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アーメリング初出音源(アルバン・ベルク/コンサートアリア「ワイン」)

久しぶりにエリー・アーメリングの録音が発売された。コンセルトヘボウ管弦楽団の1970年~1980年までの放送録音を収めた"Anthology of the Royal Concertgebouw Orchestra"(RCO: RCO 06004)という14枚組のCDの中に彼女の演奏が2曲含まれている。1つはバッハの結婚カンタータ「今ぞ去れ、悲しみの影よ」BWV202(オイゲン・ヨッフム指揮)、もう1つはアルバン・ベルクのコンサート・アリア「ワイン」(一般的には「ぶどう酒」と訳されるようだ)(エーリヒ・ラインスドルフ指揮)である。バッハはかつてTAHRAレーベルから出ていたものと同一音源だが、TAHRA盤がカンタータ全曲で1トラックだったのに対して、今回のRCO盤は9トラックに分けてあるので、途中のアリアを取り出して聴くのに便利である(歌唱の伸び伸びとした美しさは言うまでもない)。そして、ベルクの「ワイン」は初出音源であり、スタジオ録音もおそらくされていないので貴重な録音で、RCOに感謝である!アーメリングはベルクでは「ワイン」のほかにも「7つの初期の歌」や「アルテンベルク歌曲集」もレパートリーにしていたそうなので、いつか発見されることを期待したい。

ベルク(Alban Berg: 1885-1935)の「ワイン(Der Wein)」は、シャルル・ボドレール(Charles Baudelaire: 1821-1867)の「悪の華(Les fleurs du mal)」の中の詩に、彼同様象徴派のシュテファン・ゲオルゲ(Stefan George: 1868-1933)が独訳した3篇の詩をまとめて1曲にしたコンサート・アリア(Konzertarie)で、歌劇「ルル」作曲の合間に作られた。おそらく12音音楽といっていいのだろうが、詩に応じた音楽の描き分けが聴き取れて、詩が単なる素材にとどまっていないように感じられた。オーケストラ・パートも混沌としているようでいて、実は統率がとれているという感じで、案外詩の展開に沿っていて、知らず知らず惹き込まれる引力をもっているように思った。アーメリングの歌うベルクはまずその発音の明瞭さに驚かされる。難曲のはずなのに何でもないようにすっきりと歌ってしまう。聴き易くはない12音音楽がぐっと親しみやすくなるのは彼女ならではであろう。私はザビーネ・ハス(Sabine Hass)の歌った録音も聴いたが、ハスの濃密で爛熟した表現はアーメリングにはあまり無い特質である。ベルクの音楽が求めるものをより表現しているのはハスの方だろう。だがアーメリングのはっきりとした語り口と、ぴたっと決まる音程の見事さ、それに張りのある伸びやかな美声は、20世紀前半のこの種の音楽に馴染みの薄い私のような聴き手には一気に曲を身近な存在に感じさせてくれるのである。

Ameling_berg_rco"Anthology of the Royal Concertgebouw Orchestra 1970-1980"(RCO: RCO 06004)

CD8
バッハ/結婚カンタータ「今ぞ去れ、悲しみの影よ」BWV202 (22'43)
 Elly Ameling(S)
 Royal Concertgebouw Orchestra
 Eugen Jochum(C)
 1973年4月5日コンセルトヘボウでのライヴ録音

CD9
ベルク/コンサート・アリア「ワイン」 (13'00)
 Elly Ameling(S)
 Royal Concertgebouw Orchestra
 Erich Leinsdorf(C)
 1973年12月2日コンセルトヘボウでのライヴ録音

CD収録全曲の内容は以下のサイトにあります。
http://www.hmv.co.jp/Product/detail.asp?sku=2513439

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Der Wein
 ワイン

1. Die Seele des Weines
 ワインの魂

Des weines geist begann im fass zu singen:
Mensch - teurer ausgestossener - dir soll
Durch meinen engen kerker durch erklingen
Ein lied von licht und bruderliebe voll.
 ワインの精が樽の中で歌い始めた。
 人間よ、親愛なる追放されし者よ、おまえに
 わが狭き牢獄を通して響かせよう、
 光と兄弟愛にあふれた歌を。

Ich weiss: am sengendheissen bergeshange
Bei schweiss und mühe nur gedeih ich recht
Da meine seele ich nur so empfange
Doch bin ich niemals undankbar und schlecht.
 私は知っている、焼けつくように暑い山の斜面で
 汗と苦心によってのみ私が良く育つことを。
 私の魂を私はこのようにしてのみ受け取るのだが、
 決して恩知らずでも、悪さをするわけでもない。

