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ジェラルド・ムーア/「伴奏者の発言」

久しぶりにムーアの著書「伴奏者の発言」(原題:The Unashamed Accompanist)を開いてぱらぱらと目を通していたら、これが今でも色あせておらずとても面白かった。

この本は声楽や器楽のピアノ伴奏者の様々なノウハウが彼独特のユーモアにくるまれながら説かれ、ピアニスト必読の書であることは言うまでもないが、歌曲愛好家にとってもピアニストがどういう心構えで演奏しているのかを知ることが出来て興味深いと思う。

例えばムーアは演奏会前の控え室での心構えをこう説く。

「伴奏者は音楽会の直前、控室で神経過敏らしい様子を少しでも見せてはならない。実際、もし彼が疑いや不安をもっているならばそれを隠すべきである。彼の態度と何気ない様子は、経験の浅い慄えている歌手を落ちつかせるのに役だつ。」

以前、フィリップ・モルがムーアのこの箇所を挙げて、私も実践していると言っていた。
声楽家は演奏会前には非常に過敏になるので、ピアニストはどんなに不安をかかえていてもそれを声楽家に悟られないようにしなければならないというのである。

また、「控室にとびこんで、相手を質問攻めにしてはならない。」と言い、
「この歌のテンポをはっきりさせておきたいので、教えて下さいませんか」
「昨日風邪をひきそうだといっておられましたね。…それでもあなたは最高音をメツォ、ヴォーチェにすることがおできになるかしら」
などとは言ってはならないと説き、さらにこれらは「私自身のにがい経験から生まれたもの」と告白している。
ムーアの伴奏者としての実践から得られた言葉は重みをもっている。

ムーアが多くの歌手たちから信頼を寄せられていたのもこういう細やかな配慮があってこそだったのかもしれない。

「演奏家の控室」という章の最後はユーモアもこめてこう締めくくる。
「そして最後にもう一言、あなたがステージに上る時、ソプラノ歌手の裾をふみつけないように。」

(音楽之友社、1959年発行、大島正泰訳)

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コメント

mixiのB..コミュでいつも大変お世話になっております。
「お耳触りですか?」というような伴奏者の本を読んだのですが、同じ本でしょうか。

伴奏者の話、おもしろいです。

投稿: Auty | 2007年9月18日 (火曜日) 20時29分

Autyさん、こんばんは。
ご訪問とコメントを有難うございます。

「お耳ざわりですか」は同じムーアが書いた別の本で、ムーアの生い立ちから伴奏者として成功するまでの道筋、さらに数多くの共演者たちのエピソードや、歌曲におけるピアノ演奏の奥義など、幅広く楽しめる本だと思います。私もたまにぱらぱら見返したりしています。

それでは今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: フランツ | 2007年9月18日 (火曜日) 23時12分

フランツさん
同じムーアが書いた別の本でしたか。会社時代に同僚が貸してくれました。イタリアオペラとかの好きな人でしたが渋いものもちゃんと読んでいる方でした(あらためて尊敬!)。

音楽会にふたつ行って、またリートたましいが再燃しそうです!!

投稿: Auty | 2007年9月24日 (月曜日) 23時06分

Auty様

イタリアオペラ好きの人がムーアの著書も読んでいるというのは守備範囲の広い方ですね。素晴らしいことだと思います(私も出来ればかくありたいものです)。

「リートたましいが再燃」-私も見習わなくては…。

投稿: フランツ | 2007年9月25日 (火曜日) 03時16分

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