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今年もご訪問有難うございました

今年もご訪問くださり、有難うございました。コメントを寄せていただいた方にも感謝しております。

モーツァルト、シューマンの記念年ということで、この2人には比較的力を注いできましたが、特にシューマンはまだハイネ歌曲が途中のまま今年が終わってしまい残念です。ただ、来年以降も残りのハイネ歌曲は継続していきたいと思っております。

来年はアーメリングのシューベルトの録音と、シュヴァルツコプフの来日記録は継続していくつもりですが、ほかに気の向くままにあれこれと記していきたいと思っております。

歌曲の演奏家については歌手同様にピアニストにも強い興味をもっていますので、共演することを専門にしているピアニストについてももっと書いていけたらと思っています。

ヴォルフの音楽批評の試訳はあまりの難しさに中断したままですが、またしばらくしてやる気が出たら再開するかもしれません。

それでは皆様、来年もよろしくお願いいたします。良いお年をお迎えください。

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「子供の遊び」K598(モーツァルト作曲)

モーツァルト・イヤーも残りわずか。彼が最後に書いた3つの歌曲のうち2曲の詩をすでにご紹介してきたが、最後に何とも天真爛漫で楽しい作品を。「子供の遊び」は「春への憧れ」と同じOverbeckの詩による有節歌曲で、8分の3拍子、イ長調。「元気に(Munter)」と指示されている。「春への憧れ」同様に、ピアノの右手は歌声部をそのままなぞる。子供がしゃべっているように訳すのは無理がある箇所もあり、かなり難しかったが、オーファーベクの詩自体も大人の視点が若干見えてしまっている気がしなくもない。全9節の長い詩だが、実際にはいくつかの節を選んで演奏される。なお、歌詞は版によって若干異なる(特に第8節)が、以下は新全集の楽譜に掲載されている歌詞に従った。

Das Kinderspiel, K. 598
 子供の遊び

[第1節]
Wir Kinder, wir schmecken
Der Freuden recht viel!
Wir schäkern und necken
(Versteht sich, im Spiel!)
Wir lärmen und singen
Und rennen uns um
Und hüpfen und springen
Im Grase herum!
 ぼくら子供って、
 楽しいことが本当に好きなんだ!
 ふざけたり、からかったりね
 (もちろん、遊びでだよ!)
 騒いだり、歌ったり、
 駆け回ったり、
 飛んだり跳ねたりするんだ、
 草むらでね!

[第2節]
Warum nicht? -  Zum Murren
Ist's Zeit noch genug!
Wer wollte wohl knurren,
Der wär' ja nicht klug.
Wie lustig steh'n dorten
Die Saat und das Gras!
Beschreiben mit Worten
Kann keiner wohl das.
 遊んでもいいでしょ。文句を言う時間なら
 まだ十分にあるじゃない!
 不平を言おうとするヤツなんか
 賢くないよ。
 なんてうれしそうに、あの
 苗や草が生えていることだろう!
 言葉じゃ
 誰も言いあらわせないほどだ。

[第3節]
Ha, Brüderchen, rennet
Ha, wälzt euch im Gras!
Noch ist's uns vergönnet,
Noch kleidet uns das.
Ach! werden wir älter,
So schickt sich's nicht mehr;
Dann treten wir kälter
Und steifer einher.
 さあ、弟たち、駆けっこだ、
 さあ、草の中で転がろう!
 まだぼくらはそうやっていいんだ、
 まだぼくらにふさわしいんだ。
 ああ!もっと年上になると
 もうそういうことが似合わなくなってしまう。
 そのころにはぼくらはもっと冷静に
 ぎこちなく歩いているんだろうな。
   
[第4節]
Ei, seht doch, ihr Brüder,
Den Schmetterling da!
Wer wirft ihn uns nieder?
Doch schonet ihn ja!
Dort flattert noch einer,
Der ist wohl sein Freund;
O schlag' ihn ja keiner,
Weil jener sonst weint!
 ほら、見てよ、弟たち、
 あそこに蝶々が!
 ぼくらのうち誰が捕まえる?
 でもやっぱり捕まえないでおこう!
 あそこにもう一匹ひらひら飛んでいるよ、
 あれはきっとさっきの蝶の友達だよ。
 おお、この蝶を誰も捕まえないでね、
 そうでないとさっきの蝶が泣いてしまうから!

