« 2007年4月 | トップページ | 2007年6月 »

ZARDの坂井泉水さん追悼

松岡大臣の事件でもちきりだった日に、
もう1つの大変ショッキングなニュースが飛び込んできた。
ZARDの坂井泉水さんのあまりにも早すぎる他界だった。

彼女は91年デビューというからもう15年以上
ZARDとして活動を続けてきたことになる。
私は彼女の熱烈なファンというわけではなかったが、
その爽やかでけなげな声と耳に残る曲は大好きで、
知らず知らずに耳に馴染んでいた曲も数多い。
昨年のベスト盤が1位を獲得して人気の健在ぶりを再確認したものだが、
今にして思えば、リリース当時は闘病生活を送っていたことになる。
テレビなどの露出もごくわずかで、
PVも静止画像が多かった記憶があり、
ミステリアスなところがまた気になる要素の一つにもなっていたのだろう。
今年は病気を治して新作アルバム制作と全国ツアーを予定していたとのこと、
徐々にベールを脱ごうとしていた矢先の悲劇はただただ残念というしかない。
かなり前に90年代のベスト盤を購入した時に、
特典として船上ライブのダイジェストのビデオがついていて
歌っている彼女の映像に新鮮な思いがしたことを思い出す。
「負けないで」「揺れる想い」などももちろん素晴らしいが、
「永遠」という曲が特に印象に残っている。
まさにポップスの典型という感じのZARDの音楽には
年齢性別を問わない普遍性があったように思う。

ひたすら詩を書き作品を残すことに生涯を捧げた
彼女のご冥福を心からお祈りいたします。

| | | コメント (2) | トラックバック (1)

シューマン「敵対し合う兄弟」(詩:ハイネ)

シューマンが“歌の年”1840年にハイネの詩に作曲した「敵対し合う兄弟」は、作品番号49として出版された「ロマンツェとバラーデ、第二集(Romanzen und Balladen Heft 2)」の第2曲にあたる。

シューマンの曲は、4分の4拍子、ロ短調(恋する女性を歌った第3節で平行調のニ長調に一時的に転調する)、全75小節で、冒頭に「動いて(Bewegt)」という指示がある。
歌声部は最高音が2点ト音、最低音が1点嬰ヘ音なので、約1オクターブ強の音域ということになる。

冒頭のテーマ(ミーミラーラシーシドードレーレミーミシーシドー)が調を変化させることもなく何度も繰り返し現れる。このテーマを聴くたびに私はベートーヴェンのチェロソナタ第3番のスケルツォを思い出してしまうが、おそらく単なる偶然なのだろう。だが、シューマンはベートーヴェン贔屓で、自作にベートーヴェンの曲の一節を織り込んだりもしているので、作曲中にこの曲が頭に鳴っていて無意識的に影響されてしまったということはありうるかもしれない(単なる想像に過ぎないが)。通作形式だが、あまり目新しい工夫をせずに紋切り型の曲に留まっている。ただ、演奏者の技量次第では切迫感のあるドラマとなりうるだろう。

-----------------------------

Die feindlichen Brüder, op. 49 no. 2
 敵対し合う兄弟

Oben auf des Berges Spitze
Liegt das Schloß in Nacht gehüllt;
Doch im Tale leuchten Blitze,
Helle Schwerter klirren wild.
 山頂の上で
 夜に包まれて城がそびえ立っている。
 だが、稲妻の輝くあの谷では
 きらめく剣が荒々しい音を鳴らしている。

Das sind Brüder, die dort fechten
Grimmen Zweikampf, wutentbrannt.
Sprich, warum die Brüder rechten
Mit dem Schwerte in der Hand?
 それは兄弟だ、あそこで剣を交えて、
 激しく怒りに燃えて二人争っている。
 言ってくれ、なぜ兄弟が
 剣を手にして争っているのか。

Gräfin Lauras Augenfunken
Zündeten den Brüderstreit.
Beide glühen liebestrunken
Für die adlig holde Maid.
 伯爵令嬢のラウラの瞳が放つ火花が
 兄弟の争いに火をつけたのだ。
 二人は愛に酔い痴れて燃え盛る、
 この気高くいとしい娘をめぐって。

Welchem aber von den beiden
Wendet sich ihr Herze zu?
Kein Ergrübeln kann's entscheiden -
Schwert heraus, entscheide du!
 だが、二人のうちどちらに
 彼女の心は向くのだろうか?
 考えたって決められない。
 剣を抜け、それで決めるぞ!

