ブリテン&ピアーズ、ヘフリガー&ニキーティナの来日公演
この前の日曜日のNHK「思い出の名演奏」で過去の2つの歌曲演奏が放送された。この枠で歌曲が放送されたのは初めてではないか。前半がピアーズ&ブリテンの50年以上前の演奏、後半がヘフリガー&ニキーティナのドイツ語訳による日本歌曲という興味深い内容だった。
ピアーズとブリテンの演奏会は、曲ごとに日本語のアナウンスが入るもので、当時の放送の様子がうかがえて面白かったが、これまで晩年の声を聴くことの多かったピーター・ピアーズがまだ若かった頃の美声を披露していたのがうれしかった。パーセルの歌2曲とブリテンのミケランジェロの詩による歌曲集、それにブリテンの編曲した有名な民謡3曲というプログラムは実に魅力にあふれた選曲で、ピアーズのほとんど動かないまま、表情豊かに歌う様は、曲の世界に感情移入するのをたやすくしてくれた。ブリテンの演奏は堅実だが、作曲家らしい自己主張もみられた(「サリー・ガーデン」の左手をスタッカート気味に弾いていたのが印象に残った)。
スイスのテノール、ヘフリガーはドイツ語訳による日本歌曲の録音を沢山残しているが、このコンサートではよく知られた作品を真摯な表現で聴かせてくれた。演奏前のインタビューでも誠実さが滲み出ていたが、歌もひたむきな表現が何の虚飾もなく迫ってくる。当時すでに高齢だったが、しっかりと基礎の出来ている人は芸で聴かせてくれるのだからすごいものである。これらの曲、日本人が聴けば日本歌曲であることは分かるが、何も知らせずに外国人が聴いたらどうだろうか。少なくとも「花」は日本歌曲とは思わないのではないか。ヘフリガーは日本歌曲が世界的に歌われる機会を増やすためにこれらの独訳の作品を歌っているとのことだが、それだけではなく、日本歌曲から日本語を除いたら、どれぐらい日本的な刻印が残っているのだろうかということも考えさせてくれる良い機会を与えてくれたように思う。ピアノのニキーティナは弾き方は柔和な感じだが、原曲を自分のものにしているような同化した演奏を聴かせていた。
本当は、この記事を書くために録画をもう1度見ようとしたのだが、悲しいかな、ビデオテープがデッキに巻きついてしまい、貴重な録画がおじゃんになってしまった(先週のコジェナーたちの放送も入っていたのだが)。
-ブリテン&ピアーズ来日公演-
パーセル/われ恋の傷手をのがれんとて
パーセル/男は女のためのもの
ブリテン/「ミケランジェロの7つのソネット」 Op. 22(愛と芸術/愛の支配/愛は光をもたらすもの/愛の願い/むなしき愛/愛のいさめ/美の破滅)
イギリス民謡、ブリテン編曲/ディー河の粉屋さん
アイルランド民謡、ブリテン編曲/サリーガーデンのほとりで
イギリス民謡、ブリテン編曲/オリヴァー・クロムウェル
ピーター・ピアーズ(Peter Pears)(T)
ベンジャミン・ブリテン(Benjamin Britten)(P)
収録:1956年2月9日、旧NHKホール
-ヘフリガーが歌う日本歌曲-
山田耕筰(詩:北原白秋)/この道
山田耕筰(詩:北原白秋)/待ちぼうけ
近衛秀麿(詩:北原白秋)/ちんちん千鳥
岡野貞一(詩:高野辰之)/おぼろ月夜
岡野貞一(詩:高野辰之)/ふるさと
中田喜直(詩:内村直也)/雪のふるまちを
滝廉太郎(詩:武島羽衣)/花
滝廉太郎(詩:土井晩翠)/荒城の月
(以上独訳:村上紀子、マルグリット畑中)
エルンスト・ヘフリガー(Ernst Haefliger)(T)
イリナ・ニキーティナ(Irina Nikitina)(P)
収録:1992年11月8日、王子ホール
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