[第5節]
Wird dort nicht gesungen? -
Wie herrlich das klingt!
Vortrefflich, ihr Jungen!
Die Nachtigall singt.
Dort sitzt sie! Seht oben
Im Apfelbaum dort;
Wir wollen sie loben,
So fährt sie wohl fort.
 あそこで何かが歌ってないかい?
 なんて素敵な響きなんだ!
 素晴らしいよね、きみたち少年!
 ナイティンゲールが歌っているんだよ。
 あそこにいる!上を見て、
 あのリンゴの木にいるよ。
 ぼくらがこのナイティンゲールをほめてあげよう、
 そうすればたぶん歌を続けてくれるさ。

[第6節]
Komm, Liebchen, hernieder
Und lass' dich beseh'n!
Wer lehrt dich die Lieder?
Du machst es recht schön!
O laß dich nicht stören,
Du Vögelchen du!
Wir alle, wir hören
Sehr gerne dir zu.
 下りて来て、かわいいきみ、
 そしてきみをよく見せてよ!
 誰がきみにその歌を教えたの?
 本当に美しい声だよ!
 おお、ぼくらにはおかまいなく、
 小鳥さん!
 ぼくらはみんな
 とってもきみの歌が聞きたいんだ。

[第7節]
Wo ist sie geblieben?
Wir seh'n sie nicht mehr!
Da flattert sie drüben!
Komm wieder, komm her!
Vergeblich! die Freude
Ist diesmal vorbei!
Ihr tat wer zuleide,
Sei, was es auch sei. 
 どこにいるんだい?
 もう見えなくなってしまったけど!
 あそこ、向こうで羽ばたいているよ!
 またおいでよ、こっちへ来て!
 無駄だったか!楽しみが
 今度は行ってしまったなぁ!
 誰かがいじめたんだね、
 何をしたのかはともかく。

[第8節]
Laßt Kränzchen uns winden,
Viel Blumen sind hier!
Wer Veilchen wird finden,
Empfänget dafür
Von Mutter zur Gabe
Ein Mäulchen, wohl zwei:
Juchheißa! Ich habe,
Ich hab' eins, Juchhei!
 花輪を編もうよ、
 ここにいっぱいお花があるよ!
 スミレを見つけた人は
 代わりに受け取るんだ、
 お母さんからプレゼントとして
 1回のキッスを、もしかして2回かも。
 ヤッター!見つけたぞ、
 ぼくが1輪見つけたんだ、ヤッター!

[第9節]
Ach, geht sie schon unter,
Die Sonne, so früh?
Wir sind ja noch munter;
Ach, Sonne, verzieh!
Nun morgen, ihr Brüder!
Schlaft wohl! gute Nacht!
Ja, morgen wird wieder
Gespielt und gelacht!
 ああ、もう沈んじゃうの、
 太陽、こんなに早く?
 ぼくらはまだ元気なのに。
 ああ、太陽、まだいてよ!
 また明日、きみたち兄弟!
 よく眠ってね!おやすみ!
 そう、明日になったらまた
 遊んだり笑ったりしようね!