Und sie fechten kühn verwegen,
Hieb auf Hiebe niederkracht's.
Hütet euch, ihr wilden Degen.
Grausig Blendwerk schleicht des Nachts.
 そして彼らは大胆に向こう見ずに剣を交えた、
 一突きごとに剣は音を立てて下を向く。
 気をつけろ、乱暴な勇士たちよ。
 夜にはぞっとするようなまやかしが忍び寄っているから。

Wehe! Wehe! blut'ge Brüder!
Wehe! Wehe! blut'ges Tal!
Beide Kämpfer stürzen nieder,
Einer in des andern Stahl. -
 あわれ!あわれ!血まみれの兄弟たちよ!
 あわれ!あわれ!血まみれの谷よ!
 二人の戦士たちはばったり倒れた、
 相手の刃に切られて。

Viel Jahrhunderte verwehen,
Viel Geschlechter deckt das Grab;
Traurig von des Berges Höhen
Schaut das öde Schloß herab.
 それから何世紀もの時が流れ去り、
 何世代もの人々が墓の下に眠った。
 山の高みからは悲しげに
 荒れた城が見下ろしている。

Aber nachts, im Talesgrunde,
Wandelt's heimlich, wunderbar;
Wenn da kommt die zwölfte Stunde,
Kämpfet dort das Brüderpaar.
 だが、夜になると、谷底では
 ひっそり奇妙にさまよい出るものがある。
 十二時になると
 あそこであの兄弟たちが戦うのだ。

詩:Heinrich Heine (1797.12.13, Düsseldorf - 1856.2.17, Paris)
曲:Robert Alexander Schumann (1810.6.8, Zwickau - 1856.7.29, Endenich)

| | | コメント (2) | トラックバック (0)

1950年代のアーメリング

エリー・アーメリング(Elly Ameling)の1950年代の録音を把握している限りご紹介したい。
私は下記の3以外を聴くことが出来たが、いずれも若い頃から際立った才能に恵まれていたことを実感させる貴重な記録である。
なお、1はLPジャケットには誤って"Das Veilchen(すみれ)"と記載されているが、「クローエに」が正しい。彼女の弾き語りをプライベートに録音したもののようだが、後年の声の質と作品への誠実なスタイルがすでに表れているのが感じられる。
下記の4、5は輸入CDで現役盤だと思う(4は組物だが)ので、機会があれば聴いてみてください(5はCDジャケットや解説書に彼女の名前は記されていませんが、インターネットの情報で彼女が歌っていることが判明し、実際に声を聴くと彼女が歌っているのが分かります)。
6はフランク・マルタンの音楽を大量に収録したDVDで現在も入手可能なようです(演奏の映像はありません)。

1)1950年または1951年(17歳の時のプライベート録音):PHILIPS(LP):6598 946
モーツァルト/クローエにK. 524
Elly Ameling(P)

2)1956年: PHILIPS(LP):6598 946
デュパルク/悲しい歌(Chanson triste)
Radio Kamerorkest;Maurits van den Berg(C)

3)1956年(第3回セルトーヘンボス・コンクール・ライヴ録音):PHILIPS(EP)
モーツァルト/主日のための晩課(ヴェスペレ)K. 321より~Laudate
The Brabant Orchestra;Hein Jordans(C)

4)1957年12月1日:PHILIPS:464 385-2
マイヤール/歌劇「ヴィラールの竜騎兵(Les dragons de Villars)」より~Maître Thibaut…Hup! Hup!
Omroeporkest;Albert Wolff(C)

