シューマン「ぼくの恋は輝いている」(詩:ハイネ)
ハイネの詩による歌曲集「詩人の恋」から漏れた曲の一つ。
恋敵に対して、生命をかけて恋人を守る気持ちを、メルヒェンになぞらえて歌っているというところだろうか。
シューマンの作品は8分の12拍子、ト短調で"Phantastisch, markiert"(幻想的に、くっきりと)と指示されている。8分音符の分厚い和音が劇的にこの幻想シーンを演出する。歌は緊迫した調子ではじまり、メルヒェンの中で恋人同士の情景が描かれる箇所で優しい調子に変わるが、巨人が登場するあたりから緊迫の度合いが増し(ピアノ右手のリズムをずらすことによって緊迫感を強調している)、そのまま暗鬱な表情のうちに歌声部が終わる。しかし、ピアノ後奏の後半で突然晴れ間が覗いたかのように長い音価で明るい響きになり、主人公が墓の中でようやく安息を得たことを暗示しているかのようだ。
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Es leuchtet meine Liebe, Op. 127-3
ぼくの恋は輝いている
Es leuchtet meine Liebe,
In ihrer dunkeln Pracht,
Wie'n Märchen traurig und trübe,
Erzählt in der Sommernacht.
ぼくの恋は輝いている、
暗く華やかに。
悲しく暗鬱な、
夏の夜に語られるメルヒェンのように。
"Im Zaubergarten wallen
Zwei Buhlen, stumm und allein;
Es singen die Nachtigallen,
Es flimmert der Mondenschein.
「魔法の庭園を
二人の恋人たちが無言で二人きりで歩いている。
ナイティンゲールは歌い、
月の光がまたたいている。」
"Die Jungfrau steht still wie ein Bildnis,
Der Ritter vor ihr kniet.
Da kommt der Riese der Wildnis,
Die bange Jungfrau flieht.
「乙女は肖像のようにじっとしており、
騎士が彼女の前にひざまずく。
そのとき、荒野の巨人がやってきて、
おののく乙女は逃げて行く。」
"Der Ritter sinkt blutend zur Erde,
Es stolpert der Riese nach Haus -"
Wenn ich begraben werde,
Dann ist das Märchen aus.
「騎士は血を流して地面にくずおれ、
巨人はよろけながら家に帰る。」
ぼくが葬られるときがくれば、
このメルヒェンは終わるのだ。
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