詩:Christian Adolf Overbeck (1755-1821)

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●録音と演奏されている節(録音年順)

1)Irmgard Seefried(S) Gerald Moore(P):1、2、9節(TESTAMENT:SBT 1026:1950年11月16-18日録音)
2)Rita Streich(S) Erik Werba(P):1、2、9節(Deutsche Grammophon:474 738-2:1956年5月27-29日&10月13日録音)
3)Ingeborg Hallstein(S) Erik Werba(P):1、2、9節(ORFEO:C 709 062 I:1968年8月19日ザルツブルク・ライヴ録音)
4)Hermann Prey(BR) Jörg Demus(Hammerklavier):1、2、3、9節(PHILIPS:442 687-2:1970年代前半頃録音)
5)Elly Ameling(S) Dalton Baldwin(P):1、2、9節(PHILIPS:416 893-2:1977年8月14-16, 18, 20-23日録音)
6)Arleen Augér(S) Erik Werba(Hammerklavier):1、6、9節(ORFEO:C 509 011 B:1978年5月11日ザルツブルク・ライヴ録音)
7)Edith Mathis(S) Karl Engel(P):1、2、3、5、9節(Novalis:CRCB-1501:1986年8月録音)
8)Barbara Bonney(S) Geoffrey Parsons(P):1、2、3、8、9節(TELDEC:2292-46334-2:1990年8月録音)
9)Josef Protschka(T) Helmut Deutsch(P):1、2、3、9節(CAPRICCIO:10/446/447:1991年録音)

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R.シュトラウスのクリスマス・ソング

R.シュトラウスが初期に作曲した2曲のクリスマス・ソングの詩をご紹介します。
2曲ともR.シュトラウス色は皆無で、後年の爛熟した作風の原点がこんなに素朴だったことにほっとさせられます。特に「クリスマスの感情」は厳かな雰囲気がなかなか魅力的でした。

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Weihnachtslied, WoO 2
 クリスマスの歌

Schlaf wohl, du Himmelsknabe du,
Schlaf wohl du süßes Kind!
Dich fächeln Engelein in Ruh
Mit sanftem Himmelswind.
Wir arme Hirten singen dir
Ein herzlich Wiegenliedlein für.
Schlafe! Himmelskindlein, schlafe!
 おやすみ、天の御子よ、
 おやすみ、かわいい子!
 あなたに天使たちが安らかに、
 やさしい天の風を送ってくれるよ。
 われら貧しい牧人はあなたのために歌います、
 心をこめた子守歌を。
 お眠り!天の御子よ、お眠り!

曲:Richard Strauss(1864.6.11-1949.9.8)(1870年12月作曲)
詩:Christian Friedrich Daniel Schubart(1739.3.24-1791.10.10)

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Weihnachtsgefühl, WoO 94
 クリスマスの感情

Naht die jubelvolle Zeit
Kommt auch mir ein Sehnen,
Längst entfloh'ner Seligkeit
Denk' ich nach mit Tränen.
 喜びあふれる時が近づき、
 ぼくの心にも懐かしさがよみがえる。
 とうに去っていた幸せを
 涙を流して思い返すのだ。

Und ich schaue wie im Traum
Ihren fernen Schimmer
Weben um den Weihnachtsbaum,
Kehrt sie selbst auch nimmer.
 そしてぼくは夢の中のように見つめる、
 幸せの遥かな微光が
 クリスマスツリーのまわりにちらちらしているのを、
 その幸せさえももう戻ってこないのだ。

曲:Richard Strauss(1864.6.11-1949.9.8)(1879年?/1899年12月8日作曲)
詩:Martin Greif (Friedrich Hermann Frey)(1839.6.18-1911.4.1)

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「春のはじめに」K597(モーツァルト作曲)

Ch. シュトゥルムの詩による「春」(モーツァルト自身は「春のはじめに」と題した)は、モーツァルトが最後に作曲した歌曲3曲のうちの1曲。
同じ1月14日にはほかに「春への憧れ」「子供の遊び」が作曲されている。

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Im Frühlingsanfang (Der Frühling), K. 597
 春のはじめに(春)