5)1958年5月24日、Hilversum, Netherlands(ライヴ録音):Gala:GLH 812
モーツァルト/歌劇「魔笛」K. 620より(第一の童子役)~Zum Ziele führt dich diese Bahn
Fritz Wunderlich(T);Het Radio Filharmonisch Orkest;Bernard Haitink(C) & others

6)1959年12月23日、Genève(世界初演ライヴ録音):Cascavelle:VEL 2006
マルタン/オラトリオ「降誕の神秘(Le mystère de la Nativité)」全曲
Aafje Heynis;Louis Devos;Hugues Cuenod;Orchestre de la Suisse Romande, Genève;Ernest Ansermet(C) & others

7)1959年:PHILIPS(LP):6598 946
シューベルト/子守歌D498
Herman Uhlhorn(P)

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

ヴェンベルイ&パーソンズ/グリーグ、ラングストレム、シベリウス歌曲集

今年はノルウェー出身のグリーグ(Edvard Hagerup Grieg, 1843.6.15, Bergen - 1907.9.4, Bergen)の没後100年、そしてフィンランド出身のシベリウス(Jean Sibelius, 1865.12.8, Hämeenlinna - 1957.9.20, Ainola)の没後50年にあたるので、この両者の歌曲を含むCDを引っ張り出して聴いてみた。

「グリーク/歌曲集“山の娘”」
Wennberg_parsons_grieg東芝EMI: EMI: CE30-5495
録音:1973年6月26,28日&7月1日, Abbey Road Studios, London
シーヴ・ヴェンベルイ(Siv Wennberg)(S)
ジョフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons)(P)

グリーク/歌曲集“山の娘”作品67(歌い;ヴェスレモェイ;青い実の斜面;逢引き;愛;子山羊のダンス;悪い日;小川で)[ガルボルグ]
ラングストレム/セメレ[ストリンドベルイ];新月の下の少女[ベルイマン];パン(牧羊神)[ベルイマン];ヴィッレモ[ストリンドベルイ];アマゾン(女の戦士)[ボイエ]
シベリウス/はじめての口づけ作品37の1[ルネベルイ];“牧歌と警句”より作品13の7[ルネベルイ];逢引きから帰った乙女作品37の5[ルネベルイ];黒いバラ作品36の1[ヨセフソン]

(以上の演奏者名と曲名表記は解説書表記に従った。)

-------------------------------------------

グリーグの歌曲集「山の娘」は全8曲からなり、菅野浩和氏の解説によれば「田園(むしろ丘といったほうがよい)に育った乙女の身の上に起ったできごと」が歌われている。
1曲目では何者か(娘の心の声なのか、超自然的な存在によるものなのか)による娘に対する山への誘いが歌われる。声の高低の差の大きい印象的な曲。
2曲目で娘ヴェスレモイの外見や所作が描写される。曲は静かな中に熱さをもっている感じ。
3曲目はこの娘がブルーベリーの斜面にきて、熊や狐が近づいてきた時のことを想像し、最後にすてきな男性が来たらと空想して終わる。明るく軽快な曲。
4曲目は娘と恋人との幸せな逢引の一時を歌ったもの。各節とも静かな響きから徐々に盛り上がり、気持ちの高揚感を表現する。
5曲目は娘の恋人への熱い思いを歌ったもの。
6曲目は一転して子山羊のダンスが描写される。ちょっとした気分転換の曲という感じだ。
7曲目は恋人に裏切られた娘の傷つきもだえる様が描写される。
最終曲は小川を前にした娘がここで私を眠らせておくれと歌う。シューベルトの「美しい水車屋の娘」の女性バージョンと言えるだろうか。5節からなるが、完全な有節形式ではなく、内容に応じて微妙な変化を見せている。

