グリーグ「夢」Op. 48-6
Ein Traum, Op. 48 No. 6
夢
Mir träumte einst ein schöner Traum:
Mich liebte eine blonde Maid;
Es war am grünen Waldesraum,
Es war zur warmen Frühlingszeit:
ぼくはかつて美しい夢を見た。
その中でぼくのことをあるブロンドの娘が愛してくれたんだ。
それは緑の森でのことだった。
暖かい春のことだった。
Die Knospe sprang, der Waldbach schwoll,
Fern aus dem Dorfe scholl Geläut -
Wir waren ganzer Wonne voll,
Versunken ganz in Seligkeit.
蕾はほころび、森の小川は水かさを増し、
遠くの村から鐘の音が響いていた。
ぼくらは喜びに満ち溢れ、
幸せにすっかりひたりきっていた。
Und schöner noch als einst der Traum
Begab es sich in Wirklichkeit -
Es war am grünen Waldesraum,
Es war zur warmen Frühlingszeit:
すると、かつての夢よりもっと美しいことが
現実に起こった。
それは緑の森でのことだった。
暖かい春のことだった。
Der Waldbach schwoll, die Knospe sprang,
Geläut erscholl vom Dorfe her -
Ich hielt dich fest, ich hielt dich lang
Und lasse dich nun nimmermehr!
森の小川は水かさを増し、蕾はほころび、
鐘の音が村から響いてきた。
ぼくはきみをぎゅっと抱き、長いこと抱き続けた。
きみをもう決して離すものか!
O frühlingsgrüner Waldesraum!
Du lebst in mir durch alle Zeit -
Dort ward die Wirklichkeit zum Traum,
Dort ward der Traum zur Wirklichkeit!
おお、春の緑映える森の空間よ!
おまえはずっとぼくの中で生き続ける。
あそこでは現実が夢になり、
あそこでは夢が現実になったのだ!
詩:Friedrich Martin von Bodenstedt (1819.4.22-1892.4.19)
曲:Edvard Grieg (1843.6.15-1907.9.4), 1889年作曲
グリーグのドイツ語による「6つの歌曲」Op. 48の6曲目。
この曲は多くの歌手に取り上げられている有名な作品だが、私はむしろ北欧の言葉で歌われる演奏に接することが多かったので、当初は北欧の言葉が原詩で、ドイツ語は訳詩だと思っていた。だが、実際にはボーデンシュテットによるドイツ語の詩がオリジナルである。
ボーデンシュテットのこの詩は、第1節と第3節、第2節と第4節が明らかに対応しているのが目につく。
グリーグによる曲は、まさにタイトルが示すように夢見るような幻想的な響きの中で陶酔の表情で歌われる。A-A-B-C-A’の構造から成り、最初の2つの節は歌もピアノも甘くとろけるように響くが、夢より美しいことが現実に起きたという第3節で変化が生じ、下降音形中心の旋律になる。第4節は現実におきたことの具体的な描写が歌われ、次の節の爆発への序奏のように徐々に盛り上がり、"nimmermehr"(決して)を2回繰り返して最終節になだれ込む。最後の第6節は第1、2節と前半の歌の旋律が同じにもかかわらず情熱を爆発させて新しい響きとなり、ピアノの激しい和音連打で締めくくられる。
Op. 48の6つの作品はドイツ語による作品だけに、例えば第1曲や第3曲ではドイツリートのような雰囲気を出していたが、この第6曲などでは奥深くから湧き上がる情熱が感じられ、本質は紛れも無く北欧歌曲そのものである。
一度聴いただけで強く印象に残る北欧歌曲の代表作の一つと言えるだろう。
| 固定リンク | 0
「音楽」カテゴリの記事
「詩」カテゴリの記事
- エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:ヴォルフ「ただ憧れを知る者だけが(Wolf: Nur wer die Sehnsucht kennt)」(2025.01.26)
- エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:シューベルト「ただ憧れを知る者だけが(Schubert: Nur wer die Sehnsucht kennt, D 877/1)」(二重唱曲)(2024.12.13)
- コルネーリウス:シメオン (Cornelius: Simeon, Op. 8, No. 4)(2024.12.25)
- フォレ:降誕祭(Fauré: Noël, Op. 43, No. 1)(2024.12.24)
「グリーグ Edvard Grieg」カテゴリの記事
- ヴェンベルイ&パーソンズ/グリーグ、ラングストレム、シベリウス歌曲集(2007.05.13)
- グリーグ「夢」Op. 48-6(2007.01.28)
- グリーグ「薔薇の時に」Op. 48-5(2007.01.24)
- グリーグ「口の堅いナイティンゲール」Op. 48-4(2007.01.23)
- グリーグ「世のならい」Op. 48-3(2007.01.21)
コメント
御無沙汰しております。確かに、一度聴いただけでも強烈に印象に残りますね。
投稿: 田中文人 | 2013年6月18日 (火曜日) 20時05分
田中文人さん、お久しぶりです。
コメントを有難うございます!
田中さんもこの曲をお聴きになったのですね。
私も久しぶりにこの曲を聴き直してみましたが、ぐっと訴えかけてくる力の強さを感じました。
北欧歌曲の魅力がつまった作品ですね。
投稿: フランツ | 2013年6月19日 (水曜日) 21時35分