モーツァルト:1791年1月14日、ヴィーンにて作曲

[第1節]
Erwacht zum neuen Leben
Steht vor mir die Natur,
Und sanfte Lüfte wehen
Durch die verjüngte Flur!
Empor aus seiner Hülle
Drängt sich der junge Halm;
Der Wälder öde Stille
Belebt der Vögel Psalm.
 新たな生命に目覚めた
 自然が私の前に佇んでいます。
 そして穏やかな風は
 若返った野を渡ります。
 覆いの中から上へと
 若い茎が押し出てきます。
 森々の荒涼とした静寂に
 鳥たちの歌が息吹を吹き込みます。

[第2節]
O Vater, deine Milde
Fühlt Berg und Tal und Au,
Es grünen die Gefilde,
Beperlt vom Morgentau;
Der Blumenweid' entgegen
Blöckt schon die Herd' im Tal,
Und in dem Staube regen
Sich Würmer ohne Zahl.
 おお、父よ、あなたの寛大さを
 山や谷や野原が感じて、
 野は緑になり、
 朝露で覆われます。
 花咲く牧場の向かいで
 すでに谷間の家畜の群れがかたまっています。
 そして塵の中では
 無数の虫がうごめいています。

[第3節]
Glänzt von der blauen Feste
Die Sonn' auf unsre Flur,
So weiht zum Schöpfungsfeste
Sich jede Kreatur,
Und alle Blüten dringen
Aus ihrem Keim hervor,
Und alle Vögel schwingen
Sich aus dem Schlaf empor.
 青空の
 太陽は私たちの野の上で輝いています。
 こうして創造者の宴のために
 被造物はみな自らを捧げるのです。
 そしてあらゆる花が
 芽から吹き出て、
 鳥はみな
 眠りから飛び立つのです。

[第4節]
Die Flur im Blumenkleide
Ist, Schöpfer, dein Altar,
Und Opfer reiner Freude
Weiht dir das junge Jahr;
Es bringt die ersten Düfte
Der blauen Veilchen dir,
Und schwebend durch die Lüfte
Lobsingt die Lerche dir.
 花の衣装をまとった野原は、
 創造者よ、あなたの祭壇です。
 そして純然たる喜びの供物を
 新しい年があなたに捧げます。
 それは青いスミレのはじめての香りを
 あなたに運んできます。
 そして、空中を漂いながら
 ヒバリがあなたを讃えて歌うのです。

[第5節]
Ich schau' ihr nach und schwinge
Voll Dank mich auf zu dir,
Dem Schöpfer aller Dinge,
Gesegnet seist du mir!
Weit über sie erhoben,
Kann ich der Fluren Pracht
Empfinden, kann dich loben,
Der du den Lenz gemacht.
 私はヒバリを目で追います、すると
 あなたへのあふれんばかりの感謝が私の心にこみ上げてきます。
 万物の創造者に
 祝福あらんことを!
 ヒバリよりはるか高みまで上昇し、
 私は野原の輝きを
 感じ、あなたを讃えることが出来ます。
 あなたが春をもたらした野原の輝きを。

[第6節]
Lobsing' ihm, meine Seele,
Dem Gott, der Freuden schafft!
Lobsing' ihm und erzähle
Die Werke seiner Kraft!
Hier von dem Blütenhügel
Bis zu der Sterne Bahn
Steig' auf der Andacht Flügel
Dein Loblied himmelan.
 讃えて歌いなさい、わが魂よ、
 喜びを創られた神に対して!
 神を讃えて歌い、そして語りなさい、
 神の御力による行いのことを!
 ここの花咲く丘から
 星の道筋にいたるまで、
 敬虔な翼にのせて
 あなたの讃歌を天まで立ちのぼらせなさい。

詩:Christoph Christian Sturm (1740-1786)

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現在、国際モーツァルテウム財団のWebサイトで、新モーツァルト全集の楽譜が無料で公開されています。
http://dme.mozarteum.at/DME/nma/nmapub_srch.php?l=1
ページ上にあるKVの右の空欄に597と入力して、右の「GO」をクリックすると検索結果が表示されるので、その楽譜の巻数とページ数の記されたリンクをクリックすると「春のはじめに」の楽譜を見ることが出来ます。もちろん、ほかの作品の楽譜も閲覧できるので、大変便利です。