ラングストレムの5曲はいずれも個性的な作品で、とりわけ「セメレ」は歌、ピアノ共にインパクトが強かった。

シベリウスの4曲はいずれも有名な作品だろう。
「はじめての口づけ」は、「恋人にはじめて口づけするときに何を考えるの」と少女が星に尋ねるという内容。
「“牧歌と警句”より」は、人生を四季にたとえ、人生の春や夏は急いで逃げてしまうが、去るものはそのままにして愛せよという内容。
「逢引きから帰った乙女」は、母親との対話の形で、恋人との逢引きのすえ、最後は恋人の裏切りにあい青ざめて帰ってきたという内容。
「黒いバラ」は、悲しみというのは漆黒のバラをもっているので私はそれに苦しめられて死にそうだという内容。前半の静かな箇所から徐々に切迫し最後に盛り上がる構成が素晴らしい。

スウェーデン北部に生まれたシーヴ・ヴェンベルイ(1944-)は実に清冽な美声をもっている。「山の娘」の羊飼い娘にはうってつけの爽快な声と強靭な表現力で素晴らしかった。その声の魅力とパワーを兼ね備えた彼女らしさが特によくあらわれていたのがラングストレムの「セメレ」や「アマゾン」であった。シベリウスの深い内部から湧き出るような爆発力も見事に表現し尽くしていて見事であった。ヴァーグナー歌手として知られていたようだが、北欧歌曲歌いとしても知られざる逸材だったのではないだろうか。

パーソンズは相変わらず極上の美しいタッチでグリーグの清冽な空気を表現するかと思えば、「セメレ」では雄弁に歌手と拮抗する。そしてシベリウス特有の暗い情熱にも対応して、その変幻自在ぶりにあらためて驚嘆させられた。

古い国内CDなのでおそらく現在では入手不可能だろうが、「山の娘」のみは輸入盤で入手可能である(F=ディースカウ&ヘルのグリーグ歌曲集などとのカップリング)。

| | | コメント (2) | トラックバック (0)

Legendary British Performers

EMI CLASSICSより最近リリースされたDVDを購入した。"Legendary British Performers"と題され、イギリスの名だたる演奏家たちの往年の映像がたっぷり収録されているという記録的にもお宝的価値をもったDVDである。内訳は以下の通り(すべてモノクロ映像)。

-----------------------------------

1)ジャクリーン・デュプレ(VLC);イリス・デュプレ(P)[1962年]
メンデルスゾーン/無言歌ニ長調Op. 109
グラナドス(カサド編曲)/ゴイエスカス~間奏曲
サン=サーンス/アレグロ・アパッショナート、ロ短調Op. 43

2)ピーター・ピアーズ(T);ベンジャミン・ブリテン(P);エマニュエル・ハーヴィツ(VLN);セシル・アロノヴィツ(VLA);テレンス・ウェイル(VLC)[1964年]
ブリッジ/行かないで、幸福な日々よ
ブリテン編曲/サリー・ガーデン
民謡/The Shooting of his Dear(無伴奏)
モーツァルト/ピアノ四重奏曲第1番ト短調K. 478~2楽章(Andante)
ブリテン編曲/農場の少年

3)アルフレッド・デラー(CT);マーク・デラー(CT);デズモンド・デュプレ(LUTE, GT)[1972年]
ロセター/What then is love but mourning?(独唱、リュート)
作者不詳/Have you seen but the white lily grow(独唱、リュート)
ブロウ/Ah, Heaven, what is't I hear(二重唱、ギター)
パーセル/Sound the trumpet(二重唱、ギター)

4)ハレ管弦楽団;サー・ジョン・バービローリ(C)[1962年]
ドヴォジャーク/スケルツォ・カプリッチョーソOp. 66

5)ジョン・オグドン(P)[1961年]
リスト/ダンテを読んで

6)ソロモン(P)[1956年]
シューベルト/即興曲変イ長調D899-4

7)デイム・マイラ・ヘス(P)[1954年]
バッハ(ヘス編曲)/主よ、人の望みの喜びよ
ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番変イ長調Op. 110
バッハ/トッカータ、アダージョとフーガ、ハ長調BWV564~アダージョ

