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アーメリングのシューベルト歌曲集(ゲイジ共演:1971年)

「岩の上の羊飼い:シューベルト歌曲集」

Ameling_gage_schubert_emi_1LP:東芝EMI:EMI Angel:EAC-50112
録音:1971年10月7-14日 Zehlendorf Studio, Germany

エリー・アーメリング(Elly Ameling)(S)
アーウィン・ゲイジ(Irwin Gage)(P)
ジョージ・ピーターソン(George Pieterson)(CL:D965)

シューベルト(Schubert)作曲
1)岩の上の羊飼い(Der Hirt auf dem Felsen)D965(ミュラー&シェジ詩)
2)春に(Im Frühling)D882(シュルツェ詩)
3)アマーリア(Amalia)D195(シラー詩)
4)アティス(Atys)D585(マイルホーファー詩)
5)水の上で歌う(Auf dem Wasser zu singen)D774(シュトルベルク詩)
6)湖上で(Auf dem See)D543(ゲーテ詩)
7)エルラフ湖(Erlafsee)D586(マイルホーファー詩)
8)鱒(Die Forelle)D550(シューバルト詩)
9)捕われた歌びと(Die gefangenen Sänger)D712(A.W.シュレーゲル詩)
10)浄化(Verklärung)D59(ポープ詩、ヘルダー訳)
11)若者と死(Der Jüngling und der Tod)D545(シュパウン詩)

(曲名の日本語表記はLPジャケット表記に従いました。)

アーメリング3枚目のシューベルト・アルバムは前回の1年後、同じEMIのために、はじめてアーウィン・ゲイジ(米:1939-)のピアノで録音された。アーメリングの共演者というとデームスやボールドウィン、ヤンセンがよく知られているが、実はゲイジとも録音、ステージ共にしばしば共演しているのである(日本公演での共演は無かったが)。

LPでは1~4曲目がA面で、5曲目以降がB面であった。解説の西野茂雄氏も指摘されているが、アーメリングの配置の妙のようなものがここでも発揮されていて、A面がのどかな牧歌的な情景ではじまり、後半は戯曲の一場面で緊張を増す。B面の前半は水にちなんだ様々な情景が描かれ、後半は内面的な思索、死を巡る思いが歌われる。

ここでのアーメリングは、前年(1970年)のデームスとのEMI録音以上に伸びやかな美声を惜しげもなく披露しており、硬さもとれて、個人的にはこのゲイジ盤の方がより魅力を感じる。

「岩の上の羊飼い」は65年のharmonia mundiへのデームスとの録音に続いて2回目だが、声がいい意味で落ち着きを増し、美声だけでなく、細やかな表情に聴き手の耳がより向かうような芸の深化がはっきりと感じられる。
「春に」や「湖上で」「エルラフ湖」のような作品で、彼女の温かく優美な特質がもっとも生かされているのは当然だろう。
だが、「アマーリア」や「アテュス」のような劇的なモノローグでも、彼女の語り口の精妙さが生きて、イメージが目に浮かぶように鮮明に伝わってくる。
また、「水の上で歌う」における詩の言葉に則して丁寧に表情を付けていくやり方はすでに堂に入っている。

彼女が1997年に来日した際の公開講座で「鱒」をとりあげた時、第2節の"Solang dem Wasser Helle, so dacht ich, nicht gebricht."の"so dacht ich"(そう思った)は弱く歌うようにと言っていたことを今も覚えているが、この録音でもまさにその通りに歌われているのが興味深い。

「捕われた歌びと」は籠に閉じ込められたナイティンゲールになぞらえて、地上の谷に捕らえられた人が不安の中で天上の明るさを歌うことが「ポエジー」なのだと歌う。この閉じ込められた鳥の嘆きの"Ach"という言葉に込められたアーメリングの声の表情が素晴らしい。

「若者と死」はクラウディウスの詩による有名な「死と少女」のパロディであることは明白だが、アーメリングは死を懇願する若者を明るめに溌剌と歌い、死神の慰撫する言葉の抑制した表現との対照をうまく表現していた。

アーウィン・ゲイジは共演専門のピアニストとしてはかなり大胆にペダルを使うが、音の粒立ちがそれで潰れてしまうことがないのはさすがである。「水の上で歌う」ではたゆたう波の反射を、技に溺れず絶妙なコントロールで表現していた。彼のピアノはリズミカルな進行よりも、包みこむような響きの色合いを重視しているように感じる。それ故に時に重く感じられることもあるが、その彩りの豊かさは他のピアニストにはあまりない彼の個性だろう。

コンセルトヘボウの首席奏者だったピーターソンは「岩の上の羊飼い」の牧歌を、歌うように表情豊かに吹いていた。

このLPは、「岩の上の羊飼い」「鱒」「若者と死」だけがCD化(EMI CLASSICS: 7243 5 72004 2 4)されたが、他の曲は未だに復活しないのが残念である。意欲的なプログラムを上り坂の頃のアーメリングの溌剌とした表現で堪能できるいいアルバムである。

今日はアーメリング74歳の誕生日だが、翌日の9日にはアムステルダムで公開講座を開くらしい。もうあちこちに出かけることはあまりないようだが、地元で後進の指導にあたるほどお元気なのはうれしいことである。

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コメント

フランツさんこんばんは。あのアメリンクのシューベルト・アルバムが未CD化とは信じられない思いです。仰るとおり瑞々しい声と細やかな表現も選曲も素晴らしいですね。アメリンクが74歳と伺って、わたしの母親と同年であることに気がつきました。卓越した歌手であると共に、こんなにシューベルトを愛し、歌ってくれた歌手もまた珍しいでしょうね。

投稿: 甲斐 | 2007年2月12日 (月曜日) 01時42分

甲斐さん、こんばんは。
コメントを有難うございます。
甲斐さんにも共感していただけてうれしく思います。
甲斐さんのお母様もアーメリングと同年なのですね。
EMIやCBSに数々の歌曲集(シューベルト以外にも)が録音されているのに長いこと眠ったままになっているのが残念です。
そろそろ彼女の良さが見直されるといいのですが。
それにしてもいろいろな歌曲を聴いた後でシューベルトを聴くとほっとします。故郷に帰った気分という感じでしょうか。

投稿: フランツ | 2007年2月12日 (月曜日) 02時20分

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