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アーメリングのシューベルト歌曲集(デームス共演:1965年)

「シューベルティアーデ」(Schubertiade)

Ameling_demus_shetler_harmonia_mundi録音:1965年6月、フッガー城、糸杉の間、キルヒハイム(シュヴァーベン地方)
(Cedernsaal des Fuggerschlosses, Kirchheim, Schwaben)

エリー・アーメリング(Elly Ameling)(S)
イェルク・デームス(Jörg Demus)(Hammerflügel)
ハンス・ダインツァー(Hans Deinzer)(CL:D965)

シューベルト(Schubert)作曲
1)岩の上の羊飼い(Der Hirt auf dem Felsen)D965
2)12のレントラー(12 Ländler)D740(ピアノ・ソロ)
3)幸福(Seligkeit)D433
4)糸を紡ぐグレートヒェン(Gretchen am Spinnrade)D118
5)わたしを愛してはいない(Du liebst mich nicht)D756
6)秘めた恋(Heimliches Lieben)D922
7)春に(Im Frühling)D882
8)鳥(Die Vögel)D691
9)泉のほとりの若者(Der Jüngling an der Quelle)D300
10)ミューズの子(Der Musensohn)D764

(曲名の日本語表記はCD解説書に従いました。)

アーメリング最初のシューベルト・アルバムはハルモニア・ムンディの為に32才の時に録音されたもので、オリジナルのLPでは「シューベルティアーデ」と題し、イェルク・デームスのハンマーフリューゲルと共演している。

LPでは1~3曲目がA面で、4曲目以降がB面であった。A面で牧歌的な素朴な喜びが表現され、B面の前半でアクセントのように恋の様々な想いが深刻に表現され、後半は一転して軽快な「鳥」、しみじみとした「泉のほとりの若者」を経て、まるでアーメリングのことを歌っているかのような「ミューズの子」で締めくくるという、一連の流れがプログラミングの工夫を感じさせる。

10分以上かかる長大な「岩の上の羊飼い」でアーメリングの第一声が響く時、そのあまりにもみずみずしい美声に驚かされる。私がこのアルバムを初めて聴いた時、すでに彼女のほかの録音を知っていたのだが、後年の録音からは感じられないほどのほとばしる声の豊かさが強く印象付けられた。こんなに無理なく自然に声が前に出ている彼女の録音はなかなか無いかもしれない。それほど豊かな声でありながら、声にまかせて歌うということがなく、常に丁寧なコントロールが行き届いているのが彼女らしい。彼女が歌うと、コロラトゥーラの「岩の上の羊飼い」でさえリリカルな作品に聞こえてくるから不思議である。彼女の美質の一つであるしっかりした造形、様式感がすでに備わっているのは、例えば「わたしを愛してはいない」を聴くだけではっきり分かるだろう。最初のアルバムにしてすでにリート歌手としての抜きん出たセンスを感じさせる。「糸を紡ぐグレートヒェン」や「わたしを愛してはいない」は、人によってはあるいはまだ若いと感じるかもしれない。でも私はこの若さは大好きである。低声の歌手のように深刻な声色をそれほど難なく出せるわけではない彼女が、その声にソプラノなりの重みを加えて歌うからこそ、そのギャップが心を打つのだと思う。おそらく度重なる修練によって得るのであろう、言葉に則した細やかな声の表情づけが声質のハンディを補って深みのある表現を実現しているのではないだろうか。シュヴァーベンの城の響きも関係しているのだろうか、豊かな残響を響かせながらも、かなり細かい表情が聞き取れる。

