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シューマン「哀れなペーター」(詩:ハイネ)

「哀れなペーター」は、ハイネの詩集「歌の本」の中の「ロマンツェ」に含まれる3編の連作詩に、シューマンが歌の年1840年に作曲した小さな歌曲集である。3曲はそれぞれ分かれているが、1、2曲目の楽譜の最後に終止線が付けられておらず、続けて演奏されることをシューマンは望んでいるのだろう。失恋したペーターがかつての恋人の結婚式を見ている場面にはじまり、いたたまれなくなり山頂でひとり泣き、ぬけがらになって墓に向かうという流れになっている。

●第1曲:「ハンスとグレーテが踊りながらくるくる回り」
4分の3拍子、ト長調。Nicht schnell(速くなく)。
シューベルトの「冬の旅」終曲の「ライアー弾き」を思わせるドレーライアーを模したかのような和音による2小節の前奏の後に、舞曲風のリズムに乗って、長調で歌われる。結婚式の響きの明るさにより、かつての恋人の晴れ姿を見ているペーターの惨めさが一層引き立っている。

●第2曲:「ぼくの胸に、痛みが居座っている」
2分の2拍子、ホ短調。Ziemlich schnell(かなり速く)。
ホ短調の主和音が鳴り響いた後、細かい音型で悲しみを切々と訴える歌が続く。

●第3曲:「哀れなペーターはよろめきながら通り過ぎる」
4分の3拍子、ホ短調。Langsam(ゆっくりと)。
最後の曲ではテンポをぐっと落として、生気を失ったペーターの様を描く。短調で貫かれた最終曲の最後の和音が長和音になり、最後にようやく哀れなペーターが墓で安息を得たことを感じさせる。

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Der arme Peter, Op. 53-3
 哀れなペーター

(1)
Der Hans und die Grete tanzen herum,
Und jauchzen vor lauter Freude.
Der Peter steht so still und so stumm,
Und ist so blaß wie Kreide.
 ハンスとグレーテが踊りながらくるくる回り、
 ただ喜びのあまり歓声をあげている。
 ペーターはこんなに静かに押し黙っている、
 チョークのような青白さだ。

Der Hans und die Grete sind Bräut'gam und Braut,
Und blitzen im Hochzeitsgeschmeide.
Der arme Peter die Nägel kaut
Und geht im Werkeltagkleide.
 ハンスとグレーテは花婿と花嫁、
 結婚式の装身具を身にまとって輝いている。
 哀れなペーターは爪を噛み、
 仕事着に身を包んで歩く。

Der Peter spricht leise vor sich her,
Und schauet betrübet auf beide:
Ach! wenn ich nicht gar zu vernünftig wär',
Ich täte mir was zuleide.
 ペーターは小声で独り言をつぶやき、
 二人を悲しげに見つめる。
 ああ!ぼくに理性がなかったなら
 自分を痛めつけていたことだろうよ。

(2)
"In meiner Brust, da sitzt ein Weh,
Das will die Brust zersprengen;
Und wo ich steh' und wo ich geh',
Will's mich von hinnen drängen."
 「ぼくの胸に、痛みが居座っている、
 その痛みが胸を破裂しようとしている。
 ぼくの立つところ、歩くところで
 痛みはぼくをそこから追い立てようとするのだ。」

"Es treibt mich nach der Liebsten Näh',
Als könnt's die Grete heilen;
Doch wenn ich der ins Auge seh',
Muß ich von hinnen eilen."
 「その痛みが、ぼくを好きな人の近くへと駆り立てる、
 グレーテが痛みを治してくれる気がして。
 だが、彼女の目を見つめると
 その場から急いで立ち去るしかない。」

"Ich steig' hinauf des Berges Höh',
Dort ist man doch alleine;
Und wenn ich still dort oben steh',
Dann steh' ich still und weine."
 「ぼくは山頂まで登り、
 そこでやっと一人きりになる。
 そして静かにその上で立ち上がると
 じっと動かず涙にくれるのだ。」

(3)
Der arme Peter wankt vorbei,
Gar langsam, leichenblaß und scheu.
Es bleiben fast, wie sie ihn sehn,
Die Leute auf den Straßen stehn.
 哀れなペーターはよろめきながら通り過ぎる、
 ひどくのろのろと、死人のように真っ青になって、おずおずと。
 彼を見ると、
 通りの人々はほとんど立ち止まってしまう。

Die Mädchen flüstern sich ins Ohr:
"Der stieg wohl aus dem Grab hervor."
Ach nein, ihr lieben Jungfräulein,
Der steigt erst in das Grab hinein.
 女の子たちはこう耳打ちしあう、
 「あの人、たぶんお墓から出てきたのね」と。
 ああ、ちがうよ、お嬢さん方、
 この人はようやくお墓に入ろうとしているんだ。

Er hat verloren seinen Schatz,
Drum ist das Grab der beste Platz,
Wo er am besten liegen mag
Und schlafen bis zum Jüngsten Tag.
 彼は大切な人を失った、
 だから墓こそが最良の場所なのだ、
 そこに横たわって
 最後の審判の日まで眠りにつくのが彼には一番よいのだろう。

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