シューマン「悲劇」(詩:ハイネ)
昨年のシューマン&ハイネのダブルアニバーサリーに因んだ歌曲シリーズもようやく最後までこぎつけた。今回は3曲の連作になっている「悲劇」Op. 64-3である(「ロマンツェとバラーデ、第四集(Romanzen und Balladen Heft 4)」に含まれる)。シューマンの「歌の年」の翌年1841年の作曲とされている。最初の2曲は独唱曲、最後の曲はソプラノとテノールのための二重唱曲になっている為、独唱者の録音でも、最初の2曲のみをとりあげる人、3曲目を二重唱もしくは多重録音で録音する人に分かれる。なお、シューマンの楽譜では、第1曲と第2曲の最後に終止線がなく、単なる2重線なので、3曲が連続して演奏されることを望んでいたことは明白である。
第1曲:急速に、燃焼して(Rasch und mit Feuer)。4分の4拍子。ホ長調。全36小節。
音域は1点ホ音から2点イ音まで約1オクターブ半。
男が恋人に駆け落ちしようと誘うという内容で、シンコペーションのピアノに乗って切迫した調子で歌われる。第2節で調子が変わり、その後再度第1節が若干の変化をつけて繰り返される。ピアノパートは装飾音や付点音符、アゴーギクの変化など、ところどころにシューマネスクな香りを漂わせている。
第2曲:ゆっくりと(Langsam)。8分の6拍子。ホ短調。全29小節。
音域は1点ホ音から2点ハ音までの短6度という狭さである。
駆け落ちした男女の悲惨な顛末が第三者によって淡々と語られる。曲は切り詰めた音で深刻にぽつぽつ途切れながら歌われる。F=ディースカウはピアノパートにホルンの響きを感じているようだ(『シューマンの歌曲をたどって』:白水社:1997年)。
第3曲:ゆっくりと(Langsam)。4分の4拍子。ハ長調。全27小節。
音域は、ソプラノ声部が1点ニ音から2点ニ音までのちょうど1オクターブ、テノール声部が1点ハ音から2点イ音までの2オクターブ弱で、テノールの音域がソプラノの倍近い広さを求められている。
彼女の墓の上でおしゃべりを楽しんでいたカップルが理由も分からず涙するという内容。F=ディースカウの著書によると、もともとは合唱曲として意図されていたものが二重唱曲に変更され、テノール声部はピアノパートと一致しているので、二重唱曲にする必要はなかったのではと疑問を呈している。
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Tragödie, Op. 64-3
悲劇
Ⅰ
Entflieh mit mir und sei mein Weib,
Und ruh an meinem Herzen aus;
In weiter Ferne sei mein Herz
Dein Vaterland und Vaterhaus.
ぼくと一緒に逃げて、ぼくの妻になっておくれ、
そしてぼくの胸で休むがいい。
はるか彼方でもぼくの心が
きみの祖国や生家でありたい。
Entfliehn wir nicht, so sterb' ich hier
Und du bist einsam und allein;
Und bleibst du auch im Vaterhaus,
Wirst doch wie in der Fremde sein.
逃げなければ、ぼくはここで死に、
きみは孤独で一人ぼっちになってしまう。
そしてきみが生家にとどまっていても
異国にいるような気分になるだろう。
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Ⅱ
Es fiel ein Reif in der Frühlingsnacht,
Es fiel auf die zarten Blaublümelein:
Sie sind verwelket, verdorret.
春の夜に霜が降り、
やわらかい青い花々に霜が降りた。
花々はしおれ、枯れてしまった。
Ein Jüngling hatte ein Mädchen lieb;
Sie flohen heimlich vom Hause fort,
Es wußt' weder Vater noch Mutter.
若者がある娘を好きになった。
彼らはひそかに家から逃げ、
そのことを父も母も知らなかった。
Sie sind gewandert hin und her,
Sie haben gehabt weder Glück noch Stern,
Sie sind gestorben, verdorben.
彼らはあちこちさまよったが、
幸せも運もなく、
彼らは死に絶えた。
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Ⅲ
Auf ihrem Grab da steht eine Linde,
Drin pfeifen die Vögel im Abendwinde,
Und drunter sitzt auf dem grünen Platz,
Der Müllersknecht mit seinem Schatz.
彼女の墓の上に一本の菩提樹が生えている。
夕べの風の中、鳥たちはそこでさえずっている。
下方の緑の広場に腰を下ろしているのは
恋人と一緒の粉屋の下男だ。
Die Winde wehen so lind und so schaurig,
Die Vögel singen so süß und so traurig:
Die schwatzenden Buhlen, sie werden stumm,
Sie weinen und wissen selbst nicht warum.
風がかくも優しく、不気味に吹いている。
鳥はかくも甘美に、悲しげに歌っている。
おしゃべりしている恋人たち、彼らは口を閉ざし、
涙を流す、何故なのかさえ分からぬままに。
詩:Heinrich Heine (1797.12.13, Düsseldorf - 1856.2.17, Paris)
曲:Robert Alexander Schumann (1810.6.8, Zwickau - 1856.7.29, Endenich)
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