イェルク・デームスは録音当時30台後半だが、すでに彼特有の揺らせ方が現れていて、いい味を出していた。「秘めた恋」の前奏など、デームスの歌わせ方がなんとも味わい深く、心地よい。ソロの「12のレントラー」の演奏も洗練され過ぎていないのがかえってふさわしい。素朴で朴訥な旋律の中で、ふと見せる陰の表情(例えば5番目の音楽)がいかにもシューベルトらしくて素敵だ。この曲の後、間髪をいれずに「幸福」(これもレントラーのリズムによる歌曲)の前奏に入るところなど、なかなか気が利いている(あたかも13番目のレントラーのようだ)。ひなびたハンマーフリューゲルの音色がサロンのあたたかい雰囲気を醸し出していた。

どの曲もアーメリングのかけがえのないみずみずしさ、デームスの味わい深さを感じ取れるが、なかでも「泉のほとりの若者」が心に静かに染み込んできて特に気に入っている。
徹底して声の魅力を味わうなら、後年の録音以上にこの録音を聴いてみてはいかがだろうか。

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アーメリングのシューベルト歌曲集

ソプラノのエリー・アーメリング(Elly Ameling)は、かつて好きな作曲家を問われて、「一にシューベルト、ニにシューベルト、三にもシューベルト」と答えたという。これはおそらく彼女の初期のころの話だと思うが、最後に来日した際のインタビューでも、一番多く歌ったのはシューベルトだったと述べていたので、シューベルトへの思い入れがひときわ強かったことは確かであろう。

録音においてもシューベルト歌曲集として、あるいはオムニバス盤の中に含まれる形で、彼女は初期から後期まで多くの録音を残してくれている。

詳細はこれからの記事で徐々に書いていきたいと思うが、今回はシューベルトの作品が含まれる彼女の録音を順に記してみたい。

1)PHILIPS:1959年録音 (「子守歌」D498のみ)
  ヘルマン・ユールホルン(P)

2)harmonia mundi:1965年6月 Cedernsaal des Fuggerschlosses, Kirchheim 録音(「岩の上の羊飼い」D965ほか全9曲)
  イェルク・デームス(Hammerflügel);ハンス・ダインツァー(CL: D965)

3)EMI Angel:1970年1月10~13日 Electrola Studio Zehlendorf 録音(「糸を紡ぐグレートヒェン」D118ほか全13曲)
  イェルク・デームス(P)

4)EMI Angel:1971年10月7~14日 Zehlendorf Studio, Germany録音(「岩の上の羊飼い」D965ほか全11曲)
  アーウィン・ゲイジ(P);ジョージ・ピーターソン(CL: D965)

5)Deutsche Grammophon:1972年4月 Ufa Studio, Berlin 録音(三・四重唱曲集:「結婚式の焼肉」D930ほか)
  J.ベイカー(A);P.シュライアー(T);D.F=ディースカウ(BR);
  ジェラルド・ムーア(P)

6)PHILIPS:1972年6月20~21日 Concertgebouw, Amsterdam 録音(「あの国をご存知ですか」D321ほか)
  ドルトン・ボールドウィン(P)

7)EMI:1972年9月6~11日 Gemeindehaus Studio, Zehlendorf 録音(「幸福」D433のみ)
  ドルトン・ボールドウィン(P)

8)PHILIPS:1973年8月15~19日 Concertgebouw, Amsterdam 録音(「緑野の歌」D917ほか)
  ドルトン・ボールドウィン(P)

9)PHILIPS:1973年8月21~26日 Concertgebouw, Amsterdam 録音(「夕映えの中で」D799ほか)
  ドルトン・ボールドウィン(P)

10)PHILIPS:1975年8月15~19日 Concertgebouw, Amsterdam 録音(「糸を紡ぐグレートヒェン」D118ほか)
  ドルトン・ボールドウィン(P);メイナルト・クラーク(T: D126);ハーグ音楽院学生合唱団(D126)

11)PHILIPS:1975年9月4~11日 De Doelen, Rotterdam 録音(シューベルト・オペラ・アリア集)
  クラエス・ホーカン・アーンシェ(T);ロッテルダム・フィルハーモニック管弦楽団;エド・デ・ワールト(C)