Und dies bereitet mir die grösste labe
Wenn eines arbeit-matten mund mich hält
Sein heisser schlund wird mir zum kühlen grabe
Das mehr als kalte keller mir gefällt.
 そして私を最も元気にしてくれるのは、
 働き疲れた者の口が私に当たるときだ。
 その熱い喉が私には涼しい墓になる、
 そこは冷たい貯蔵室よりも私のお気に入りなのだ。

Hörst du den sonntagsang aus frohem schwarme?
Nun kehrt die hoffnung prickelnd in mich ein:
Du stülpst die ärmel - stützest beide arme
Du wirst mich preisen und zufrieden sein.
 陽気な群集が日曜日に歌う歌が聞こえるかい?
 今や希望が泡立ちながら私の中で休憩している。
 あなたは袖を折り返して、両腕を支える、
 あなたは私を褒め称え、満足するであろう。

Ich mache deines weibes augen heiter
Und deinem sohne leih ich frische kraft
Ich bin für diesen zarten lebensstreiter
Das öl das fechtern die gewandtheit schafft.
 私はあなたの夫人の目を明るくし、
 あなたの息子に新鮮な力を貸し与える。
 私はこのか弱き人生の闘士にとって、
 剣士の機敏さを作り出す油となるのだ。

Und du erhältst von diesem pflanzenseime
Den Gott - der ewige sämann - niedergiesst
Damit in deiner brust die dichtkunst keime
Die wie ein seltner baum zum himmel spriesst.
 そして、あなたはこの植物の液から受け取るのだ、
 神、つまり永遠なる種蒔き人が注ぎ落とす液から、
 あなたの胸の中で詩歌が芽生えるように、
 珍しい木のように天に向けて芽吹く詩歌が。

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2. Der Wein der Liebenden
 恋する二人のワイン

Prächtig ist heute die weite
Stränge und sporen beiseite
Reiten wir auf dem wein
In den feenhimmel hinein!
 今日の彼方はきらめている、
 綱と拍車は脇にやり、
 ワインにまたがって
 妖精たちの天空へ進み行こう!

Engel für ewige dauer
Leidend im fieberschauer
Durch des morgens blauen kristall
Fort in das leuchtende all!
 天使は永遠に
 悪寒に苦しみながら、
 朝の青い結晶を通って
 輝く宇宙へと進むのだ!

Wir lehnen uns weich auf den flügel
Des windes der eilt ohne zügel.
Beide voll gleicher lust
 私たちはやさしくもたれかかる、
 手綱も無いまま、急ぐ風の翼に。
 二人とも同じほどの喜びにあふれて、

Lass schwester uns brust an brust
Fliehn ohne rast und stand
In meiner träume land!
 妹よ、寄り添って
 休まず立ち止まらず逃げようよ、
 わが夢の国へと!

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3. Der Wein des Einsamen
 孤独な男のワイン

Der sonderbare blick der leichten frauen
Der auf uns gleitet wie das weisse licht
Des mondes auf bewegter wasserschicht
Will er im bade seine schönheit schauen
 軽薄な女たちの奇妙なまなざし、
 我々に滑らせるそのまなざし、
 あたかもゆらめく水面の月の白光のようだ、
 月は水浴しながら己の美しさを見ようとする。

Der letzte thaler auf dem spielertisch
Ein frecher kuss der hagern Adeline
Erschlaffenden gesang der violine
Der wie der menschheit fernes qualgezisch -
 賭博台の上の最後のターラー銀貨、
 やせこけたアデリーネの無遠慮なキス、
 ヴァイオリンのたるんだ歌、
 それは人間が彼方から漏らす苦痛のうめき声のようだ。

Mehr als dies alles schätz ich - tiefe flasche -
Den starken balsam den ich aus dir nasche
Und der des frommen dichters müdheit bannt.
 これらすべてよりありがたいのは、深き瓶よ、
 あなたの中から失敬した強いバルサムだ。
 それは実直な詩人の疲労を封じ込めてくれる。

Du gibst ihm hoffnung liebe jugendkraft
Und stolz - dies erbteil aller bettlerschaft
Der uns zu helden macht und gottverwandt.
 あなたが詩人に与えてくれるのは、希望と愛と若き力、
 それに誇り-すなわち、あらゆる物乞いの素質、
 詩人は我らを英雄にも神の一族にもしてくれるのだ。

原詩:Charles Pierre Baudelaire (1821.4.9, Paris - 1867.8.31, Paris):L'âme du vin / Le vin des amants / Le vin du solitaire
訳詩:Stefan Anton George (1868.7.12, Büdesheim - 1933.12.4, Minusio)
曲:Alban Maria Johannes Berg (1885.2.9, Wien - 1935.12.24, Wien):1929年作曲

