« 2007年7月 | トップページ | 2007年9月 »

ご無沙汰しています

残暑厳しい折、いかがお過ごしでしょうか。

暑さの苦手な私は随分長いことブログの更新を怠ってしまいましたが、そろそろ再開する予定です。もう少しお待ちください。

日差しのまだまだ強い毎日、くれぐれもご自愛ください。

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

作詞家の阿久悠氏逝去

作詞家として膨大な歌謡曲を世に送り出してきた阿久悠さん(1937年2月7日 - 2007年8月1日)が亡くなったという。追悼のテレビ番組で流された多くのヒット曲はほとんどが聞き覚えのあるものばかりで、いかに時代の求める作品を書き続けてきたかを感じさせられた。

私の音楽上のルーツは幼年時代の童謡のレコードだったが、その後に好んだのは歌謡曲、特にピンク・レディーだった。親戚の女性が遊びに来るたびにピンク・レディーの新曲の振り付けを教えてくれて、それがきっかけで彼女たちのヒット曲の数々に親しんでいったと思う。当時は阿久悠氏の詩の内容など理解していたはずもなく、都倉俊一氏の印象的な音楽に惹かれていたのだろう。

「邪魔をしないで ペッパー警部 私たちこれからいいところ」(ペッパー警部)
「男は狼なのよ 気をつけなさい」(SOS)
「セクシー 私はいちころでダウンよ もうあなたにあなたにおぼれる」(渚のシンドバッド)
「手をあわせて みつめるだけで 愛しあえる 話も出来る」(UFO)

今になってあらためて読むと驚くほど際どい内容で、とても子供向けの歌詞とは言えないだろう。だが、目を惹く衣装と印象的な振り付けは子供心をくすぐる要素を十分にもっていた。
恋人同士の甘美な時間を邪魔しないでとペッパー警部に訴える「ペッパー警部」、
この男だけは大丈夫などと信じたりせずに貞操を守りなさいという「SOS」、
私の胸にかけられていた鍵をこわして心を盗んだあいつに指名手配してやるという「ウォンテッド」など、
恋をテーマにした若い女性の気持ちを歌った作品が多かったようだ。
一方「UFO」「モンスター」「透明人間」など子供が喜びそうな題材を扱ったものもコミカルな要素を盛り込み大ヒットしたものだった。

同じ作詞家が「津軽海峡・冬景色」「シンデレラ・ハネムーン」 「林檎殺人事件」「わたしの青い鳥」「勝手にしやがれ」「嫁に来ないか」「もしもピアノが弾けたなら」「恋のダイヤル6700」「北の宿から」「舟唄」など、全く異なる世界の詩を生み出すというのはほとんど信じられないほどである。

歌謡界の貴重な存在だった名詩人のご冥福をお祈りします。

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

バーバラ・ボニー復帰

昨年8月に引退を表明したソプラノ歌手バーバラ・ボニー(Barbara Bonney)が歌手活動を再開することを明らかにしたという。

http://www.playbillarts.com/news/article/6824.html

上述のソースによると、引退の際の理由「個人的な事情(due to personal circumstances)」というのは離婚のことらしい。ともあれ健康上の理由でなかったことは良かった。今後彼女はザルツブルクのモーツァルテウムの教授職を引き受け、同時にコンサートや歌曲リサイタルも行うという。

7月22日にスイスのヴェルビエ音楽祭(Verbier Festival)でモーツァルトの「レクイエム」を歌い、8月16日にはトマス・ハンプソンのキャンセルの代役として、ラインガウ音楽祭(Rheingau Musik Festival)で歌曲リサイタルを開くそうだ。
そのプログラムは以下の通り。

2007年8月16日20時 Schloss Johannisberg, Fürst-von-Metternich-Saal

ヴォルフラム・リーガー(Wolfram Rieger)(P)

Robert Schumann:
Widmung op. 25 Nr. 1
Der Nussbaum op. 25 Nr. 3
Die Lotosblume op. 25 Nr. 7
Waldesgespräch op. 39 Nr. 3
Lied der Suleika op. 25 Nr. 9
Kennst Du das Land op. 98a Nr. 1
Mein schöner Stern op. 101 Nr. 4

Clara Schumann:
Er ist gekommen in Sturm und Regen op. 12 Nr. 2
Liebst du um Schönheit op. 12 Nr. 4
Sie liebten sich beide
Liebeszauber op. 13 Nr. 3
Ein Veilchen
Die Lorelei

Edvard Grieg:
Fra Monte Pincio op. 39 Nr. 1
Med en vandlilje op. 25 Nr. 4
En svane op. 25 Nr. 2
Våren op. 33 Nr. 2
En drøm op. 48 Nr. 6

Richard Strauss:
Wiegenlied op. 41 Nr. 1
Das Rosenband op. 36 Nr. 1
Ich schwebe op. 48 Nr. 2
Ruhe meine Seele op. 27 Nr. 1
Mein Auge op. 37 Nr. 4
Ständchen op. 17 Nr. 2

シューマン夫妻、グリーグ、R.シュトラウスといずれも彼女お得意のレパートリーばかり。困難を経て彼女の歌にますます深みが増しているのではないか。また彼女の生の声に接する可能性が生まれたことはうれしい。今後の活動に期待したい。

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

ジェラルド・ムーア/「伴奏者の発言」

久しぶりにムーアの著書「伴奏者の発言」(原題:The Unashamed Accompanist)を開いてぱらぱらと目を通していたら、これが今でも色あせておらずとても面白かった。

この本は声楽や器楽のピアノ伴奏者の様々なノウハウが彼独特のユーモアにくるまれながら説かれ、ピアニスト必読の書であることは言うまでもないが、歌曲愛好家にとってもピアニストがどういう心構えで演奏しているのかを知ることが出来て興味深いと思う。

例えばムーアは演奏会前の控え室での心構えをこう説く。

「伴奏者は音楽会の直前、控室で神経過敏らしい様子を少しでも見せてはならない。実際、もし彼が疑いや不安をもっているならばそれを隠すべきである。彼の態度と何気ない様子は、経験の浅い慄えている歌手を落ちつかせるのに役だつ。」

以前、フィリップ・モルがムーアのこの箇所を挙げて、私も実践していると言っていた。
声楽家は演奏会前には非常に過敏になるので、ピアニストはどんなに不安をかかえていてもそれを声楽家に悟られないようにしなければならないというのである。

また、「控室にとびこんで、相手を質問攻めにしてはならない。」と言い、
「この歌のテンポをはっきりさせておきたいので、教えて下さいませんか」
「昨日風邪をひきそうだといっておられましたね。…それでもあなたは最高音をメツォ、ヴォーチェにすることがおできになるかしら」
などとは言ってはならないと説き、さらにこれらは「私自身のにがい経験から生まれたもの」と告白している。
ムーアの伴奏者としての実践から得られた言葉は重みをもっている。

ムーアが多くの歌手たちから信頼を寄せられていたのもこういう細やかな配慮があってこそだったのかもしれない。

「演奏家の控室」という章の最後はユーモアもこめてこう締めくくる。
「そして最後にもう一言、あなたがステージに上る時、ソプラノ歌手の裾をふみつけないように。」

(音楽之友社、1959年発行、大島正泰訳)

| | | コメント (4) | トラックバック (0)

« 2007年7月 | トップページ | 2007年9月 »