12)PHILIPS:1976年9月10~14日 Kleine zaal, Concertgebouw, Amsterdam 録音(ドイツ・ロマン派歌曲集:「ハナダイコン」D752;「あなたは憩い」D776のみ)
  ドルトン・ボールドウィン(P)

13)SONY CLASSICAL:1977年9月27日~10月2日 The Maltings, Snape, Suffolk 録音(「ミニョンと竪琴弾き」D877-1;「光と愛」D352のみ)
  ピーター・ピアーズ(T);ドルトン・ボールドウィン(P)

14)CBS:1979年頃(推定)録音(「岩の上の羊飼い」D965ほか)
  アーウィン・ゲイジ(P);ギー・ドプリュ(CL: D965);ジュリア・ステュードベイカー(HR: D943)

15)PHILIPS:1982年7月1~3日 Henry Wood Hall, London 録音(「音楽に寄せて」D547ほか)
  ドルトン・ボールドウィン(P)

16)Etcetera:1983年 Holland 録音(「愛の使い」D957-1ほか)
  ドルトン・ボールドウィン(P)

17)PHILIPS:1983年12月 Leipzig 録音(劇音楽「ロザムンデ」D797~ロマンツェのみ)
  ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団;クルト・マズア(C)

18)PHILIPS:1984年8月20~23日 Utrecht 録音(「ガニュメデス」D544ほか)
  ルドルフ・ヤンセン(P)

19)Omega:1987年7月2日 Theatre-Concert Hall, Tanglewood ライヴ録音(「春に」D882ほか)
  ルドルフ・ヤンセン(P)

20)PHILIPS:1988年2月22~25日 La Chaux de Fonds, Swiss 録音(「野ばら」D257;「子守歌」D498のみ)
  ルドルフ・ヤンセン(P)

21)Hyperion:1989年8月15~18日 London 録音(「ミノーナ」D152ほか)
  グレアム・ジョンソン(P)

初期のharmonia mundiの録音をまとめてCD化された際の解説書によれば、1965年のシューベルト歌曲集以前に、「笑ったり、泣いたり」D777を録音してリリースしているらしいが、今のところ確認できていない。

上記の6、8~10、12、15、18の録音は4枚組のCDにまとめて発売されている。声の勢いのある充実した盛期から、深みの増した円熟期までの変遷を楽しむことの出来る素晴らしいディスクである(現在でも入手できるようだ)。

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おいで、いとしい五月

Sehnsucht nach dem Frühlinge, K. 596 (Mozart)
 春へのあこがれ(モーツァルト)(1791年1月14日、ヴィーン作曲)(独唱とピアノ)

Mailied, Op. 79-9 (Schumann)
 五月の歌(シューマン)(1849年作曲)(2声とピアノ)(1,2,9,10節のみ。詩の変更が多い)

Komm, lieber Mai, und mache
Die Bäume wieder grün,
Und laß mir an dem Bache
Die kleinen Veilchen blüh'n!
 おいで、いとしい五月、
 木々をまた緑でいっぱいにしてよ、
 それから小川のほとりに
 ちっちゃなスミレの花を咲かせてよ!

Wie möcht' ich doch so gerne
Ein Veilchen wieder seh'n!
Ach, lieber Mai, wie gerne
Einmal spazieren geh'n!
 ぼくはほんとうに
 スミレがまた見たくてたまらないんだ!
 ああ、いとしい五月、
 お散歩したくてしょうがないよ!

