歌劇場管;リチャード・ボニング:指揮)
22)トスティ/かわいい口もと
 (ボローニャ歌劇場管;アントン・グァダーニョ:指揮)
23)トスティ/マレキアーレ
 (ナショナル・フィルハーモニー管;ジャンカルロ・キアラメッロ:指揮)

(以上の曲名、演奏者名などの日本語表記はCD解説書の表記に従いました。)

私の所有しているパヴァロッティのディスクは、この「イタリア歌曲集」のCDとモーツァルト「イドメネオ」のDVDだけである。それでも、3大テノールのテレビ中継やFM放送でしばしばその声を耳にする機会はあった。かつて彼が巨大な会場でマイクを使って歌い始めた時、PAを使うことの是非が話題になったことも懐かしい。

このディスクはイタリア歌曲の有名どころがうまく選曲されていて、パヴァロッティが歌曲において成し遂げたものを多面的に聴くことが出来る。
最初に置かれたベートーヴェンをパヴァロッティが歌っていたというのは驚きだが、もともとイタリア語で書かれた作品であり、ドイツ系の歌手が歌うのとはまた一味違った自在さが魅力的であった。最後に「無情な女(ひと)よ(ingrata)」と2回繰り返す時の責め立てるような語りかけが印象的だった。

ドニゼッティの有名な「私は家を建てたい」では、第1節で海の中にくじゃくの羽で家を建てたいと歌い、第2節で階段は金銀で、バルコニーは宝石でつくりたいと歌う。そして第3節で可愛い恋人が顔をのぞかせれば「おてんとさんが出た」と誰もが言うと締めくくる。この第3節でパヴァロッティは声のボリュームを落とし、ひそやかに語りかける。カンタービレの要求されることの多いイタリア歌曲でも詩に応じた語りの変化が必要であることを、一見歌曲と縁の薄そうなパヴァロッティから教えられた気持ちだ。

ロッシーニの「音楽の夜会」に含まれる「踊り」は私の最も好きなイタリア歌曲の一つだが、オケ編曲版で聴くのははじめてである。パヴァロッティはリズミカルにテンポよく歌う。早口にならざるをえない言葉を見事にさばいて、踊りに誘いながら自らも楽しげに踊る様が目に浮かぶようだ。

リストの「ペトラルカの3つのソネット」をパヴァロッティがレパートリーにしているというのもなんとなく意外な印象をもったのだが、J.B.スティーン氏の解説(木村博江氏訳)によれば彼はすでに1978年に最初の2曲をリサイタルで取り上げているそうだ。リストの歌曲の中でもとりわけ甘美でとろけそうな曲調は、ドイツ人が歌うよりもイタリア人の方がより適しているかもしれない。実際パヴァロッティはそのベルカントを駆使して、F=ディースカウが歌う時とは別の曲のような旋律美を朗々と響かせている。

このディスクの中のハイライトはレスピーギの3曲かもしれない。この3曲、昔FMでパヴァロッティのライヴ演奏を聴いた覚えがある。決して耳あたりのよい甘美なだけの歌曲ではなく、芸術歌曲としての深さも持っているように思う。特に3曲目「霧」の詩はイタリア歌曲としてはかなり異色ではないだろうか。物憂く立ち込める霧の中、苦しむ私に死者たちが「おいで」と誘いかけるという内容で、死者のうめき声「とても寒い」「一人ぼっちだ」で聴かせるパヴァロッティの語りかけはまさに役者である。

ここでトスティが8曲も選ばれているが、アライサが来日公演で聴かせてくれた「暁は光から」「最後の歌」もオケに編曲してパヴァロッティが歌うとまた違った光を放つのが面白い。アライサは一生懸命な真摯さが魅力だったが、パヴァロッティは余裕のある表情で豊かに包み込んでくれるようだ。「四月」「セレナータ」「魅惑」「マレキアーレ」など、トスティのいい意味での通俗的な親しみやすさを引き出した素敵な演奏だった。

私はピアノ歌曲をオーケストラに編曲した形は普段あまり好きではないのだが、エンターテイナー、パヴァロッティの芸術を盛り立てるにはやはりピアノよりもオケの多彩な響きが効果的のようだ。オーケストラで色付けされたどの曲も違和感なく楽しめたのはパヴァロッティの声だからなのかもしれない。