-----------------------------------

夭折した天才チェリスト、ジャクリーン・デュプレ(Jacqueline du Pré: 1945.1.26, Oxford, England - 1987.10.19, London)の映像を見るのは今回が初めてだったが、レコードジャケットなどで見慣れた肩まで伸びた長髪ではなく、ショートカットのデュプレが大人びた表情で情熱的に演奏している。ピアニストはジャクリーンの母親のイリス(Iris du Pré: 1924-1985)で、親子の共演により初々しいジャクリーンの若さが引き出ていた。「無言歌」など、ムーアと後にスタジオ録音したものと比べて随分テンポも速く、自由に思ったまま演奏に没頭している様が微笑ましい。

ブリテンを中心としたブロックでは、名パートナー、ピアーズとの歌曲演奏と同時にモーツァルトのピアノ四重奏曲も組み合わせて、ピアニスト、ブリテンをクローズアップしたものとなっていた。ピアーズ&ブリテン・コンビの歌曲演奏は言うまでも無く素晴らしい。切々と訴えかけるようなピアーズの表情豊かな歌と、それを余裕のあるテクニックで変幻自在にサポートする名ピアニスト、ブリテンのコンビネーションは歌曲コンビの一つの理想的な姿を示していた。やはり「サリー・ガーデン」の演奏には胸を打たれた(素敵な編曲と演奏)。モーツァルトはちょっとした気分転換になり、ピアニスト、ブリテンをフィーチャーしたものになっていた。

アルフレッド・デラー(Alfred Deller: 1912.5.31, Margate, UK – 1979.7.16, Bologna, Italy)はカウンターテナーの先駆けともいえる存在で、多くの後継者たちが生まれた現在にあっても大きな敬意を払われるべき偉大な歌手であろう。ひげをはやした容貌でカウンターテナーの繊細な歌を歌う映像を見るのは不思議な感覚ではあったが、確かにパイオニアとしての自負心と自在な表現には惹き込まれるものがあった。細かいところを見れば多少技術的な問題点がないこともなかろうが、この歌手の歌にかける気持ちを聴き取ることの方がずっと意味のあることであろう。後半2曲は息子Markとの二重唱だった。デズモンド・デュプレ(Desmond Dupré: 1916.12.19, London - 1974.8.16, Tonbridge)のひなびたリュートやギターの響きも心地よい。

サー・ジョン・バービローリ(Sir John Giovanni Battista Barbirolli: 1899.12.2 - 1970.7.29)指揮のドヴォジャークのオケ演奏の後は、ジョン・オグドン(John Andrew Howard Ogdon: 1937.1.27, Mansfield Woodhouse, Nottinghamshire – 1989.8.1, London)によるリストの難曲「ダンテを読んで」である。オグドンの演奏は軽快である。リストを弾く時の名人芸的華やかさやきらびやかさの誇示は彼の演奏にはあまりなく、むしろなんでもなくごく当たり前に軽やかに弾き進める。その衒いのなさに大いに好感を持てた。こういうリストの演奏が好きな人も必ずいるはずだ。

続くソロモン(Solomon: 1902.8.9, London - 1988.2.2, London)はシューベルトの「即興曲変イ長調D899-4」を弾いている。ジェラルド・ムーアが自伝の中でソロモンのコンチェルトの演奏を褒め称えていたのを知っていたが、この1曲を聴くだけではこのピアニストの真価が分かったとは言えなかった。下降する右手の細かい音型はあまり粒が揃っているようでもなく、流れを重視しているかのようだ。この頃の演奏ならこういうのもありなのだろう。

最後にこのDVDの目玉とも言うべきデイム・マイラ・ヘス(Dame Myra Hess: 1890.2.25, London - 1965.11.25, London)の演奏が3曲収められている。大変残念なのが、テープの保存状況が最悪だったようで、常に歪んだ音なので、演奏をとても冷静に判断できる状態にはない。ここでは、この偉大な伝説的ピアニストの演奏する姿を味わうことに集中するしかなさそうだ。彼女が編曲したことであまりにも有名なバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」を彼女の映像で見ることが出来るのは大きな収穫である。彼女が醸し出す堂々とした風格は、このバッハの気品にあふれた音楽とぴったり一致していた。

| | | コメント (5) | トラックバック (0)

« 2007年4月 | トップページ | 2007年6月 »