Zwar Wintertage haben
Wohl auch der Freuden viel;
Man kann im Schnee eins traben
Und treibt manch' Abendspiel;
 たしかに冬のあいだは
 楽しいことがいっぱいあるさ、
 雪の中、ひとりで駆けずり回ったり、
 夕方だっていっぱい遊んだりする。

Baut Häuserchen von Karten,
Spielt Blindekuh und Pfand;
Auch gibt's wohl Schlittenfahrten
Aufs liebe freie Land.
 カードでお家をつくったり、
 目隠しして鬼ごっこしたり、罰ゲームをしたり。
 ソリに乗って
 広々とした田舎に出かけたりもするよね。

Doch wenn die Vöglein singen,
Und wir dann froh und flink
Auf grünen Rasen springen,
Das ist ein ander Ding!
 でもね、小鳥が歌い出してから、
 ぼくたちが大喜びですばしっこく
 緑の芝生を飛び跳ねるのは
 また別物なんだ!

Jetzt muß mein Steckenpferdchen
Dort in dem Winkel steh'n,
Denn draußen in dem Gärtchen
Kann man vor Kot nicht geh'n.
 今、ぼくの木馬は
 あの隅っこに置かれたまんま、
 なぜかって外のお庭は
 泥だらけで動かせないでしょ。

Am meisten aber dauert
Mich Lottchens Herzeleid.
Das arme Mädchen lauert
Recht auf die Blumenzeit!
 でも一番かわいそうなのはね、
 ロットヒェンが悲しんでいることなんだ。
 あのかわいそうな女の子は
 お花が咲くときを本当に待っているんだよ。

Umsonst hol' ich ihr Spielchen
Zum Zeitvertreib herbei:
Sie sitzt in ihrem Stühlchen
Wie's Hühnchen auf dem Ei.
 ぼくがあの子の
 気晴らしに遊ぶものをもってきても無駄なだけ。
 あの子は椅子にすわったまんまなんだ、
 卵を抱えたニワトリみたいにね。

Ach, wenn's doch erst gelinder
Und grüner draußen wär'!
Komm, lieber Mai, wir Kinder,
Wir bitten dich gar sehr!
 ああ、お外がもっと穏やかになって
 緑が生えてくれさえすればなあ!
 おいで、いとしい五月、ぼくたちこどもは
 きみに本当にお願いします!

O komm und bring' vor allen
Uns viele Veilchen mit!
Bring' auch viel Nachtigallen
Und schöne Kuckucks mit!
 おお、おいで、とくに
 スミレをいっぱい連れてきてくれよ!
 それからナイティンゲールもいっぱい、
 きれいなカッコウも連れてきてね!

詩:Christian Adolf Overbeck (1755.8.21-1821.3.9)

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サリー・ガーデン

12月4日はベンジャミン・ブリテン(Benjamin Britten: 1913.11.22-1976.12.4)の没後30年の命日である。彼は前回の記事でも触れた通り多くの歌曲を残しているが、民謡編曲も数多い。その中から第1集の第1曲に置かれた有名な「サリー・ガーデン」の詩を記して、偲びたい。Hyperionからブリテンの民謡編曲をまとめた2枚組のCDがあるが、聴いていると英国人でもないのに懐かしい気持ちになるのが不思議である。

The Salley Gardens
 柳の庭(サリー・ガーデン)

Down by the salley gardens my love and I did meet;
She passed the salley gardens with little snow-white feet.
She bid me take love easy, as the leaves grow on the tree;
But I, being young and foolish, with her did not agree.
 向こうの柳の庭のそばで、恋人と私は会った。
 彼女は小さな雪のように白い足で、柳の庭を通った。
 彼女は、葉が木の上で育っていくようにゆっくり愛を育みましょう、と私に言った。
 だが若くて愚かだった私は、彼女の話に同意しなかった。

In a field by the river my love and I did stand,
And on my leaning shoulder she laid her snow-white hand.
She bid me take life easy, as the grass grows on the weirs;
But I was young and foolish, and now am full of tears.
 川のほとりの原っぱに、恋人と私は立っていた。
 寄りかかった私の肩の上に、彼女は雪のように白い手をのせた。
 彼女は、草が堰で育つようにゆったり人生を送りましょう、と私に言った。
 だが私は若くて愚かだった。今も涙が溢れ出る。

詩:William Butler Yeats(1865.6.13~1939.1.28)

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