(訳注:名詞の最初が小文字なのは、ゲオルゲの原文がそのようになっているようです。)

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余談だが、アルバン・ベルクには「私の両目を閉じて(Schliesse mir die Augen beide)」というシュトルム(名作「みずうみ(Immensee)」で知られる作家、詩人:Theodor Storm:1817-1888)の詩による短い歌曲が2種類ある。1回目は1907年、2回目は1925年の作曲だが、この20年近い経過でベルクの書法がすっかり変わった証言として聴き比べるのも興味深いと思う。マーガレット・マーシャル(S)&ジェフリー・パーソンズの演奏(DG:1984年8月録音)がなかなかいいが、確かジェシー・ノーマンもこの2種を録音していたと思う。

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コメント

フランツさん、お久しぶりです。鶴太屋です。正月以来ですね。
普段はハイネとか、ぼくが首を突っ込む余地のない詩人でただ読むだけですが、今回はボードレールなので、これは専門分野でもあり、大好きな詩人でもあるので、ちょっと一筆書いてみました。
シュテファン・ゲオルゲは名のみ知っていて、詳しいことはまったく知らない詩人なのですが、そのゲオルゲのボードレール独語訳は、ボードレールのエッセンスを伝えつつもかなり自由訳なのではないかという印象を持ちました。もちろんぼくはドイツ語は判らないので、フランツさんの翻訳(多分、フランツさんの性格からして、かなり厳密な逐語訳なのではないかと思われますが)を通しての印象なのですが。
ゲオルゲは象徴派詩人ということらしいので、詩の音楽性はかなり重視していたのではないかと思われます(翻訳も含め)。それは、たとえば「ワインの魂」で言えば、「魂」は原書では「l'a^me」となっていて、一行目の「ワインの精」もやはり、「l'a^me du vin」となっており、同じ「a^me」となっております。しかしゲオルゲは「Seele」と「geist」という風に訳しわけていることからも推察されます。
「ワインの魂」の最初の詩節では「樽の中で歌い始めた」とありますが、ゲオルゲの訳では「fass」であり、原書では「les bouteilles」(瓶(複数形))であるので、ぼくの手許にある独語辞書を参照してもこれは意訳といえましょう。
また、3番目の詩節で「その熱い喉が私には涼しい墓になる」と訳されている「喉」ですが、ゲオルゲの訳は「schlund」であり、原書は「poitrine」(胸)であるので、これも意訳なんじゃないかと思います。
と、ここまで書いてきて結局何を言いたいのかというと、特にそういうこともなく、ただゲオルゲの訳はかなり自由訳なんだなぁと思ったことにつきます。しかしゲオルゲの訳はちゃんと脚韻も踏んでいるようで感心しました。
『悪の華』の翻訳は集英社文庫に収められている仏文学者、詩人である安藤元雄の訳が現在入手できる翻訳では一番のお薦めです。
実を言うとぼくも『悪の華』のすべての詩篇に目を通しているわけではないので、これをきっかけに読破を目指そうかと思っております。
音楽の話から逸れて申し訳ないです。
ちょっと長くなりましたが、また飲みましょう。

投稿: 鶴太屋 | 2007年3月 3日 (土曜日) 06時52分

鶴太屋さん、こんにちは。
コメントを有難うございました。
原詩と訳詩を比較してみると、訳者の読み方が分かりますね。私はフランス語がほとんど出来ないので、鶴太屋さんの比較を楽しく拝見しました。
"Seele"と"Geist"の使い分けは音節の違い(2音節と1音節)によるリズムの問題も関係しているのでしょうね。"Fass"と"les bouteilles"の違いも興味深いですね。ボードレールの方はすでに瓶詰めされたワインで、ゲオルゲはまだ樽の中で眠っている状態なのでしょう。
私が今やっているように詩の内容を出来るだけ忠実に追うために訳すのと、ひとかどの文学者が自分の刻印を刻みながら翻訳の形で芸術作品を作り出すのとではやはり随分姿勢の違いが出てくるのでしょう。そういう違いを知る意味でも鶴太屋さんのご指摘はとても興味深いものでした。お薦めの安藤元雄氏の翻訳もぜひ読んでみたいと思います。
もう1篇、ボードレールの詩による独訳に作曲された歌曲を見つけたので近く記事にする予定です。
では今後ともよろしくお願いいたします。近いうちに飲みに行きましょう。

投稿: フランツ | 2007年3月 3日 (土曜日) 12時58分

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