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アーメリングのシューベルト歌曲集(デームス共演:1965年)

「シューベルティアーデ」(Schubertiade)

Ameling_demus_shetler_harmonia_mundi録音:1965年6月、フッガー城、糸杉の間、キルヒハイム(シュヴァーベン地方)
(Cedernsaal des Fuggerschlosses, Kirchheim, Schwaben)

エリー・アーメリング(Elly Ameling)(S)
イェルク・デームス(Jörg Demus)(Hammerflügel)
ハンス・ダインツァー(Hans Deinzer)(CL:D965)

シューベルト(Schubert)作曲
1)岩の上の羊飼い(Der Hirt auf dem Felsen)D965
2)12のレントラー(12 Ländler)D740(ピアノ・ソロ)
3)幸福(Seligkeit)D433
4)糸を紡ぐグレートヒェン(Gretchen am Spinnrade)D118
5)わたしを愛してはいない(Du liebst mich nicht)D756
6)秘めた恋(Heimliches Lieben)D922
7)春に(Im Frühling)D882
8)鳥(Die Vögel)D691
9)泉のほとりの若者(Der Jüngling an der Quelle)D300
10)ミューズの子(Der Musensohn)D764

(曲名の日本語表記はCD解説書に従いました。)

アーメリング最初のシューベルト・アルバムはハルモニア・ムンディの為に32才の時に録音されたもので、オリジナルのLPでは「シューベルティアーデ」と題し、イェルク・デームスのハンマーフリューゲルと共演している。

LPでは1~3曲目がA面で、4曲目以降がB面であった。A面で牧歌的な素朴な喜びが表現され、B面の前半でアクセントのように恋の様々な想いが深刻に表現され、後半は一転して軽快な「鳥」、しみじみとした「泉のほとりの若者」を経て、まるでアーメリングのことを歌っているかのような「ミューズの子」で締めくくるという、一連の流れがプログラミングの工夫を感じさせる。

10分以上かかる長大な「岩の上の羊飼い」でアーメリングの第一声が響く時、そのあまりにもみずみずしい美声に驚かされる。私がこのアルバムを初めて聴いた時、すでに彼女のほかの録音を知っていたのだが、後年の録音からは感じられないほどのほとばしる声の豊かさが強く印象付けられた。こんなに無理なく自然に声が前に出ている彼女の録音はなかなか無いかもしれない。それほど豊かな声でありながら、声にまかせて歌うということがなく、常に丁寧なコントロールが行き届いているのが彼女らしい。彼女が歌うと、コロラトゥーラの「岩の上の羊飼い」でさえリリカルな作品に聞こえてくるから不思議である。彼女の美質の一つであるしっかりした造形、様式感がすでに備わっているのは、例えば「わたしを愛してはいない」を聴くだけではっきり分かるだろう。最初のアルバムにしてすでにリート歌手としての抜きん出たセンスを感じさせる。「糸を紡ぐグレートヒェン」や「わたしを愛してはいない」は、人によってはあるいはまだ若いと感じるかもしれない。でも私はこの若さは大好きである。低声の歌手のように深刻な声色をそれほど難なく出せるわけではない彼女が、その声にソプラノなりの重みを加えて歌うからこそ、そのギャップが心を打つのだと思う。おそらく度重なる修練によって得るのであろう、言葉に則した細やかな声の表情づけが声質のハンディを補って深みのある表現を実現しているのではないだろうか。シュヴァーベンの城の響きも関係しているのだろうか、豊かな残響を響かせながらも、かなり細かい表情が聞き取れる。

イェルク・デームスは録音当時30台後半だが、すでに彼特有の揺らせ方が現れていて、いい味を出していた。「秘めた恋」の前奏など、デームスの歌わせ方がなんとも味わい深く、心地よい。ソロの「12のレントラー」の演奏も洗練され過ぎていないのがかえってふさわしい。素朴で朴訥な旋律の中で、ふと見せる陰の表情(例えば5番目の音楽)がいかにもシューベルトらしくて素敵だ。この曲の後、間髪をいれずに「幸福」(これもレントラーのリズムによる歌曲)の前奏に入るところなど、なかなか気が利いている(あたかも13番目のレントラーのようだ)。ひなびたハンマーフリューゲルの音色がサロンのあたたかい雰囲気を醸し出していた。

どの曲もアーメリングのかけがえのないみずみずしさ、デームスの味わい深さを感じ取れるが、なかでも「泉のほとりの若者」が心に静かに染み込んできて特に気に入っている。
徹底して声の魅力を味わうなら、後年の録音以上にこの録音を聴いてみてはいかがだろうか。

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コメント

ご無沙汰しております。
このアルバムの「羊飼い」には私も驚かされました。聴くたびにアルプス山上の清冽な空気を感じてしまいます。私もアーメリングの録音をひとに推すとしたら、まっさきにこれを選ぶと思います。
彼女のシューベルト録音は重複もふくめて多すぎるので、その全貌が謎でしたが、こちらでその謎が解き明かされるのかと思うとわくわくします。

投稿: sbiaco | 2006年12月16日 (土曜日) 20時38分

sbiaco様、コメントを有難うございました。
「清冽な空気」-まさにぴったりな表現ですね。sbiacoさんも相当アーメリングを聴き込んでおられるようですね。当時でしか出来ない彼女の表現と声の魅力が記録されている貴重な録音だと思います。
アーメリングのシューベルトの録音を記事にすることはいつかやりたいと思いつつも先延ばしにしていたのですが、そろそろやってみようという気になったので、月2回ぐらいのペースで進めていきたいと思っています。気長におつきあい下さい。終わるのはいつになることか…。

投稿: フランツ | 2006年12月16日 (土曜日) 23時49分

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