このディスクでも雄弁なリストの演奏を聴かせているピアニスト、ジョン・ワストマンの話だが、演奏会の後、多くの人たちが自分には目もくれずにパヴァロッティの周りを取り囲んでいても、「今夜のきみの演奏は最高だったよ」とパヴァロッティが言ってくれるのでそれだけで良かったというようなことを言っていた。こういう人間味が、聴衆だけでなく、共演者からも慕われてきた要因なのかもしれない。

私だけかもしれないが、彼の声を聴くと時々子門真人さんの声がダブってくる。単なる美声ではなく、コクのある声という感じだろうか。前へ前へ訴えかけてくるその歌唱は、堅苦しいことを考えている人の心をいつのまにかほぐし、幸せな気分にしてしまう。オペラでの活躍に比べると歌曲の分野は彼にとってはほんの一部の活動に過ぎないだろう。だが、そのわずかな活動において、この録音に聴かれるだけの成果を挙げていたのならなんの不満があるだろうか。

偉大なエンターテイナーのご冥福をお祈りします。

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コメント

フランツさん、こんにちは。

昔に書かれた記事も色々読ませていただいています。

パバロッティが亡くなってから、もう6年も経つのですね。
私は、バトルとの「愛の妙薬」のビデオを持っていたのですが、カビを生やしてしまい処分してしまいました(高かったのに(><))

イタリアの晴れ渡った空のようなテノールでしたね。
パバロッティのような、テノール中のテノールもなかなか現れないでしょうね。
今はみな技術もあり、オペラ歌手でもスマートで美形な人が増えましたが、昔の方が個性的な人が多かったように思います(そんなこと言い出したら年ですね(笑))。

子門真人さん、なるほどそう言われればそうですね。
子門さんほか、布施明さんや沢田研二さんなどの全盛期の伸びのいい高声を聴くと、もし音大に行っていたらなかなかのテノールになったのではないかと思います。

森昌子さんは引退前、かの美空ひばりさんから声楽を習うことを勧められていたそうです。
結局習わなかったようですが・・。

投稿: 真子 | 2013年11月28日 (木曜日) 15時18分

真子さん、こんばんは。
昔の記事までご覧くださり有難うございます!
私は昔の記事を読み返すことはあまり無いので、久しぶりに読み返して「こんなことを書いていたんだ」と思い出しました。
もうパヴァロッティが亡くなって6年も経つんですね。
月日のはやさに驚かされます。
バトルとのビデオ、残念でしたね。
ビデオもだんだん過去のものになりつつあるのはちょっと寂しい気もします。

森昌子さんのことをひばりさんが高く評価していたのは聞いたことがあるのですが、声楽をすすめていたのですね。
確かに彼女の声の豊かさを思うと、クラシックもいけそうな気がします。
そういえば、ちょっと前に私の中で沢田研二がブームだったことがあり、動画サイトで聴きまくっていました。
リアルタイムで聴いていたころはあまり意識していなかったのですが、いい歌が多く、沢田研二のエンターテイナーぶりも見事だったなぁと今になって気付いたところです。

投稿: フランツ | 2013年11月29日 (金曜日) 02時28分

フランツさん、おはようございます。

森昌子さんに声楽を勧めたのは、淡谷のり子さんかもしれません。
主人の言っていたことをちゃんと調べずに書いてしまいましてすみません。

森昌子さんは、中三トリオの中で一番好きでした。
その一世代前の三人娘では、小柳ルミ子さんです。
こうしてみると、私は子供の頃からクラシックのソプラノっぽい声が好きだったようです。
ちなみに、男性は、ソフトな低音のフランク永井さんが好きでした。
まだ小学生だったのに我ながら渋いですね(笑)

この頃の好みが、プライさん、アメリング、バトル、ボニーにつながって行っているなぁと改めて思います。

ポップスでいい声(声質、高い音が出せる声の強さ、伸びなど)の人を見かけると、声楽家になっていたらどんなだったろうとついつい想像してしまう私です。

投稿: | 2013年11月29日 (金曜日) 08時57分

真子さん、こんにちは。

淡谷のり子も声楽を学んでいるようですが、昔の流行歌歌手はやはりうまいですよね。淡谷さんの歌うドイツリートの録音が残っていないかなと思ってしまいます。
小柳ルミ子もフランク永井もいい声に恵まれつつ、その声を生かすテクニックも素晴らしいですね。
ジャンルを超えて、いいものはいいんですね。
真子さんのプライ好きのルーツを知ることが出来ました!

投稿: フランツ | 2013年11月30日 (土曜日) 11時18分

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