ロストロポーヴィチ逝去
チェリスト、指揮者として大きな仕事を残したムスティスラフ・ロストロポーヴィチ
(Мстислав Леопольдович Ростропович: 1927.3.27, Baku, Azerbaijan - 2007.4.27, Moscow)が昨日病院で亡くなったそうだ。享年80歳。
アゼルバイジャン(旧ソ連)のバクー生まれ、亡命、帰国、さまざまな人道的発言や活動など旧ソ連時代から己の信念を貫いた言動で注目された偉大な音楽家であることは言うまでもない。そのような観点での追悼記事は大量に書かれることだろう。
ここでは歌曲ピアニストとしてのロストロポーヴィチを偲びたいと思う。彼女の夫人はソプラノ歌手のガリーナ・ヴィシネフスカヤ(Галина Павловна Вишневская: 1926.10.25, Leningrad -)で、ロストロポーヴィチは彼女の歌曲録音や演奏会のピアニストとしてしばしば共演を重ねてきた。チェロと指揮、その他の活動の合間を縫って、どうやってピアニストとしての時間を確保したのか信じられないほどだが、巨匠というのは限られた時間の中で最高の成果を出してしまうものなのかもしれない。
昨年ヴィシネフスカヤの生誕80年を記念してEMI CLASSICSから3枚組の歌曲CDが復活したが、収録されている全曲でロストロポーヴィチは、ピアニスト、指揮者、チェリストとしてヴィシネフスカヤと共演している。
"Galina Vishnevskaya: Songs and Opera Arias"
EMI CLASSICS: 0946 3 65008 2 9
録音:1974~1978年
ガリーナ・ヴィシネフスカヤ(Galina Vishnevskaya)(S)
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(Mstislav Rostropovich)(P、C、VLC)
ウルフ・ヘルシャー(Ulf Hoelscher)(VLN:「A.ブロークの詩による7つのロマンス」)
ヴァッソ・デヴェツィ(Vasso Devetzi)(P:「A.ブロークの詩による7つのロマンス」)
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(London Philharmonic Orchestra:CD1の「死の歌と踊り」以降)
CD1
ムソルクスキー/歌曲集「日の光もなく」(全6曲);
星よ、お前はどこに;ゴパーク;子守歌;かわいいサヴィシナ;みなしご;エリョームシカの子守歌
ムソルクスキー(ショスタコーヴィチ管弦楽編曲)/歌曲集「死の歌と踊り」(全4曲)
リムスキー=コルサコフ/歌劇「サトコ」より;歌劇「皇帝の花嫁」より2曲
チャイコフスキー/付随音楽「雪娘」より
CD2
リムスキー=コルサコフ/静かな夜に夢みたことOp. 40-3;ばらのとりこになったナイティンゲールOp. 2-2;
西空はしだいに青ざめてOp. 39-2;たなびく雲は薄くなりOp. 42-3;ひばりの歌声は響きOp. 43-1;
高嶺に吹く風もなくOp. 43-2;八行詩Op.45-3;ニンフOp. 56-1
チャイコフスキー/私は野辺の草ではなかったのかOp. 47-7;信じるな、わが友よOp. 6-1;
恐ろしいひとときOp. 28-6;眠れ、悲しむ友よOp. 47-4;この月夜にOp. 73-3;
子守歌Op.16-1;なぜOp. 6-5;騒がしい舞踏会のなかでOp. 38-3;もし私が知っていたらOp. 47-1;
それは早春のことだったOp. 38-2;再び、前のように、ただひとりOp. 73-6
CD3
プロコフィエフ/「ロシア民謡集」Op. 104より~白い雪;夢;僧侶;結婚の歌;カテリナ;緑の木立
ショスタコーヴィチ/「アレクサンドル・ブロークの詩による7つのロマンス」Op. 127(全7曲);
「5つの風刺」Op. 109(全5曲)
ロストロポーヴィチのピアノ演奏は専門家のような洗練された巧さこそないものの、土台のがっちりした骨太で立体的な演奏を聞かせてくれる。飾り気のないストレートな表現で“音楽”を表現しようとする姿勢は例えば、最低限に切り詰めた音によるムソルクスキーの「日の光もなく」で一音一音に重みと意味深さを感じさせ、プロコフィエフの「ロシア民謡集」では土の匂いを喚起するような素朴さを響かせる。ショスタコーヴィチの「風刺」では、作曲家の意図を忠実に再現することによって各曲の皮肉がストレートに浮かび上がってくる。ムソルクスキーの「ゴパーク」では急速な舞曲を軽快に余裕をもって披露する。彼の力強いタッチはヴィシネフスカヤのよく通る強靭な声にいささかも動じず対等にしかし敬意をもって接しているのを感じる。
リヒテルと組んだベートーヴェンのチェロソナタ全集のDVDをこの機会にじっくり鑑賞してみようと思う。チェリスト、指揮者、そして歌曲ピアニストでもあった偉大なロストロポーヴィチのご冥福を心より祈りたい。
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