« スゼーの歌うシベリウス | トップページ | アーメリングのシューベルト歌曲集(ムーアほか共演:1972年) »

シューマン「ベルシャザル」(詩:ハイネ)

ベルシャザルについては旧約聖書の「ダニエル書」第5章に記載がある。それによると、ネブカデネザルの息子であるベルシャザルはカルデアびとの王だったが、宴会を催している最中に、突然人の手があらわれて何か文字を書いて消えた。読める者が見つからない中、父ネブカデネザルの信頼の篤かったダニエルが呼ばれ、解読する。書かれているのは「メネ、メネ、テケル、ウパルシン」で、神があなたの治世を終わらせ、あなたの量をはかりで量ったところ足りないことがあらわれ、あなたの国は分かたれ、メデアとペルシャの人に与えられると解読される。ベルシャザルはその夜のうちに殺された。

なお、ベルシャザルがバビロニアの王である点、ベルシャザルがネブカデネザルの息子である点は史実ではなく、旧約聖書のエピソード自体も事実とは異なるようだ。

シューマンが“歌の年”1840年にハイネの詩に作曲した「ベルシャザル」は、作品番号57として単独で出版された。

シューマンの曲は、4分の4拍子、ト短調、全99小節で、冒頭に「最初は速すぎず、徐々に速めて(Im Anfange nicht zu schnell, nach und nach rascher)」という指示がある。歌声部は最高音が2点ト音、最低音が1点ハ音なので、約1オクターブ半の音域ということになる。

うねるようなピアノの分散和音にのって、全体に暗鬱な歌が通作形式で展開するが、歌声部の基本的なテーマは最後まで維持される。王が神を罵るくだりはシューマンの音楽にもその不遜さが響き、「我こそはバビロンの王なるぞ!」で頂点に達する。白い手があらわれ文字を書くあたりでそれまでの推進力から一転して、緊張感をはらんだ語りの要素が強まる。詩の展開に応じて歌、ピアノともに機敏に反応していき、シューマンの音楽がいかに詩に従ったものであるかが感じられる。

-----------------------------

Belsatzar, Op. 57
 ベルシャザル

Die Mitternacht zog näher schon;
In stummer Ruh' lag Babylon.
 すでに真夜中が迫っていた。
 バビロンは音もなく安らぎの中にあった。

Nur oben in des Königs Schloß,
Da flackert's, da lärmt des Königs Troß.
 ただ上方の王の城内だけは
 光がちらつき、王のお付きたちが大騒ぎしている。

Dort oben, in dem Königsaal,
Belsatzar hielt sein Königsmahl.
 あの上方で、王の広間で
 ベルシャザル王は宴を催していた。

Die Knechte saßen in schimmernden Reihn,
Und leerten die Becher mit funkelndem Wein.
 家来たちはきらびやかな列をなして座っており、
 きらめくワインの杯を飲み干した。

Es klirrten die Becher, es jauchzten die Knecht;
So klang es dem störrigen Könige recht.
 杯を重ねる音が鳴り、家来たちは喝采をあげた。
 独りよがりの王にもふさわしい響きだった。

Des Königs Wangen leuchten Glut;
Im Wein erwuchs ihm kecker Mut.
 王の頬がほてり輝いた。
 ワインで彼は気が大きくなってきた。

Und blindlings reißt der Mut ihn fort;
Und er lästert die Gottheit mit sündigem Wort.
 そして理性を失い王の心を大胆さが占め、
 彼は罪な言葉で神を冒涜する。

Und er brüstet sich frech und lästert wild;
Die Knechteschar ihm Beifall brüllt.
 彼は大胆に自慢して、野蛮に罵り、
 家来の一群は王に拍手喝采を浴びせる。

Der König rief mit stolzem Blick;
Der Diener eilt und kehrt zurück.
 王は誇りに満ちた眼差しで叫んだ。
 従僕は急ぎ去り、また戻ってくる。

Er trug viel gülden Gerät auf dem Haupt;
Das war aus dem Tempel Jehovas geraubt.
 王は頭上に多くの金の道具を付けた。
 それはエホバの寺院から盗んできたものだった。

Und der König ergriff mit frevler Hand
Einen heiligen Becher, gefüllt bis am Rand.
 それから王は邪悪な手で
 なみなみと注がれた聖なる杯をつかんだ。

Und er leert ihn hastig bis auf den Grund,
Und rufet laut mit schäumendem Mund:
 彼は急いで飲み干すと
 泡だらけの口で大声で叫んだ。

Jehova! dir künd' ich auf ewig Hohn -
Ich bin der König von Babylon!
 エホバよ!わしは永遠に御身に侮辱の言葉を投げかけよう、
 我こそはバビロンの王なるぞ!

Doch kaum das grause Wort verklang,
Dem König ward's heimlich im Busen bang.
 ところが恐ろしい言葉が響き止むやいなや
 王の胸はひそかに不安になった。

Das gellende Lachen verstummte zumal;
Es wurde leichenstill im Saal.
 耳をつんざくような笑い声は同時に押し黙り、
 広間は死んだような静寂となった。

Und sieh! und sieh! an weißer Wand,
Da kam's hervor wie Menschenhand;
 ほら見よ!見よ!白い壁に
 人の手のようなものが出てきたぞ。

Und schrieb und schrieb an weißer Wand
Buchstaben von Feuer, und schrieb und schwand.
 白い壁に書き続けているのは
 火の文字だ、さらに書き続け、消え去った。

Der König stieren Blicks da saß,
Mit schlotternden Knien und totenblaß.
 王はじっと見つめながら
 膝を震わせ死人のように蒼ざめて座っていた。

Die Knechteschar saß kalt durchgraut,
Und saß gar still, gab keinen Laut.
 家来の一群は恐怖に寒々として、
 全く静かに座っており、物音一つ立てなかった。

Die Magier kamen, doch keiner verstand
Zu deuten die Flammenschrift an der Wand.
 呪術師たちがやってきたが、誰一人
 壁に書かれた炎の文字の意味が分からなかった。

Belsatzar ward aber in selbiger Nacht
Von seinen Knechten umgebracht.
 だがベルシャザルはその夜のうちに
 家来たちに殺されてしまった。

詩:Heinrich Heine (1797.12.13, Düsseldorf - 1856.2.17, Paris)
曲:Robert Alexander Schumann (1810.6.8, Zwickau - 1856.7.29, Endenich)

|

« スゼーの歌うシベリウス | トップページ | アーメリングのシューベルト歌曲集(ムーアほか共演:1972年) »

シューマン」カテゴリの記事

ハイネ」カテゴリの記事

」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/150976/15541824

この記事へのトラックバック一覧です: シューマン「ベルシャザル」(詩:ハイネ):

« スゼーの歌うシベリウス | トップページ | アーメリングのシューベルト歌曲集(ムーアほか共演:1972年) »